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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパンソングチャートへのLINE MUSIC再生キャンペーンの反映について、今一度提案を記す

昨日は男性アイドルやダンスボーカルグループにおける(ソングチャートとアルバムチャートを合算した)トップアーティストチャートの動向について紹介しました(下記リンク先参照)。その際、CHART insightの掲載のみで詳しくは触れなかったものの、超特急の動きはある種象徴的と言えます。今回はその超特急と同種の流れをたどる歌手の動向について紹介します。

CHART insightについてはこちらをご参照ください。

 

超特急の特徴は、ストリーミング指標が急上昇して総合チャートでも上昇する一方、本来は急落する性質を持ち合わせていないはずのこの指標が急落傾向をたどり、総合チャートにおいても大きく後退するというもの。彼らにおいてはこの現象が続いています。

これは主にライト層の支持によって成り立ち、ロングヒット曲における主要ポイント源となるストリーミング指標において、主にLINE MUSICにおける再生キャンペーンを採用することでコアファンの熱量を呼び込んでいることが要因です。一定回数以上再生し応募すれば抽選、もしくは全員にプレゼントが当たるという企画が、接触指標に所有指標的動きをもたらし、キャンペーン終了後の急落も招いています。

LINE MUSICは昨年秋に再生回数全体のカウント方法を変更したことで(上記エントリー参照)、キャンペーンによる急増は以前ほど多くはなくなりました。またビルボードジャパンはLINE MUSIC側の変更に先立ち、LINE MUSIC再生キャンペーンによってStreaming Songsチャートを制した場合、他のサブスクサービスとLINE MUSICの動向が乖離しているならばそれに応じた係数処理を、ストリーミング指標化の際行うようにしています。

とはいえ係数処理についてはあくまでStreaming Songsチャートを制した場合にのみ適用されるため、2位以下ならば再生回数がそのままカウントされるという形です(この点はこのエントリーの終わりにも掲載します)。ゆえにStreaming Songsチャートで強力な作品に首位を阻まれた場合、LINE MUSIC再生キャンペーンの影響がそのまま反映されるということになります。

 

現在はStreaming Songsチャート、そしてストリーミング指標においてLINE MUSIC再生キャンペーン未採用のYOASOBI「アイドル」が初登場から18連覇を達成していますが、最新8月16日公開分ではストリーミング指標4位にめいちゃん「エンジョイ」が初登場し総合でも6位に入っています。同曲はLINE MUSIC再生キャンペーンを適用しています。

(トップアーティストチャートにおけるCHART insightは、2021年1月20日公開分以降となります。)

めいちゃん「エンジョイ」のソングチャート、および歌手自身のトップアーティストチャートにおけるCHART insightを上記に。後者においては冒頭で紹介した超特急の動向に近く、そして最新チャートではストリーミング以外の指標でポイントが獲得されていません。コアファンは所有指標に流れる傾向があるものの、8月7日にデジタルリリースされた「エンジョイ」はダウンロード指標において300位以内に入っていません。

「エンジョイ」はLINE MUSIC再生キャンペーンを適用したこともあり、Streaming Songsチャートで4位に。指標化の際は(Streaming Songsチャートを制さなかったため、係数処理が適用されずそのまま)4位となり、総合でもトップ10入りを果たしたといえます。

めいちゃんのトップアーティストチャート100位以内進出時にはいずれもLINE MUSIC再生キャンペーンがかかわっています。キャンペーン採用作品とキャンペーン内容(が掲載されたリンク)については以下にまとめていますが、今回の「エンジョイ」においては対面の握手会もしくは1on1オンライントーク会が、5,250回再生すれば当選が確定するという内容に。これまでにない高ハードルながら"確定"というのは大きいと感じます。

<めいちゃん 各曲におけるCHART insight、

 およびLINE MUSIC再生キャンペーンの内容>

・「ズルい幻」

 (最高位:2022年2月16日公開分 総合20位、ストリーミング指標7位)

・「ラナ」

 (最高位:2022年5月25日公開分 総合19位、ストリーミング指標10位)

・「Bouquet」

 (最高位:2022年8月10日公開分 総合12位、ストリーミング指標5位)

・「スクワッド!」

 (最高位:2023年2月15日公開分 総合21位、ストリーミング指標7位)

歌手側にとっては、ポニーキャニオンへの移籍後おそらく初の作品であること、ゆずの北川悠仁さんによる提供曲であること等トピックも多く、話題を高める目的もあったと考えます。そしてこれまでのLINE MUSIC再生キャンペーンに因る実績が、(LINE MUSIC側での再生回数カウント方法が見直されても)キャンペーンを続けるという選択に至ったのでしょう。それが今回の総合トップ10入りにつながっています。

