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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【大ヒットの予感】BTS「Butter」が最高のロケットスタートに至った5つの理由

BTS「Butter」のSpotifyでの動向は一昨日一度お伝えしました。

その「Butter」が一昨日、日本において前人未到の記録を達成しています。

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「Butter」は日本のSpotifyデイリー再生回数で史上初の50万を突破(503,930再生)。翌日は465,438再生にダウンするも、多くの曲が日曜→月曜で再生回数9割未満の中にあって、前日比92.4%を記録する「Butter」が如何に人気かを実感させられます。さらには世界的にみても、様々なデジタルプラットフォームで記録を塗り替えているのです。

 

では、BTS「Butter」がここまでの勢いに達した理由は何でしょうか。

昨日つぶやいた内容を整理し、理由を5点紹介します。

 

 

① 「Dynamite」に続く英語詞曲への期待度の高さ

「Dynamite」は米では首位を獲得したほか、米ビルボードが昨秋ローンチしたグローバルチャートにおいてもGlobal 200、Global Excl. U.S.共に首位を記録し、世界での人気が可視化。さらに日本ではビルボードジャパンにおいて今年度上半期ソングスチャートでトップ3入りを確実にしています。

BTSはその後、韓国語による「Life Goes On」や日本語による「Film out」をリリースしていますが、チャートアクションは日米共に「Dynamite」が勝っており、英語詞曲のリリースに注目が集まるのは自然なことです。

 

 

② リリース前のスケジュール公開による解禁日の認知度上昇

その注目度をより高めたのが、「Butter」のスケジュール公開にあります。

このアナウンスが来たるべき解禁日に向けての注目度を高め、解禁日時を多くの方に焼き付けることに成功していると言えるでしょう。

 

 

③ 公開日以降のプロモーションの徹底

「Butter」はミュージックビデオのプレミア公開時、YouTubeにおける最大同時接続数が390万に達しています。通常のプレミア公開においてはYouTube独自のカウントダウン画面(白の背景にカラフルな数字が大きく登場するタイプのもの)を経て公開に移行するのですが、「Butter」はメンバー自ら生でカウントダウンしており、プレミア感にさらなる価値を与えています。

そして公開の2日後、BTSは2021ビルボードミュージック・アワードに出演し「Butter」を初めてパフォーマンス。世界中が注目する音楽賞(日本では日テレプラスで生放送)を初解禁の場にしているのです。

そしてこのパフォーマンスは放送から1日も経たずに彼らのYouTubeアカウントから発信されており、感動の共有ができる仕組みにも感心します。

(尤も、海外ではテレビ番組や音楽賞でのパフォーマンスが歌手(や芸能事務所)のYouTubeアカウントから発信されるようになっており、日本がこの仕組みを築けないのは著作権等の事情を理解したとしても大きな機会損失であることは間違いありません。)

 

BTSは今回の2021ビルボードミュージック・アワードで、ノミネートされた4部門すべて受賞しました。

ダウンロード/セル指標が突出した歌手でありSNSでの反応も凄まじいため、セルやソーシャル部門の受賞は当然と言える一方、トップ・デュオ/グループ賞を獲得するのは彼らの躍進の証と考えてよく、これらの受賞で箔がつくと考えるのは自然なことです。

 

 

 

Spotify独自のCANVAS機能の活用

CANVASとはSpotify独自の映像発信機能であり、「Butter」を再生するとメンバー7名が次々登場、そしてループします。

CANVAS機能はJ-Popでもようやく徹底されてきた印象がありますが、リリース当初からこの機能をしっかり使うこともまた、彼らの施策の一環と言えます。

 

 

⑤ チャート上位進出へのこだわり

グローバル記者会見で、BTSはチャートに関して以下の発言をしています。

「Butter」が「Dynamite」に続く全編英語歌詞のナンバーとあって、Billboardのシングルチャート「HOT 100」で首位獲得を狙えるのではないかとMCから言われたSUGAは「いつもこういうことを話すのが僕なのでプレッシャーを感じますが、そのように期待していただけるだけで感謝しています。『Butter』は楽しいサマーソングなのでだんだん暑くなってくるこの時期に多くの方々に楽しんでいただけたらと思います。そして『HOT 100』の1位には……なるんじゃないですか? いや、なるべきですね。しないといけない。やってみせます」と意気込む。

