最新10月18日付米ビルボードアルバムチャートでは、テイラー・スウィフト『The Life Of A Showgirl』が史上最多の週間ユニット数をマーク。そしてその勢いはソングチャートにおける収録曲の12位まで独占という記録達成へとつながっています。
【米ビルボード・アルバム・チャート】テイラー・スウィフト、『ザ・ライフ・オブ・ア・ショーガール』400万ユニット越えで記録ずくめの首位デビュー https://t.co/8Zn40Lpzm1
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年10月14日
【米ビルボード・ソング・チャート】テイラー・スウィフト、「ザ・フェイト・オブ・オフィーリア」初登場1位&TOP12独占 https://t.co/8ixN7IulbK
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年10月14日
ソングチャートにおいては、米ビルボードが発表したグローバルチャート共々、速報記事を昨日付エントリーにて紹介しています。
米ビルボードアルバムチャートにおけるテイラー・スウィフト『The Life Of A Showgirl』の記録達成については、ビルボードジャパンによる記事をご確認ください。そこではテイラー側による様々な施策を確認できますが、個人的には以下の部分が気になっています。長文ゆえ、記事をキャプチャしたものを貼付します。
・【米ビルボード・アルバム・チャート】テイラー・スウィフト、『ザ・ライフ・オブ・ア・ショーガール』400万ユニット越えで記録ずくめの首位デビュー | Daily News | Billboard JAPAN(10月14日付)より
テイラー・スウィフトのファンダムの中で38種すべて購入した方はいらっしゃるかもしれません。また38種の中には事前に案内されたものもあり、購入のための予算を十分用意していた方もいらっしゃるはずです。一方で発売日以降も多くの種類がリリースされたことが記事から解ります。
音楽チャートを追いかける者として、ファンダムに物理的(金銭面や時間等)、そして精神的な負担を過度に強いかねない施策への懸念を日頃から感じています(LINE MUSIC再生キャンペーンへの違和感もここにあります)。ファンダムに過度な負担を強いず、コアファンに昇華し得るライト層を獲得するよう務めることが重要と考えますが、テイラー・スウィフトの施策はそのライト層へのリーチにおいても疑問を抱いています。
No Single-Track Sales
(単曲ダウンロード販売せず)
Back in the 1989 days, big albums — including Adele’s 25, and 1989 itself — were frequently held back from streaming services for the first week or two of its release, ensuring that fans who wanted to hear the album immediately upon its debut would have to actually go and buy the full thing. That’s become much less common in the decade since, and indeed, not only was The Life of a Showgirl made immediately available on streaming, it set its own fair share of benchmarks there in its first week of availability on DSPs, and this week commands the top 12 spots on the Billboard Hot 100, thanks largely to that streaming activity.
(テイラー・スウィフト『1989』がリリースされた頃、アデル『25』や『1989』自体を含む大作アルバムはリリース後1~2週間はストリーミングサービスで配信されず、発売と同時に聴きたいファンは実際にアルバムを購入せざるを得ませんでした。しかしこの10年でその手法は激減しています。事実、『The Life of a Showgirl』は リリース直後からストリーミング配信され、DSP配信初週で数々の記録を樹立。今週は米ビルボードソングチャートで12位までを独占していますが、 その原動力はまさにこのストリーミング再生回数にあります。)
However, while the set’s 12 tracks were immediately available for either individual or collective streaming, if you wanted to buy the songs, that was initially an all-or-nothing proposition, as none of the songs were made available for single purchase on iTunes or other digital retailers. So if you fell for “The Fate of Ophelia” on the radio this week, or went down a Reddit rabbit hole on fan theories about the subject of “Actually Romantic,” or cracked up seeing the lyrics to “Wood” going viral on TikTok or Twitter, and you decided you wanted to purchase one of those songs for your home collection — you had to purchase the other 11 along with it.
(ただし、アルバム収録の12曲はすぐに個別またはまとめてストリーミング可能だった一方、楽曲を購入したい場合は当初全曲一括購入しか選択肢がなく、iTunesやその他ダウンロードサイトでは単曲販売は一切行われていませんでした。つまりリリースから一週間、ラジオで「The Fate of Ophelia」に心を奪われたり、「Actually Romantic」の主題に関するファンの理論をRedditで延々と読みふけったり、TikTokやXで拡散された「Wood」の歌詞を見て大笑いしたりした後、自宅コレクション用にこれらの楽曲を単曲にて購入しようと決めた場合——他の11曲も一緒に購入せざるを得なかったのです。)
Given that iTunes single sales isn’t as huge a part of the music industry as it was a decade ago, with the best-performing songs usually only selling a fraction of what they did at the peak of digital song sales, it’s hard to say how much of an impact that practice had on Swift’s final first-week numbers. But Swift’s music often proves the exception to accepted industry rules of size and scale — and when you’re looking to potentially sell nearly 3.5 million copies of your album in its first week, every single album sale counts.
