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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートなどを紹介します。

【ビルボードコラム】米ビルボードに求める2つのチャートポリシー変更案

月曜は不定期で、日米グローバルのビルボードチャートに関するコラムを書いています。これまでの3回はビルボードジャパンソングスチャートにおける各指標について掘り下げました。

今回は米ビルボードについて取り上げます。

 

ソングスチャートについてはその内容をまとめています。

またアルバムチャートにおいてはデジタル/フィジカルセールスにストリーミングのアルバム換算分および単曲ダウンロードのアルバム換算分が加わり、ユニットという単位で計算されています。

 

定期的にチャートポリシー(集計方法)を改正する米ビルボードですが、現段階において、個人的には次の2点の変更を希望しています。

ビルボードチャートに対するチャートポリシー変更希望

 

 

① ソングス/アルバムチャートにおいて、歌手のホームページでのデジタルダウンロード販売分をダウンロード指標から除外する

歌手のホームページにおける販売分の集計方法については、昨年にも変更が行われています。バンドルやフィジカル施策については、厳しい物言いを敢えて用いるならば抜け道と言えたかもしれず、米ビルボードは常に目を光らせていることが解ります。

フィジカル施策については昨年春、その施策を行った曲と行わない曲とで順位に差が生じ、敗れた側が不正だと訴える事件がありました。しかしながら歌手のみならず米ビルボード側も、不正について否定しています。

しかし、ジャスティン・ビーバーが『1枚のクレジットカードで最大4曲しか買えない』と述べたことは、米ビルボードが複数購入を了承しているように捉えることも可能です(『』内はジャスティン・ビーバーとアリアナ・グランデ、全米1位にケチをつけるシックスナインに反論 | NME Japan(2020年5月19日付)より)。この問題もあってかフィジカル施策はなくなりましたが、しかし現在でも気になることが生まれています。

 

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今年度はBTS「Butter」が最長となる10週首位を獲得していますが、所有指標のダウンロードが圧倒的に強い一方でストリーミングやラジオが強くありません。特にストリーミングはこの数年の首位獲得曲の中で、極めて弱いと形容して差し支えないでしょう。2019年度以降の首位獲得曲の動向については下記にまとめています。

コアなファンが多く所有行動が多いこと、数々のリミックスが出ていることが「Butter」がダウンロード指標で大ヒットした理由とは言えますが、後にリリースされた「Permission To Dance」が2ヶ月を経たずに100位以内から姿を消したこと、リミックスがメーガン・ザ・スタリオン参加版登場まで外部からの招聘がなかったこと等を踏まえるに、「Butter」への人気集中、盛り上がりは異質と言えるかもしれません。

“Songs of the Summer”チャートは、ストリーミング/ラジオ・エアプレイ/セールス・データを総合したソング・チャート“Hot 100”に基づき、米国のメモリアル・デーからレイバー・デーにかけて毎週発表されている全20位のランキングで、今年は6月12日付から9月11日付のチャートが対象だ。

(中略)

「Butter」は、今年の“Songs of the Summer”チャートにおいて全週で首位を獲得した。これは2019年にリル・ナズ・Xが「オールド・タウン・ロード feat. ビリー・レイ・サイラス」で達成して以来の快挙だ。

Songs Of The Summerチャートを全週制覇したことの凄さを称える一方で、ともすればこのSongs Of The Summerチャートでの完全勝利をファンが強く意識した可能性もあり、ゆえに所有指標が高く推移したのではないかと捉えることもできそうです。

 

さて、米では昨年秋にグローバルチャートを新設し、世界中のヒット曲を可視化しています。このチャートについても以前解説しています。

グローバルチャートは主要デジタルプラットフォームのストリーミングおよびダウンロードから構成され、ダウンロードにはフィジカルおよび歌手のホームページによる売上を含みません。そして各指標において、Global 200からGlobal Excl. U.S.の数字を引くとアメリカでの主要デジタルプラットフォームにおける数値が判明します。

「Butter」がビルボード各種チャートに初登場してから3週分の数値については上記ブログエントリーに掲載しています。ダウンロードについて、米ビルボードソングスチャートとグローバルチャートから算出されたアメリカの数値とを比べると、「Butter」が如何に歌手のホームページによる売上が多く、米ビルボードソングスチャートで威力を発揮しているかが解ります。

BTS「Butter」が10週目の首位を獲得した9月11日付ではメーガン・ザ・スタリオン参加版が初加算となりましたが、総合チャートのクレジットはBTS単独となっています。本来は強力なリミックスが登場すると総合チャートにおいてそのリミックスに参加する歌手の名前がクレジットされる傾向にあるのですが、総合そしてダウンロードにおいてはメーガン参加版よりもBTS単独版が勝っています。

この9月11日付米ビルボードソングスチャートについても、BTS「Butter」のホームページ経由でのダウンロードが多いことが解ります(米ビルボードが143000の一方、グローバルチャートにおける米のダウンロード分は28500)。またふたつのグローバルチャート共に「Butter」の名義がメーガン・ザ・スタリオン参加版となっていることから、ホームページ経由の売上はメーガン参加版が極めて少ないことも想像できます。

 

所有指標は本来急速にダウンする傾向がある中でBTS「Butter」は米で首位を獲得した週すべてで6桁の売上を記録していること、リミックスがメーガン・ザ・スタリオン参加版登場まで外部を招聘していないこと、そのメーガンによるリミックスが登場してもBTS単独版が勝ること…いくらコアなファンが多くダウンロード指標が突出するとして、そのような状況を自然なことと考えるのは難しいかもしれません。10週首位は素晴らしい記録ですが、接触指標の強くない「Butter」が広く米で伝わっているかは疑問です。

