一昨日に米ビルボードが公開したBTSへのインタビュー記事が波紋を広げています。
現在までにビルボードジャパンはこの記事を訳して報じていないため、ファンを中心に訳され、米ビルボードの対応の酷さを指摘しています。その部分については、韓国メディアがきちんと報じる一方(下記記事参照)、Yahoo!JAPANのニュース記事にて【BTS ビルボード】で検索してもインタビュー記事の問題を報じた日本のメディアは出てきません。
3つの指標で構成される米ビルボードソングスチャートにおいて、所有指標であるダウンロードが他の歌手より極めて強いBTSが今夏のチャートを「Butter」で9週、「Permission To Dance」で1週制しています。それについて、他の歌手のファンが述べた不正操作ではいう指摘を、米ビルボードが直接当人に尋ねています。
この質問に対し、『リーダーのRM(アールエム)は、1位の曲の選定に関し「ビルボードの社内で議論があるならば、ルールを変えてストリーミング数によりウエートを置くのもビルボード次第だ」と語った』とあり、彼らの誠実な対応に強く惹かれた次第。同時に、まずは米ビルボードが現状のチャートの問題点を自問自答することが大前提ではないかと強く考えます。
実際、「Butter」の接触指標群が他の歌手の曲より伴っていないことは事実です。ダウンロード指標に偏っていること、他の歌手の曲で顕著なリミックスのストリーミング指標への波及が非常に小さいこと、そのリミックス制作にて外部招聘がみられないためリミックスがチャート対策の域を出ない可能性を考慮し、自分は米ビルボードに対しソングスチャートのチャートポリシー変更を議論すべきと幾度となく提示しています。
米ビルボードはグローバルチャートを昨秋新設しました。同チャートはストリーミングとダウンロードの2指標で構成され、ダウンロードはAmazon等でのフィジカルセールスや、歌手のホームページでのデジタルダウンロードおよびフィジカルセールスを含みません。「Butter」が全チャートを初制覇した6月5日付以降の米とグローバルでのダウンロードの差をみれば、ホームページ経由のセールスがかなり多いことが判ります。
また今回の取材担当者の発言によれば、(これはBTSに限ったことではないでしょうが)歌手のホームページ経由での購入は1ユーザー1回に限られないと記載されています。iTunes Storeでの購入が1ユーザー1回のみであるのに対してホームページ経由では複数買いが生じてもおかしくなく、所有行動が強いコアなファンを多く抱える歌手が強さを発揮するのは自然なことです。
BTSにおいては今夏リリースの2曲にて"Alternate Single Cover"と称した別ジャケット版をホームページにてダウンロード販売しています*1。しかし別ジャケットでも音源が同じであればコアなファン以外に喜ばれるとはあまり考えにくく、この点もチャート対策と思われておかしくないでしょう。
これらを踏まえ、米ビルボードソングスチャートにおいてもグローバルチャート同様、ダウンロード指標から歌手のホームページにおける販売分を排することを議論する必要があると提案します。ただしホームページでの販売は他の歌手も行い、利益となっていることから実行の際は十分な説明が必要。iTunes Storeや小売チェーンのターゲット、Amazon等に十分な利益が行き渡らないこと等を丁寧に説明すべきです。
そして、たとえばBTSにおけるリミックスやAlternate Single Coverバージョンの投入がチャート対策の側面を強く有しているとして、しかしそれらについて購入したファンを責めることも、ましてや購入者を不正に加担したと捉えることもあってはなりません。現行のチャートポリシーの下での購入者の行動はフェアであることは間違いありません。
(なお、米ビルボードの記事では資金集めについての問題を指摘しています。仮にその問題が事実だったとして、純粋に購入して応援するファンをすべて不正加担者とみなすかのような発言は決して行ってはいけません。不正を認めないようなチャートポリシー変更こそ急ぐべきです。)
昨年、ある歌手本人からの不正疑惑に対し凛とした態度を示した米ビルボードの姿勢が、今回のBTSへの質問からはみられない気がします。
正直なところ、今回のBTSのインタビューで米ビルボードは信頼度を落とした可能性があります。このような問題が発生してから日が経っていない以上、尚の事です。