アイドル人気も凄まじいBTSにおいては所有指標のダウンロードが突出する傾向にあり、同指標の高さを武器に首位を獲得する可能性が高いと思われます。そして注目したいのは、BTSアメリカでの公式ショップ(→こちら)。下記はトップページのキャプチャとなります。

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公式ショップでは「Butter」のオリジナルバージョンおよびインストゥルメンタルのダウンロード、そして2種類のフィジカルが販売。ダウンロード価格は69セント(0.69ドル)に抑えられており、通常0.99~1.29ドルで販売される単曲ダウンロードが安価で販売されることによりダウンロード促進に繋がります。

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「Butter」インストゥルメンタルバージョンのダウンロードページを上記に。注目は『All US sales will count towards the USA SoundScan and Billboard charts.』という文言。米ビルボードソングスチャートはオリジナルバージョンに加えてリミックスやインストゥルメンタルも合算されるルールとなっており、この文言は米チャートを間違いなく意識したものでしょう。

 

そしてチャートを意識しているのは歌手側だけではなくファンも同様で、その一例として米ビルボードSNSの歌手人気を示したSocial 50チャートを休止した際に一部ファンが反発したことが挙げられます。チャートへのこだわりがとりわけ強いと考えて差し支えないでしょう。

また、ファン運営と思しきチャートアクション紹介に特化したTwitterアカウントも散見されます。BTSを米制覇へ、世界一へと押し上げるファンが多いことが読み取れます。

 

なお、米ビルボードでは夏ソング(実際は曲のテーマが夏ではなくとも、夏の時期に人気となった曲の)チャートである”Songs Of The Summer”が毎夏、毎週発表されます。今年度の開始時期は不明ですが来週発表分からとなる可能性は高く、そこで「Butter」が制すれば曲の勢いをより強く訴求できるはずです。

BTSがこの夏ソングチャートを見越して、「Butter」解禁時期を設定したならば本当に巧いですね。

 

 

 

 

以上5点、如何だったでしょうか。実はSpotifyCANVAS機能やダウンロードの安価販売、音楽賞の出演等は「Dynamite」における施策を踏襲しており、「Dynamite」の成功を踏まえて好い部分をきちんと受け継ぐ姿勢が感じられます。音楽賞に絡めるというのも、訴求力を十分理解しての行動と言えるでしょう(尤も、音楽賞にノミネートされる/出演をオファーされることが前提となりますが)。

今後、「Butter」においても「Dynamite」同様に様々なリミックスをリリースするかもしれません。それもまた、所有指標中心に上昇する原動力になるはずです。

 

また、昨日21時には「Butter」のダンスプラクティス動画がアップされています。曲への注目を高めると同時に、TikTok等での踊ってみた動画を増やすに十分の施策と言えます。TikTokでのバズはYouTubeやサブスクに移行する源となるのです。

 

 

BTS「Butter」は今日発表のビルボードジャパンソングスチャートで、また次週発表の米ビルボードおよびグローバルチャートで初登場が予定されています。チャートにおいては【所有<接触指標】がロングヒットの要になると捉えており、特に米ビルボードにおいてはラジオ指標でどこまで伸びるかが、ロングヒットはもとよりグラミー賞受賞にもつながる鍵になると考えます。

先に紹介したグローバル記者会見ではグラミー賞についても意気込みが語られていますが、受賞のためには米ビルボードソングスチャートでの首位獲得(でインパクトを残すこと)がまずは必要という認識を持ち合わせているだろうことが解ります。おそらくは所有指標の突出で最上位に進出するとして、そこから接触指標群の上昇および安定につながるかを注視する必要があります。そしてグラミー賞での悲願達成となるか、BTS「Butter」の動向に注目していきましょう。