イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

グラミー賞が来年開催分にてアジア関連部門を新設、一方で二種類の批判が生まれていることについて

来年開催の米グラミー賞でアジア関連部門等が新設されることについては、米ビルボード記事の翻訳内容を掲載する形にて先週紹介しました。

今回はこの続きとなります。

 

 

まずは、米ビルボードの記事掲載から1日半経過後にビルボードジャパンが公開した翻訳記事を紹介します。なおこちらはアジア関連部門の新設、および主要部門である最優秀新人賞の一部変更に関する部分が翻訳されています。

今回の新設部門の中で最も注目なのは、<最優秀アジアン・ポップ・ミュージック・パフォーマンス(Best Asian Pop Music Performance)>だ。この部門は、K-POP、J-POP、C-POPを含むアジア市場発、またはアジア市場で広く認知されているポップ・ミュージックの優れたパフォーマンスを表彰するもので、1つ以上のアジア言語が意味のある形で使用されていることが条件となる。バイリンガルまたはマルチリンガル作品の場合、そのアジア言語が楽曲の重要な要素として機能し、その言語を用いた作品であると認識できることが求められる。全編アジア言語による楽曲は応募可能だが、単語やアドリブ、短いフレーズなどの限定的な使用のみでは対象にならない。

対象作品は一般的に、メロディ重視の作曲、メインストリームのポップ・ソングライティング、商業性を意識したプロダクションを特徴とし、ポップ・ロックやポップR&Bなど隣接ジャンルの要素を含む場合もある。また、ジャンルを横断するアレンジ、多層的なプロダクション、音源やパフォーマンスを前提としたダイナミックな楽曲構成なども特徴として挙げられる。

なお、応募資格はアーティストの民族的背景や国籍ではなく、音楽スタイルによって判断される。アジアまたはアジア系コミュニティを起源とする音楽であっても、本部門のジャンル基準を満たさない場合は、他の適切な部門で審査される。同一年度においてパフォーマンス部門へ応募できるのは1つのバージョンのみで、別バージョンを用いて本部門へ重複応募することは認められない。

 

 

このアジア関連部門は主要部門に含まれませんが、今回はこの賞の新設に伴い生まれた 二種類の批判についても採り上げます。

 

 

二種類の批判は共に、韓国メディアである聯合ニュースが採り上げています。まずは今回の賞における"アジアという括り方"について、です。

 

音楽評論家のチョン・ミンジェ氏は「K-POPをはじめとするアジア音楽の影響力が北米で拡大を続けているため、J-POPやC-POPも取り込むために『アジア』をひとくくりにするという一手を打ったようだ」とする一方、共通点のないアジアの音楽を一つにまとめた点には批判の余地があると指摘した。

 

グラミー賞に「アジア部門」新設 BTSなど受賞に期待=懸念の声も | 聯合ニュース(6月17日付)より

しかし、この『J-POPやC-POPも取り込むために『アジア』をひとくくりにするという一手を打った』という見方は乱暴だと考えます。日本では以前から、グラミー賞に対し働きかけを行ってきました。

プロデューサー/ソングライターのヒロイズム(her0ism)さんは、ビルボードジャパンによる昨年3月掲載のインタビューにてアジアに関する新部門創設について語っています。

 

たしかに、米でのヒット規模はK-POPが圧倒的に勝ります。米ビルボードが2020年秋に開始したグローバルソングチャート(Global 200、およびGlobal 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.)では日本の音楽もランクインしていますがK-POPとの差は拡がり、米のソングチャートではさらなる大差が生まれています。また一般投票から成るアメリカンミュージックアワードにはK-POP部門はあれど日本の音楽に関する賞は存在しません。

それでも日本からの働きかけや、またMUSIC AWARDS JAPANの創設もプラスに作用したのではないでしょうか。先程は『J-POPやC-POPも取り込むために『アジア』をひとくくりにするという一手を打った』という記事表現への違和感を述べましたが、『J-POPやC-POPのヒットの可能性を踏まえて『アジア』をひとくくりにするという一手を打った』と記したならばしっくりくるのかもしれません。

 

 

新設部門に対するもうひとつの批判は、その批判者における"主要部門からの排除の可能性"が念頭にあります。

 

芸能関係者は「グラミーがK-POPなどアジア音楽に関心を持つようになったのは前向きな発展」としたうえで、「新設部門を主要部門よりも下に位置付け、K-POPはこの部門だけ受賞しろという意図だとすれば残念と言わざるを得ない。ただ、グラミー賞は会員の投票によって決まるため、今後は各芸能事務所の戦略が重要になるだろう」と説明した。

