イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートなどを紹介します。

(追記あり) 米ビルボードが年間チャート発表、2023年度のチャートトピック10項目とは

(※追記(12時05分):ビルボードジャパンによる年間チャート翻訳記事(のURLを掲載したポスト)を貼付しました。)

 

 

 

今年の音楽業界をチャートから振り返ります。今回は米ビルボード年間ソングチャートについてです。

 

今回は日本時間の11月22日水曜未明に発表された、米ビルボードによる2023年度各種年間チャートをチェックします。昨年の動向については下記ブログエントリーをご参照ください。

今年度の集計期間は2022年11月19日付~2023年10月21付の49週分となり、通常よりも3~4週短くなっています。この点について考えられる理由、および私見については下記エントリーをご参照ください。

 

2023年度の米ビルボードによる主要チャート記事、およびビルボードジャパンの翻訳記事はこちら。

・年間ソングチャート

 

・年間アルバムチャート

 

・年間トップアーティストチャート

ソングチャートは100位まで、チャートを構成する3指標(ウエイトの大きい順に、サブスクリプションサービスの再生回数や動画再生回数等に基づくストリーミング、ラジオ、およびフィジカルを含むダウンロード)はそれぞれ75位まで紹介されています。下記はその年間ソングチャートおよび各指標の順位を一覧化した表となります。

 

それでは、今年度のチャートトピック10項目を取り上げていきます。

 

 

<米ビルボード年間チャート発表、2023年度のチャートトピックス>

 

 

モーガン・ウォレン、ルーク・コムズ…若手カントリー歌手が台頭

年間ソングチャートを制したのはモーガン・ウォレン「Last Night」。モーガンはアルバム『One Thing At A Time』もアルバムチャートを制しており、アルバムは2021年度(『Dangerous: The Double Album』)に続く年間首位に。ソング/アルバムチャートの同時制覇は2011年度のアデル以来となります(「Rolling In The Deep」および『21』)。

モーガン・ウォレン「Last Night」は2023年度において最長となる通算16週の首位を獲得。歴代首位獲得週数においてはリル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」(2019)の19週に次ぐ記録であり、ルイス・フォンシ & ダディー・ヤンキー feat. ジャスティン・ビーバー「Despacito」(2017)およびマライア・キャリーボーイズIIメン「One Sweet Day」(1995-1996)と並び歴代2位となりました。

元来カントリーというジャンルは白人中高年層に親しまれることから所有指標が高い一方、接触指標のうちラジオは高くともストリーミングは高くないという傾向がありましたが、モーガンそれを覆した形です。「Last Night」はダウンロード6位、ラジオ9位の一方でストリーミング指標を制しています。

アルバム『One Thing At A Time』には36曲が収録されていますが、3月18日付のソングチャートではアルバムの初登場首位獲得に伴い、先行曲の「Last Night」がキャリア初の頂点に、そして収録36曲すべてが100位以内に到達しました(下記エントリー参照)。

ビルボードアルバムチャートはストリーミングのアルバム換算分(SEA)を取り入れて以来、長期的な人気を獲得、且つ曲数が多いアルバムにおいては年間チャートで上位に登場する傾向が高まります。モーガン・ウォレンは『One Thing At A Time』で安定した人気を獲得し、「Last Night」共々アルバム/ソングチャートを制したという次第です。

 

他にもカントリーの若手ではルーク・コムズやベイリー・ジマーマン、ザック・ブライアンなどが台頭し、ジャンルの人気を高めています。ソングチャートでトップ10入りしたルーク・コムズ「Fast Car」は、トレイシー・チャップマンが1988年に週間最高6位を記録した曲のカバーですが、オリジナルを上回る週間2位を獲得。こちらもダウンロード7位、ラジオ11位に対しストリーミングが7位と高い位置につけているのが特徴です。

 

 

② 強固な保守派の支持がカントリー曲の週間首位獲得に貢献

そのカントリー界からは特筆すべき動きが。今夏、ジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」(年間66位)、そしてオリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」(同78位)がチャートを制しています。ベテランのジェイソンはジョングク feat. ラトー「Seven」に初週敗れながらも翌週首位の座に就き、そしてオリヴァーはキャリア初エントリーにして初登場で首位を獲得しています。

共通しているのは所有指標であるダウンロードで週間10万超えを果たしたこと、そしてストリーミングも強い状況。つまりは最初の項目で述べたように旧来そして今の双方におけるカントリーのヒットの仕方をなぞっているのです。一方でダウンロードが突出しているのも特徴です(ダウンロード指標において「Try That In A Small Town」は年間2位、「Rich Men North Of Richmond」は同4位)。