(iTunesの単曲ダウンロードは10年前ほど音楽業界で大きな割合を占めておらず、最も売れた楽曲でさえデジタル楽曲販売のピーク時と比べるとごく一部に過ぎないため、この手法がテイラー・スウィフト『The Life Of A Showgirl』の初週売上総額にどれほどの影響を与えたかは判断が難しいといえます。しかしテイラーの音楽は、業界で定説とされる規模やスケールのルールから外れる例外となることが多く——アルバム発売初週に350万枚近くを売り上げる可能性を秘めている場合、一枚一枚のアルバム販売が重要になるのです。)
・Taylor Swift's Record 'Life of a Showgirl' Week: How She Pulled It Off - Billboard(10月13日付)より
※ 記事についてはDeepL翻訳を基に、意訳しています。
米ビルボードの記事タイトルは正確には『5 Reasons Why Taylor Swift’s ‘Life of a Showgirl’ Was Able to Pull Off Such a Record-Breaking First Week (テイラー・スウィフト『The Life Of A Showgirl』が初週で記録的な売上を達成できた5つの理由』)となっていますが、その最後の項目を上記に。単曲ダウンロードを認めておらず、最新ソングチャートにおいて12曲いずれもダウンロード指標はカウントされていません。
テイラー・スウィフトはアルバムチャートにおける週間最多ユニット数獲得を目指し様々な施策を投入したと考えるのは、先述した記事における38種リリースも踏まえれば自然なことでしょう。単曲ダウンロードもアルバムチャートの指標ではあるのですが、目標達成のためにアルバムとしての購入のみ推進したものと思われます。しかしこれでは、楽曲単位で気になったライト層の確保は難しいのではというのが私見です。
発売週の映画限定公開や異なるボーナストラックを収録したフィジカルリリース等により、テイラー・スウィフトのファンダムはたとえ自身の負担への違和感を抱いたとしても購入したものと思われます(ただユニークユーザー数は知りたいところです)。他方、気に入った曲があっても単曲ダウンロード不可という状況をライト層やグレーゾーンの方々はどうみるか…ファンダムとの間で乖離が発生するのではと危惧しています。
さて、テイラー・スウィフト『The Life Of A Showgirl』においては米ビルボードによるグローバルチャートにて下記記録も誕生しています。
テイラー・スウィフト「The Fate Of Ophelia」はGlobal 200において、週間ストリーミング再生回数が歴代5位を記録しています。
<Global 200 週間ストリーミング再生回数上位曲>
・2億8920万 BTS「Butter」(2021年6月5日付)
・2億2450万 ROSÉ & ブルーノ・マーズ「APT.」(2024年11月2日付)
・2億1710万 ジョングク feat. ラトー「Seven」(2023年7月29日付)
・2億1710万 マイリー・サイラス「Flowers」(2023年2月4日付)
・2億1690万 テイラー・スウィフト「The Fate Of Ophelia」(2025年10月18日付)
(中略)
Global 200における9曲同時トップ10入りは、『Midnights』が米ビルボードアルバムチャートで首位初登場を果たした2022年11月5日付、同じく『The Tortured Poets Department』がアルバムチャートを初登場で制した2024年5月4日付に続く三度目の最多タイ記録に。
最新10月18日付Global 200で首位初登場を果たしたテイラー・スウィフト「The Fate Of Ophelia」はBLACKPINK「Pink Venom」の2億1210万(2022年9月3日付)を上回り、週間ストリーミング再生回数記録で歴代5位に達しています。一方で、「Pink Venom」を含む上位6曲の、記録達成時におけるGlobal 200とGlobal Excl. U.S.のストリーミング数をみると「The Fate Of Ophelia」と他の曲との差が見て取れます。なおGlobal Excl. U.S.はGlobal 200から米の分を除くものであり、後者から前者を引くと米での再生回数となります。
<Global 200週間ストリーミング再生回数上位6曲における
同週のGlobal Excl. U.S.週間ストリーミング再生回数、および米の比率>
・BTS「Butter」(2021年6月5日付)
Global 200 2億8920万 / Global Excl. U.S. 2億5740万
→ 米再生分 3180万 (Global 200全体の11.0%)
・ROSÉ & ブルーノ・マーズ「APT.」(2024年11月2日付)
Global 200 2億2450万 / Global Excl. U.S. 2億
→ 米再生分 2450万 (Global 200全体の10.9%)
・ジョングク feat. ラトー「Seven」(2023年7月29日付)
Global 200 2億1710万 / Global Excl. U.S. 1億9580万
→ 米再生分 2130万 (Global 200全体の9.8%)
・マイリー・サイラス「Flowers」(2023年2月4日付)
Global 200 2億1710万 / Global Excl. U.S. 1億6240万
→ 米再生分 5470万 (Global 200全体の25.2%)
・テイラー・スウィフト「The Fate Of Ophelia」(2025年10月18日付)
Global 200 2億1690万 / Global Excl. U.S. 1億2530万
