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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

高フィジカルセールス記録曲が総合首位獲得も連覇ならず、急落も目立つことを踏まえたビルボードジャパンへの提案

一昨日発表の5月11日公開(5月16日付)ビルボードジャパンソングスチャートではENHYPEN「Tamed-Dashed」が首位を獲得しています。

フィジカルセールスが大きく貢献して首位に立ったENHYPEN「Tamed-Dashed」。実はこの曲、CHART insightをみると昨年秋にエントリーしていることが解ります。

昨年10月20日公開分(10月25日付)で29位に入り、その翌週も100位以内にエントリー。その後100位圏外、さらには300位も割り込みますが、前週300位以内に復帰すると今回制覇に至ったという形です。

今回ENHYPENがリリースしたフィジカルシングル盤全体のタイトルは『DIMENSION : 閃光』。その1曲目を飾る「Tamed-Dashed」は"Japanese Ver."となっています。つまりは言語違いの作品が昨年秋にエントリーし、今回は日本語版がさらに加わったという形。ビルボードジャパンでは言語のみが異なりアレンジが同じならば合算するというチャートポリシーを採用しています。

(上記ミュージックビデオはオリジナルバージョン。)

最近はJ-PopでもYOASOBIが英語版をリリースしていますが、K-Popアクトによる多言語でのリリースはかなり多い印象があり、ビルボードジャパンの合算に関するチャートポリシー(上記リンク先参照)が今回プラスに作用したと言えるかもしれません。またENHYPENは「Tamed-Dashed」の韓国語版、日本語版それぞれのリリースタイミングでLINE MUSIC再生キャンペーンを実施していることも注目すべき点です。

(上が韓国語版、下が日本語版のLINE MUSIC再生キャンペーンとなります。)

CHART insightをみると、青で示されるストリーミング指標が昨年秋の初登場時は26位、今週は32位に登場。3週前および今週にストリーミング指標のチャートポリシー変更が行われており(昨日、ビルボードジャパンへの提案を含めてブログに記載しています→こちら)、最新チャートでの反映度合いは小さくなってはいますが、それでもストリーミングが「Tamed-Dashed」首位固めの一助になったと言えるでしょう。

一方で気になるのは、フィジカルセールスとルックアップの乖離。上記は最新5月11日公開(5月16日付)ビルボードジャパンソングスチャートの総合トップ5における構成8指標の順位となりますが、ENHYPEN「Tamed-Dashed」は黄色で表示されるフィジカルセールスを制した一方、オレンジのルックアップは10位となっています。

ルックアップはパソコン等にCDを取り込んだ際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスされる数を示し、売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)やレンタル枚数の推測を可能とします。ENHYPENのシングルは集計期間6日目にレンタルも解禁されていますが、レンタルおよびユニークユーザー数の多くなさが垣間見えます。売上は前作から15万枚近く伸びた一方、この乖離は気になるところです。

 

 

さて、最新のビルボードジャパンソングスチャートまでは7週続けて、フィジカルセールス指標を制した作品が総合も首位に立っています。それも、売上は今回のENHYPENが最も少ないという状況です。

ではそれらの作品が翌週も強さを発揮しているかと言えば、そうとは言えません。

今年度における最新チャートまでのビルボードジャパンソングスチャート首位獲得曲一覧を上記に。黄色で表示したのがフィジカルセールス10万超え作品となりますが、そのすべての曲において連覇は成し遂げられていません。また10万枚以上売り上げながらルックアップで首位に至れていない作品も少なくない状況です。

今年度はこれまでチャートポリシー変更が3回行われており、初週にフィジカルセールス指標のウエイト減少(係数処理対象枚数の引き下げ)、4月20日公開ではLINE MUSIC再生キャンペーンを考慮した同サービス全体の係数処理適用、そして最新チャートでは再生キャンペーンに伴い極度に他サービスと乖離する再生回数を獲得した曲への個別の係数処理適用を、それぞれ実施しています。

ビルボードジャパンの最新ポッドキャストにて、チャートディレクターの礒崎誠二さんはいずれフィジカルセールスにもストリーミング指標のような個別係数を適用する可能性を示しています。

一方で自分は最新のチャートポリシー変更について、個別係数を適用することで生じかねない不公平感やチャート側の主観になりかねない懸念を踏まえ、5つの提案を昨日記載しました。個別に係数をかけるならばルールの徹底と開示は必要だと考えます。

ジャケット違いや収録曲違い、特典の用意等様々な施策が以前から行われ、コアファン向けアイテムの意味合いが濃くなっているフィジカルにおいては、そのセールス指標に一律でウエイトを設けることが必要でしょう。現在は係数処理適用枚数が5万枚以上と言われていますがそのハードルはそのままに、全体のウエイトを下げるもしくは一定枚数以上の売上に対する係数処理をより厳しくすることが必要だというのが私見です。

わかりやすいのは、今年度のビルボードジャパンソングスチャートで週間2位および3位に入ったフィジカルセールス10万枚以上獲得作品がいずれも、翌週に50位未満となりポイント前週比を計算できないという事態。フィジカル未リリースやリリースしてもフィジカルセールス指標が大きなウエイトを占めているわけではなく他指標との総合で強い曲に比べて、フィジカルセールスに偏った曲が如何に一過性であるかがわかります。

ポッドキャストで礒崎誠二さんが述べた、フィジカルセールスについてはすぐになくなるわけではないという発言には同意する一方で、たとえば今年度現状において総合チャートで最大ヒットとなっているAimer「残響散歌」ですら初週フィジカルセールス5万枚を割っている状況を踏まえれば、5万枚以上の売上について係数処理を適用し、さらにそのウエイトを引き下げることが必須と考えます。

 

週間チャートで上位に進出しながら一過性の曲は年間チャートで上位に来ることはできませんが、そのような曲が入れ代わりながら毎回首位となる状況では、ロングヒット曲の週間チャートでのヒットが可視化されにくくなります。最たる例が最新週まで3週連続2位に入ったOfficial髭男dism「ミックスナッツ」であり、次週はフィジカルセールスの狭間ながら、デジタル本日先行の米津玄師「M八七」に敗れるかもしれません。

チャートの見方がふくよかになれば、フィジカルセールスに強い曲が入れ代わり立ち代わり首位を獲得する中で強さを発揮する「ミックスナッツ」の存在に気付くかもしれません。チャートの見方やそもそもチャートの認知度自体を拡げることも必要ですが、やはり最新チャート1週分のみを見ても真の社会的ヒット曲が判るようなチャートを作り上げることこそ、チャート発信者の使命ではないでしょうか。

 

(そう書くとフィジカルセールスに強い曲や歌手の軽視と言われるかもしれませんが、その意思は全くありません。現在はフィジカルセールスよりもデジタル、特にストリーミングや動画再生といった接触指標で強い曲が真の社会的ヒットと一致し、それらの曲の認知度はフィジカルセールス偏重の曲よりも高いと言えます。フィジカルセールスの強さ自体は好いことであり、デジタルの拡充も相俟ったヒットならば最強と考えます。)

 

 

フィジカルセールス偏重の状況は続いていると言えます。ビルボードジャパンがチャートポリシーを変更するタイミングはおそらく第3四半期初週である6月8日公開分(6月13日付)と思われますので、それまでにフィジカルセールス指標のウエイトを引き下げることについて議論して欲しいと願っています。