(※追記(12月14日8時9分):米ビルボードの年間ソングチャートおよびアルバムチャートについて、ビルボードジャパンが翻訳記事を公開しました。つきましては、翻訳記事のリンクを掲載したポストを貼付しています。)
今年の音楽業界をチャートから振り返ります。今回は米ビルボード年間ソングチャートについてです。
今回は日本時間の12月13日から14日にかけて発表された、米ビルボードによる2024年度各種年間チャートをチェックします。昨年の動向については下記ブログエントリーをご参照ください。
今年度の集計期間は2023年10月28日付~2024年10月19付の52週分となります。
2024年度の米ビルボードによる主要チャート記事、およびビルボードジャパンの翻訳記事はこちら。
・年間ソングチャート
Teddy Swims’ ‘Lose Control’ Is 2024’s No. 1 Hot 100 Song & Taylor Swift Is Chart’s Top Artisthttps://t.co/nznIcyxonl
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The Top 10 #Hot100 songs of 2024 on the @billboardcharts! 📈
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【2024年 米ビルボード年間ソング・チャート】テディ・スウィムズ「ルーズ・コントロール」首位、カントリー・ソング躍進 https://t.co/1aHvs0sJPd
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2024年12月13日
・年間アルバムチャート
Taylor Swift’s ‘The Tortured Poets Department’ & ‘1989 (Taylor’s Version)’ Are Top Two Billboard 200 Albums of 2024https://t.co/l053sjwEc9
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The top 10 #Billboard200 albums of 2024 on the @billboardcharts! 📈
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【2024年 米ビルボード年間アルバム・チャート】テイラー・スウィフト『TTPD』が制す、TOP10に4作を送り込む快挙 https://t.co/Xsl9274FEe
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・年間トップアーティストチャート
Taylor Swift Is Billboard’s Top Artist of 2024https://t.co/SeKJqb6g3V
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The Top Artists of 2024 on the @billboardcharts! 📈
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Check out the full year-end Top Artists list, plus all of the latest year-end charts, here: https://t.co/C6pt6UmA4T pic.twitter.com/Y8jK8q0Ugs
ソングチャートは100位まで、チャートを構成する3指標(サブスクリプションサービスの再生回数や動画再生回数等に基づくストリーミング、フィジカルを含むダウンロード、およびラジオ)については、ストリーミングおよびラジオが75位まで、ダウンロードが50位まで紹介されています。なお2023年度においてはダウンロード指標が75位まで公開されていたことから、この指標の重要度が下がったと捉えていいかもしれません。
下記は年間ソングチャートおよび各指標の順位を一覧化した表となります。
それでは、今年度のチャートトピック10項目を取り上げます。
<米ビルボード年間チャート発表 2024年度のチャートトピックス>
① キャリア初のヒットが年間チャートで大挙トップ10入り
年間ソングチャートを制したのはテディ・スウィムズ「Lose Control」。首位獲得週数はわずか1週のみですが、ケンドリック・ラマー『GNX』収録曲やクリスマス関連曲が大挙エントリーする直前の11月30日付ソングチャートにおいてもトップ10内をキープしており、史上最長タイとなる19週首位を(年度をまたいだ形で)記録したシャブージー「A Bar Song (Tipsy)」(年間2位)を退けた形です。
(実は年間トップ2について、いずれもミュージックビデオが存在していないという状況です。これもまた興味深い事象といえるでしょう。)
何より注目は、キャリア初のトップ10ヒットが特大ホームランとなっていること。先述した2曲を含め、ベンソン・ブーン「Beautiful Things」(年間3位)、サブリナ・カーペンター「Espresso」(同7位)およびトミー・リッチマン「Million Dollar Baby」(同8位)と、年間トップ10の実に半数がキャリア初のトップ10ランクイン曲で占められています。
またホージア「Too Sweet」が年間10位にランクインしていますが、ホージアにとっては11年前にリリースし週間2位/2015年度年間ソングチャート14位を記録した「Take Me To Church」以来となる週間トップ10入りにして、年間でも大ヒットに至った形です。