→ 米再生分 9160万 (Global 200全体の42.2%)
・BLACKPINK「Pink Venom」(2022年9月3日付)
Global 200 2億1210万 / Global Excl. U.S. 1億9810万
→ 米再生分 1400万 (Global 200全体の6.6%)
Global 200とGlobal Excl. U.S.では強いジャンルが異なります。前者は米の分を含むことからカントリーやヒップホップが強く、後者はK-POPが強いという状況です。日本の楽曲も後者が強いことが、トップ10入りした曲のGlobal 200における順位からみえてきます。ただしK-POPの中で、米ソングチャートでロングヒットする曲は米再生分の割合も高くなる傾向にあると捉えています。
上記6曲のうち4つがK-POPゆえグローバルに占める米再生分の割合は低いものの、たとえば2025年10月4日付にて同曲最高のストリーミング再生回数を記録したHUNTR/X(ハントリックス)(イジェ、オードリー・ヌナ & レイ・アミ)「Golden」はGlobal 200で1億3200万に対しGlobal Excl. U.S.で9980万となり米再生分は3220万、Global 200に占める米の割合は24.4%となっています。K-POPながら米ではラジオ人気も高く、マイリー・サイラス「Flowers」と遜色ない数値(割合)となっているのです。
これらを踏まえると、テイラー・スウィフト「The Fate Of Ophelia」における米の割合はかなり大きいといえるでしょう。さらにこの状況を、同じくGlobal 200でトップ10のうち9曲を送り込んだ前2作のリード曲(双方のチャートで首位を獲得した作品)と比較するといずれも4割台前半となっています。テイラーが米のみならず世界全体で人気を高め続けている一方、米での比率が高いことは注目する必要があるといえるでしょう。
<Global 200 テイラー・スウィフト直近3作品のリード曲における
同週のGlobal Excl. U.S.週間ストリーミング再生回数、および米の比率>
・「Anti-Hero」(『Midnights』より 2022年11月5日付)
Global 200 1億4190万 / Global Excl. U.S. 8330万
→ 米再生分 5860万 (Global 200全体の41.3%)
・「Fortnight (feat. ポスト・マローン)」(『The Tortured Poets Department』より 2024年5月4日付)
Global 200 1億7680万 / Global Excl. U.S. 1億170万
→ 米再生分 7510万 (Global 200全体の42.5%)
・「The Fate Of Ophelia」(『The Life Of A Showgirl』より 2025年10月18日付)
Global 200 2億1690万 / Global Excl. U.S. 1億2530万
→ 米再生分 9160万 (Global 200全体の42.2%)
今後の注目点は、テイラー・スウィフト『The Life Of A Showgirl』が、そしてその収録曲がロングヒットするかということです。今の時代はストリーミングが、そして米ではラジオにおいてもロングヒットすることで年間ソングチャートやオールタイムソングチャートで上位に進出することが可能です。
Taylor Swift’s 50 Biggest Billboard Hot 100 Hitshttps://t.co/eg5rfEzcgJ
— billboard (@billboard) 2025年10月10日
米ビルボードが前週発表した、テイラー・スウィフトの楽曲におけるオールタイムチャートでは先述した「Anti-Hero」が3位に入った一方、「Fortnight (feat. ポスト・マローン)」は17位となっています。2020年代の勢いが凄まじい中にあって、その2020年代作品は全体的に高いとは言い難い印象です。「The Fate Of Ophelia」等、『The Life Of A Showgirl』収録曲が真の社会的ヒットと成るか、注視することが重要です。
加えて今回のチャート占拠等から考えべきることについて、『Midnights』収録曲の米ソングチャートトップ10独占が判明した翌日、自身のポストを紹介する形で記しました。
#テイラー・スウィフト『#Midnights』の大ヒット、収録曲の米ビルボードソングスチャートトップ10独占は凄いことです。一方で、ともすればチャートに違和感を覚える方が出てくるかもしれません。
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ『imaoto on the Radio』) (@Kei_radio) 2022年10月31日
ならばチャートの特性を知る必要があります。#イマオト でも以前紹介しました。https://t.co/OFYeofgjNG
『①米ビルボードソングスチャートの中身を知ること、②チャートを読み解いた上で真のヒット曲を音楽に精通した方が伝えること、そして③米ビルボードが常にチャートを自問自答しブラッシュアップしていくことという3点の重要性。(中略) 理解、周知そして提言が大切』https://t.co/OFYeofgjNG
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ『imaoto on the Radio』) (@Kei_radio) 2022年10月31日
『米ビルボードが常にチャートを自問自答』する必要性にも言及していますが、一方でその米ビルボードは今回のチャート発信において不可解な動きを示しています。その点に対する自問自答がなければ客観性を自ら削ぎかねないと考え、本日付の別エントリーにて疑問を記します。
