米ビルボードが日本時間の12月13日から14日にかけて、2024年度年間チャートを発表しています。このブログでは昨日、ソングチャートを主体にアメリカの動向を紹介しました。
今日はグローバルチャートについてお伝えします。
米ビルボードがグローバルチャートを開設して以降、このブログでは毎週その動向をお伝えしてきました。グローバルチャートの内容等については、別途エントリーにて紹介しています。
今回の年間グローバルチャートは2023年10月28日付~2024年10月19付)の52週が対象となります。まずはグローバルチャートの記事を意訳の上、紹介します。
Benson Boone & Taylor Swift Are Worldwide 2024 Chart-Toppers: The Year In Billboard Global Chartshttps://t.co/6Df3mZuE2Y
— billboard (@billboard) 2024年12月13日
テイラー・スウィフトが2年続けてGlobal 200、およびGlobal 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.の双方にて歌手部門を制覇。2024年度においてはGlobal 200で67曲、Global Excl. U.S.では66曲を200位以内に送り込んでいます。
2024年度の3週目となる2023年11月11日付では『1989 (Taylor’s Version)』収録の19曲が双方のグローバルチャートで初登場、そのおよそ半年後には『The Tortured Poets Department』収録の31曲が、こちらも双方のチャートで初登場を果たし、後者においてはポスト・マローンをフィーチャーした「Fortnight」が首位に躍り出ています。
一方で、テイラー・スウィフトにおける2024年度最大のヒットはこのふたつのアルバムからではなく、『Lover』(2019)に収録された「Cruel Summer」でした。Global 200では2023年11月に首位を獲得し、双方のチャートにて年間4位を記録しています。2023年3月に開始し今月まで行われたコンサートツアー(The Eras Tour)にてこの曲がオープニングで披露されたことが背景にあります。
数年前の曲が首位を週間チャートを制するのは変則的に映るかもしれませんが、テイラー・スウィフトが最新作から過去作まで幅広い作品で成功を収め、影響力を発揮していることを物語っています。これまで挙げた3枚のアルバムに加えて、『Folklore』『Midnights』『Red (Taylor's Version)』の収録曲もリストインしているのです。
Global 200、そしてGlobal Excl. U.S.における歌手部門のトップ5にはテイラー・スウィフトに続き、順位は異なれどサブリナ・カーペンターやビリー・アイリッシュが登場(サブリナはGlobal 200で、ビリーはGlobal Excl. U.S.で年間2位を記録)。そして双方の年間4位にアリアナ・グランデ、年間5位にはザ・ウィークエンドがランクインしています。
サブリナ・カーペンター、ビリー・アイリッシュそしてアリアナ・グランデはいずれもニューアルバムからグローバルヒットを輩出。サブリナは「Espresso」がGlobal 200で8週、ビリーは「Birds Of A Feather」で3週首位を、そしてアリアナは共に1週ながら「Yes, And?」および「We Can’t Be Friends (Wait For Your Love)」で首位を獲得しています。
ザ・ウィークエンドは昨年出演のドラマで使用された「One Of The Girls」(BLACKPINKのJENNIE、およびリリー=ローズ・デップと共演)および「Popular」(プレイボーイ・カルティおよびマドンナと共演)がヒットするも、「Blinding Lights」や「Starboy」といった過去曲の継続したヒットが歌手部門での年間トップ5入りを果たす原動力に。一方で2024年度の終盤には、ニューアルバム『Hurry Up Tomorrow』に収録予定の「Dancing In The Flames」「Timeless」がランクインしています。
2020年後半にローンチしたGlobal 200およびGlobal Excl. U.S.において、ザ・ウィークエンドは双方のチャートで年間トップ10入りを続けている唯一の歌手となります。
楽曲部門で年間チャートを制したのはベンソン・ブーン「Beautiful Things」でした。ふたつのチャート共に2月3日付で初登場を果たすと、Global 200では13→6→1位、Global Excl. U.S.では37→14→2→1位と上昇。最終的にはGlobal 200で7週、Global Excl. U.S.においては8週首位を獲得しています。Global 200では今年度最長、Global Excl. U.S.ではサブリナ・カーペンター「Espresso」と並び最長タイを記録しています。