 

グラミー賞に「アジア部門」新設 BTSなど受賞に期待=懸念の声も | 聯合ニュース(6月17日付)より

韓国メディアでも記事にて匿名関係者発言を用いることに驚きつつ、しかしこのような想像は米メディアでもみられます。Teen Vougeというメディアにて、アヤン・アルタン氏が『2027年グラミー賞の「最優秀アジアン・ポップ・ミュージック・パフォーマンス」部門は、単なる別の形の人種隔離に過ぎない』という強烈なタイトルのコラムを寄稿しています。前段はこちら。

In this op-ed, writer Ayan Artan examines how the new Grammys 2027 rules and categories, especially best Asian pop music performance, can be seen as part of a history of gatekeeping non-white artists from major award categories.

(この論説記事で、作家のアヤン・アルタンは、2027年のグラミー賞の新たなルールや部門、とりわけ「最優秀アジア・ポップ・パフォーマンス賞」が、主要な賞の部門から非白人アーティストを締め出してきた歴史の一環としてどのように捉えられるかを考察している。)

 

The Grammys 2027 Best Asian Pop Music Category Is Just Another Form of Segregation | Teen Vogue(6月18日付)より

 

※ DeepL翻訳を用いた上で、体裁を整えています。

またこのような排除は、最優秀アジアン・ポップ・ミュージック・パフォーマンス部門と同時に新設される最優秀ラテンソング部門でも同様ではないかと指摘されています。しかしながら、個人的には強い違和感を覚えます。

 

下記は5年前の記事ですが、こちらでは選考審査委員会の廃止と投票者によるノミネートの決定、そして2021年6月に2,710名の新たな投票メンバー(投票会員)が生まれていることが紹介されています。

また特大ヒットした「Blinding Lights」がノミネートされなかったことでグラミー賞を批判し、選考審査委員会廃止等見直しの大きな要因となったザ・ウィークエンドは、その後グラミー賞と関係を修復し昨年の同賞にてサプライズでパフォーマンスを行っています。開催直前にリリースされたアルバム『Hurry Up Tomorrow』のプロモーションという意味合いもあるとして、しかしグラミー賞の改善を想起させる動きといえます。

投票メンバーの増加は人種やジェンダー、メンバーの年齢構成等の比率是正という意味合いも持っていると伺っています。加えてグラミー賞では主要部門のうち最優秀レコード賞、最優秀アルバム賞、最優秀楽曲賞および最優秀新人賞において、2019年開催分から候補枠を(5→)8へ増加させています(その後10まで枠数は増えるも2024年から再度8枠に変更)。

これらの改善により、グラミー賞候補および受賞作品/歌手は米ビルボード主要チャートでのヒットとリンクしてきたという印象です。たしかに今年においてHUNTR/X(イジェ、オードリー・ヌナ & レイ・アミ)「Golden」が最優秀楽曲賞にノミネートされながら、また米ソングチャートを制しながらも最優秀レコード賞の候補入りを逃したことには違和感を抱きますが、全体的に社会的ヒットと近くなった印象があります。

(なお今年のグラミー賞でK-POPが主要部門を逃したことを一部メディアが批判していますが、主要部門のうち『最優秀プロデューサー(ノン・クラシック)および最優秀ソングライター(ノン・クラシック)の2部門を受賞した方はいずれもロゼ & ブルーノ・マーズ「APT.」に関与』していることは考慮すべきでしょう(『』内は第68回グラミー賞の結果や歌手の発信内容から考える、エンタテインメントの役割について(2月3日付)より)。)

 

先述したコラムを紹介したライターの堂本かおるさんによるポストに反応した内容を上記に。ノミネートが投票メンバーによって決まる以上、少なくとも候補選出時に非白人歌手のヒットを排除することはないと考えます。また今年のグラミー賞では2025年度における米ビルボード年間ソングチャート2位のケンドリック・ラマー & シザ「Luther」が最優秀レコード賞を受賞しており、コラム寄稿者が結果をどう思うか気になります。

 

 

グラミー賞が来年開催分にて新設するアジア関連部門への二種類の批判について、自分の見方を記しました。違和感が簡単に消えることはないかもしれませんが、ならばアジア発となる米での大ヒット曲を輩出し、グラミー賞の投票メンバー、そして米社会に対し強烈な印象を残すことが大事だと考えます。