 

 

さて、LINE MUSIC再生キャンペーンを採用した作品は、そのほとんどがキャンペーン終了後にストリーミング指標、そして総合順位も急落します。これは他のサブスクサービスではヒットに至らず、また他の指標を獲得できていない、つまりは今の音楽チャートでの最重要指標においてライト層の支持(加点)がほぼ含まれないためです。ゆえにキャンペーン後の動向も見て、真の社会的ヒット曲に成るかを見極めないといけません。

(一方では、LINE MUSIC再生キャンペーンを採用したNewJeans「ETA」が、キャンペーン終了後も勢いをキープしたことで最新8月16日付ソングチャートにて初のトップ10入りを果たしています。この点については【ビルボードジャパン最新動向】「アイドル」が18連覇達成のソングチャート、トップ10内の最高位更新曲にも注目する(8月17日付)にて紹介しています。)

歌手側においてはLINE MUSIC再生キャンペーンの採用が、短期的にでも上位進出を果たすことで認知度を高めたい目的も有しているかもしれませんが、「エンジョイ」のトップ10入りについてはめいちゃん本人、そして公式のX(旧Twitter)アカウントでもつぶやかれていません。ともすれば(主に若年層に人気の)LINE MUSICを制することがキャンペーン採用の真の目的であり、複合指標のチャートは気にしていないのではとも感じます。

一方で複合指標のソングチャートを用意するビルボードジャパンは、「エンジョイ」がこれまで以上にコアファンの熱量を刺激するLINE MUSIC再生キャンペーンを用意したこと、そしてキャンペーン終了後の動向を踏まえ、急落するならば尚の事再生キャンペーン自体の見直しを協議する必要があるはずです。同曲のみならず採用曲全般について、Streaming Songsチャートを制さないとしても係数処理を施す必要があると考えます。

 

 

これまでの弊ブログエントリーにおける分析にて、ライト層の支持が反映されるストリーミング指標にコアファンの熱量を高く反映させたことでチャートを上昇した曲は、一方では真の社会的ヒットに至ることが非常に少ないことが解っており、ゆえに今回この提案を今一度記した次第です。

施策自体はどの歌手においても行われていることです。今回のめいちゃん「エンジョイ」におけるLINE MUSIC再生キャンペーンの内容は興味深く、またコアファンの高い熱量は見事ゆえ、歌手側においては他指標を強くする、またライト層を拡充させる施策も充実させたほうが好いと考えます。

そしてチャート管理者側には、積極的なチャートポリシー(集計方法)見直しの協議を願います。LINE MUSIC再生キャンペーンについてはLINE MUSIC自体の再生回数カウント方法は変更されたとはいえ、その影響は今も大きいと考えます。たとえばめいちゃん「エンジョイ」が、デイリー200位までの順位が可視化されるSpotifyにて未だランクインしていないこともあり(他の採用曲の多くも近い状況ゆえ)、尚の事検討は急務です。

 

最後に、めいちゃん「エンジョイ」同様にYOASOBI「アイドル」にStreaming Songsチャートで首位の座を阻まれたBE:FIRST「Smile Again」の初登場時における記載内容を再掲します。こちらもLINE MUSIC再生キャンペーンを採用していた作品であり、下記内容を踏まえればこのブログでビルボードジャパンに対し提案を続けてきたことが解るはずです。チャート管理者側の積極的な自問自答を希望します。

今回の動向を踏まえ、まずはビルボードジャパンに今一度提案します。

ひとつはLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲すべてに係数処理を適用するようチャートポリシー(集計方法)を変更することです。現状のチャートポリシーならば、キャンペーン採用曲がこのチャートでの首位を"敢えて"狙わないという不健全な心理も生まれかねません。その心理を摘むのみならず、ライト層の人気を可視化する接触指標にコアファンの熱量を過度に反映するのを防ぐことが係数処理の広い適用により可能となります。

ただしコアファンの熱量すべてを否定してはいけません。また施策の存在は自然であり、重要なのは過度な施策に対し毅然と対応することです。そしてチャートポリシー変更と共に、フィジカルセールスやフィジカルセールス的なストリーミングの動向がみられた場合は尚の事、それら作品の加算2週目以降における動向を注視することや接触指標の重要性等、チャート設計のスタンスやチャートの見方を伝えることを求めます。

 

そして、コアファンの熱量を強く用いたフィジカル購入施策やLINE MUSIC再生キャンペーン等がコアファンの物理的もしくは精神的(またはその両方)を著しく疲弊させる可能性が生じることを、運営側が強く認識する必要があるものと考えます。これはBE:FIRSTに限らず、多くの歌手側に対して願うことです。