② レトロ感漂う曲がヒット
年間首位のテディ・スウィムズ「Lose Control」は1960年代感が滲み出たブルージーな三連符バラード、また8位のトミー・リッチマン「Million Dollar Baby」は公式リリックビデオをVHS風にする等、参照にした年代は異なるもののいずれも”レトロ感”がキーワードといえそうです。
トミー・リッチマン「Million Dollar Baby」がTikTokの米におけるSongs Of The Summerチャートを制していることは大きなポイントです。TikTokは米ビルボードソングチャートの構成指標ではありませんがその影響力は大きく、このTikTok夏チャートで6位のサブリナ・カーペンター「Please Please Please」は米ビルボード年間ソングチャートでも16位に。この曲も1980年代テイストを醸し出しています。
またテイト・マクレー初のトップ10ヒットにして年間13位にランクインした「Greedy」は、ティンバランドが手掛けたネリー・ファータド「Promiscuous」(2006 週間1位/年間3位)を想起させます。サブスクや短尺動画の台頭に伴いリリース年に関係なく様々な作品に出会えるようになり、その作品がフレッシュな新曲として受け入れられている現在、歌手側は好きな作品やジャンルへの憧れを堂々と示しているといえそうです。
③ トップ10の男女比に大きな差
男女格差の解消を謳う米エンタテインメント業界にあって、ヒット曲の輩出という点では大きく異なる結果となりました。トップ10のうちデュエット(ザック・ブライアン & ケイシー・マスグレイヴス「I Remember Everything」(年間9位))を除く9曲のうち、女性による作品はサブリナ・カーペンター「Espresso」(年間7位)のみという状況。11~20位では男女比が逆転するものの、この状況は看過できないといえます。
アルバム部門ではテイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』が、年間チャートをおそらく大差で制していますが、同作収録曲のソングチャートにおける最高位はポスト・マローンを迎えた「Fortnight」の22位であり、2019年作の「Cruel Summer」がTikTokのバズに伴い年間12位に達したのとは異なる動きです。
他にも、たとえばアリアナ・グランデがアルバム『Etarnal Sunshine』(年間23位)の収録曲がトップ20内にランクインしておらず、事前の注目度が高いアルバムとその収録曲のソングチャートとで動向に乖離がみられます。話題性の高いアルバムはそのチャート初登場時にソングチャートでも上位進出を果たす傾向ながら、それが瞬発力にとどまるのか持続力を伴うのかを見極める必要があるというのが、厳しくも私見です。
④ カントリー曲の多様化
シャブージー「A Bar Song (Tipsy)」(年間2位)はカントリー作品として大ヒットを樹立していますが、この曲がサンプリングしているのはJ-クウォン「Tipsy」(2004 年間11位)というヒップホップであることは大きな意味を持ちます。つまりはカントリーという音楽ジャンルの多様化が進んでいるということです。
カントリージャンルの多様化は今年も目立ち、ヒップホップを出自とするポスト・マローンがカントリーアルバム『F-1 Trillion』(年間62位)を、R&B界のビヨンセが『Cowboy Carter』(年間21位)を発売し、双方のアルバムで多数のカントリー歌手を招聘したことも大きなポイント。前者はモーガン・ウォレンを迎えた「I Had Some Help」が年間4位、後者は「Texas Hold 'Em」が同32位となり、共に週間チャートを制しています。
⑤ ロックの復興
ストリーミング時代になり若年層が支持するジャンルが流行するようになる、または中高年層のファンが多いジャンルの歌手がストリーミングを意識することでジャンル全体の人気が上昇もしくは復活するということは、ひとつ前の項目で挙げたカントリーで言えることです(カントリー歌手のモーガン・ウォレンやルーク・コムズ、ザック・ブライアンはいずれも30歳前後)。一方でロックジャンルはこの点が弱いといえました。
しかしながら、先述したベンソン・ブーン「Beautiful Things」(年間3位)やホージア「Too Sweet」(同10位)はロックジャンル、またノア・カーン「Stick Season」(同11位)はシンプルなアレンジながらフォーク寄りなロックと捉えることも可能であり、(広義の、と前提する必要はあれど)ロックの復興が進んでいると考えていいかもしれません。これら3曲においてはストリーミング指標の順位が高いこともポイントです。
また年間ソングチャートでは100位以内にジェリー・ロールが4曲ランクイン。カントリーのみならずヒップホップやロック等ジャンルを飛び越えて活躍するジェリーは、12月12日に開催されたビルボードミュージックアワードにおいてフォーリング・イン・リバースに客演参加した「All My Life」(年間100位未満)でトップハードロックソング賞を受賞しています。
なおビルボードミュージックアワードでは、ザック・ブライアン feat. ケイシー・マスグレイヴス「I Remember Everything」(年間9位)がトップロックソング賞を受賞。この曲がストリーミングで年間首位を獲得していることも、ロックの復興の一端を示しているといえるでしょう。
⑥ ヒップホップの復権
長らくヒットが登場しなかったタイミングで米ビルボードがヒップホップの人気低迷を記事化したこともありましたが、ジャック・ハーロウ「Lovin On Me」が年をまたいでヒットし年間5位を獲得したこともさることながら、ケンドリック・ラマーによる2曲がトップ20入りしたことは大きいといえます。
