最新7月31日付米ビルボードソングスチャートはBTS「Butter」が返り咲き、通算8週目となる首位の座に就きました。
さて、この「Butter」について、さらには新曲「Permission To Dance」については以前より、指標構成から思うことを記載してきました。
そして今週のチャートアクションにおいて、その思い、言い換えるならば違和感がより強くなりました。そこで、その違和感を強めた理由、そして米ビルボードはどうすべきかについて私見を記していきます。
今回の分析をより深く理解していただくべく、米ビルボードソングスチャートについて解説したブログエントリーを紹介します。ぜひご参照ください。
違和感の正体とは、①ダウンロード指標の偏り、②ストリーミング指標の高くなさ、③リミックス効果のストリーミング指標への影響度の高くなさとリミックスの内容…これらを指します。
2021年度において、オリヴィア・ロドリゴ「Drivers License」と並び最長となる8週目の首位を記録したBTS「Butter」ですが、その構成内容はダウンロードが常時10万超えを果たした一方、最新週においてストリーミングは1千万を割り込みました。この1千万割れは、少なくとも2019年度以降の同チャートではみられなかった数字です。
上記は今年度の米ビルボードソングスチャートにおける首位獲得曲の構成3指標の動向。オレンジは初登場で首位を獲得した曲、黄色は1位を獲得した指標を示します。参考として、2019年度および2020年度の動向を以下に。
なお米ビルボードはこの間、ストリーミング指標に含まれる動画再生においてUGC(ユーザー生成コンテンツ)を段階的にカウント対象から排除しており、ストリーミングが全体的に緩やかに減少しているのはそのためと思われます。
「Butter」における初登場から9週分(前週の7位を含む)の推移はこちら。比較として、「Butter」の1週前に初登場したオリヴィア・ロドリゴ「Good 4 U」の動向も紹介し、各週の数字に影響を与えた追加投入策等についても掲載しています。追加投入策等は、米ビルボードの記事および翻訳したブログエントリーに記しています。
また、今年度8週首位を獲得したオリヴィア・ロドリゴ「Drivers License」、そして昨年度通算3週首位を記録したBTS「Dynamite」の動向も合わせて確認しましょう。
ほぼ投入を行わなかった(米ビルボードのチャート記事にて追加投入策のアナウンスがなかった)オリヴィア・ロドリゴについては、ストリーミングおよびダウンロードが『Sour』リリース週における「Good 4 U」を除けばほぼ毎週減少を続け、一方でラジオが大きく伸びています。一他方BTSにおいてはダウンロードが高値安定する一方でストリーミングはほぼ毎週減少し、ラジオは上昇するもののその幅は大きくありません。
そして「Butter」においては、首位返り咲きを果たした最新週のストリーミングが1000万を割り込んでいます。このストリーミング指標、リミックスの投入によって少なからず上昇する傾向があるのですが、BTSの場合は異なるのです。
リミックス投入に伴い首位に至れた曲の、首位獲得週の構成3指標の上昇もしくは加工幅を上記に。リミックスがストリーミングに少なからず影響を及ぼすことが解ります。一方でBTSの場合は「Dynamite」が首位に返り咲いた週にリミックスの影響でストリーミングが上昇しているものの上昇幅は11%にとどまり、「Butter」では首位獲得2週目および3週目に合計3つのリミックスを投入しながら、再生回数はダウンしています。
(なお、ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」については縦型ミュージックビデオの投入であり、厳密にはリミックスとは異なりますが、一種の比較として表に入れています。)
このリミックスについては、客演追加や差替、著名リミキサーの投入、メロディの変更といった米で主に採られている3つの方式を、「Butter」や前作の「Dynamite」ではなぞっていません。これはBTSが招かれた「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」とも、またBTS自身が「Idol」にてニッキー・ミナージュを招いた方法とも異なります。そして最新曲「Permission To Dance」のR&Bリミックスでも、これらの方式は採られていません。
この「Permission To Dance」は、Alternate Single Coverというバージョンが公式サイトでリリースされ、最新チャートの集計期間最終日で加算されています。「Butter」でも採られたこちらは、いわゆるジャケット違いバージョンと言えます。
(上記はOfficial BTS Music Store | BTS US Storeより。)
おそらくは次週、リミックスを投入し且つAlternate Single Coverバージョンが1週間フル加算となる「Permission To Dance」が再度首位を狙えるかもしれません。しかしながらこのリミックスもストリーミングのダウンを抑えられず、所有指標ばかりが上昇もしくは安定する結果となるならば、冒頭で述べた違和感がますます大きくなる自分がいます。
このブログでは米におけるBTS人気について、チャートの客観的データを踏まえ疑問を示してきました。日本で接触指標群が強いこともあり、米での指標の偏りが尚の事目立つのです。
この所有指標の偏り、そしてそれがコアなファンによる購入の多さではないかということは、グローバルチャートから推測可能な米のデジタルプラットフォーム(iTunes Store等)におけるダウンロード数と、歌手のホームページを含む米ビルボードでのダウンロード数との差から推測が可能です。以前記したグローバルチャートの表を再掲しますので、その差を比べてみてください。
結果的に、BTSは「Butter」で通算8週、「Permission To Dance」で1週首位となり、9週続けてその座をキープしています。それ自体は素晴らしいことです。しかしながらこの首位の要因がコアなファンの支えが強い一方で、ライト層との乖離が大きいのではと思わざるを得ません。
真に社会的にヒットする曲ならば、7週以上首位を獲得した曲が翌週総合チャートで急落すること、ダウンロードが半減することは考えにくいと言えます。ライト層の支持はストリーミングやラジオ指標により反映され、これら接触指標は所有指標であるダウンロードよりも急激に落ち込むことが少ないのです。
これを踏まえ、米ビルボードにはダウンロード指標を見直すべきかについて、チャートポリシー変更を議論することを願います。
たとえば歌手のホームページにおけるダウンロード(フィジカルセールス含む)の係数処理や、一定数を超える売上へ係数処理を適用し、ダウンロード指標のウェイトを引き下げることが必要かもしれません。前者はストリーミング指標の有料会員による1回再生と無料会員のそれとでのウェイトの区別、後者はビルボードジャパンにおいてフィジカルセールス指標に適用されていることを踏まえれば、できないことではありません。
無論、チャートポリシー変更はBTSファンからの反感を買いかねません。ともすれば他の歌手のダウンロードの低さこそ問題という声も出るかもしれませんが、フィジカル施策が無効化した2020年秋以降はどんなに売れても週5万を超える売上は滅多になく、また米ビルボードの記事でダウンロード指標首位の数字を出していないことが多い状況は、この指標の他指標に比べての重要度の高くなさを示していると言えるでしょう。
(上記ブログエントリーはSocial 50チャートの停止についてまとめたものであり、ファンからの反発の声も紹介しています。)
ダウンロードの多さが他指標に波及しているとは言い難いこと、リミックスも同様の波及効果の薄さを示していること、そのリミックスの内容も含め、米ビルボードが一度議論のテーブルを用意することを期待します。その上で、現状でも問題がないとすればチャートポリシー変更をしないという米ビルボードの意思を支持しますが、まずは議論自体を設ける必要があると考えます。毅然とした対応を願うばかりです。