一昨日付のブログエントリーでは、リニューアル初回となった12月26日公開分ビルボードジャパンアルバムチャートについて紹介しています。
リニューアル後の傾向については次週以降数回分の動きをみる必要はあるものの、ストリーミング指標の反映はアルバムチャートのロングヒット化につながり、より浸透している作品が年間単位で上位に至ることが想起可能です。他方、このチャートリニューアルの反応にて、"顔ぶれが偏っている"もしくは"アイドルやダンスボーカルグループが不利になる"というつぶやきを目にしました。
この反応は間違ってはいないものの、今回のチャートポリシー(集計方法)変更は日本の音楽業界の改善につながるものと捉えています。
<ビルボードジャパンアルバムチャート ストリーミング指標導入から考えること>
顔ぶれは偏りではなく、歌手側の成果ゆえである
リニューアル初回となる12月26日公開分ビルボードジャパンアルバムチャート、トップ10はこちら。Mrs. GREEN APPLE、Vaundyさんおよびback numberが2作品ずつトップ10内にランクインしていることから、"顔ぶれが偏っている"という印象が生まれることはやむなしかもしれません。
【今週の総合アルバム・チャート“Hot Albums”】
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2024年12月26日
1位 &TEAM
2位 Mrs. GREEN APPLE
3位 ロゼ
4位 Number_i
5位 Mrs. GREEN APPLE
6位 Vaundy
7位 Vaundy
8位 Stray Kids
9位 back number
10位 back numberhttps://t.co/QAlh0NPig3 pic.twitter.com/mSVEFTuX3G
一方でこの結果が、ヒット曲に成る可能性が高まった際の歌手側のフォローアップの成果、また相次ぐヒット曲の輩出によるアーティストパワーの継続にあるということは、たとえば2024年にさらなる躍進を果たしたMrs. GREEN APPLEから解るでしょう。
また、Mrs. GREEN APPLEやback numberが所属するユニバーサルミュージックがサブスクキャンペーンを季節毎に展開し(現在は"#ぼくらの冬曲キャンペーン"が開催中)、ユニバーサルミュージック所属歌手のストリーミング聴取が高まっていることも大きいと考えます(この点も上記リンクにて記載しています)。
そのような歌手側(レコード会社含む)の施策が、歌手のファンではないが曲が気になるというライト層を拡げたことも、今回の結果につながったといえるでしょう。現在のストリーミングは一定の歌手がいわば一人勝ちする構造もみられなくはありませんが、しかし歌手側の施策の結果を偏りと述べるのは違うはずです。SNSでのエンゲージメント確立の重要性を学び、実行するほうがより好いでしょう。
コアファンによるチャート占拠は難しい
もうひとつ、"アイドルやダンスボーカルグループが不利になる"という件については、まずはきちんと聴かれるようになることである程度の解決が可能でしょう。これはソングチャートでも述べていることですが、現在の音楽チャートにおいてフィジカルセールスはデジタルヒットの勢いを後押しするという位置付けで捉えることがまずは必要だと考えます。
ビルボードジャパンによるチャートポリシー変更、そしてリニューアル初回のチャートについて反応している方の多くが、男性アイドルやダンスボーカルグループのコアファンだと感じています。特にフィジカルセールスが強く、総合アルバムチャートでも強かったジャンルの歌手がリニューアル後のチャートで強くなくなるという懸念を抱くゆえ、でしょう。
チャートを知ろうという探究心は素晴らしいことです。一方でこの結果を踏まえて自身やファン同士に"聴きまくろう"と呼びかけるのならば、それは間違ってはいないものの完全に正しいとはいえないというのが厳しくも私見です。
アイドルやダンスボーカルグループにおいて、ソングチャートで仮に一時的だとしても存在感を高めることができているのは、フィジカルシングル表題曲やアルバムのリード曲主体に聴かれる形が採られているため。LINE MUSIC再生キャンペーン、そしてStationheadのリスニングパーティ開催等が大きく貢献しています。
一方でアルバムチャートは1曲のみならず収録曲のいずれも聴かれるようになることが重要に成ると考えます。コアファンによる(好ましい表現ではありませんが敢えて用いるならば)"ハック"という行為はソングチャートよりも起きにくいだろうというのが自分の見方です。またコアファン主体の聴取では新曲が登場すると重点がその新曲に置かれるようになり、過去曲となった作品の再生回数が下がることが考えられます。
