ビルボードジャパンが一昨日発表した上半期チャートについては、分析エントリーをブログで同日掲載。ビルボードジャパンによる記事等をまとめた別途エントリーのリンクも貼付していますので、是非ご活用ください。なお、今回の上半期チャートは昨年度と同様、総合ソングチャートおよびトップアーティストチャートが100位まで公開されています。
昨日はソングチャートについて、あらためて分析した内容を公開しています。
今回はアルバムチャートについて、CHART insightも踏まえて分析します。
ビルボードジャパン上半期総合アルバムチャートの記事はこちら。
【ビルボード 2025年上半期Hot Albums】Mrs. GREEN APPLE『ANTENNA』が総合首位 2位にSnow Manが続く(コメントあり) https://t.co/R1OLDoUVJL
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年6月5日
記事の内容、および構成3指標のうち2指標の基となるチャートの記事から、以下の表を作成しています。この表のうち、ストリーミング指標の順位についてはCHART insightの有料会員が確認できます(CHART insight有料会員は表示週(単週)のみならず表示期間(2週以上)を選択することが可能なため)。なおビルボードジャパンでは、有料会員が知り得る情報の公開を可能としています。
注目は、Mrs. GREEN APPLE『ANTENNA』がSnow Man『THE BEST 2020 - 2025』を上回り上半期チャートを制したこと。その背景にあるのがストリーミング指標の導入です。
ビルボードジャパンは昨年最終週、アルバムチャートにストリーミング指標を含めるチャートポリシー変更を実施。それにより週間チャート、そして上半期チャートの動向は大きく変わりました。
ストリーミングを導入した結果、ストリーミングに強い作品、つまりは多く聴かれているアルバムが上位で安定するように。先程の表からは総合とストリーミングの順位がほぼ比例していることが読み取れるほか、このエントリーの最後で紹介する総合トップ20入り作品のCHART insightからは累計ポイントに占めるストリーミングの割合が大きいことが解ります。
上半期チャートを制したMrs. GREEN APPLE『ANTENNA』は集計期間中のフィジカルセールス49,212枚およびダウンロード7,389DLを記録した一方、同2位のSnow Man『THE BEST 2020 - 2025』はフィジカルセールス1,616,736枚およびダウンロード9,766DLとなり、後者が所有2指標で勝っています。『ANTENNA』が『THE BEST 2020 -2025』を総合で上回ったのは、ストリーミングの強さゆえです(順に1位、6位を記録)。
総合および構成3指標(フィジカルセールスやダウンロードはその基となるチャート)における首位獲得作品を一覧化した表を上記に。『ANTENNA』はストリーミング導入直後のアルバムチャートで同指標10週連続、通算13週に渡り首位を獲得し総合でも通算4週トップに。実際、『ANTENNA』は1月8日公開分にてリリース以来初の総合首位を獲得しています。同作品の累計ポイント構成比からはストリーミングの強さが見て取れます。
ストリーミングに強いMrs. GREEN APPLE『ANTENNA』ですが、フィジカルセールスにも注目。今年度上半期は5万枚近くを売り上げていますが、昨年度上半期(55,720枚)の88.3%と高水準をキープしており、フィジカルセールスが如何に安定しているかがよく分かります(昨年度上半期の動向はビルボードジャパン上半期アルバムチャート、表やCHART insightからみえてくるものとは(2024年6月12日付)参照)。
デジタル、特にストリーミングが浸透してきた現在にあっては、フィジカル購入がコアファン化のひとつの目安となります。その点において、Mrs. GREEN APPLEにおけるフィジカルセールスの強さおよび安定はコアファン数増加を示すものといえるでしょう。
他方、しばらくの間は所有2指標のみで構成され、ダウンロードの漸減に伴いフィジカルセールスの強さが比例しやすかったアルバムチャートにおいては、チャートポリシー(集計方法)変更後はストリーミングが強いか否かがロングヒットの可否につながっています。
上半期週間首位作品の構成指標ならびに翌週の動向を示した表を上記に。フィジカルセールスが週間10万枚台後半以上を記録すれば総合も制しやすい一方、翌週はストリーミングが強くなければ急落しやすいことが解ります。初週143万枚を突破したSnow Man『THE BEST 2020 - 2025』は翌週も7万枚近いフィジカルセールスを記録しながら、総合では13位に後退。初登場からの100位以内連続エントリーは4週で止まっていました。
そのSnow Man『THE BEST 2020 - 2025』が上半期総合2位に至ったのは、デジタルリリースゆえ。昨秋解禁した「One」に続き、同曲を含むベストアルバムを4月に解禁したことで総合首位に復帰、ストリーミングは上半期最終週まで7連覇を達成しています。累計ポイント構成比においてストリーミングが過半数に達しているのは、ビルボードジャパンがストリーミングを重視することの表れであることは間違いありません。
今後は、上半期の上位2作品が年間チャートでどうなるかが注目点となります。Snow Man『THE BEST 2020 - 2025』はストリーミングで首位を続けており、Mrs. GREEN APPLE『ANTENNA』に迫っていることは間違いありません。そして下半期以降、ビルボードジャパンがソングおよびアルバムチャートにおいて、ストリーミングの指標化の際”リカレントルール”を導入したことも、差を縮める大きな要因となります。
