イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

「お願いバッハ!」「NINE LIVES」の動向を踏まえ、LINE MUSIC再生キャンペーンをあらためて問う

昨日付エントリー(前週トップ10初登場曲の最新動向と、BE:FIRST「空」のフィジカルセールス加算2週目における後退について)でもお伝えしましたが、最新10月1日公開分のビルボードジャパンソングチャート(集計期間:9月22~28日)において日向坂46「お願いバッハ!」は3→35位と推移しています。

(上記CHART insightは有料会員が確認可能なもので、20位未満の指標順位も明示されています(ビルボードジャパンでは有料会員が知り得る情報の掲載を許可しています)。また、以下に紹介するCHART insightも同様に、有料会員が確認可能なものとなります。)

前週はフィジカルセールス指標の初加算総合チャートでの上昇につながっていますが、そのフィジカルが527,439→5,786枚と推移したことが当週の下降要因といえるでしょう。一方で注目したいのは、ストリーミング指標が安定しているということです。

 

 

 

15thシングル『お願いバッハ!』リリース記念・LINE MUSICプレゼントキャンペーン実施決定! | ニュース | 日向坂46公式サイト(8月26日付)より

 

※ キャンペーン終了後にページが削除される可能性を踏まえ、キャプチャした内容を貼付しています。問題があれば削除いたします。

 

日向坂46「お願いバッハ!」におけるストリーミング指標の強さは、9月30日まで開催されていたLINE MUSIC再生キャンペーンの影響が大きいと捉えています。

実際、「お願いバッハ!」はLINE MUSICによる直近の週間チャート(集計期間は9月30日まで)にて単曲版が52位、フィジカルシングルのカップリング曲を網羅した”Special Edition”収録版が69位にランクインした一方、他のサブスクサービスにおいてはSpotifyにて週間200位以内、Amazon Musicでは同50位以内、Apple Musicでは同100位以内にランクインしていません(集計期間最終日は各サービスによって異なります)。

ゆえに、日向坂46「お願いバッハ!」は10月8日公開分、そしてその翌週においてストリーミング指標を落とし、総合チャートでも順位を下げることは確実とみられます。同曲はストリーミングと比例する傾向の強い動画再生指標が300位以内に入っていないこともあり、ストリーミングにおいては全体の再生回数に占めるコアファン(LINE MUSIC再生キャンペーン参加者)の割合が高いことが想起されます。

 

 

さて、当週のソングチャートではLINE MUSIC再生キャンペーンの影響が大きく反映された作品が初登場を果たしています。

超特急「NINE LIVES」は最新10月1日公開分のビルボードジャパンソングチャートで3位に初登場。当週は米津玄師「IRIS OUT」が首位、米津玄師, 宇多田ヒカル「JANE DOE」が2位となり『チェンソーマン』関連曲の強さが際立っていることは先日お伝えしたとおりですが(リンクは後述)、その中にあって超特急「NINE LIVES」は11,034ポイントを獲得。これは今年度週間3位に入った曲の中で最高ポイントとなります。

フィジカルセールスは前作「AwA AwA」の倍以上となる416,904枚を記録しフィジカルセールス指標を制しています。また近年は男性アイドルやダンスボーカルグループが強さを発揮するラジオ指標でも2位に。そしてストリーミング指標で9位に入っているのは特筆すべきといえるでしょう。実際、2024年11月13日公開分のソングチャートを制した「AwA AwA」はストリーミング指標27位となっています(総合では9,484ポイント獲得)。

(なお「AwA AwA」はフィジカルセールスが初週185,442枚を記録していますが、ビルボードジャパンではTop Singles Salesチャートで一定枚数以上の週間フィジカルセールスを記録した曲について、フィジカルセールス指標への移行時に減算処理を施しています(対象枚数は4万枚を超える分とみられています)。ゆえに自分は、フィジカルセールス共々ストリーミングが週間ポイントに比較的大きく影響するものと捉えています。)

 

