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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

『ミュージックステーション』”鬼リピソングランキング”でトップ3を独占したBTSの凄さを振り返る

一昨日放送された『ミュージックステーション』(テレビ朝日)のスペシャル。ここで紹介された企画は実に興味深い内容だったと感じています。

7月25日までのビルボードジャパンのデータに基づき、再生回数をリリースからの日数で割って1日あたり最も多く再生された”鬼リピ”ソングを独自にランキングした今回の企画。その結果、BTSがトップ3を独占する形となりました。

鬼リピランキングで有利になる曲の特徴は、近年の楽曲であることおよび初動から高位置にあること。たとえばストリーミングで5億回再生を突破したOfficial髭男dism「Pretender」においては2019年4月17日に配信開始され、ビルボードジャパンソングスチャートにおいては同年4月24日公開(4月29日付)で26位に初登場。同週におけるストリーミング指標は54位であり、結果的に鬼リピソング15位以内には入れませんでした。

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また2019年度以降のストリーミング指標1位および10位の曲の推移をみると、2019年度初週の1位における再生回数は、最新8月18日公開(8月23日付)の10位における数値の半分にも満たない状況。サブスクの普及に伴う右肩上がりの市場であるため、近年の曲が鬼リピソングランキングに乗りやすいことが解ります。そして上記グラフにおいて1位の数値が突出しているのは、ランクイン間もない曲の(初動後の)強さを示しています。

その上で、鬼リピランキングトップ3を独占したBTSについてみてみます。

 

(ちなみに『ミュージックステーション』では鬼リピソングランキングの再生回数をストリーミングのみとは表現していなかったと記憶します。下記表からストリーミング再生回数のみを用いて算出すると番組内で表示された1日あたりの再生回数と異なるため、動画再生分等をプラスしているかもしれません。なお、こちらの捉え方に誤りがあるかもしれませんので、問い合わせフォームやTwitterにてご指摘いただければ幸いです。)

 

 

BTSは初の英語詞曲「Dynamite」で世界を席巻し、日本では最新ビルボードジャパンソングスチャートまで52週続けてトップ10内に在籍。ストリーミング指標においては常時7位以上となっており、同指標が牽引していることが解ります。そしてその後の英語詞曲「Butter」、さらに「Permission To Dance」の相次ぐヒットにより、鬼リピソングランキングでトップ3独占に至れたものと考えます。

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上記CHART insightおよび動向を示す表はいずれも最新8月18日公開(8月23日付)ビルボードジャパンソングスチャートまでの分を掲載。『ミュージックステーション』の鬼リピランキングにおける集計期間は7月25日までであり、上記表の7月28日公開(8月2日付)までが該当します。なおBTSのリリース日は海外に合わせて金曜公開のため、デジタル加算初週においては2日半での数値となります。「Butter」、「Dynamite」は下記に。

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ストリーミングにおいては「Butter」が12週に渡って週間1千万回超えを果たす一方、「Permission To Dance」は4週にとどまります。週間で最高となる再生回数記録も「Butter」が保有していますが、「Permission To Dance」が鬼リピランキングで首位を記録したのはリリース日が最も近いことに他なりません。とはいえ、BTSの強さが如何に際立っているかは、上記表から十分に理解できるはずです。

 

サブスクサービスの中で再生回数が可視化されているSpotifyにおけるBTSの動向をみてみましょう。「Butter」がリリースされた5月21日の1週間前から、8月1日までの推移を追いかけています。

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掲載した曲は期間内に200位以内に常時ランクインした作品(「Butter」「Permission To Dance」を除く)。この他200位以内には、常時ではないものの7曲が入っています。また「Dynamite」「Butter」「Permission To Dance」および「Film out」といった10万再生超えの曲を除いたグラフも用意しています。

これをみるとSpotifyにおけるBTSのピークは、グラフにおける期間において三度みられています。うちふたつは「Butter」および「Permission To Dance」のリリース直後であり、もうひとつは6月20日前後。6月16日に日本向けベストアルバム『BTS, THE BEST』がリリースされていること、また日曜にかけてピークが上昇するSpotifyの特徴が合致した結果と言えるでしょう。

BTSは3ヶ月連続でリリースを行い、海外でのチャートアクションも相俟って、接触のピークをより長くすることに成功しました*1。リリースに合わせたメディア露出も多く、それもまた功を奏したと言えるでしょう。BTSの公式YouTubeチャンネル(→こちら)には世界のメディア向けのパフォーマンス映像が網羅され、日本向けのものも掲載されています。

 

 

一方で、今月の動向を踏まればBTSのピークは過ぎつつあると捉えてよいでしょう。

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上記は最新8月20日付まで、およそ3ヶ月間における日本のSpotifyデイリーチャート上位曲の動向。東京オリンピック開催により接触指標主体に大きな影響が生じ、終了直後には大雨被害が再生回数の回復を妨げたといえる状況でした。今週も影響が残る状況にあって、回復している曲がある一方でBTSの3曲は再生回数が漸減傾向にあると言えます。

最新8月20日付は金曜であり、Spotifyでは通常他の平日よりダウンする傾向にあるのですが『ミュージックステーション』放送の影響で優里「ドライフラワー」は前日比0.8%のプラスに。ToshIさんがカバーしたAdo「踊」はAdoさん本人のコメント出演もあって同2.5%のプラスとなっています。一方でBTSは「Butter」が前日比4.0%、「Permission To Dance」が同2.7%、「Dynamite」が同1.2%のマイナスとなっているのです。

メディア露出は接触指標以上に所有指標、フィジカルよりデジタルを伸ばす効果があることから、8月25日公開(8月30日付)ビルボードジャパンソングスチャートでは「ドライフラワー」等の伸びが見込まれる一方で、BTSは13週連続での3曲同時トップ10入り、6週連続での2曲同時トップ3入り記録が止まる可能性があります。BTSがチャートアクションを好調に推移させるためには、メディア露出が必要となるかもしれません。

 

 

ビルボードジャパンソングスチャートは今の日本の社会的なヒット曲を示す鑑であり、チャートアクションを良好にすることは社会的な人気曲としての勢いを保つことにつながります(逆もまた真なり、といえます)。

ミュージックステーション』でBTSがトップ3を独占するランキングを紹介したことで、チャート分析者の間では”BTSが『ミュージックステーション』出演に至れる流れが生まれた”とする声が上がっています。ともすれば今回の企画がその流れを加速させるものになるかもしれません。そして今夏におけるBTSの勢いが如何に凄まじいものであったのか、今回取り上げたデータから十分証明できると言えるでしょう。

*1:尤も米ビルボードソングスチャートにおける動向はグローバルチャートや日本のそれとは異なります。詳細は米ソングスチャート連覇のBTS、一方で構成指標の偏りを踏まえ米ビルボードに議論の用意を希望する(7月30日付)等をご参照ください。