(※「Try That In A Small Town」のミュージックビデオには過激な表現が含まれるため、公式オーディオを貼付しています。)

この2曲については、「Try That In A Small Town」はミュージックビデオであたかもBlack Lives Matterや多様性を否定するかのような表現を用い、また「Rich Men North Of Richmond」ではオリヴァー・アンソニー・ミュージックが自身の工場勤務経験を踏まえた労働者の怒りをテーマにしています。意図的な政治的発信については共に否定しているものの、これを巧く利用しているのが共和党、それも強固な保守派側でした。

たとえば「Rich Men North Of Richmond」は共和党の大統領予備選第一回討論会のオープニングに用いられており、共和党の象徴的な曲に仕立て上げられたことが急上昇の要因と捉えていますが、このようなチャート上昇は実は前大統領の参加作品で既に示されていました。

尤も、連邦議会議事堂襲撃事件の犯人(囚人)によるクワイアに前大統領が語りを加えた内容は週間単位でもソングチャート100位以内に登場しなかったものの、年間ではダウンロード指標41位に入っており、ともすれば先述した2曲の急伸の背景にはこの作品およびチャートアクションにおける”手応え”があったかもしれません。

半ば、強固な保守派がジェイソン・アルディーンやオリヴァー・アンソニー・ミュージックをいわば”見つけた”ことで、大ヒットにつながったというより”つなげることができた”というのが私見です。大統領選のタイミングにてこの動きがさらに加速し、強固な保守派の尽力に支えられた曲がチャートを制することがあるならば、それがチャートを介して共和党の主張を伝えることに成り得るかもしれません。

 

 

マイリー・サイラス、シザ…ソングチャートで女性が活躍

11月に発表された2024年開催のグラミー賞、その主要部門(新設および主要部門に格上げされた二部門、および最優秀新人賞を除く)では女性の作品がノミネーションのほとんどを占めています。マイリー・サイラスはこのことを”女性の勝利”と語っていますが、そのマイリーによる「Flowers」やシザ「Kill Bill」「Snooze」が年間ソングチャートでトップ10入りしており、チャート面でも女性の活躍が目立った形です。

特にマイリー・サイラス「Flowers」(年間2位)においては、ブルーノ・マーズのヒット曲「When I Was Your Man」における男女の立ち位置を逆転させた形で書かれた作品といえます。

またシザ「Kill Bill」(年間3位)は架空の殺人を告白するというテーマの作品で、ミュージックビデオは暴力的表現が用いてられています(ゆえに視聴の際は注意が必要です)。ミュージックビデオに登場する血の表現は、2023年度終盤に3週首位を獲得したドージャ・キャット「Paint The Town Red」(同52位)でも共通しており、ともすれば強い女性を描いた作品が今の時代に受け入れられているのかもしれません。

 

 

テイラー・スウィフトの圧倒的な強さ

この一年もテイラー・スウィフトの活躍を取り上げないわけにはいきません。今回の集計期間直前にリリースされたアルバム『Midnights』をはじめ、再録音盤『Speak Now (Taylor's Version)』も大ヒットを記録(『1989 (Taylor's Version)は2024年度以降が集計対象に)。年間アルバムチャートでは『Midnights』が2位、『Speak Now (Taylor's Version)』が同11位にランクインしています。

そして『Midnights』のリードトラック「Anti-Hero」もソングチャートでロングヒットを記録し、年間ソングチャートでは4位にランクインを果たしました。「Anti-Hero」については後述するランクイン3週目の施策も大きく反映された結果、ダウンロード指標で首位に至っていますが、一方でストリーミング3位、ラジオ3位と他指標でも強く、総合的にヒットしたことが解ります。

加えて、2019年発表のアルバム『Lover』に収録された「Cruel Summer」が今年のツアー開催時に披露されたことをきっかけに大ヒット。年間ソングチャートは18位ながら、2024年度初週以降現在までに4週首位を獲得しています。2019年度には年間4位に入った『Lover』も、今年度のアルバムチャートで9位に入っています。

 

 

⑤ 数年前リリースの曲がTikTokを機に上昇

TikTok発のヒットについては、たとえばフリートウッド・マック「Dreams」のような数十年前の作品が上昇したり、ティザー(ティーザー)的な形で一部をチラ見せ公開した曲がその評判を踏まえて後日フルバージョンをリリースし大ヒットにつなげる例もありますが、ここ最近は数年前~十数年前の作品がフックアップされることが増えている印象です。

