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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードジャパン最新動向】再生キャンペーン採用曲を踏まえたチャートポリシー変更への私見と、5つの提案

最新のビルボードジャパンソングスチャートから注目点を紹介します。

5月2~8日を集計期間とする5月11日公開(5月16日付)ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)。ENHYPEN「Tamed-Dashed」が首位に再登場しました。

さて、ENHYPEN「Tamed-Dashed」については明日言及することにします。今回はビルボードジャパンが昨日行ったチャートポリシー(集計方法)変更について紹介します。

ビルボードジャパンは昨日のチャート発表タイミングにて、このようなツイートを行っています。

 

ビルボードジャパンは3週前、4月20日公開分(4月25日付)ソングスチャートにおいてチャートポリシーを変更しました。この変更内容については下記リンク先にて私見を述べ、変更を支持しました。

しかしながらその後も、LINE MUSIC再生キャンペーン(再生回数キャンペーン)を採用する歌手は多く、最新チャートのストリーミング指標速報段階ではめいちゃん「ラナ」がトップに立っていました。これを踏まえ、速報発表の翌日のブログにて早急なチャートポリシー変更を行うべきと指摘させていただきました。

ともすればめいちゃん「ラナ」のキャンペーンはチャートポリシー変更前に企画が動き出したかもしれませんが、チャートポリシー変更後は再生回数のハードルを高めたとしてもプレゼントを豪華にすれば、係数処理適用に負けず指標制覇に至る可能性があることが証明されたものと思われます。

(中略)

LINE MUSIC再生キャンペーンは問題と断言します。再生キャンペーン未採用曲であってもビルボードジャパンがLINE MUSICで聴かれたすべての曲に一律で係数処理を施しているため

(中略)

真面目に頑張っている曲が報われないという状況を生んだのはLINE MUSICの罪だと言っても過言ではないはずです。

LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲に限定した係数処理適用を希望し、またグローバルチャートがLINE MUSICをカウント対象から外している可能性を踏まえてLINE MUSIC除外も視野に入れるべきと提案しました。今回のチャートポリシー変更は、ざっくり言えば前者が叶ったことになります。

めいちゃん「ラナ」は最新チャートにおいてストリーミングが1179万を突破しましたが、CHART insight(→こちら)をみるとストリーミング指標では20位以内に入っていません。

ビルボードジャパンはLINE MUSIC再生回数全体に係数を施した上でStreaming Songsチャート(上記ビルボードジャパンのツイート内記事参照)をアップし、その後ストリーミング指標化するという流れを採っています。たしかにめいちゃん「ラナ」は、たとえば日本におけるSpotifyデイリーチャートで一度も200位以内に入っていない等他のサブスクサービスとの乖離が激しく、ゆえに自分はこの変更に支持を表明します。

 

 

その上で、ビルボードジャパンに対し、今回の措置について追加で提案をさせていただきます。

 

1つ目は、今回から適用する【個別係数についての単純化と明確化】。ビルボードジャパンは集計方法を明かせないものと思われますが、可能な限り公表し、且つできる限り単純化してほしいというのが願いです。集計期間中何日がキャンペーン対象日であったかを踏まえ、被りが1日であれば再生回数の9割で計算、2日であれば8割…等というような、わかりやすい形が最善と考えます。

純化と明確化を行うことで、個別係数を適用することで生じかねない不公平感、またチャート側の主観ではないかという非難に対し、納得のいく説明ができるでしょう。

最新5月11日公開(5月16日付)、ビルボードジャパンによるStreaming Songsチャートを上記に掲載しましたが(こちらでも確認できます)、これをみるとStreaming Songsチャートをストリーミング指標に落とし込んだ際、めいちゃん「ラナ」のみが順位を大きく落としたことが解ります。今回は「ラナ」のみの適用ですが、今後もLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲に個別係数を導入するかは疑問ゆえ、ルールの明確化は必須と考えます。

 

LINE MUSIC再生キャンペーンを終了しても、コアファンをメインにした再生回数の維持が目立つようになりました。そのため、LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲は、【キャンペーン後においても幾分の係数処理を施すこと】が必要と考えます。これが2つ目の提案です。個別係数導入の理由が『再生回数が市場全体の平均バランスから大きく乖離』(冒頭のビルボードジャパンによるツイートより)とありますが、キャンペーン後の曲にもそのような傾向がみられるためです。

 

LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲の対象期間中の個別係数処理(集計期間7日間に対する日数に基づく形で)、キャンペーン後の個別係数適用に加えて、再生回数が市場全体の平均バランスから大きく乖離した曲に限らずLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲が他サービスでヒットした、つまり【市場全体の平均バランスから大きく乖離していない場合でも一律に個別係数を適用すること】が必要です。これが3つ目の提案となります。

