先週の米ビルボードアルバムチャートでは、以下の記録が誕生しています。
シザが新たなチャート記録を達成した。アルバム『SOS』が故マイケル・ジャクソンの『スリラー』と並び、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”のトップ10に通算79週チャートインしたのだ。
ルミネイトによると、これまでに1枚のアルバムでこれ以上のトップ10入り週を記録したブラック・アーティストはいない。
(中略)
『SOS』は2025年3月15日付の最新チャートで4位をキープし、通算79週目のトップ10入りを達成。一方で、『スリラー』が79週目のトップ10入りを果たしたのは、2022年12月2日付のチャートで、40周年記念再版による115位から7位への急上昇によるものだった。
シザ、故マイケル・ジャクソンのチャート記録と並んだことに「言葉が出ない」と驚きの反応 https://t.co/KEvyn5MVLE
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年3月13日
モーガン・ウォレンの最新スタジオアルバム『ワン・シング・アット・ア・タイム』が、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”(2025年3月15日付)で通算100週目のトップ10入りを果たし、新たなマイルストーンを達成した。この記録は、彼にとって100週以上トップ10入りした2作目のアルバムとなる。
(中略)
また、ウォレンは、唯一1枚または2枚のアルバムがトップ10に100週以上ランクインしたソロ・アーティストとなる。
モーガン・ウォレン、“Billboard 200”トップ10に100週以上チャートインしたアルバムを2作持つ史上初のアーティストに https://t.co/p4ibCFPiQu
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年3月13日
(なおビルボードジャパンの記事では"モーガン・ウォレン"と記載されていますが、弊ブログでは日本のレコード会社による表記(→こちら)に倣い"モーガン・ウォーレン"と表記します。)
そして日本時間の本日早朝に発表された3月22日付米ビルボードアルバムチャートではシザ『SOS』が4位、モーガン・ウォーレン『One Thing At A Time』が9位をそれぞれキープし、トップ10在籍記録をさらに伸ばしています。
Lady Gaga’s ‘MAYHEM’ Debuts at No. 1 on Billboard 200 Charthttps://t.co/IwhfLS8Wy0
— billboard (@billboard) 2025年3月16日
2作品の記録は見事であり、特にモーガン・ウォーレンの記録においてはトップ10内100週以上在籍のアルバムはわずか6作品しかないため尚の事です。
一方で、ロングヒットについてはその背景を捉える必要があります。
ロングヒットの背景には、チャートポリシー(集計方法)の変更があります。長くなりますが、モーガン・ウォーレン『One Thing At A Time』を採り上げた記事からアルバムチャート(Billboard 200)のチャートポリシーに関する内容を紹介します。
“Billboard 200”は、アメリカ国内での週間アルバム人気ランキングであり、ルミネイトによって集計される複数指標の消費量に基づいて算出される。アルバム・ユニットには、アルバム販売数、トラック・イクィヴァレント・アルバム(TEA)、ストリーミング・イクィヴァレント・アルバム(SEA)が含まれる。1ユニットはアルバム1枚の販売、またはアルバムからの個別トラック10曲の販売、あるいはアルバムの収録曲の広告付きストリーミング3,750回、もしくは有料・サブスクリプション型のオンデマンド公式オーディオおよびビデオ・ストリーミング1,250回に相当する。
(中略)
現在の“Billboard 200”は、ストリーミング・データがアルバム販売と組み合わされる形で集計されているため、過去よりも長期間チャートにとどまるアルバムが増加している。“Billboard 200”がストリーミング情報を集計方法に導入したのは2014年12月からで、それ以前は従来のアルバム販売数のみに基づいて順位が決定されていた。
また、多くの人気曲を含む長いトラックリストは、ストリーミング総数を大幅に増やす助けとなるため、『ワン・シング・アット・ア・タイム』や『デンジャラス』のように30曲以上を収録したアルバムは、その長大なトラックリストによる継続的な週間ストリーミングの恩恵を受けている。
さらに、カタログ・アルバム(一般的にリリースから18か月以上経過した作品と定義される)に関しては、1991年5月25日から2009年11月28日までの間“Billboard 200”へのチャートインがほぼ制限されていた。しかし、その後のルール変更により、カタログ・アルバムと最新アルバム(新作/最近リリースされた作品)が同じチャートで競うことになった。これにより、過去のアルバムも数百週にわたりチャートに残り続けるケースが増えている。例えば、2025年3月15日付のチャートでは、通算400週以上チャートインしているアルバムが30作以上も存在する。2009年12月のルール改定以前は、400週以上チャートインしたアルバムは3作のみで、その中でもトップに立っていたのはピンク・フロイドの『狂気』だった。現在もこのアルバムは通算990週チャートインという最長記録を保持しいる。
モーガン・ウォレン、“Billboard 200”トップ10に100週以上チャートインしたアルバムを2作持つ史上初のアーティストに https://t.co/p4ibCFPiQu
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年3月13日