2016年リリースのアルバム『Starboy』に収録されたザ・ウィークエンド「Die For You」は、総合チャートで上昇したタイミングにてアリアナ・グランデ参加版をリリースし週間ソングチャートを制覇、年間では7位に入りました。またクリス・ブラウン「Under The Influence」(『Indigo』(2019)収録)やミゲル「Sure Thing」(『All I Want Is You』(2010)収録)等もヒットし、前者は年間17位、後者は同24位に入っています。

これらの作品では、歌手側自らが曲のスピードを変えたバージョンを用意する等、TikTokのトレンドに合わせてリリースを行うこともチャートの強化につながっています。米ビルボードソングチャートや、米ビルボードによるグローバルチャートは様々なバージョンが合算。ストリーミング指標にはYouTube等の動画再生が含まれますが加算対象は公式動画のみのため、公式側がリミックスを用意することは極めて重要です。

 

ビルボードは9月に、TikTokの影響度を図る新たなチャート【TikTok Billboard Top 50】を新設。これにより、TikTok発のヒットがさらに可視化されるようになりました。

 

 

⑥ メキシコ音楽やアフロビート等、世界の作品が米で浸透

エンターテインメント(業界)とTikTokの良好な関係性はひとつ前の項目で挙げましたが、米では今年、ともすればTikTokが禁止になる可能性もありました。仮にそうなった場合に音楽業界やチャートではどのようなことが起こるかを予測した米ビルボードのコラムを、以前このブログにて紹介しています。

その5つの可能性とは、【新しいヒット曲となる過去曲の減少】【一発屋の減少】【ヒットの巨大化および持続化】【オルタナティブやインディのジャンル、およびメキシコの歌手によるヒットの減少】【ソングチャートのロングヒット化】を指します。

実際、春以降メキシコ音楽作品がグローバルで上昇しましたが、そのきっかけはTikTokでした。特にエスラボン・アーマード & ペソ・プルマ「Ella Baila Sola」(年間ソングチャート26位)やグルーポ・フロンテラ & バッド・バニー「Un x100to」(同49位)などは、週間にてトップ10入りを果たしています。たとえば後者はバッドの存在も大きかったかもしれませんが、今後はメキシコ音楽作品がチャートの常連になるかもしれません。

 

また、ナイジェリア出身のレマによる「Calm Down」が、セレーナ・ゴメスを迎えたリミックスバージョンの大ヒットに伴い米ソングチャートは勿論のこと(週間単位ではラジオ指標も制覇)、米ビルボードが新設したばかりのU.S.アフロビートソングチャートで1年以上首位を獲得。米ビルボード年間ソングチャートでは6位にランクインを果たしています。

ビルボードが2020年9月にグローバルチャートを発足したことやTikTokの興隆が、世界の作品が米で浸透しやすい土壌を生んだといえそうです。

 

 

⑦ FIFTY FIFTY「Cupid」がトップ50入り…K-POPが米で新たなヒットの形を確立

これまでのK-POP曲はダウンロード指標の高さに伴い、初登場週に上位進出しながらその後急落することが目立っていました。その中にあってBTS「Dynamite」や「Butter」については、所有指標が高い状態が続いたことが首位継続の主な要因となっていました。

今年度、K-POPのチャート動向に変化が見られたと言えるかもしれません。FIFTY FIFTY「Cupid」はTikTokの人気も相まってロングヒットし、年間ソングチャート44位にランクイン。英語版(”Twin Ver.”)のリリースも大きく功を奏していますが、これまでのK-POPではあまりみられない、柔らかで可愛らしいタイプの曲調も新鮮に映ったかもしれません。そしてK-POP曲がラジオ指標年間68位にランクインしたことは大きいといえます。

K-POP歌手は少しずつですが、グローバルチャートのみならず米でも接触指標群が安定することで週間ソングチャートで複数週100位以内にランクインする傾向が目立ち始めたという印象です。このことはNewJeansにおいてもみられており、年間ソングチャートにはランクインしていないもののリリースの毎に週間最高位、登場週数共に更新する傾向がみられます。

 

 

⑧ ダウンロードの他指標との乖離、そしてチャートポリシー変更

BTSのメンバーであるJIMINのソロ曲「Like Crazy」が初登場で週間ソングチャートを制しましたが、際立っていたのがダウンロードでした。同曲は年間ソングチャートのダウンロード指標で5位に入っていますが、総合ソングチャートでは年間100位以内に入っていません。