上記はLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲の極端な動きとビルボードジャパンの”自問自答”…私見を添えチャート側に提案する(4月2日付)で紹介した、ストリーミング指標(当時はStreaming Songsチャートと同一)の首位獲得曲の動向。青の表示は、再生回数に占めるSpotifyが1割を下回った曲を指します。

これをみればBTSの強さが際立ちますが、一方で彼らが昨年5月21日金曜にリリースした「Butter」はLINE MUSIC再生キャンペーンを採用し、1週間開催しています。

このキャンペーンに伴う再生回数はストリーミング指標初制覇週およびその翌週に加算。その後も「Butter」はヒットを続けたことでLINE MUSICと他サービスとの乖離はそこまで大きくないと言えますが、2週分のSpotifyの再生回数割合の高くなさを踏まえればLINE MUSIC再生キャンペーンの影響は大きいと考えます。ゆえに社会的ヒットや乖離の有無にかかわらず、一律でキャンペーン採用曲に個別係数をかけるべきでしょう。

 

4つ目は、公式チャートを標榜する、または目指すならば、【LINE MUSIC再生キャンペーンは問題であることを断言】する必要があるのではと考えます。ビルボードジャパンによるポッドキャスト最新回では今回のチャートポリシー変更が説明された一方、どのサービスのどの施策に基づく変更かは断言されませんでした。しかしLINE MUSIC再生キャンペーンに基づくものであることは、少し調べれば解ることです。

ビルボードジャパンは、ライト層へも十分支持された曲こそが真の社会的ヒットであり、それを示すチャートとなるべく設計、変化し続けているものと考えます。

ビルボードジャパンでチャートディレクターを務める礒崎誠二さんは、以前からポッドキャストにてLINE MUSIC再生キャンペーンによる再生回数増加を疑問視し、またビルボードジャパンでは総合チャート等の記事においてキャンペーン効果が生まれた曲について、施策であることを示しています。いずれにおいてもLINE MUSICとは明言していないものの、しかしキャンペーンが引っかかりになっていたことは事実でしょう。

再生キャンペーンが歌手側による意図もありながら、LINE MUSIC側もチャートと大きく乱れることが解っていながらそれを推し進めていると言えるかもしれません。それが日本の音楽チャート、もっといえば広く音楽業界における真の社会的ヒット曲を見えにくくしたことは問題ではないでしょうか。以前自分が"罪"と厳しい表現で言及したのはそれゆえであり、ビルボードジャパンも厳しい姿勢で提示してほしいと思うのです。

(尤もLINE MUSICの問題と明言しないのは、関係性を悪化させたくないからかもしれません。しかし評価をすることと、問題は問題と伝えて改善を求めることとは分けて行えるはずです。あたかも日本的なと形容できるような明言しない姿勢は、責任の所在を曖昧にする意味でも正しくないと考えます。)

 

最後に5つ目として、Streaming Songsチャートとストリーミング指標とで順位が異なるのは単純に解りにくく、混乱を招きやすいゆえ、【ふたつの順位を一本化】すべきだということを提案します。ストリーミング指標化後の順位をStreaming Songsチャートにも適用すべきでしょう。

LINE MUSIC再生キャンペーンという施策を行わずに再生回数増加を続けるOfficial髭男dism「ミックスナッツ」は、最新ソングスチャートにおけるストリーミング指標ではトップに立ちながらもStreaming Songsチャートではめいちゃん「ラナを」に敗れています。先述の記事で真っ先に言及されないのは失礼だと考えます。

またソングスチャートからアニメ関連曲を抜き出したアニメソングスチャート(Hot Animation)ではめいちゃん「ラナ」が9位となっていますが、そこでのストリーミングは個別係数適用処理後の順位となり、同チャートの記事でも9位と書かれています(記事はこちら)。下記はHot AnimationのCHART insightとなり、青で示されたストリーミングがめいちゃん「ラナ」において9位であることが解ります。

総合ソングスチャートもHot Animationも係数処理後の順位となっているゆえ問題はないようにみえますが、しかしStreaming Songsチャートとの乖離は混乱を招くのではないでしょうか。

 

 

以上5つの点の改善提案を示しました。音楽チャートはまだまだ解決すべき点が少なくなく、また今後も様々な施策が生まれるだろうゆえいたちごっこと言えるかもしれません。しかし今回、ビルボードジャパンがLINE MUSIC再生キャンペーンについてさらなる係数処理を適用したことは評価に値します。

ただし、その対応が偏っていると思われては絶対になりません。すべての方が納得する音楽チャートは存在しないとして(複合指標に基づくならば尚更)、しかしできる限りすべての方に認めてもらうために説明を重ねることは必要であり、それが公式チャートを標榜する者としての責任と考えます。そして努めて客観的にならないといけません。今回の5つの提案が絶対正しいとは限りませんが、議論のベースに成ることを願います。