現在ではストリーミング(米ビルボードにおいては動画再生を含む)のアルバム換算分が(SEA)がロングヒットの要となります。モーガン・ウォーレン『One Thing At A Time』や『Dangerous: The Double Album』はオリジナル版の段階から30曲以上収録されており、曲数の多さも貢献しています。
シザ『SOS』はオリジナル版にて20曲以上を収録、また昨年末に登場した『Lana』が合算されたことで『SOS』のデラックスエディションは30曲を大きく上回っています。この合算については下記記事にて紹介されています。
【米ビルボード・アルバム・チャート】シザ『SOS』が約22か月ぶりに首位返り咲き、TOP10中6作をホリデー・アルバムが独占 https://t.co/9eRfaWNN6d
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2024年12月30日
米ビルボードは時代の変化に合わせてチャートポリシーを変更してきました。それ自体は自然であり、また当然のことと考えます。ただ、フィジカルセールスのみだった時代に仮にSEAという概念が存在していれば、モーガン・ウォーレン以外の100週を超えるトップ10在籍作品やマイケル・ジャクソン『Thriller』はさらに記録を伸ばした可能性が考えられます。
今回の記録はチャートポリシー変更に因る部分が大きいのですが、変更によりアルバムチャートで200位以内に入り続ける作品が増えたとして、トップ10内キープとなるとやはり難しいでしょう。モーガン・ウォーレンやシザの記録を称えつつも、"アルバム換算分を割り出す際の式を収録曲数に応じて設定する"や"デラックスエディションのリリースが有利と成りにくい形にする"等については検討の必要があると考えます。
もうひとつ、こちらの記録についても考えを巡らせています。
【韓流】BTS・JIMINのソロ曲「Who」32週ランク入り「Dynamito」に並ぶ https://t.co/PsbzRIhMd8
— ニッカンエンタメ・プレミアム (@nikkan_entame) 2025年3月12日
JIMIN「Who」についてはビルボードジャパンでの記録をここで採り上げました。その後2月26日公開分まで32週続けてソングチャート100位以内に在籍したものの、Spotifyと他のサブスクサービスとでは大きな乖離が続いています。加えてSpotifyでは、日本のデイリーチャートにおいて曜日特性と異なる動きが「Who」で幾度となく登場しており、これらを踏まえれば以前記した内容は間違いではなかったものと感じています。
JIMIN「Who」の上昇においてはリミックス等のリリースを機に、コアファンの中でもチャート動向に詳しく、推す歌手の作品のチャート上昇に貢献したいと考えるファンダムが再生回数上昇に自発的に貢献したのではと捉えています。ともすればクローズドなコミュニティの中でチャート上昇を目指そうという共通認識が生まれたかもしれません(が、それは解りかねます)。
SpotifyではBTSのメンバーによるソロ作品の安定した強さが目立つゆえ、チャートアクションの背景にはJIMINのみならずBTS全体のコアファンによる高い意識が大きく影響しているものと考えます。その中でJIMINにおいては、米ビルボードにおける急落記録を踏まえてリベンジを誓う方が多いのではとも想起しています。
Biggest falls from #1 in Hot 100 history (non-holiday):
— chart data (@chartdata) 2025年2月11日
1-57 4x4, Travis Scott
1-45 Like Crazy, Jimin
1-38 willow, Taylor Swift
1-34 TROLLZ, 6ix9ine & Nicki Minaj
1-28 Life Goes On, BTS
1-25 Franchise, Travis Scott, Young Thug & M.I.A
1-21 Try That In A Small Town, Jason Aldean
JIMIN「Like Crazy」は首位獲得翌週における急落記録を当時達成しています(クリスマス関連曲を除く)。この背景には米ビルボードによるチャートポリシー変更が考えられるのですが(JIMIN「Like Crazy」が米ビルボードの急落記録更新、チャートポリシー変更の可能性も踏まえ私見を記す(2023年4月12日付)参照)、しかしながら米ビルボードはその変更についてアナウンスしていません。
この記録が生まれた際、そしてチャートポリシーを事前アナウンスなく変更した可能性が高まったことで、コアファンの中から強い口調で米ビルボードを非難する態度が複数みられました。その態度には異を唱えつつも、米ビルボードがチャートポリシーを変更した旨やその背景を毅然と説明しなかったことは問題だと考えます(米ビルボード最新チャート等からみえてくる、3つの注目ポイントについて(2023年4月19日付)参照)。
米におけるJIMIN「Who」のヒットは、「Like Crazy」の記録を踏まえたファンダムのリベンジの結果とも捉えています。ロングヒットは素晴らしいと感じる一方、(国は違えど)日本におけるサブスクサービス間での乖離等も踏まえれば、「Who」のチャートアクションが他の曲と異なることはやはり気になります。
チャート結果や記録達成においてはその背景を探り、伝える必要があると考えます。時が経つと(表層的な)結果だけが採り上げられるようになるため、尚の事です。
結果や記録達成に対して違和感を覚えたならば、チャートポリシー変更の必要性を音楽チャート管理者側に促すことが重要です。音楽チャート管理者側はその声に耳を傾けること、記録達成にはチャートポリシー変更の歴史も影響していると伝えること、そしてチャートポリシー変更の際はその変更自体や理由について発信することを、きちんと行ってほしいと願っています。