イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲の極端な動きとビルボードジャパンの”自問自答”…私見を添えチャート側に提案する

リニューアルしたビルボードポッドキャストにおける”深化”、とても興味深いですね。

毎週木曜朝までに更新されるポッドキャスト、そのメインMCが前週から礒崎誠二さんに交代。礒崎さんはビルボードジャパンのチャートディレクターであり、現代に音楽チャートを復活させた人物と言っても過言ではありません。

礒崎さんの解説は音楽チャート好きな方々にこれまで以上に様々な気付きをもたらすだけではなく、様々なカルチャーにも精通していることもあり作品の批評も積極的に実施。そのこともあってか、最新回では珍しくアルバムチャートをソングスチャートに先駆けて紹介し、同日リリースとなった藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』(1位)および中村佳穂『NIA』(24位)をメインに採り上げています。

 

さて、3月30日公開分(4月4日付)のチャートを紹介した今回のビルボードポッドキャストでは、このブログでも一昨日紹介したトップ10内初登場の4曲について触れています。

この中で、礒崎さんは4位のINI「CALL 119」を紹介するにあたり、同曲で実施されストリーミング指標1千万回再生突破の原動力となったLINE MUSIC再生キャンペーン(再生回数キャンペーン)の是非を語っています。

INI「CALL 119」は最新のビルボードジャパンソングスチャート、ストリーミング指標でトップに立ちました。

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しかしこの結果については特筆すべきことが。一昨日のブログエントリーでも紹介した下記ツイートを再掲すると。

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(青の表示はビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標で首位を獲得した曲のうち、再生回数に占めるSpotifが1割を下回った曲を指します。この1割未満の状況がLINE MUSIC再生キャンペーンに基づくものであることを、このブログでは以前から紹介しています。)

最新3月30日公開分(4月4日付)ソングスチャートの集計期間中、日本のSpotifyデイリーチャート200位をマークした曲の再生回数は合計166991回。仮にINI「CALL 119」がSpotifyで期間中連日200位だった場合、ストリーミング再生回数に占めるSpotifyの割合は1.6%と著しく低いことが解ります。一昨日紹介したダウンロードの低さ等も踏まえれば、コアファンとライト層との乖離が大きいと考えるのは自然なことです。

気になるのはINIの公式Twitterアカウント側がストリーミング指標制覇を紹介した際、コアファン(MINIはファンネームを指します)に向けてお礼を述べていること。ライト層の接触もわずかながら確実に存在するとして、コアファンの聴取を念頭に置いていると理解して差し支えないでしょう。無論コアファンへの御礼も大切ですがライト層への心遣いは…そう感じる自分がいます。

 

当週5位に初登場したのは、原因は自分にある。が3月21日にリリースした最新シングル「結末は次のトラフィックライト」。3月12日にリリースされ、前週5位にまで上昇した「青、その他」との対比曲となる作品で、2曲ともイメージ映像のシェア・キャンペーンが展開中だ。「青、その他」は当週54位まで順位を落としたが、連続リリースの影響で次週以降、再びチャート・アクションが活性化する可能性もあるかもしれない。

【ビルボード】INI「CALL 119」自身初のストリーミング首位 ゲンジブ連続リリース第2弾楽曲が5位 | Daily News | Billboard JAPAN(3月30日付)より

コアファンの聴取がメインになっているのは、原因は自分にある。も同様。「結末は次のトラフィックライト」が前週の「青、その他」に続き5位に登場した一方、「青、その他」は大きく後退しています。ストリーミング指標で急落はほぼあり得ない動きですが、これは2曲のLINE MUSIC再生キャンペーンが重なったことが原因。「青、その他」の再生回数のハードルをクリアしたコアファンが聴取先を次曲に移したと言えます。

上記ブログエントリーでは「青、その他」がSpotifyデイリーチャートで一度も200位以内に登場しないことを紹介。また「結末は次のトラフィックライト」への聴取先移行に伴う「青、その他」急落の可能性を予想し、実際その通りになりました。「結末は次のトラフィックライト」がストリーミング以外未加点の状況も、LINE MUSIC再生キャンペーンに基づくコアファンの盛り上がりとライト層との大きな乖離を示すに十分です。

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INI「CALL 119」におけるストリーミング再生回数の割合に対するSpotifyの著しい低さ、原因は自分にある。の2曲連続ストリーミングトップ5入りと前曲の急落は、これまでにない傾向と捉えています。

ストリーミング指標首位獲得曲のサブスクサービス毎での再生回数の乖離やロングヒットの要であるストリーミング指標での急落は、LINE MUSIC再生キャンペーンに因るヒットが社会的ヒットとは言えないことを示しますが、そのような曲がたとえ一瞬でも総合チャートで上位進出する状況は、ビルボードジャパンソングスチャートの社会的ヒットの鑑の度合いや信頼度が小さくなりかねない事態を招くと危惧しています。

 

冒頭で紹介したポッドキャストでは常に自問自答しているとチャートディレクターの礒崎誠二さんは述べていますが、LINE MUSIC再生キャンペーン対象曲の扱いをしばらく変えないような印象も受けます。しかしLINE MUSIC再生キャンペーンと同列で紹介されたフィジカルの複数買いに対しては、フィジカルセールス指標において一定枚数以上の売上に対する係数処理を2017年度に導入し、適用対象枚数を段階的に引き下げています。

フィジカルセールス指標における複数買いへの対策は行う一方でLINE MUSIC再生キャンペーンへの対応を未実施のままでいることは、このふたつを同列に並べて形容したことと矛盾してはいないかと考える自分がいます。キャンペーン対象曲の再生回数を全くカウントしないというのはさすがに現実的ではないとして、しかし対象曲についてウエイトを引き下げることは議論して然るべきです。

 

気になるのは、こちらもLINE MUSIC再生キャンペーンを採用したこともあり2週連続でストリーミング指標を制したBE:FIRST「Bye-Good-Bye」について。米ビルボードが2020年秋に新設した、世界200以上の地域における主要デジタルプラットフォームのストリーミング(動画再生含む)およびダウンロードを集計対象とするグローバルチャートにおいて、Global 200に一度もランクインしていないのです。

グローバルチャートの集計期間初日は金曜であり、一方キャンペーンが月曜スタートだったことを踏まえれば未ランクインは仕方ないかもしれませんが、日本だけでもストリーミングが1千万を大きく上回り且つダウンロードも順調なことを踏まえればランクインしてもおかしくないと捉えていました。ゆえに、グローバルチャートがLINE MUSICをカウント対象から外している可能性も否定できないのではないかと思い至っています。

ともすれば米ビルボードがLINE MUSIC再生キャンペーンを疑問視し、このサブスクサービスをカウント対象から外した可能性はゼロではないでしょう。ただしこれはあくまで仮説のため、まずは米ビルボード側がグローバルチャートにおける集計対象となるデジタルプラットフォームを明示することを願います。この仮説が当たっているならば、ビルボードジャパンがLINE MUSICの取扱を厳格化することは問題ないはずです。

 

 

最後に。ビルボードポッドキャストを聴くと、チャートディレクターの礒崎誠二さんがチャートに対するSNSの声をチェックされていることが解ります。すなわち様々な意見を目にし、時に拾い上げてチャートポリシー(集計方法)変更に活かす可能性があるのです。LINE MUSIC再生キャンペーンの是非に限らず、チャートがより好くなるにはどうすべきかのアイデアを、丁寧な提案の形で言葉にして伝えることが必要だと考えます。