ケンドリック・ラマーはフューチャーとメトロ・ブーミンのコラボ作に客演参加した「Like That」が年間14位、そして単独名義の「Not Like Us」は同6位にランクイン。共にドレイクを攻撃対象としているリリックが特徴です。
あくまで私見と前置きしますが、ヒップホップの定番と受け止められかねないビーフやディス自体は快く思いません(物理的な事件にも発展したこともあり尚の事です)。しかしながら一連の作品でドレイクにチャート上でも勝ったケンドリック・ラマーは、来年開催のスーパーボウルにてハーフタイムショーを務めることが決定。名実ともにヒップホップ業界を代表する人物になったといって差し支えないでしょう。
⑦ サブリナ・カーペンターが新たなポップアイコンに
オリヴィア・ロドリゴ「Drivers License」(2021 週間1位/年間8位)にて、ゴシップ的な形で注目を集めたのがサブリナ・カーペンター。返歌ともいえる「Skin」はチャート上で「Drivers License」に大きく水を開けられていましたが、今年に入り「Espresso」(年間7位)をはじめヒットを連発。週間単位ではアルバムから3曲同時トップ10入りを果たしています。
サブリナ・カーペンターはテイラー・スウィフトによるライブツアー、”The Eras Tour”にて昨年8月および11月の8公演でオープニングアクトを担当(Taylor Swift's 2023 Tour: Artists Who Are Opening for Eras Tour - Billboard(2023年6月2日付)参照)。このツアーがサブリナの認知度上昇の一端を担っただろうことは、前年リリースの「Feather」がラジオで高い支持を受け、総合で年間25位に入ったことからもみえてきます。
⑧ 女性歌手の台頭
サブリナ・カーペンター以外にも、先述したテイト・マクレー「Greedy」(年間13位)のほか、サマーソニックに出演したタイラによる「Water」が年間24位、アルバムチャートの伸び方からも人気の高まりが見て取れるチャペル・ローン「Good Lick, Babe!」が年間18位にランクイン。テイラー・スウィフト、シザ、またビリー・アイリッシュ等と共に今後のチャートを賑わせる存在となっていく予感がします。
⑨ クリスマス関連曲の存在感上昇と、それが意味すること
年間ソングチャートにおいて、クリスマス関連曲はマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」(年間54位)を皮切りに5曲がランクイン。曲数自体は2023年度と変わらないものの、2024年度は全体的にわずかながら順位を上げています。
実際、2024年度の米ソングチャートにおける各指標首位曲の数値をみると、ストリーミングにおいてはクリスマス関連曲の大量ランクイン時に高水準に達していることが解ります。言い換えればその時期を除いては再生回数が高いとはいえず、米におけるストリーミングは仮に上昇したとして曲線は緩やかになっていると想起可能です。なお2024年度はケンドリック・ラマー等がストリーミング指標を押し上げていることも判ります。
2023年のクリスマスシーズンは、ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」が発売から65年の時を経てはじめて週間チャートを制覇。そこにはTikTokやミュージックビデオ制作をはじめとする施策の影響もみられます。日本の音楽業界においても過去曲のデジタルアーカイブ展開、およびヒット創出におけるヒントとなるはずです。
⑩ ストリーミング時代に目立つチャートの特徴、およびその改善案
最初の項目でも挙げたように、テディ・スウィムズ「Lose Control」がシャブージー「A Bar Song (Tipsy)」を退け年間チャートを制したのは、11月までトップ10内をキープし続けたのみならず、集計期間初週の段階で既にランクインしていたことが大きいといえます。「A Bar Song (Tipsy)」は4月27日付で初登場しており、長期間チャートを制していても年間では追いつくことができなかったという形です。
これは今のストリーミング時代ならではであり、加えてラジオがストリーミングよりピークが遅くなる一方でストリーミング同様に持続することも影響しています。そのため集計期間の終盤に初登場した作品の年間チャート入りは極めて厳しく(集計期間8週分で年間62位に入ったレディー・ガガ & ブルーノ・マーズ「Die With A Smile」は特殊な例といえます)、今後も年間単位で同種の事態が起こることは自明です。
米ビルボードは2023年度の年間チャート発表直前にビルボード・ミュージック・アワードを開催、今週開催された2024年度のアワードにおいても同様です。年間チャートが事前にネタバレしてしまう懸念はあれど、年間チャートの注目度を高める意味では有効でしょう(しかしながらそのために2023年度の集計期間を49週としたことは問題だと今も感じています)。
ひとつの提案として、年間チャートと真逆の集計期間、すなわち下半期から上半期を集計期間とした形でビルボード・ミュージック・アワードを行うことが必要と考えます。そうすれば下半期主体のヒット曲が年間チャートで埋もれることが少なくなるでしょう。
以上10項目を紹介しました。他にも特筆すべき内容があれば追記を予定しています。これまでの週間ソングチャートについては、以下のリンク先から辿ることができます。
興味を持たれた方は是非、様々なチャートをチェックしてみてください。そして2025年度も素晴らしい作品に出会えることを、今から楽しみにしています。