ベンソン・ブーン「Beautiful Things」はGlobal Excl. U.S.で長らくトップ10内にとどまった一方、Global 200ではテイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』収録曲が大挙エントリーしたこと、またザ・ウィークエンドによる久々の新曲が登場したことに伴い一時的にトップ10から脱落しています。
米ビルボードによる年間チャートを制したテディ・スウィムズ「Lose Control」はGlobal 200で年間2位およびGlobal Excl. U.S.では同5位に。またテイト・マクレー「Greedy」は前者で年間5位および後者で同3位に。共に集計期間中常時ランクインした作品ですが、その軌跡は異なります。
テイト・マクレー「Greedy」は双方のチャートで首位を獲得し、Global Excl. U.S.に至っては5週に渡ってその座に就いています。一方でテディ・スウィムズ「Lose Control」はGlobal 200で週間4位、Global Excl. U.S.では同3位が最高位ながら、年間を通じて安定。年度最終週でも双方のチャートで12位にランクインし、2月以降一度としてトップ20内から離れることはありませんでした。
フロイメナー & クリスMj「Gata Only」がGlobal 200で年間9位、Global Excl. U.S.で同6位にランクインしたことは特筆すべきでしょう。英語以外の言語で歌われた曲の年間チャート入りは2021年にバッド・バニーが「Dákiti」でふたつのチャート共に6位にランクインした時以来、二度目となります。このチャートでチリ出身の歌手がトップ10入りすることは初めてであり、さらには南米出身歌手としても初となります。
※Global 200およびGlobal Excl. U.S.の年間ソングチャートトップ10は以下のポストをご参照ください。なお200位まではGlobal 200がこちら、Global Excl. U.S.がこちらにて確認できます。トップアーティストチャートについてはGlobal 200がこちら、Global Excl. U.S.がこちらで確認可能です。
The top 10 #Global200 songs of 2024 on the @billboardcharts! 📈
— billboard charts (@billboardcharts) 2024年12月13日
Tap here for all of the latest year-end charts: https://t.co/NkUGJ9ZIRx pic.twitter.com/roI3STqCfI
The top 10 Global Excl. U.S. songs of 2024 on the @billboardcharts! 📈
— billboard charts (@billboardcharts) 2024年12月13日
Tap here for all of the latest year-end charts: https://t.co/NkUGJ9ZIRx pic.twitter.com/5TzWuttU1E
今回の年間チャート、楽曲部門について100位までを表にまとめています。
Global 200とGlobal Excl. U.S.を比較すると、いくつかの特徴がみえてきます。アメリカの分を含む前者ではカントリーやヒップホップが強い一方、含まない後者では順位が大きく乖離(ダウン)しています。ヒップホップ曲をサンプリングし米年間ソングチャート2位にランクインしたシャブージー「A Bar Song (Tipsy)」はGlobal 200で年間6位に入りながら、Global Excl. U.S.では同35位と大きく異なります。
米ビルボード年間ソングチャートでトップ10入りした曲では、ヒップホップのケンドリック・ラマー「Not Like Us」がGlobal 200で年間11位に対しGlobal Excl. U.S.では同53位、カントリーのザック・ブライアン feat. ケイシー・マスグレイヴス「I Remember Everything」においてはGlobal 200で年間12位ながらGlobal Excl. U.S.では同100位以内に登場していないことも、アメリカの影響力の差が如実に反映された例といえます。
また記事でも紹介されていましたが、ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」(Global 200年間43位 Global Excl. U.S.同31位)のように数年前の曲が上位にランクインするのもグローバルチャートの特徴。これはグローバルチャートのチャートポリシー(集計方法)に、米ビルボードソングチャートのようなリカレントルールが採用されていないことが背景にあります。
リカレントルールとは新陳代謝を目標として、一定週数ランクインしている曲が一定順位を下回った際にチャートから外れるというものですが、このルールを敷いていないことで数年前のヒット曲や、さらにはa-ha「Take On Me」(1984)が双方のチャートで年間100位以内に入るといったことが可能になるといえます。TikTok等がリリース年にかかわらずフックアップされる環境を醸成したことも、チャートに大きく影響しています。
