プランテックは12月19日に、2024年度の年間ラジオエアプレイチャートを発表しました。プランテックは全国31のFMおよびAM局によるオンエアの回数チャートを毎週発表しており、ビルボードジャパンはこのデータを基に聴取可能人口等を加味したソングチャートのラジオ指標を算出しています。この年間チャートは、現時点ではプランテックのホームページ(→こちら)のみにて確認することができます。
プランテックの年間チャートについては、2023年度も分析しています。
なおプランテックのラジオエアプレイチャートでは、2024年度の集計期間が公表されていません。これは2023年度以前においても同様であり、プランテックには記載を求めます。
<プランテックによる2024年度ラジオエアプレイチャートについて>
総合トップ10の顔ぶれ
まずは総合のトップ10を紹介します。プランテックの記事では邦楽、洋楽それぞれの部門のトップ10も掲載され、K-POPは洋楽として括られています。
<プランテックによる2024年度年間ラジオエアプレイチャート 総合トップ10>
総合
1位 Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」 1,884ポイント
2位 Omoinotake「幾億光年」 1,428ポイント
3位 ロゼ & ブルーノ・マーズ「APT.」 1,391ポイント
4位 Mrs. GREEN APPLE「ライラック」 1,308ポイント
5位 米津玄師「さよーならまたいつか!」 1,239ポイント
6位 アリアナ・グランデ「Yes, And?」 1,211ポイント
7位 aiko「相思相愛」 1,165ポイント
8位 ビヨンセ「Texas Hold 'Em」 1,158ポイント
9位 Vaundy「タイムパラドックス」 1,140ポイント
10位 竹内まりや「歌を贈ろう」 1,125ポイント
ビルボードジャパンをはじめとする複合指標チャート/ランキングを制したCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が制しています。一方で2023年度のポイントと比較すると、10位ではほぼ差はないものの、1位(YOASOBI「アイドル」)と「Bling-Bang-Bang-Born」とでは200ポイント以上の差が生じ、また2023年度5位(あいみょん「愛の花」)における1,428ポイントは、2024年度2位と同数となります。
年間上位曲からみえてくること
総合トップ10の顔ぶれから感じるのは11位以下が拮抗している可能性もさることながら、音楽全体が流れにくくなっている可能性です。洋楽部門でみると2023年度10位の獲得ポイントよりも2024年度のそれが27ポイント低くなっていることから、やはり音楽全体が流れにくくなったといえるかもしれません(ただし2023年度にて、プランテックが日本人によるグループのXGを洋楽として扱っていたことは留意する必要があります)。
また、総合上位10曲の顔ぶれにも注目です。2023年度はtonun「Friday night」、imase「Nagisa」およびYUTORI-SEDAI「ぎゅっとして、」といった新鋭がトップ10入りしていましたが、今年はヒットチャートを賑わせた歌手、日本で人気の洋楽歌手およびラジオフレンドリーなベテランの作品のみでトップ10が構成されています。この点から、放送局毎の突出したカラーやラジオならではの新鋭発掘の機会が減ったといえそうです。
10月のラジオ局改編を前に上記エントリーを掲載していますが、洋楽の緩やかな減少(ただし総合トップ10入りした洋楽は2023年度より増えています)、また上位曲のポイント減少は、改編を機に音楽番組が減っている現状を大きく反映されているのではと感じます。
Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」、強さの理由
そもそも、上記CHART insightでは緑で示されるラジオ指標は、他指標(所有指標よりもともいえるかもしれません)に比べてロングヒットしにくいことが特徴です。その中にあってCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」は10月に二度300位圏外になったことを除き、常時加点されていました。この指標での最高位は6位と決して高くはないのですが、安定することの重要性をこの曲の動向から理解することができます。
男性アイドル/ダンスボーカルグループが年間単位では強くない件
他方、2024年度年間ラジオエアプレイチャートでは男性アイドルやダンスボーカルグループの曲が総合20位以内、邦楽10位以内に入っていません。
上記表は2024年度のビルボードジャパンソングチャート、ラジオ指標における週間上位20曲の推移。オレンジがK-POP以外の洋楽、青が旧ジャニーズ事務所所属歌手、黄緑が旧ジャニーズ事務所所属以外の男性アイドル/ダンスボーカルグループ、薄青がLDH所属の男性ダンスボーカルグループ、紫がK-POP男性歌手を指します。
