イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

テイラー・スウィフトの米チャート占拠における施策の徹底、そしてチャートの見方に対する願いを記す

日本時間の昨日未明に発表された11月5日付米ビルボードソングスチャートでテイラー・スウィフトがトップ10を独占したことについては、米ビルボードの記事を翻訳し昨日のブログエントリーで紹介しました。

この米ビルボード史上初の快挙は、スポーツ紙やNHKも報じるほどです。

テイラー・スウィフトは今回のトップ10独占についてこのようにコメントしています。

カオス状態(in shambles)と表現しているテイラーですが(記事によっては”圧倒された”と翻訳したところも)、しかしこのコメントや、この結果に至るまでの経緯を踏まえれば自分はこのような思いを抱かずにはいられません。

 

 

実際、テイラー・スウィフトが『Midnights』リリース時に施策を徹底していることについては、アルバムリリースからまもないタイミングで一度紹介しました。

音楽賞受賞スピーチでニューアルバムをアナウンス、TikTokで1曲ずつ曲名を発表しリリース前後のスケジュールも発表、アルバムリリース直後に7曲追加のデラックスエディションをデジタルリリース、一方フィジカルではデジタル追加分と異なる3曲(1曲の新曲および本編2曲の別バージョン)を追加し且つジャケットの異なる4バージョンを用意(収録内容は同じながらすべて揃えると世界観が解るというもの)、デジタル向けデラックスエディションにおける20曲のリリースビデオを用意…これらが功を奏した形です。

 

アルバムチャートでも記録ずくめのテイラー・スウィフト『Midnights』ですが、その記事にはこのような表記があります。

(本来はビルボードジャパンの記事を引用する形で載せたいのですが、ビルボードジャパンのホームページをなぜか添付することができないため、このような形での引用とさせていただくことをご了承ください。)

アルバム単位での販売手法は今や様々な歌手が行っており、テイラー・スウィフトも以前から行っているとはいえ、最新のトレンド(それこそ今や米ビルボードアルバムチャートでの初登場でのトップ10入りが常態化したK-Popに代表されるような)を的確に把握し実施しているのは、やはりチャートへのこだわりゆえと考えていいでしょう。

 

そしてこのこだわりを個人的に最も強く感じたのがこの施策でした。

「Bejeweled」は最新11月5日付米ビルボードソングスチャートで6位に入りダウンロードは16,100を、7位に入った「Question…?」はダウンロード21,400を獲得。実はこの2曲、米ビルボードソングスチャート予想担当者の間では中間発表の段階で9位もしくは10位となり、且つサム・スミス & キム・ペトラス「Unholy」と僅差になると予想されていました。

2曲のアコースティックバージョンは、今回のチャート集計期間の最終日にあたる10月27日にリリース。その数値を経て、上記ツイートで引用した予想担当者は最終的にこのような予想を提示しています。

同様に、フォロワーの多い予想担当者による、初期および最終予想も見てみます。

中間発表までに「Unholy」と僅差と言われた「Question…?」は最終的に「Unholy」を引き離し、10位と11位のポイント差は開いています。米ビルボードソングスチャートではポイントが表示されませんが、おそらくテイラー・スウィフト側はこれら予想(自身のチームによる予想を含む)を踏まえてアコースティックバージョンを追加投入したと考えるのは自然なことです。

ビルボードでは様々なバージョンが合算対象となり、チャート施策にも有効に働きます。個人的にはこのアコースティックバージョン追加投入こそがテイラー・スウィフトのチャートへのこだわりが最も大きく出た部分であり、チャート対策を狙って実行したと考えていいでしょう。

(なお米ビルボードでは、今回のソングスチャート発表の際に『テイラー・スウィフトによるトップ10独占について、ストリーミング指標が十分強力であり、仮にダウンロードやラジオ指標が加算されずとも総合ソングスチャートでトップ10入りを果たしたであろう』と記しています(『』内は昨日のブログエントリーより)。ゆえにアコースティックバージョンの追加投入がなくともトップ10独占は叶ったかもしれません。一方で、テイラーの高いチャートへの意識を知るコアファン等が、アコースティックバージョンのリリースを”トップ10独占がピンチ”と察知し再生等に至った可能性もあるでしょう。)

 

 

今回のチャート独占、そしてその目的のための行動をどう捉えるかについてですが、昨秋ドレイクがトップ10のうち9曲を占拠した翌日に、ブログエントリーにて私見を記した通りです。チャート独占に疑念を示す方がチャートの仕組みを学ぶこと、メディアがそれをきちんと伝えること、そしてチャートポリシー(集計方法)に問題があればチャート側が改善をすることが重要です。

(実際、テイラー・スウィフトの独占を踏まえて”米ビルボードソングスチャートは終わった”という言葉を発する方を見かけました。まずは謙虚に学ぶ姿勢を身に着けていただきたいと強く願います。)

テイラー・スウィフトはチャートポリシーを把握し、フェアに初週の最大化を狙っています。その際チャートポリシーに欠陥があるならば米ビルボードはその修繕に取り組むべきです。これはLINE MUSIC再生キャンペーンによるストリーミング指標再生回数の上昇を”チャートハック”と形容し、自問自答よりサービス側やコアファンへの非難を優先したビルボードジャパンやKAI-YOU側に対する下記リンク先の提案内容と一致します。

 

 

最後に。日本のレコード会社側の動きに気になるものがあるので記載します。

ひとつは10月28日金曜の午前1時から正午直前までのわずか11時間に開催されたサイン入りグッズのプレゼントキャンペーン。国内盤CD4種同時購入というのが条件ですが、既にCD購入済の方には厳しいとも言えるものです。

そしてもうひとつがSpotifyApple Musicの再生キャンペーン。このタイプの施策を自分は初めて目にしましたが、たとえばAIさんやINI等でも以前実施されていたとのことでした(情報くださった方に、この場を借りて感謝申し上げます)。INIについては下記リンク先をご参照ください。

(上記キャンペーンは既に終了しています。)

1回の再生で済み、またSpotifyApple Musicは1日に何回再生しても反映される再生回数が限られるためLINE MUSIC再生キャンペーンほどの影響力はありませんが、これらキャンペーンの採用歌手がいずれもユニバーサルミュージック関連であることから、ユニバーサルミュージック側のアイデアと呼んでいいでしょう。引っ掛かるのは30秒再生すれば良いという箇所であり、音楽の価値を軽くしているとも捉えられかねません。

再生キャンペーンはテイラー・スウィフト側が願ったものかは分かりかねますが、アルバム購入キャンペーンはともすればテイラー側が望んだことかもと感じています。米ビルボードの売上には反映されないとして、しかし日本時間の金曜13時が世界における新作発表のタイミングであることを考えれば、初週が終わるギリギリのタイミングまで駆け込みで世界全体での売上を伸ばしたいという思いがあったのかもしれません。

アルバム購入キャンペーンに対しては、普通のコアファンなら買う等のリアクションも見られます。熱心なファンほど金銭の投入をいとわないという、その心理をテイラー・スウィフト側はよく解っているのかもしれません。施策が本当によく練られていると感心する一方で私見を申し上げるならば、コアファンの方々が物理面(金銭面)で疲弊しないかが気になるところです。