リカレントルールについて、および下半期初週のアルバムチャートについては上記で解説していますが、Mrs. GREEN APPLE『ANTENNA』は総合4→6位、ストリーミング指標は2→5位に後退した一方、Snow Man『THE BEST 2020 - 2025』は総合3→2位、ストリーミング指標では首位をキープ。後者はリカレントルール適用が3ヶ月近く先になることを踏まえれば、『THE BEST 2020 - 2025』の年間チャート制覇は十分考えられます。
この2作品の年間アルバムチャートでの結果に注目すると共に、上半期チャート総括エントリーでも述べたようにSnow Man、また『Hello! We're timelesz』がデジタルオンリーながら上半期総合8位にランクインしたtimeleszの、デジタルアーカイブの充実なるかを注視する必要があると捉えています。
timeleszは新メンバーオーディションの話題の大きさもあり、オーディションで用いられた曲を収録したデジタルコンピレーションアルバムが人気に。他方Snow Man『THE BEST 2020 - 2025』共々『Hello! We're timelesz』もデジタル解禁がこのアルバムにほぼ限られており(timeleszのデジタルシングル「Rock this Party」は『Hello! We're timelesz』未収録)、聴かれた分はこれらアルバムのストリーミングにほぼすべて集約されます。
ビルボードジャパン(@Billboard_JAPAN)のホームページ内、”【Billboard JAPAN Chart】よくある質問”よりストリーミング関連項目を紹介。6月8日午前6時の段階で、ソングチャートやアルバムチャートのストリーミング指標に新たに設けられたリカレントルールについては、まだ記載されていません。 pic.twitter.com/vP2BWDwCD3
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2025年6月7日
ビルボードジャパンアルバムチャートのストリーミング指標はどの作品で聴かれたかが重要となり、デジタルアーカイブを充実すればベストやコンピレーションアルバム以外で聴取された曲はそのアルバムのストリーミングに加算されます。Snow Manやtimeleszがこのチャートポリシーを意識しているかは解りかねますが、チャートにこだわらずともデジタルを拡充させるほうがライト層のコアファン化につながりやすいと考えます。
現状のチャートポリシーを踏まえれば、Mrs. GREEN APPLEが来月リリースするベストアルバム『10』がストリーミングでどれだけ強くなるかが気になるところです。収録される19曲のうち7曲は既にリリースされたアルバムやミニアルバムに収録されており、それらの曲が聴かれるとして『10』経由ではない可能性があります。それでもコアファンの増加を踏まえれば、『10』は所有/接触の双方で強さを発揮するものとみられます。
リカレントルールの導入に伴いロングヒット作品が年間チャートでどのような結果に至るか、その代表格であるMrs. GREEN APPLE『ANTENNA』をSnow Man『THE BEST 2020 - 2025』が年間チャートで逆転するか、そしてMrs. GREEN APPLE『10』の動向にも注目すると共に、Snow Manやtimelesz等デジタルアーカイブが完全ではない歌手や未だにデジタルを解禁していない歌手が解禁に至るか、その行方についても注目していきます。
ここまでの内容を踏まえ、ビルボードジャパンに対し以下の内容を提案します。
ひとつは、リカレントルール導入に伴うStreaming Albumsチャートの創設および発信。ソングチャートでも一定週数以上ランクインした曲に対し指標化時に減算処理が行われますが、指標化前の元の順位はStreaming Songsチャートで可視化され、真に聴かれている曲が解る状態です。他方、アルバムチャートのストリーミングにおける真の人気は指標化前のチャートがないため可視化されません。ゆえにチャートの創設は必要です。
そしてもうひとつは、アルバム収録曲数に沿う形でストリーミングユニット数を算出すべきか、随時検討すること。ビルボードジャパンはストリーミング導入時に曲数の大小は大きく影響しない旨を発信していますが、それが正しいかを定期的に見直し、影響するならば収録曲数に応じた計算方法の導入が必要と考えます。米アルバムチャートでは30曲以上収録のアルバムが長期エントリーしやすい傾向もあり、尚の事です。
以上2点について、前向きな検討を心から願います。
最後に、上半期アルバムチャートにおける上位20作品のCHART insight(総合および構成指標の週間単位での推移)を貼付します。なお、こちらではCHART insight無料会員が確認可能なデータを掲載しています。
<2025年度上半期ビルボードジャパンアルバムチャート
上位20作品のCHART insight>
※ 1位から順に掲載。
※ 上半期最終週(5月28日公開分)までの最大30週分を表示。
※ 順位、チャートイン回数は5月28日公開分を指します(20位未満の際は未記載)。
※ 総合順位は黒、フィジカルセールスは黄色、ダウンロードは紫、ストリーミングは青で表示。なお2022年度以前から登場している作品にはルックアップが加算されており、同指標はオレンジで表示されます。