ビルボードジャパンは毎週水曜午前4時に、ストリーミングが一定回数を突破した曲を紹介しています(ただし該当曲のうちいくつかの作品に限られ、同曜日夕方にすべての該当曲が発表されます)。当週はBTSのメンバー、JIMINによるソロ曲「Who」が1億回再生を突破したことが紹介されました。
「Who」は、JIMINが2024年7月19日にリリースした2ndソロアルバム『MUSE』のタイトル曲。ビルボードジャパンのストリーミング・ソング・チャートでは、2024年7月31日公開チャートで20位にデビュー。以降39週連続でトップ100をキープし続けている。
JIMIN「Who」国内ストリーミング累計1億回再生突破 https://t.co/bmIUeQDqxQ
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年4月29日
今回の記録達成を興味深く感じています。というのも、「Who」は主要サブスクサービス間で順位が大きく乖離しているのです。
このブログでは現在は毎週土曜にCHART insightからヒットを読む カテゴリーのエントリーを用意しています。そこではビルボードジャパンによるストリーミング指標および総合ソングチャート、またApple MusicやSpotify、LINE MUSICといった主要サブスクサービスにおける週間チャートの順位をまとめたストリーミング表を掲載しています。
(なお各サービスの週間チャートはApple Musicがビルボードジャパンと同様に月曜集計開始。Spotifyは3日前の金曜、LINE MUSICは2日後の水曜が集計開始日となります。)
上記エントリーではJIMIN「Who」がビルボードジャパンソングチャートに初登場した際のストリーミング表を掲載していますが、Spotifyが7位初登場だったのに対しLINE MUSICが54位(前週80位)、そしてApple Musicは100位未満(前週も同様)となっています。そしてその翌週(→こちら)以降、Apple MusicおよびLINE MUSICでは現在まで100位未満の状況が続いている一方で、Spotifyではトップ10内をキープしているという状況です。
Spotifyは他のサブスクサービスとは異なり、200位までのデイリー順位が再生回数込みで紹介されています。Spotifyについては平日より土曜、土曜より日曜の再生回数が多くなる等の特性がありますが((追記あり) 新曲が初登場しやすい曜日は、”50位の壁”とは...日本におけるSpotifyデイリーチャートの特性をまとめる(2024年3月13日付)参照)、JIMIN「Who」はその特性や他の曲の動向と沿わないことが少なくないと感じています。
日本における4月28日付Spotifyデイリーチャート。50位以内の再生回数は日曜→月曜につき、ほとんどの曲で前日より1割以上減少しています。
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2025年4月29日
首位は23日連続で #MrsGREENAPPLE「#クスシキ」。再生回数前日比86.3%、343,264回再生を記録しています。
日本における4月28日付Spotifyデイリーチャート、50位以内で再生回数前日比90%以上記録曲。#KingGnu「#TWILIGHT!!!」 再生回数前日比90.5% 3→2位#JIMIN「#Who」 同97.4% 10→7位#JIN「#RunningWild」 同93.4% 16→12位#Number_i「#BON」 同90.8% 38→30位
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2025年4月29日
(続く)
日本における4月28日付Spotifyデイリーチャート、50位以内で再生回数前日比90%以上記録曲。(続き)#清水翔太「#PUZZLE」 再生回数前日比105.9% 49→35位#Number_i「#GOD_i」 同90.9% 43→40位
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2025年4月29日
日本のSpotifyデイリーチャート動向は日々Xで紹介し、特徴的な動きを示す曲も記載しています。最新4月28日付にて『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)でのライブが話題となったKing Gnu「TWILIGHT!!!」、また50位の壁を突破した清水翔太「PUZZLE」が上昇するのは自然と感じる一方、JIMIN「Who」等は曜日特性が当てはまりにくかったり、また他の曲の動きとは異なっています。そしてこの特異な状況が続いていると見ています。
このことについては以前から紹介の上、背景を分析しています。