ビルボードはその翌週にソングチャートにおけるダウンロード指標のチャートポリシー(集計方法)を変更し、歌手のホームページにおけるデジタルダウンロード販売分をすべて対象外に。その結果、「Like Crazy」は45位へ急落してしまいました。

この変更が事前予告なく、またチャート発表時にも十分な紹介がなかったことでBTSのファンを中心とした米ビルボードへの不信感(”#BillboardCorrupt”等のハッシュタグを用いた発信)が高まりました。不信感は自然かもしれないとして、しかしストリーミングやラジオといった接触指標群以上に所有指標であるダウンロードの、総合ソングチャートとの乖離は今でも目立つことは、ソングチャートの表から解るはずです。

また、テイラー・スウィフトAnti-Hero」は登場3週目となる2023年度初週にダウンロード指標が突如急増。数多くのリミックスをリリースし、且つデジタルプラットフォームよりも前に歌手側のホームページで先行(もしくは独占)販売したことが上昇の要因となりました。この週はドレイクと21サヴェージによるコラボアルバム収録曲が大挙初登場しており、テイラー側が首位を維持するための施策とも捉えていいかもしれません。

Anti-Hero」における翌週のダウンロード指標急落や、ダウンロードの利益がiTunes Store等のデジタルプラットフォームに行き渡らないことも踏まえるに、4月のチャートポリシー変更は自然であり必要だったというのが私見。ダウンロードチャートは他の指標と異なり週間における発表範囲が50位から25位までに変更されたことも相まって(指標全体の売上低下に伴うものでしょう)、ポリシー変更は理にかなったものと考えます。

 

ただし米ビルボード側は事前に、もしくは急な変更であったならばその際に、チャートポリシー変更の旨をきちんと伝える事が重要です。その礼節ができていないことはチャート管理者としてあるまじき行為でしょう。また、コアファンの中には米ビルボードに対し強い言葉で非難する方もみられました。こういう行動や言動はコアファンもまた歌手の鑑であることを忘れた行為であり、看過できるものではありません。

大事なことは、接触指標群で強くなることでしょう。特に米ビルボード年間ソングチャートがグラミー賞の各部門(たとえば最優秀レコード賞(Record Of The Year))と少なからずリンクしていることを考えれば、作品をより広く伝えるべく歌手側とコアファンとがアイデアを出し合うことが重要と考えます。

 

 

Y2Kムーブメントを踏襲した作品がヒット

日本でもY2Kが今年流行しましたが、米ビルボードソングチャートでも2000年前後の音楽を採り入れた曲がヒットしています。

たとえばデヴィッド・ゲッタ & ビービー・レクサ「I'm Good (Blue)」(年間10位)は1998年リリースのエイフェル65「Blue (Da Ba Dee)」を引用。またピンクパンサレスのオリジナル版にアイス・スパイスが加わった「Boy's A Liar Pt.2」(同20位)では2000年代前半に流行した音楽ジャンル、ジャージークラブが使われています。

また最新チャートにてGlobal 200を制し米ソングチャートでも初のトップ10入りを果たしたテイト・マクレー「Greedy」は、ティンバランドサウンドを彷彿とさせます。このムーブメントはしばらく続くでしょう。

 

 

⑩ クリスマス関連曲の存在感がさらに増大

ここ数年、ハロウィーンの終了と共にクリスマス関連曲が上昇。とりわけ、マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」とブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」がその両翼を担っています。2023年度の年間ソングチャートでは「All I Want For Christmas Is You」が55位、「Rockin' Around The Christmas Tree」は60位に登場し、共に昨年度より順位が上昇しています(2022年度は前者が65位、後者が80位)。

昨年は4曲だったクリスマス関連曲の年間チャートランクインは今年度5曲に増えており(ワム!Last Christmas」が84位にランクイン)、ストリーミングを中心に聴かれていることが解ります。ストリーミング指標については全体の数値がここ最近下がっていることから、クリスマス関連曲の存在感は年を追う毎に高まっているものと捉えています。

 

 

以上10項目を紹介しました。他にも特筆すべき内容があれば追記を予定しています。これまでの週間ソングチャートについては、以下のリンク先から辿ることができます。

興味を持たれた方は是非、様々なチャートをチェックしてみてください。そして2024年度も素晴らしい作品に出会えることを、今から楽しみにしています。