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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Mrs. GREEN APPLE『10』のデジタル先行配信から、チャート制覇への本気度を感じたことについて

Mrs. GREEN APPLEのベストアルバム『10』が、7月8日にフィジカルリリースに先駆け本日デジタルリリースされています。

ダウンロード版のボーナストラック用意も含め、『10』のリリースからはビルボードジャパンアルバムチャートに対するMrs. GREEN APPLEの姿勢、いわば本気度を感じています。

 

 

2025年度上半期のビルボードジャパン各種チャートでは、Mrs. GREEN APPLE(による作品)が主要3部門(ソングチャート、アルバムチャート、およびこのふたつのチャートを合算したトップアーティストチャート)を制しています。

(上記は7月2日公開分ビルボードジャパンアルバムチャートにおけるMrs. GREEN APPLE『ANTENNA』の、直近30週分におけるCHART insight。ビルボードジャパン有料会員が確認可能な総合および構成指標100位までを示したものとなります(無料会員は各20位までが閲覧可能)。なおビルボードジャパンでは、有料会員が把握可能な情報のブログ等での発信を許可しています。またこの後紹介するCHART insightも同様です。)

そのうちアルバムチャートでは『ANTENNA』が首位を獲得。2年前にリリースされた作品が上半期を制したのは、今年度からアルバムチャートにストリーミング指標が導入されたことに伴います。この指標はCHART insightにて青で表示されます。

今後は上記の2指標に加えて、GfK Japanが提供する国内主要ストリーミングサービス(Amazon MusicApple Music、Spotify他)の再生回数が合算される。なお、本チャートのアップデートにより、Hot AlbumsとArtist 100は毎週木曜日に更新される(その他のチャートは、水曜更新)。

今回の変更に際し、礒崎誠二(チャートディレクター)は、「『アルバム』をきっかけに多くの楽曲と出会う、という今も昔も変わらないユーザーのアクティビティを捉えるため、GfK/NIQ Japan様のご協力を得て精度の高いシステムを導入することが出来ました。これにより、どのアルバムに収録された楽曲が聴かれているかを特定すること等が可能になります。(中略) 」とコメントしている。

 

Mrs. GREEN APPLE『10』では「ナハトムジーク」以降の作品がアルバムの形で初お目見えとなります。Mrs. GREEN APPLEがストリーミングで躍進を続けていることを踏まえれば、アルバムチャートの上位初登場、且つロングヒットは堅いかもしれません。そして同作品が集計期間初日となる月曜に先行配信されたことにも注目です。

『10』ではフィジカルリリースの訴求も積極的に行っており、またダウンロードアルバム限定のボーナストラックも収められていることでダウンロード指標も高まる可能性があります。ビルボードジャパンがアルバムチャートにストリーミング指標を導入して以降、週間チャートでの全指標首位という完全制覇を果たした作品は未だ存在しないことから、Mrs. GREEN APPLE『10』の初動動向に注目です。

 

 

さて、Mrs. GREEN APPLE『10』のデジタル先行配信には、年間アルバムチャートでの首位獲得に意欲的なことが背景にあるのではと感じています。現時点ではSnow Manのベストアルバムが年間チャートにおいて有利とみられるため、尚の事です。

Snow Manのベストアルバム『THE BEST 2020 - 2025』はデジタルが後発となりましたが、ビルボードジャパンアルバムチャートでは解禁以降総合で4週連続首位、且つ12週連続でトップ3入りを記録しています。この強さはストリーミング指標の12週連続首位が牽引しており、60曲を超える収録曲数の多さも相まって年間チャートでの首位獲得の可能性が高まっています。

 

また、ビルボードジャパンは今年度下半期よりソングチャートおよびアルバムチャートにリカレントルールを導入。総合チャートにおいてソングチャートでは53週以上、アルバムチャートでは27週以上ランクインした作品について、Streaming SongsチャートおよびStreaming Albumsチャート(後者は非公開)のストリーミング指標化時に減算処理を行うことで、『チャートのリフレッシュ』を図っています(『』内はポストより→こちら)。

このリカレントルール適用によりMrs. GREEN APPLE『ANTENNA』は減算処理対象となり、他方Snow Manのベストアルバムはあと10週分リカレントルール非適用という状況です。Mrs. GREEN APPLE側が音楽チャートをどこまで意識しているかは解りかねますが、『10』の週間チャート完全制覇且つロングヒットを目指し、デジタル先行の形でリリースすることでサブスク聴取を意識させる狙いがあったのではと考えます。

 

 

Mrs. GREEN APPLE『10』が年間チャートで上位に進出するためには、とりわけアルバムチャートのストリーミング指標を増強するためには、アルバム収録曲が先行リリース分ではなくアルバムに収録されたほうで聴かれることが必要です。その動機づけを如何にして行うかがMrs. GREEN APPLE側に問われているのみならず、音楽チャートでの上位進出に意欲的なファンダムもまた、この点を意識することが重要でしょう。

どのアルバムから聴かれたかがアルバムのストリーミング指標に影響する例として、Ado『Adoのベストアドバム』が挙げられます。40曲を収録しストリーミング指標でも有利になるとみられた同作品は、リリース週にデジタルを解禁したSnow Man『THE BEST 2020 - 2025』の後塵を拝したのみならず、初登場時のストリーミング指標は11位という状況でした。

ビルボードジャパンアルバムチャートのストリーミング指標では、聴かれた曲がどのアルバムに収録されているかが重要となります。Adoさんの注目度自体は上昇してもベストアルバム収録曲が同作品以外から聴かれた可能性が高く(『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』の動向からも推測可能)、聴取先が分散したことにより『Adoのベストアドバム』のストリーミング指標が思うほど伸びなかったといえるかもしれません。

他方Snow Manにおいてはデジタル解禁が昨秋リリースの「One」(ベストアルバムにも収録)を除けば『THE BEST 2020 - 2025』に限られ、聴取行動のほぼ全てが同作品のストリーミング指標につながります。本来はデジタルアーカイブの充実(過去全作品の解禁)が必要と考えますが、アルバムチャートのストリーミング指標において『聴かれた曲がどのアルバムに収録されているかが重要』と記したのはこれらの点も背景にあります。

 

 

たとえば歌手側や各サブスクサービスによる公式プレイリスト、またユーザー側のプレイリストにおいても、そこに収められている曲の出所を『10』に差し替えることも重要かもしれません。そこまでして年間チャートの上位進出にこだわるのはおかしいと言われればそれまでですが、しかしMrs. GREEN APPLE側が音楽チャートでの上位進出にもきちんとこだわってきたことを考えれば、必要かもしれないと感じています。

 

Mrs. GREEN APPLE『10』の初登場が予定される7月16日公開分のビルボードジャパンアルバムチャート(7月17日正午発表)の結果が気になると共に、同作品が年間チャートでどの位置に到達するかに注目しています。