直近でも同種の問題が。最新8月24日付米ビルボードソングスチャートにおいて、速報時にはデュア・リパ「Levitating」にダベイビーの名がクレジットされながらHot 100発表時にはデュア・リパの単独表記になっていました。しかしトップ10速報記事(下記ブログエントリー内にリンクを掲載)でも、また米ビルボードや同社のチャート専用Twitterアカウントでも訂正の旨はアナウンスされておらず、その態度を強く疑問視します。
米ビルボードが行うべきはBTSに限らず様々な歌手が行うチャート対策と読み取れる施策に対して、その結果が社会的流行と乖離していないかを常に自問自答し、著しく乖離するならばその施策を無効化させるべくチャートポリシー変更に踏み切ること、それを誇りをもって断行することです。そして以前も不信を招く振る舞いを行った以上、自浄ができないならば内部の入れ替えも行わないといけないのではないかと考えます。
一方でBTSにおいては、コアなファンが多く(ゆえに所有指標が他の歌手より圧倒的に強く)、またファンの熱量が強いことで、他の歌手のファンのやっかみから来る多くの非難に晒されやすいと言えるでしょう。それはやっかむ側にこそ問題があるとして、一方で彼らの曲が接触指標群において他の歌手の曲ほど強くないのは事実ゆえ、接触指標群を充実させて誰しもが認める社会的ヒット曲を作り上げることが必要となるでしょう。
接触指標群の充実については、昨年BTSが初めて米ビルボードソングスチャートを制した「Dynamite」においても指摘したことです。グラミー賞獲得に至れなかったことを踏まえ、改善策を提示しています(上記ブログエントリー参照)。
さて昨日、BTSはメーガン・ザ・スタリオンを招いた「Butter」リミックスをリリースしました。
「Dynamite」そして「Butter」は複数のリミックスを用意しながら、客演歌手や著名なリミキサーを招聘しておらず、そのリミックスがチャート施策の域を出ないように感じ疑問視していました。ゆえに、「Butter」でようやくそれが晴れると安堵する自分がいます。ストリーミング指標が大きく伸びることも予想されます。
一方で、「Butter」がチャートのピークを(一旦)過ぎた後になってリミックスを投入したこと、直近のシングル「Permission To Dance」ではなく「Butter」にリミックスを施すことへの疑問もあったのですが、実はこのリミックスはもっと前に投入できたかもしれないのです。
A judge has ruled that Megan Thee Stallion should be allowed to release her remix of BTS' "Butter" https://t.co/D5F02AQFsD
— billboard (@billboard) 2021年8月25日
メーガン・ザ・スタリオンの所属レコード会社がBTS「Butter」のメーガン参加版リミックスを許可しておらず、裁判を経てリリースに至れたというのがざっくりとした経緯ですが、今年のグラミー賞で最優秀新人賞を受賞したメーガンに対するレコード会社の扱いが如何に不当であったか、そして今もそうであるかが記事を読めばよく解ります。メーガン・ザ・スタリオンが自由に活動できるようになることを願ってやみません。
ともすればリリースが早まっていたかもしれないメーガン・ザ・スタリオン参加版「Butter」リミックスは、昨日遂に正式リリースされました。「Dynamite」が沢山のリミックスが用意されながらも終ぞ客演歌手を呼ばなかったことを踏まえれば、今回の「Butter」は非常に好意的に捉えられるものと考えます。
気掛かりなのは、このメーガン・ザ・スタリオンの訴訟問題について日本で報じられていないということ*2。米ビルボードが自問自答をしないままBTSに対し無礼な取材を行ったこともトラブルの一種と言えますが、そのようなトラブル全般は報じない方が吉という考えが日本のメディアにあるとすれば、その姿勢は問題です。
一方では追求ではなく責任を求めるかの如き"追及"が過ぎ、一方では何ら報じようとしないメディアの姿勢には強い引っ掛かりを覚えます。メディアの自浄もまた、求めていかなければならないと感じています。
米ビルボードソングスチャートにおいてはリミックスはオリジナルバージョンに合算されます(グローバルチャートも同様)。メーガン・ザ・スタリオン参加版のBTS「Butter」が初めて加算されるのは日本時間の9月8日水曜早朝に公開予定の9月11日付分*3。「Butter」のチャート動向に注目すると共に、米ビルボードや日本のメディアには自問自答する姿勢を強く求めます。