さらには今年ニューアルバムをリリースしたエミネムによる2002年作の「Without Me」や、リンキン・パークの2001年作品「In The End」も上位にランクイン。最新作の登場やヒット曲の誕生(エミネムは「Houdini」がGlobal 200で年間72位、Global Excl. U.S.では同93位にランクイン)が過去曲をフックアップするということも、ここから解ります。
次に、グローバルチャートにおける日本と韓国の作品、および歌手の動向を押さえます。グローバルチャートにおける楽曲別ならびに歌手別のランクイン状況、およびGlobal 200週間チャートにおける日本の楽曲のランクイン動向を以下に掲載します。
日本の楽曲では、今月発表されたビルボードジャパン年間ソングチャートを制したCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」がGlobal 200で年間67位、Global Excl. U.S.では同21位を記録。それに伴い歌手部門ではGlobal 200で年間71位、Global Excl. U.S.では同39位にランクインを果たしています。
アニメ主題歌がロングヒットする傾向については、2023年度以降50週連続(2024年度においては24週続けて)Global 200の200位以内にランクインしたYOASOBI「アイドル」からも明らかです。その「アイドル」はGlobal 200で2024年度年間186位、Global Excl. U.S.では同109位となり、アーティスト部門ではGlobal 200で年間200位未満ながらGlobal Excl. U.S.では同63位を記録しています。
Creepy Nutsは2024年度のグローバルチャート最終週に「オトノケ」が初登場し、最新12月14日付チャートでもランクインを続けています。クリスマス関連曲の興隆に伴い一時的にダウンしながら、仮にクリスマス後に再浮上し且つ安定した成績を収めたならば、Creepy Nutsは2025年度においても世界から注目を集めていくことでしょう。
そして注目はMrs. GREEN APPLE。「ライラック」はGlobal 200で7週ランクイン、週間最高119位となり一度として100位以内に到達していないものの(Global Excl. U.S.は11位以下を米ビルボード有料会員にのみ開示するゆえここでは記載できません)、年間ではGlobal Excl. U.S.で153位を記録しています(Global 200では200位未満)。また歌手部門ではGlobal 200で200位未満ながらGlobal Excl. U.S.で94位に登場しています。
この「ライラック」については、ビルボードジャパンによるGlobal Japan Songs Excl. Japanで週間20位以内に一度もランクインしていません。
【ビルボード 2024年 年間Global Japan Songs】世界で最も聴かれた日本の楽曲はCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」 https://t.co/V5lImlax8s
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2024年12月5日
【ビルボード 2024年 年間グローバル・ジャパン・ソングス“Global Japan Songs Excl. Japan”】
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2024年12月5日
1位 Creepy Nuts
2位 YOASOBI
3位 King Gnu
4位 imase
5位 藤井 風
6位 米津玄師
7位 キタニタツヤ
8位 YOASOBI
9位 TERIYAKI BOYZ
10位 松原みき pic.twitter.com/CrnSGIieR0
ビルボードジャパンは12月6日に年間チャートを発表しましたが、その中には2023年にスタートしたGlobal Japan Songs Excl. Japanも含まれています。Global Japan Songs Excl. JapanはGlobal 200をベースに日本市場分を除いた上で日本の楽曲のみを抽出したものです。
ビルボードジャパンによるGlobal Japan Songs Excl. Japanと米ビルボードによるグローバルチャートとでは集計期間が異なります。上記表であるGlobal Japan Songs Excl. Japanトップ20リストにおいては、Global 200で2024年度年間チャートに該当しない期間をグレーで表示しています。
Global Japan Songs Excl. Japanでは先述した「Bling-Bang-Bang-Born」や「アイドル」、King Gnu「SPECIALZ」やAdo「唱」が強く、それら作品は米ビルボードによる年間グローバルチャートでも登場していますが、一方でGlobal Excl. U.S.年間200位以内に登場したtuki.「晩餐歌」はGlobal Japan Songs Excl. Japanで20位に二度入ったのみとなり、そしてOmoinotake「幾億光年」は「ライラック」同様ランクインしていません。
