イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) 2024年夏の地上波長時間音楽特番から出演歌手傾向およびテレビ局の動向を読む (最終版)

(※追記(7月19日15時39分):『ミュージックステーション 夏祭り3時間半SP』のタイムテーブルを掲載した音楽ナタリー公式Xアカウント発のポストを追加しています。)

 

 

 

今夏地上波で放送された(今後予定される分を含む)長時間音楽特番の出演者傾向を分析します。昨年末、そして今夏の途中段階におけるエントリーは下記リンク先をご参照ください。

 

 

<2024年夏の地上波長時間音楽特番 出演歌手の傾向>

 

 

・カウント対象番組について

今回対象としたのは以下の5番組。途中段階からひとつ増えていますが、これは放送時間(尺)が『2024FNS歌謡祭 夏』(フジテレビ 7月3日放送)とほぼ同じである『ミュージックステーション 夏祭り3時間半SP』(テレビ朝日 7月19日放送)を追加したためです。

リンク先は番組ホームページおよび音楽ナタリー掲載分となり、後者は最終ラインナップ確定時における記事となります。また特番のタイムテーブルを掲載した音楽ナタリー公式Xアカウント発のポストも掲載します。

 

・6月26日放送 テレビ東京『テレ東ミュージックフェス2024夏 ~昭和の常識は…令和の非常識!ヤバい昭和の超名曲 vs 令和ヒット曲100連発~』

 

・7月3日放送 フジテレビ『2024FNS歌謡祭 夏』

 

・7月6日放送 日本テレビTHE MUSIC DAY 2024』

 

・7月13日放送 TBS『音楽の日2024』

 

・7月19日放送 テレビ朝日ミュージックステーション 夏祭り3時間半SP』

 

なお、昨年は6月17日に放送された読売テレビ『カミオト-上方音祭-』は、今年の放送がありません。Xのアカウント(@kamiotoytv)は6月23日をもって削除されていますが、その削除の直前には以下のアナウンスが行われていました。

(※ポストのキャプチャを掲載しました。問題があれば削除いたします。)

 

・今夏の地上波長時間音楽特番 出演歌手一覧

それでは出場歌手一覧表を掲載します。なお、司会を務めながらパフォーマンスにも参加した方については掲載しています。また『テレ東ミュージックフェス2024夏』から『ミュージックステーション 夏祭り3時間半SP』までの間に放送された『ミュージックステーション』および『CDTVライブ!ライブ!』通常回に登場した歌手で、同局の長時間音楽特番に登場していない方については備考欄にてその旨を記載しています。

上記を踏まえ、今夏各番組の特徴をまとめます。

 

・2024年夏 地上波長時間音楽特番 出演歌手の傾向

Da-iCE、全番組を唯一制覇

今回採り上げた5番組すべて、唯一制したのはDa-iCEでした。加えて『2024FNS歌謡祭 夏』ではNEWSの増田貴久さんや超特急とコラボ、『音楽の日2024』ではダンス企画やバンド企画に登場し、自身の曲のみならず様々な企画に出演しています。そして『ミュージックステーション 夏祭り3時間半SP』ではディズニー企画への登場もさることながら、「I wonder」をTHE FIRST TAKEバージョンで披露することが予定されています。

夏の地上波長時間音楽特番出演については自身のライブや音楽フェスとの兼ね合いも影響します(重なっても事前収録で出演する歌手もいらっしゃいます)。しかしながらDa-iCEは7月以降ライブツアーを実施し、また『音楽の日2024』の後は2日連続で音楽フェスに出演しています。その状況下で全番組に呼ばれたのは「I wonder」のヒットもさることながらエンタテインメント業界、特にメディアの潮目が変わったゆえと感じます。

 

② アイドル/ダンスボーカルグループは男女とも多様化

4番組出演はSnow ManDA PUMP、Number_iおよびゆずの4組、また3番組は新しい学校のリーダーズAKB48、&TEAM、奥田民生さん、Omoinotake、倉木麻衣さん、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、JO1、超ときめき♡宣伝部、超特急、DISH//、TOMORROW X TOGETHER、NewJeans、乃木坂46、BE:FIRST、日向坂46、FANTASTICS from EXILE TRIBE、MY FIRST STORY × HIDE、ME:I、Mrs. GREEN APPLEおよびLE SSERAFIMとなっており、その大半がアイドル/ダンスボーカルグループとなります。

アイドルやダンスボーカルグループの出演数が目立つのは以前からの傾向といえますが、顔ぶれは多様化してきたと感じています。男性においてはNumber_iの4番組出演が際立ちますが(この点は後述します)、たとえばスターダストプロモーション所属の超特急が3番組に登場したことは注目すべきと捉えています。