さて、JIMIN側はStationheadでの公式リスニングパーティを連日開催しています。ならば7月23日よりも前からSpotifyで「Who」が急伸しておかしくなかったのではというのが私見です。
今回の急伸については、チャートへの意識が高く且つ貢献したい(上位初登場をプレゼントしたい)と考えるファンダムが、リミックス等リリース時に歌手側の投入の意義(チャート上昇を目指すという姿勢)を察知したことで、JIMINの作品をより高い位置に送り込むべく自発的に動いたことの結果ではと感じています。世界で同時に上昇したのは、米ビルボードによるグローバルチャートの存在も大きいかもしれません。
SpotifyデイリーチャートはApple MusicやLINE MUSICとは異なり、"(100位までではなく)200位まで"、そして"デイリー再生回数が可視化"という特徴があり、これらがコアファンの頑張りをより高める作用を持つといえるでしょう(LINE MUSIC再生キャンペーンにおいてユーザーに該当曲の再生回数が可視化されるのも似た理由と考えます)。それがSpotifyでの上昇と他のサブスクサービスとの乖離につながったというのが私見です。
・グローバルチャートを制したJIMIN「Who」、一方でビルボードジャパンの動向からみえてくるものとは(2024年8月4日付)より
JIMIN「Like Crazy」は首位獲得翌週における急落記録を当時達成しています(クリスマス関連曲を除く)。この背景には米ビルボードによるチャートポリシー変更が考えられるのですが(JIMIN「Like Crazy」が米ビルボードの急落記録更新、チャートポリシー変更の可能性も踏まえ私見を記す(2023年4月12日付)参照)、しかしながら米ビルボードはその変更についてアナウンスしていません。
この記録が生まれた際、そしてチャートポリシーを事前アナウンスなく変更した可能性が高まったことで、コアファンの中から強い口調で米ビルボードを非難する態度が複数みられました。その態度には異を唱えつつも、米ビルボードがチャートポリシーを変更した旨やその背景を毅然と説明しなかったことは問題だと考えます(米ビルボード最新チャート等からみえてくる、3つの注目ポイントについて(2023年4月19日付)参照)。
米におけるJIMIN「Who」のヒットは、「Like Crazy」の記録を踏まえたファンダムのリベンジの結果とも捉えています。ロングヒットは素晴らしいと感じる一方、(国は違えど)日本におけるサブスクサービス間での乖離等も踏まえれば、「Who」のチャートアクションが他の曲と異なることはやはり気になります。
音楽チャートでの上位進出を目指すファンダムの熱量、より広い順位や再生回数を可視化するSpotifyの存在、そのSpotifyと連動してリスニングパーティーを開催することでコアファンの熱量がより大きく反映されるようになったStationheadの登場、そして米ビルボードソングチャートへのリベンジ…これらが海外のみならず日本のファンダムにも伝播したことが、SpotifyにおけるJIMIN「Who」のヒットの要因ではと捉えています。
主要サブスクサービスでの順位とビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標におけるそれとが乖離すること自体は少なくなく、特にLINE MUSICにおいては再生キャンペーン採用曲がその傾向にあります。しかしキャンペーン採用曲はその終了後に急落することが大半のため、Spotifyだけでロングヒットすることはやはり珍しいのですが、ファンダムの熱量が高い歌手の作品にてその傾向が目立ち始めていると考えます。
最近ではStationheadではなくSpotify自体で公式リスニングパーティーが開催され始めており、今後はSpotify側がコアファンの獲得をより強く意識していくかもしれません。ならば、Spotifyに見直しを促すよりもビルボードジャパン側が、他のサブスクサービスとの乖離が大きい曲について真の社会的ヒット曲かを見極め、必要ならばSpotifyでの再生回数に減算処理を施す等の対策を行うかどうか議論する必要があるでしょう。
最後に。今回の提案はあたかも一部歌手を狙ってのものと非難されるかもしれません。しかし”真の社会的ヒット曲かを見極め、音楽チャート管理者側がチャートポリシー(集計方法)を変更する必要性”等については、このブログにて以前から提唱していることです。
チャート結果や記録達成においてはその背景を探り、伝える必要があると考えます。時が経つと(表層的な)結果だけが採り上げられるようになるため、尚の事です。
結果や記録達成に対して違和感を覚えたならば、チャートポリシー変更の必要性を音楽チャート管理者側に促すことが重要です。音楽チャート管理者側はその声に耳を傾けること、記録達成にはチャートポリシー変更の歴史も影響していると伝えること、そしてチャートポリシー変更の際はその変更自体や理由について発信することを、きちんと行ってほしいと願っています。