Mrs. GREEN APPLE「ライラック」やOmoinotake「幾億光年」の年間グローバルチャートランクインからは、日本市場におけるストリーミングの興隆がみえてきます。また世界全体でダウンロード数が減少傾向にある中(米ビルボードが2024年度年間チャートにおいてダウンロード指標の公開範囲を75→50位までに縮小したのはその象徴でしょう)、日本がまだまだ強いということも背景にあるといえそうです。
Mrs. GREEN APPLEは今月に入り、世界進出への意欲を示しています。この姿勢が最新曲「ビターバカンス」の金曜リリースやファンクラブの多言語対応にも表れていることについてはMrs. GREEN APPLE「ビターバカンス」が首位獲得…前週が集計期間3日分だった理由を考える(12月12日付)で紹介しています。
日本市場分だけでもグローバルチャートで週間10位以内に入ることは、ダウンロード数が強ければ可能性はゼロではないでしょう。そしてトップ10入りを果たした日本の歌手はすべて、ランクイン前後に海外公演を実施しています。ともすればMrs. GREEN APPLE側は、海外公演の成功と米ビルボードによるグローバルチャートでの上位進出が比例することを踏まえ、自信を身に着けたことで世界に挑むことを決めたのかもしれません。
2024年度グローバルチャートにおける日本と韓国の差については2023年度とあまり変わらない印象ですが、年間チャート入りした曲の大半は接触指標がロングヒット。BTSのジョングクによるソロ曲、LE SSERAFIMやaespaの複数曲ランクインは、K-POP全体のロングヒット化を感じるに十分です。2025年度はロゼ & ブルーノ・マーズ「APT.」が上位に登場するだろうゆえ、その傾向はますます強くなるかもしれません。
気になるのは、米ビルボードによるグローバルチャートが日本のメディアでほぼ報じられていないということ。Yahoo! JAPANニュースにて"Global 200"と検索すると登場するのはBTSに特化した上記記事(のYahoo! JAPANニュース転載分)となります。米ビルボード年間チャート発表が金曜深夜以降ゆえ週明けには韓国メディアが発信することも考えられますが、日本のメディアではビルボードジャパンにおいても未発信の状況です。
米ビルボードによるグローバルチャートはGlobal 200、Global Excl. U.S.共にトップ10の記事が(基本的に)現地時間の月曜に公開され、Global 200においては毎週200位まで確認することができます。このチャートに代表されるグローバルチャートをチェックしたり、チャートを反映したサブスクプレイリストを聴く方が、ランクインした日本の歌手に触れて新たなファンに成る可能性が生じるものと考えます。
Global Japan Songs Excl. Japanは世界における日本の歌手や作品の人気を示す新たなバロメーターであることは間違いありませんが、世界の音楽ファンは"日本の歌手(の作品)だから聴く"という行動以上に、"ヒット曲の中に日本の歌手(の作品)があって偶然聴いた"という行動が多いかもしれません。弊ブログで米ビルボードのグローバルチャートを紹介するのは、このチャートの重要性を認知していただきたいと考えるためです。
そのこともあり、ビルボードジャパン側には以前より、集計期間や合算方法等のチャートポリシーをグローバルチャートに合わせることを検討するよう提案を続けています(この提案については米ビルボードによるグローバルチャートとは何か、そしてJ-POPの現在と課題とは (2024年5月更新版)(5月19日付)等をご参照ください)。
米ビルボードによるグローバルチャート、2023年度の振り返り時の最後に記した内容を再掲します。
配信は世界リリースとほぼ同義であり、歌手側は(少なくとも周囲のスタッフはきちんと)チャートへの意識を高い状態で保ち続けることが必要です。メディアも発信を欠かさないことで、コアファン、そして広く音楽ファン全体がグローバルへの意識を少しでも高めることができると考えます。
日本は今年とりわけアニメ関連曲がヒットしましたが、世界ではタイアップに関係なく様々な曲がヒットしています。タイアップがあるに越したことはありませんが、その有無にかかわらず世界に轟くJ-POPヒット曲が誕生することを、心から願っています。そしてそれは意識の変化により少しでも近くに手繰り寄せることができるのではないでしょうか。
歌手のコアファンが世界への意識を高め、メディアがチャート記事の発信を徹底し、そしてビルボードジャパンがグローバルチャートに即したチャートポリシーへの見直しやGlobal Japan Songs Excl. Japan紹介時にGlobal 200等についても紹介することは必要でしょう。特に物理面で改善は難しいかもしれませんが、しかしできないことではないはずです。グローバルヒットは歌手を囲む方々の意識の変化も大きく作用すると考えます。