女性アイドルは秋元康さん関連、ダンスボーカルグループはK-POPやNiziUが強いという印象でしたが、前者では超ときめき♡宣伝部が3番組に登場し、またFRUITS ZIPPERも2番組に出演。また後者の関連では今年デビューのME:Iが3番組に登場しています。今年上半期、特に若年層の間で「最上級にかわいいの!」や「わたしの一番かわいいところ」、そしてME:I自身が人気を得たことが出演本数に影響したといえるでしょう。

一方で、AKB48は『音楽の日2024』にて他のAKBグループと合同のパフォーマンスとなっており、3番組出演ながら女性アイドルの勢力図は変化していると感じています。

 

③ STARTO ENTERTAINMENTに現在所属、およびかつて所属していた歌手の動向

STARTO ENTERTAINMENT所属、および同事務所(旧ジャニーズ事務所)にかつて所属していた歌手のうち、最多4番組に出演しているのはNumber_i。さらに、昼帯から開始する番組も含め、いずれもゴールデンタイム(19~22時)にてパフォーマンスが行われています。

ただ、Number_iが『音楽の日2024』にて19時台に生出演していたならば、20時台のダンス企画にも出演していいのではと感じた次第。経緯は分かりかねますが、番組側が"垣根は越えた!今度はバトルだ!"というキャッチコピーを用いるならば、STARTO ENTERTAINMENT所属のSnow ManTravis Japanと共演してよかったのではないでしょうか。

STARTO ENTERTAINMENT関連で気になったことがもうひとつ。『テレ東ミュージックフェス2024夏』では旧ジャニーズ事務所から離れた近藤真彦さんが出演し、旧事務所時代のヒット曲をメドレーにて披露しています。近藤さんによる複数のヒット曲披露はNHK総合『うたコン』6月4日放送回(詳細はこちら)でも行われていましたが、この2局は現在もSTARTO ENTERTAINMENT所属タレントを起用しない方針を採っています。

ジャニーズ事務所初代社長による性加害問題は解決されなければなりません。その解決の判断基準等の差がテレビ東京NHKの慎重な起用姿勢に表れているとして、近藤真彦さんの往年の作品、それも複数曲の披露はいわば"ジャニーズ色"がより濃くなってはいないだろうかと感じています。慎重な起用姿勢と矛盾しかねないという声も聞こえていますが、そう指摘された際にテレビ東京NHK側がどう応えるのかが気になります。

 

④ 起用基準となるチャートはビルボードジャパンよりもオリコン等を重視

上記はビルボードジャパン、オリコンおよびCDTVの上半期ソングチャート/ランキングからみえてくること(7月2日付)で紹介した、複合指標から成る3つのチャートにおける2024年度上半期ソングチャート/ランキングの比較表簡易版。ビルボードジャパンよりもオリコンCDTVオリジナルランキングはフィジカルセールスのウエイトが大きいのですが、長時間音楽特番の出場歌手傾向は後者のランキングに近い形といえます。

ビルボードジャパンはストリーミングのウエイトが高くロングヒット曲が上位に来やすいという構造も影響しているかもしれませんが、地上波長時間音楽特番はSNSでのバズやリアルタイム視聴率を意識し、コアファンの熱量が高いアイドルやダンスボーカルグループをチャートヒットを輩出した歌手以上に起用する傾向もあるといえるでしょう。言い換えれば、チャートヒットした歌手がもっと積極的に出るべきとも感じています。

(たとえばYOASOBIについて。『THE MUSIC DAY 2024』でビリー・アイリッシュのインタビュー企画に登場しましたが、パフォーマンスは行っていません。実際、昨年大ヒットした「アイドル」のテレビ生パフォーマンスは『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)まで行われなかったこともあり、歌手側がパフォーマンス時における選曲の主導権を握っていると思われますが、それを視聴者が納得するかは考える必要があるでしょう。)

その中にあって、今年度上半期チャートすべてでトップ10入りを果たした「幾億光年」を歌うOmoinotakeが、今夏の地上波長時間音楽特番3つに登場しています。またビルボードジャパン上半期トップアーティストチャートを制したMrs. GREEN APPLE、そして最新のビルボードジャパンソングチャートで「夢幻」が順位、ポイント共に最高を更新したMY FIRST STORY × HYDEが3番組に登場しているのは見逃せないポイントです。

 

⑤ 中堅やベテランの起用、その背景にあるもの

中堅やベテラン歌手における地上波長時間音楽特番への出演には、様々な背景があると捉えています。

音楽の日2024』でのMISIAさんや長渕剛さんの出演は定番化もしくはライフワーク的な意味合い、『2024FNS歌謡祭 夏』での稲葉浩志さんの出演はソロアルバムのプロモーションという側面もあるでしょう。また『THE MUSIC DAY 2024』にデビュー前の美麗-Bi-ray-が登場していましたが、これはプロデューサーであるYOSHIKIさんと日本テレビとの良好な関係性ゆえとも考えられます。