その超特急「NINE LIVES」にて、LINE MUSIC再生キャンペーンが実施されています。

「NINE LIVES」9/22 先行配信決定!デジタルキャンペーンも開催! | 超特急(9月19日付)より

 

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「NINE LIVES」の再生回数クリア基準は1,000回および8,888回に設定されており、仮にキャンペーン参加者が多くないとしても高いハードルを用意することで再生回数全体は高まるといえるでしょう。その成果もあり、LINE MUSIC週間チャート(集計期間は9月30日火曜まで)では米津玄師「IRIS OUT」を抑え「NINE LIVES」が首位に立っています。

 

一方で、米津玄師「IRIS OUT」におけるヒット規模の大きさについてはこのブログにて紹介を続けています。複合指標からなる米ビルボードのグローバルチャート2種でもトップ5入りし、米の分を含むGlobal 200では日本の楽曲で週間最高位を更新しています。

その状況下で、米津玄師「IRIS OUT」より超特急「NINE LIVES」が社会的にヒットしていると捉える方がどのくらいいらっしゃるのか、気になった次第です。再生キャンペーン期間終了後に「NINE LIVES」のストリーミングが急落するならば同曲を真の社会的ヒット曲とみなすのは難しいというのが私見であり、そのことは下記エントリーでも記しています。

 

 

ビルボードによるグローバルチャートは世界の主要デジタルプラットフォームにおけるデータを使用(米ビルボードによるグローバルチャートとは何か、そしてJ-POPの現在と課題とは (2024年5月更新版)(2024年5月19日付)参照)。ドメスティックなサービスは基本的に用いていませんが、仮にドメスティックながら利用者が多く無視できないサービスだとして、ファンダムの熱量が反映されやすいものは採用されないと捉えています。

仮に米ビルボードがグローバルチャートにて、LINE MUSICを当初は採り入れようとしながらも再生キャンペーンを憂慮した結果カウント対象から外したならば、日本の楽曲全体のグローバルチャート上昇機会が失われたといえるでしょう。だとすればあまりにも勿体無いことであり、歌手側もさることながらサービス運営側は自身の利益(もっといえば保身)ではなく音楽業界全体の未来を考えて動くことを願います。

 

 

最後に、10月5日午前4時時点のLINE MUSICリアルタイムチャートを掲載します(同チャートはこちらから確認可能です)。

上記掲載分における上位15曲のうち、LINE MUSIC再生キャンペーンを採用していないのは3位、5位、11位、12位および15位となり、残る3分の2が企画採用曲となります。この時間帯は活動している方が多くなく、また一般的な起床時間を過ぎると企画未採用曲が伸びることもあり、寝ながら再生(リピート)している方が多いことが推測されます。

仮にこの仮定が正しい場合、再生した方は果たしてその曲を聴いたといえるのでしょうか。その疑問をあらためて抱いたゆえ、ビルボードジャパンがチャートポリシー(集計方法)について議論することを願う意味で以前のエントリーを再掲します。

② ストリーミング指標のカウント範囲拡大、および係数処理適用の導入

(中略)

次に、LINE MUSICに代表される再生キャンペーンを適用した曲全体への係数処理適用が必要と考えます。

現状ではストリーミング指標の基となるStreaming Songsチャートで再生キャンペーン適用曲が首位を獲得した場合にのみ、指標化の際に他のサブスクサービスとの乖離等を踏まえて係数処理が適用されます。しかしこの2年以上、施策を施した曲でStreaming Songsチャートを制する作品はありません。逆に言えば2位以下の曲は係数処理が適用されないため、総合チャートでの一時的な上位進出が可能となっています。

ストリーミングはロングヒットの要となる指標であり、歌手のファンではないが曲が気になるライト層の人気を示しますが、再生キャンペーンはそこにコアファンの熱量を過度に反映させるため所有指標のような急上昇と(企画終了直後の)急降下を招きます。この状況はCHART insightからヒットを読むエントリー掲載曲で未だ少なくなく、1週のチャートだけで真の社会的ヒット曲が可視化されにくい要因となっています。