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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

最新チャートでトップ10入りした男性ダンスボーカルグループの動向から、分岐点は未だ見えないと捉える理由

最新5月24日公開分のビルボードジャパンソングチャートではトップ10内に3曲が新たに登場しています。

・3位 (初登場) Travis Japan「Moving Pieces」

・4位 (前週22位) MAZZEL「Vivid」

・10位 (初登場) INI「FANFARE」

男性ダンスボーカルグループ(アイドル)については最近ラジオ指標で好成績を収めることが増えており、最新週においても2曲が同指標にてトップ5入りしています。一方でこの3曲は指標構成が大きく異なります。ビルボードジャパンは今回の指標構成を踏まえて最新ポッドキャストに『見えてきたボーイズグループの分岐点』というタイトルを付けていますが、むしろ分岐点はまだ見えないのではというのが自分の考えです。

 

今回初のトップ10入りを果たした3曲のCHART insightは以下の通り。

チャート構成比はポイントにおける指標毎の獲得ポイントの割合を指しますが、Travis Japan「Moving Pieces」およびINI「FANFARE」はストリーミング(青で表示)の割合が高く、一方でMAZZEL「Vivid」はフィジカルセールス(黄色)が最も高い一方、ストリーミングはそこまで大きくないことが解ります。

Travis Japan「Moving Pieces」は総合3位に初登場。38,006DLでダウンロード1位、4,431,520再生でストリーミング20位と、この2指標が牽引したものの、動画44位とラジオ50位とまだまだ伸びしろを残すかたちで初週スタートを切り、次週以降のチャートアクションが注目される。

前週22位から総合4位にジャンプアップしたMAZZEL「Vivid」は、CDシングル発売週となり初週売上43,340枚でシングル1位、ラジオ1位と訴求力の高さを裏付ける結果をみせたが、ダウンロード24位、動画16位と、こちらもまだまだ伸びしろを残すチャートアクションを見せている。そして、INI「FANFARE」が総合10位に初登場。早くもラジオ5位、ストリーミング13位、動画17位、ダウンロード34位と好スタートを切っており、こちらも次週以降に注目だ。

最新のソングチャート紹介記事において、3曲はいずれも今後のチャートアクションについて『まだまだ伸びしろを残す』と前向きに捉えられています。しかしながら、この点については違和感を覚えています。

 

たしかに、この中ではINI「FANFARE」が次週伸びることがほぼ確定しています。次週はフィジカルセールス指標が初加算され、売上枚数は早くも40万枚を突破しています。

デジタル先行にてリリースされた「FANFARE」(『DROP That』収録曲で、フィジカルセールス指標が加算される作品)は5月15日から同月末日までLINE MUSIC再生キャンペーンが実施されています。

またTravis Japanも「Moving Pieces」においてLINE MUSIC再生キャンペーンを実施。リリースは先週月曜でしたが、当該キャンペーンは水曜からの1週間実施していました。ゆえにこの2曲においてはストリーミング指標が伸びた形です。

他方MAZZEL「Vivid」についてはLINE MUSIC再生キャンペーンを実施していません。この点については以前のエントリーでも紹介しています。

 

 

LINE MUSICの再生回数カウント方法は昨年度下半期になって再生回数がそのまま加算されない形に改定されましたが、それでも再生キャンペーン採用曲の再生回数は大きく伸びる傾向にあります。最新5月24日公開分のStreaming SongsチャートではたとえばBUDDiiS「Magic」が14→4位に上昇していますが、記事に『リリースに伴うプロモーション施策が展開』とあり、LINE MUSIC再生キャンペーン効果の大きさが解ります。

ビルボードジャパンは昨年度、LINE MUSIC再生キャンペーンを念頭にチャートポリシー(集計方法)を変更しています。Streaming Songsチャートを指標化する際、Streaming Songsチャート首位曲がLINE MUSIC再生キャンペーンを採用しているならば他のサブスクサービスとの順位の乖離を踏まえて独自の係数処理を施すようになりました。

ただしこの係数処理はStreaming Songsチャート首位曲のみの措置であり、2位以下には反映されません。ゆえに昨年度のチャートポリシー変更を経ても、他のサブスクサービスと大きく乖離しながらLINE MUSIC再生キャンペーンを採用した曲がストリーミング指標で存在感を発揮する状況が続いています。

 

では、最新5月24日公開分においてLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲が他のサブスクサービスでもヒットしているか、比較してみます。

ビルボードジャパンによるStreaming Songsチャート、およびLINE MUSIC、Apple Music、Spotifyのチャート動向を一覧化した表を下記に掲載。ビルボードジャパンおよびApple Musicは月~日曜、LINE MUSICは水~火曜、そしてSpotifyは金~木曜が区切りとなります。すべてのサービスが期間を統一しているわけではありませんが、しかし傾向は似ていると考えます。

ビルボードジャパンソングチャート20位までおよびStreaming Songsチャート20位までの全曲を掲載しており、合計23曲分を紹介しましたが、男性ダンスボーカルグループの作品はその大半が、Streaming SongsチャートやLINE MUSICとApple MusicやSpotifyとで大きな乖離が発生していることが解ります。MAZZEL「Vivid」はLINE MUSICで100位以内ながら他サービス等では低くなっています。

 

ストリーミングはロングヒット曲の要となる接触指標で、コアファン以上にライト層の支持により安定します。一方でLINE MUSIC再生キャンペーンは接触指標に所有指標の概念をもたらすものであり、フィジカルセールスと同様に急落しやすい性質があります。これは今年度のストリーミング指標トップ20の推移からも見えてきます。2週以内のランクインにとどまる曲でキャンペーン採用作品は少なくありません。

 

 

これらふたつの表から、LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲が企画終了までに他のサブスクサービスで人気を得られていなければ、Streaming Songsチャート(およびストリーミング指標)で急落し、総合ソングチャートでも同様に大きくダウンする可能性が高いということが理解できるでしょう。

ゆえに、ソングチャートの記事においてビルボードジャパン側が記した『まだまだ伸びしろを残す』という表現は必ずしも正しくないのではと捉えています。どの曲も今後人気に火がつく可能性はゼロではありませんが、所有指標および所有指標的動向をなぞる接触指標によって人気となった曲は基本的に急落が免れません。

ビルボードジャパンが発信するポッドキャストの最新回ではタイトルに”ボーイズグループの分岐点”と記載され、ストリーミングは二極化してきていると形容されています。しかしながら今回の分析を踏まえれば、真の意味でストリーミングに強い男性ダンスボーカルグループを今回の3組から抽出することは難しいというのが、厳しくも自分の見方です。

ビルボードジャパンによるStreaming Songsチャートの記事からは、チャート管理者側がLINE MUSIC再生キャンペーンの存在を認識していることが推測されます。しかしその点がポッドキャストにおいて指摘されていなかったことについて、もう少し踏み込んで話しても良かったのではと思うのです。ストリーミングにおけるプレゼンスが短期的な成果でも獲得できると読み取れることに対し、違和感を表明します。

 

 

ビルボードジャパンは再来週6月7日公開分から下半期チャートがスタートします。そのタイミングでビルボードジャパンには、【Streaming Songsチャートの指標化時は、LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲が同チャートを制していない場合でも係数処理を行う】形にチャートポリシーを変更することを、あらためて提案します。