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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

アイドル/ダンスボーカルグループにおけるビルボードジャパンソングチャートの【ヒットの8段階】(改訂版)

今回は昨年8月に掲載した下記ブログエントリーの改訂版となります。

ここで掲載した表を少し見直した上で、1月末に再掲しました(Mステが採り上げるビルボードジャパンソングチャート、深く知るための表を紹介します(1月31日付)参照)。そこから程なくしての改訂版ですが、今回は【ヒットの8段階】として掲載します。

 

 

音楽チャート分析者として、【真の社会的ヒット曲とはロングヒットし、年間チャートで上位に進出する作品】と位置付けています。一方でアイドルやダンスボーカルグループの年間チャートランクインはコアファンの熱量が過度に反映されない形にチャートポリシー(集計方法)が変更されて以降、大きく減っています。

今回掲載する表は厳密にはアイドルやダンスボーカルグループ以外にも当てはまるかもしれませんが、しかしフィジカルリリースが多いこと、また熱量の高いコアファンや音楽チャートを強く意識するファンダムが多いことにより週間単位で上位進出曲が多いジャンルであることを踏まえ、作成した次第です。このジャンルの曲の多くが上位進出の翌週に急落しがちな点については、下記エントリーにて紹介しています。

アイドルやダンスボーカルグループがより長く活動するためにはヒットの輩出、そしてそこからのステップアップが必要と考え、以下に8段階について紹介します。この【ヒットの8段階】はビルボードジャパンソングチャートおよびトップアーティストチャートを基としていますが、このチャートは『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)における出場歌手選考に大きな影響を与えているというのが自分の見方です。

 

 

今回のエントリーでは、補足説明がない限り最新2月26日公開分におけるビルボードジャパンソングチャートのCHART insightを掲載しています。CHART insightについては下記をご参照ください。

※CHART insightの説明

 

[色について]

黄:フィジカルセールス

紫:ダウンロード

青:ストリーミング

黄緑:ラジオ

赤:動画再生

緑:カラオケ

濃いオレンジ:UGC (ユーザー生成コンテンツ)

 (Top User Generated Songsチャートにおける獲得ポイントであり、ソングチャートには含まれません。)

ピンク:ハイブリッド指標

 (BUZZ、CONTACTおよびSALESから選択可能です。)

 

[表示範囲について]

総合順位、および構成指標等において20位まで表示

 

[チャート構成比について]

累計における指標毎のポイント構成

 

ビルボードジャパンソングチャート

 アイドル/ダンスボーカルグループにおけるヒットの8段階>

 

 

第1段階

主にフィジカルセールスが強い曲、またLINE MUSIC再生キャンペーンの採用に伴いストリーミング指標が上位に登場することで総合チャートでも上位に登場する曲を指します。LINE MUSICはプレミアムなプレゼントを用意してコアファンの再生回数を高め、ライト層の支持を反映する接触指標に所有的な動きをもたらしますが、これらの人気は持続せず、結果として総合でのヒットが瞬間的になります。

そもそもデジタルが強くなければロングヒットすることはありません。たとえばSTARTO ENTERTAINMENT所属歌手はフィジカルセールスが30万を超える歌手を中心にサブスク未解禁がまだまだ多く、動画再生が強い曲も多いながらデジタル未解禁ゆえにストリーミング指標を獲得できず、ヒットが持続しない傾向です。

 

第2段階

第2段階は前段階同様、主にフィジカルセールスが強い曲、またLINE MUSIC再生キャンペーンの採用に伴いストリーミング指標が上位に登場することで総合チャートでも上位に登場する曲を指しますが、主にコアファンが支える所有指標や所有的な動きをなぞる接触指標が継続し、複数週上位をキープするする傾向があります。

SKE48「告白心拍数」は2月19日公開分ビルボードジャパンソングチャートで3万強のフィジカルセールスを獲得し、総合34位に再上昇。櫻坂46は「UDAGAWA GENERATION」がLINE MUSIC再生キャンペーン効果でフィジカルセールス指標初加算の前週に33位を記録。THE RAMPAGE from EXILE TRIBE「Endless Happy-Ending」は前作「24karats GOLD GENESIS」同様、最も安定しにくいラジオ指標で複数週に渡り上位進出しています。

しかしながら施策効果は長くは続きません。コアファンの継続力には(物理的、また精神的な面でも)限界があり、また新曲が用意されればそちらに移行することも考えられます。コアファンの熱量に頼らない形でライト層を魅了することが重要になるでしょう。

 

第3段階

第3段階は構成6指標のうち伸びが遅いカラオケを除き、リリース初週にいずれも高位置につけるというもの。先ほど紹介した櫻坂46「I want tomorrow to come」はこの段階に近いといえるかもしれませんが、Number_iそして(次段階で紹介する)BE:FIRSTはその点において長けています。

Number_iは昨年9月にリリースしたアルバム『No.Ⅰ』のデラックス版を12月にリリースしていますが、追加収録された「HIRAKEGOMA」はミュージックビデオ未公開ながら初週1週間フル加算に伴い3位に初登場。ミュージックビデオ制作曲に比べれば翌週のダウン幅は大きいものの、6週連続で100位以内にエントリー。初登場時はダウンロードおよびラジオの2指標を制し、動画再生指標も4位につけています。

 

第4段階

第4段階は前段階を基に、より長くヒットするという傾向。ここで挙げたBE:FIRST「Spacecraft」は最新2月26日公開分が登場3週目ではあるのですが1→4→14位と推移し、アイドルやダンスボーカルグループの作品の中では好調といえます。