これら背景を踏まえれば、先述したMY FIRST STORY×HYDE「夢幻」の3番組での披露は同曲のプロモーションの意味合いが大きいと捉えていいでしょう。その「夢幻」は『2024FNS歌謡祭 夏』および『THE MUSIC DAY 2024』で20時台、また『音楽の日2024』では21時台といずれもゴールデンタイムにて披露されており、この曲がヒットしていることや話題性が高いと制作側から位置付けられていることもまた見えてきます。

 

⑥ 昼開始の音楽番組、夜帯での企画重視と新曲披露の少なさ

今回採り上げた5番組のうち昼帯に放送を開始した『THE MUSIC DAY 2024』(タイムテーブルはこちら)および『音楽の日2024』(タイムテーブルはこちら)において、ゴールデンタイムにおける今年リリース曲の披露は多くないといえます。前者はおよそ半数、そして後者は合唱、ダンスならびにバンド企画が用意されたことにより一桁にとどまっている状況です。

長時間音楽特番においては『NHK紅白歌合戦』も含め、出演歌手や披露曲において老若男女をより強く意識した選定になっていると考えます。先程はアイドルやダンスボーカルグループの起用についてリアルタイム視聴率獲得も目的ではと述べましたが、しかしながら『音楽の日2024』では番組前半3時間にて同ジャンル歌手の今年リリース曲が多数披露されているという状況です。

新しい曲の披露を番組前半(夕方までの時間帯)に据えることはその時間の注目度を高めるという目的もあるのかもしれませんが、番組制作側にとって新しい曲の重要度が高くないのではとも感じています。これはアイドルやダンスボーカルグループを除き今年ブレイクした歌手の起用度合いの少なさからも言えることです。

その意味において、『ミュージックステーション 夏祭り3時間半SP』にTOMOOさんが初出演を果たすのはこの長時間特番が通常放送の拡大版ゆえと捉えていいでしょう。尤も同局で放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(現『EIGHT-JAM』)でこの曲が採り上げられてからは日が経ってはいるのですが、『ミュージックステーション』サイドの意志や使命を感じる人選といえるのではないでしょうか。

 

 

・最後に (このエントリーを記し続ける理由)

Da-iCEが5番組すべてに登場したこともあり、『音楽の日2024』ダンス企画にて用いられた"垣根は越えた!"というキャッチコピーを実感する方は少なくないことでしょう。しかしこの点に完全に賛同はできかねるというのが、厳しくも私見です。

音楽の日2024』ダンス企画出演者による集合写真には、Da-iCEのボーカル2名およびSnow Manの3名が映っていません。Da-iCE花村想太さんおよび大野雄大さんは直後のバンド企画出演ゆえと思われますが、Snow Manの3名においては土曜21時台にメンバーの阿部亮平さんが他局のドラマに登場していたことが理由かもしれないものの、しかし撮影に参加することはできたのではないでしょうか。

(集合写真には映っていない方が存在することやその理由を示すほうが違和感を解消できるはずであり、『音楽の日2024』側はきちんと説明すべきだったと考えます。)

 

この写真からも想起したのが、圧力や忖度という言葉でした。旧ジャニーズ事務所時代に事務所上層部から圧力があったとして、メディアに気概があったならば垣根はほぼ存在しなかったでしょう。DA PUMPは「U.S.A.」、DISH//は「猫」、Da-iCEは「CITRUS」で自ら出演を勝ち取ってきたとはいえるものの、そのヒットから出演に至るまでは時間が経過しており、メディアはもっと前から彼らを起用できたはずだったと考えます。

"垣根は越えた!"とメディアが提示するその垣根とは、実はメディアの過度な忖度という内々の自己保身と呼べるものの言語化ではと感じています。またこのキャッチコピーが他人事に聞こえかねない点からは、メディアの自省が十分ではないとも痛感しています。集合写真におけるSnow Manの不在やNumber_iのダンス企画未出演等を踏まえ、垣根の基となる過度な配慮が未だ存在すると感じるのは決して大げさではないでしょう。そして歌手側にはメディアが配慮するほどの隔たりは存在しないものと考えます。

 

Da-iCEが5番組全制覇を果たしたのは垣根のひとつがようやくなくなってきたことのひとつの証明と考えますが、まだまだだと感じざるを得ません。ゆえに、真に状況が変わるまで状況を注視し続けていきます。不条理を可視化した上で批判と改善提案を行い、その不条理の解消を願うことが、このエントリーを記し続ける理由です。