コアファンが聴くことも重要ですが、より多くのライト層に聴いてもらうべく動くことが(難しいことは承知で、しかし)もっと重要でしょう。ライト層はコアファンの一歩手前にいる存在と考えれば、歌手の活動規模を大きくする、活動期間を伸ばすために何が必要かが解るのではないでしょうか。
アルバムのロングヒットに必要なことは
単曲のみならずアルバム全体が聴かれること、収録曲が複数社会的ヒットを果たすことがアルバムチャートのロングヒット化には欠かせないと考えます。リニューアル初回のトップ10に入ったアルバムからは、いくつものヒット曲の存在を確認できます。
一方で、新作においては初週からの聴取が重要です。(主に)フィジカルセールスだけで総合首位を獲得することが難しいことは、ストリーミング以外の指標も獲得できているMrs. GREEN APPLE『ANTENNA』の総合2位という状況から理解できるでしょう。初週から聴くことの重要性がコアファン、そして広く音楽ファンに伝われば、ストリーミング利用率の向上、また新曲が初週から聴かれるという習慣化につながると考えます。
サブスクを解禁していない歌手にとっては、フィジカルセールスを長期安定させなければ年間チャートでの上位進出が難しくなります。ともすればこのチャートポリシー変更を機にビルボードジャパンを重視しないとする歌手や組織が出てくるかもしれませんが、ストリーミングはソングチャートにも反映するのみならずグローバルチャートにも影響すると考えれば、特に海外を目指す歌手がビルボードを無視するのは悪手です。
ビルボードジャパンに望むこと
少なくともリニューアル初回のチャートからは、総合アルバムチャートに対するストリーミング指標の重要度がはっきりと見て取れます。ビルボードジャパンにはストリーミング指標(の基となるStreaming Albumsチャート)について記事化を、それができないならば100位まで公開することを願います。
また米ビルボードによるグローバルソングチャート(Global 200およびGlobal Excl. U.S.)では日本で展開する主要サブスクサービス(Apple Music、Spotify等)の再生分が反映されます。アルバムチャートのリニューアルを機にサブスク重要度が浸透すれば、最終的にグローバルチャートでの日本の作品の存在感は高まるでしょう。無論、Global 200を基にビルボードジャパンが作成したGlobal Japan Songs Excl. Japanでも同様です。
ただ、日本では楽曲以上にアルバムのリリースにおいては水曜が多く、金曜を集計開始とするグローバルチャートにおいては初動が有利になりにくい状況です。日本の作品が強くなるために、まずはビルボードジャパンがチャートポリシーをグローバルに沿わせ金曜を集計開始日に設定することを望みます。それにより音楽業界がこの曜日を主要リリース日に据えるように成ると考えるためであり、この提案は以前から記しています。
【SNSでのエンゲージメント確立の重要性を学び実行すること】【より多くのライト層に聴いてもらうべく動くこと】【リリース初週から聴かれる習慣が生まれること】【サブスク未解禁歌手が解禁すること】【ビルボードジャパンがさらに良くなること】。これらによりビルボードジャパンのアルバムチャートはより意義深くなり、グローバルへもリーチしやすくなるでしょう。日本の音楽業界は前向きに変わると感じています。
おわりに
ひとつ前の項目で挙げた昨秋の改善提案の中に、アルバムチャートへのストリーミング指標導入を含めていました。その点が実現したことを嬉しく思うとともに、リニューアル初回のチャートにおいて聴かれ続けているアルバム(Mrs. GREEN APPLE『ANTENNA』『Attitude』等)が上位進出したことに強く納得した次第です。一方で男性アイドルやダンスボーカルグループの作品でも上位再進出がみられ、注目すべきと考えます。
最新アルバムチャートではKing & Prince『Mr.5』が100位未満→24位、Hey! Say! JUMP『H+』が34→25位、BE:FIRST『2:BE』が100位未満→40位に上昇しています。この原動力がストリーミング指標にあることを踏まえれば、サブスク施策を徹底し、ライト層に広めることが重要だということが分かるはずです。
もうひとつ。1回再生で得られる分はわずかでも、聴かれ続ければ利益は確実に入ります。アルバム単位では収益はさらに増え、またデジタル解禁下ではいつ何時でもフックアップされる可能性が生まれます。1枚の利益は大きいながら購入場所が限定され且つ廃盤の概念が強く存在するフィジカルと比べてデジタルのメリットが理解できれば、利益にならない(だから解禁しない)という一部歌手の指摘は通用しなくなるはずです。