 

第5段階

第5段階以降はストリーミングが安定して強い作品を指します。昨年4月17日にリリースされたDa-iCE「I wonder」は冒頭の振り付け等が人気となりTikTok等で人気に(それが証拠に、ミュージックビデオよりもパフォーマンス動画の再生回数が多くなっています)。ストリーミング指標最高4位、総合では最高7位を記録し且つ44週連続エントリーを達成。昨年は悲願の『NHK紅白歌合戦』初出場を果たしています。

 

第6段階

第6段階は前段階を基に、フィジカルをリリースしたことで週間単位でより上位に就ける作品を指します。中島健人さんとキタニタツヤさんによるユニット、GEMN「ファタール」はストリーミング指標最高8位、総合32週ランクイン。そしてフィジカルセールス指標初加算週に総合で3位に至っています。

ヒット規模を踏まえれば、GEMN「ファタール」よりもDa-iCE「I wonder」のほうが大きいといえるのですが、一方でアイドルやダンスボーカルグループはフィジカルリリースが多く、また売上規模も大きいことから、"フィジカルがデジタルを後押しする"という形を理想とするならば「ファタール」のほうがこの段階に相応しいと考えます。

 

第7段階

ビルボードジャパンにはソングチャートとアルバムチャートを合算したトップアーティストチャート(Artist 100)が存在します。2025年度は1週を除いてMrs. GREEN APPLEが制し続けていることからも解るように、ストリーミングの強さが上位安定の鍵となります。昨年最終週よりアルバムチャートにストリーミング指標が加わったこともあり、尚の事です。

そのトップアーティストチャートで上位安定を狙えるのは今回紹介した【ヒットの8段階】における第5段階以降と捉えていますが、第7段階以上ではヒット曲が過去曲や新曲にも波及しています。

(上記は直近60週分におけるCHART insight。「わたしの一番かわいいところ」におけるストリーミング指標の最高位は34位ゆえ、20位までを表示した上記グラフでは可視化されません。一方で累計ポイント構成比からはストリーミング指標の大きさが解ります。)

FRUITS ZIPPERは2022年に「わたしの一番かわいいところ」を配信、翌年にフィジカルシングルをリリースしていますが、ストリーミングでは2024年8月以降100位以内に入り続け、総合でも同月以降100位以内エントリーを続けています。昨夏以降の総合最高位は29位でありフィジカルセールス初加算週(2023年9月20日公開分 13位)には及ばないものの、ロングヒットを続ける現在のほうがヒットの実感は高いでしょう。そして現在、1月にリリースされた「かがみ」が4週連続でランクインを果たしています。

 

第8段階

FRUITS ZIPPERはKAWAII LAB.に所属し、テレビでは同じプロジェクトに所属する3組と共に出演することも。その一組、CUTIE STREETによる「かわいいだけじゃだめですか?」がビルボードジャパンソングチャートで上位進出を続けています。

昨年8月リリースのデビュー曲は、10月に入りストリーミング100位以内に進出。総合ソングチャートではフィジカルセールス初加算週における2位が最高位ですが(2024年11月20日公開分)、ストリーミングはその翌週に最高位となる10位を記録し、以降は15位前後で走行。総合チャートで昨年末以降常時14位以上を記録するこの曲の勢いは、9月にリリースされた「ひたむきシンデレラ!」にも波及しています。

FRUITS ZIPPERのヒットによりKAWAII LAB.プロジェクトに共通する"かわいい"というコンセプトが浸透していったことで、事務所所属の他のグループにも波及しているといえます。そして2組のトップアーティストチャートにおけるCHART insightをみると(今回紹介した他の歌手と比較すると)、ストリーミング指標の強さ、そして総合チャートにおける安定感が見て取れるはずです。

<ヒットの8段階で紹介した歌手の

 トップアーティストチャートにおけるCHART insight>

 

おわりに

本日発表される最新ソングチャートでは、timeleszの新曲「Rock this Party」、そしてSexy Zone時代を含む過去曲がサブスク解禁に伴い初登場するものとみられます。オーディション人気が反映されたという側面も当然考えられますが、デジタルを解禁すればその人気がサブスクに反映され、複合指標から成るビルボードジャパンソングチャートで可視化されるという好事例になることでしょう。

サブスクを未だ解禁していない歌手は少なくなく、また解禁した歌手においてもフィジカルセールス優先という姿勢がみえてくることは少なくはありません。しかしフィジカルセールスが重視されたランキングとは異なり、ストリーミング時代において百発百中でヒットを放てる歌手は存在しないと考えるに、コアファンのみならずライト層を惹き付けるべく流布し、芽を育てていくことがヒットの前提だというのが自分の見方です。

また成功例が出た場合にその歌手から学び、自分たちに活かすことが重要です。個人的には、フィジカルでのミリオンセールスがほぼ唯一輩出可能なSnow Manこそ、少なくとも代表曲をデジタル解禁すれば大きなヒットを放てる最有力候補だと捉えています。ストリーミングと順位が比例する動画再生指標が常時安定しているのもその根拠であり、Snow ManそしてSTARTO ENTERTAINMENT側の今後の動きを注視していきます。

 

参考資料

・2024年度ビルボードジャパン年間チャートについて

・『第75回NHK紅白歌合戦』出場歌手について

・ストリーミング指標導入後のビルボードジャパンアルバムチャートにおける【ヒットの8段階】について