 

ともすれば、歌手のホームページではダウンロードの各バージョンにおいて複数買いが可能であり、それが影響しているのかもしれません。複数買いは日本でもフィジカルにおいてみられますが、一方でダウンロードの複数買いはほぼ耳にしません。加えて日本ではそもそも歌手のホームページにてダウンロード販売されること自体、あまりみられないことです。

さらに、iTunes Store等デジタルプラットフォームで購入した場合は端末が破損した際に無料での再ダウンロードが可能ですが、歌手のホームページにおいては同種の措置が採られているかは疑問です。その便利さがみられないだろう点、そしてデジタルプラットフォームに利益が行き渡り音楽業界全体のプラスになるのではなく一歌手の利益ばかりになる状況も、好いとはいえないのではないでしょうか。

 

ダウンロードについてはデジタルプラットフォームに一任させることが本来は好いはずゆえ、歌手のホームページでのダウンロードをカウントから排除することを提案します。

 

 

ひとつ懸念するのは、この流れでの提案がともすればBTSをチャート上で不利にさせるためのものでありBTSへの決め打ちだとみなされることです。しかし、同じBTSにおいて「Butter」の後にリリースされた「Permission To Dance」に施策がほぼ採られていないことにはやはり違和感を覚えます。そしてグローバルチャートの登場は、米ビルボードソングスチャートにおける偏りを浮き彫りにしたと捉えています。

ビルボードは「Butter」の大ヒットが不正ではないかと、チャート自体に自問自答するのではなくBTS側に問い質していましたがその質問自体は間違いです。この件は米ビルボードによるBTSインタビューの問題を踏まえ、チャートやメディアのあり方、そしてBTSのチャートアクションを考える(8月28日付)で触れましたが、BTS側の回答が正しいと考えます。

ただし客観的なデータをみるに「Butter」の動きは異質であり、米社会に同曲がチャート成績ほど浸透していなければチャートポリシーを見直す必要があるというのが私見。米ビルボードには自問自答すること、そして毅然とした対応を求めます。

 

 

② アルバムチャートにおいて、ユニット数の計算方法を作品毎の収録曲数に対応する形に変更する

アルバムチャートにおいて、気になる記事がありました。

309,000ユニットのうち、272,000がアルバム・ストリーミング(SEA)、1,000がトラックごとのユニット(TEA)、37,000がアルバム・セールスと全体の9割強をストリーミングが占めた。週間ストリーミングは3億5,739万回を記録していて、こちらも5月29日付チャートでJ.コールの『The Off-Season』が記録した3億2,505万回を上回る、2021年最大の週間ストリーミングを更新している。

なお、『The Off-Season』が12曲なのに対し『Donda』は27曲と倍以上のトラック数という、ストリーミングの集計において有利な条件があるが、『Donda』は集計初日の金曜日から2日遅れの日曜日にリリースしたため、集計期間が5日間というハンデがある。

(※太字はブログ筆者が強調した箇所となります。)

ビルボードジャパンによる9月11日付米ビルボードアルバムチャートの解説記事ですが、どうやら元の記事(→こちら)には太字で強調した内容が記されておらず、米ビルボードの見解とは異なるものかもしれません。しかし、個人的にはこの翻訳記事の書き手と同種の考えを抱いています。つまり、曲数が多いほうが有利になるのが今のアルバムチャートの仕組みであり、これは変えねばなりません。

 

この問題については以前ブログエントリーにてまとめています。

ストリーミングのユニット換算(Streaming Equivalent Album以下SEA)の計算方法は有料オーディオ配信が1250再生、広告支援オーディオ配信は3750再生をそれぞれ1ユニットとし、単曲ダウンロードのユニット換算(Track Equivalent Album。以下TEA)は10曲を1ユニットとしています。この状況で、アルバムの特定曲だけ集中して聴くもしくは買う人が多いならば、収録曲数が多いほうが有利と考えるのは自然なことでしょう。

 

上記ブログエントリーで取り上げたモーガン・ウォレン『Dangerous : The Double Album』は、ブログ掲載から半年以上経過しても好調を推移。差別発言によりレコード会社とのディールを切られたモーガンですが、9月25日付アルバムチャートでは8位となっています。デラックスエディションも用意され曲数が増えたことで、SEAやTEAが俄然有利に働くと言えるのです。

(『Dangerous : The Double Album』についてはモーガンのファンや、謹慎はやりすぎだとする方が支えていると捉えることも可能ですが、しかしこれは米ビルボードアルバムチャートのカウントに問題がある、と言っていいでしょう。)

 

収録曲数に応じて作品毎にユニット数の単位(分母)を変えること、デラックスエディションが登場した際はその増えた曲数で分母を決めるよう変更することを米ビルボードには強く求めます。計算が難しいかもしれませんが、アルバムチャートを1日遅らせて日本時間の火曜早朝に、ソングスチャートと同じタイミングで発表することも検討していいでしょう。日本の場合は同時発表であり、1日延期は差し支えないはずです。

 

 

以上2点について取り上げました。

実はアルバムチャートのユニット計算(SEAおよびTEAの採り入れ)についてはビルボードジャパンも行う必要があるのではと思うところもあります。しかしながら現状の米ビルボードアルバムチャートにおいてまだ問題があると考えるに、米で改善されない限りは難しいのかもしれません。ただ、仮に日本のチャートがSEAやTEAを採り入れたならば、チャートがより面白くなるのではとも感じています。