2023年度同様、週間単位では男性アイドル/ダンスボーカルグループが最上位に進出することが少なくありませんが、年間単位ではトップ10入りしていません。またプランテックの記事にはリクエスト部門のトップ20も掲載されていますが、男性アイドル/ダンスボーカルグループのランクインがDa-iCE「I wonder」にとどまります。2023年度と2024年度とではこの「I wonder」以外、このジャンルで変化はみられません。
ビルボードジャパンによる年間ソングチャートは上記エントリーで分析していますが、プランテックの総合エアプレイチャートやリクエスト部門でのランクイン曲の多くがビルボードジャパンの年間チャートにも登場しています。一方、男性アイドルやダンスボーカルグループは特にフィジカルリリース週に強さを発揮するものの、歌手側の施策(ゲストやコーナー出演)、またリクエストの効果も短期にとどまったといえるでしょう。
男性アイドルやダンスボーカルグループでは、THE RAMPAG主体にLDH所属歌手(いわゆるEXILE TRIBE)が短期ではなく中期に渡り強さを発揮していたことが2024年度の特徴です。しかしTHE RAMPAGEによる「24 karat GOLD GENESIS」の年間未ランクインからは、歌手側の施策を超え曲がライト層に拡がりリクエストが自発的に増える、またヒットしていると実感したラジオ局側が自発的に流していくことの重要性を感じます。
実際、THE RAMPAGE from EXILE TRIBE「24karats GOLD GENESIS」はビルボードジャパンソングチャートのラジオ指標で9週連続20位以内に入ったものの、8月21日公開分で300位未満となって以降は一度も加点されていません。この点は不自然だというのが私見であり、この曲のラジオヒットが歌手側の施策に因るものだと断言していいでしょう。
ビルボードジャパンソングチャート、ラジオ指標の基となるプランテックのエアプレイチャートは、プランテックやミュージックマンで毎週記事化されています。チェックの際、特に男性アイドルやダンスボーカルグループに関してOA局が一部に偏っていないか(局地的ではないか)、ゲスト出演増加の影響ではないか、また帯番組のコーナー出演に伴う定期OAの影響がなかったか等を見極めることが重要です。
洋楽は復調傾向か
ラジオエアプレイの年間総合トップ10における洋楽は3曲となり、総合トップ10に占める洋楽(K-POP含む)は昨年より増えてます(2018年度以降3曲→2曲→5曲→4曲→2曲→1曲→3曲と推移)。
洋楽部門のラジオエアプレイトップ10でも2024年リリース曲の存在感が高まっていることが解りますが、その中で(ビルボードジャパンソングチャートでは最新12月18日公開分が9週目のランクインとなる)ロゼ & ブルーノ・マーズ「APT.」が総合でも3位につけているのは特筆すべき点です。ブルーノ・マーズ人気、ロゼが所属するBLACKPINKの知名度の高さ、そしてSNS等でのバズが、短期間での急速なOA上昇の要因と考えます。
加えて、ビヨンセ「Texas Hold 'Em」(総合8位 洋楽3位)のみならずポスト・マローン feat. モーガン・ウォレン「I Had Some Help」(洋楽9位 なおプランテックの記事では"モーガン・ウォーレン"と表記)も上位に進出しており、日本では好まれないと思われがちかもしれないカントリーミュージックがラジオでは抵抗なく流れていることもみえてきます。
2023年度の振り返り時に、洋楽部門トップ10の全体的なオンエア回数が前年度より減少したことを踏まえ、ラジオ業界の洋楽への向き合い方やリスナーの洋楽意識へ疑問を抱き、前者に対しては自問自答を求めました。2024年度においても洋楽オンエア回数は緩やかに減少しているといえるかもしれませんが、音楽番組が減っている状況下ではまだ、ラジオ業界に洋楽オンエアの意地が残っているのかもしれません。
おわりに…"レスミュージック、モアトーク(お笑い)"の傾向が高まる可能性
ラジオ局においてお笑い芸人の起用が高まっています。TOKYO FMが1月より、月~木曜の20時台にて芸人による『喋るズ』を立ち上げることを先週アナウンスしています。
『喋るズ』の前枠となる『Roomie Roomie!』については、12月16~19日において1回毎に4~6曲OAされていました。芸人枠に変わることによってトークの時間が増える一方で音楽の比重が弱まるのではという考えは失礼かもしれませんが、ラジオ業界全体が芸人起用志向になっている以上、いわば"レスミュージック、モアトーク(お笑い)"の傾向は高まると考えるのは自然なことでしょう。
無論、芸人の中で音楽を愛し、大事に扱う方はいらっしゃるものと想起しますが、放送局全体が(秋改編で22時台を芸人枠にしたJ-WAVEも含めて)お笑いを重視する姿勢ならば芸人が音楽重視を望んでも叶わなくなるかもしれません。加えて、ラジオ業界の大きな改編期ではない1月の番組差し替えもまた、ラジオ局全体の傾向を示すに十分でしょう。
ラジオは聴き手に選曲権がない代わりに、偶然触れるという機会を持ち合わせている媒体です。ビルボードジャパンソングチャートにおけるラジオ指標の割合は小さく、またロングヒットにも至りにくいものの、偶然触れた方が曲のライト層、そして歌手のコアファンに成る可能性を持ち合わせている特殊な媒体です。その可能性が減っていくのではないかという危機感を、改編アナウンスの度に抱いています。