イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) 米ビルボードによるグローバルチャート"Global 200"から日本の楽曲が姿を消す…原因と改善提案をまとめる

(※追記(9月1日8時35分):③(1)冒頭部分に誤字がありました。つきましては、『ポスト・マローンのニューアルバム『F-1 Trillion』収録曲が大挙初東欧しています』→『ポスト・マローンのニューアルバム『F-1 Trillion』収録曲が大挙初登場しています』に訂正しています。心よりお詫び申し上げます。)

 

 

 

ビルボードによるGlobal 200から、日本の楽曲が初めて姿を消しました。今年度の首位曲、および日本の楽曲の200位以内ランクイン状況は以下の表をご参照ください。

最新8月31日付Global 200(→こちら)では、K-POPが11曲ランクイン(48位に入ったザ・ウィークエンド、JENNIE(BLACKPINK) & リリー=ローズ・デップ「One Of The Girls」はJENNIEも主演扱いであることを踏まえて、またNewJeans「Supernatural」は日本向けの楽曲ですが主に韓国で活動する歌手ゆえ、カウント対象としています)。日本と韓国との差は昨年度拡がっていると記しましたが、その差は拡大を続けているといえます。

 

ビルボードは2020年9月、世界200以上の国や地域における主要デジタルプラットフォームのダウンロードおよびストリーミング(動画再生を含む)を構成指標とするグローバルチャートを開始。Global 200、およびGlobal 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.を立ち上げています。チャートの特徴等についてはこのブログにて紹介しています。

ふたつのチャートのトップ10は日本時間の火曜早朝に公開され、同日夕方以降に200位までが公開(Global Excl. U.S.は米ビルボードの有料会員のみが公開対象)。なお今回掲載した表では主に日本で活動する歌手の日本語詞曲を掲載しており、BTSの日本語詞曲や日本人のジョージ(Joji)による英語詞曲、また千葉雄喜さんが参加したミーガン・ザ・スタリオン「Mamushi」はミーガン・ザ・スタリオン主演曲ゆえ除いています。

 

Global 200にランクインする日本の楽曲は最近減っていましたが、当週はポスト・マローンのニューアルバム『F-1 Trillion』が米ビルボードのアルバムチャートに初登場したタイミングで収録曲が大挙エントリーしたことも、日本の楽曲の200位圏外に影響を及ぼしています。次週9月7日付ではサブリナ・カーペンター『Short N' Sweet』収録曲が大挙ランクインすることが予想され、日本の楽曲の復帰は難しいでしょう。

 

日本の楽曲のシェアは世界で上昇していると耳にすることもあり、海外でライブを行う日本人歌手も増えている中、Global 200で日本の楽曲の存在感が弱くなった理由は何か、自分なりにその理由と改善提案を記してみます。

 

<Global 200で日本の楽曲のランクインが減ったことについて>

 

 

① 原因

(1) ダウンロード数の減少

上記はGlobal 200およびGlobal Excl. U.S.における日本の楽曲のトップ10ヒット一覧。日本の楽曲は他の国や地域に比べてダウンロードが高く、それがストリーミングの大きくなさを補完していた側面がありました(グローバルチャートについては記事等で2指標の数値がほぼ紹介されていないため、厳密には解りかねます)。一方でそのダウンロード数は世界的に減少を続け、日本も同様であることは、日本のチャートからも明白です。

ダウンロードの強さというアドバンテージが弱まったことが、日本の楽曲のグローバルチャートにおける存在感が弱まった一因といえます。

 

(2) 世界各地の音楽の台頭、およびユーザー数上昇に伴う再生回数の底上げ

世界的にアメリカの音楽(私たちが"洋楽"と聞いておそらく真っ先に思い浮かべるであろう地域の作品)のヒットチャート占有率が下がっていることについては徒然研究室さんのnoteで指摘されていますが、これはグローバルチャートの新設でさらに際立った印象があるというのが自分の見方です。冒頭の表ではGlobal 200での首位曲も一覧化していますが、ラテンやメキシコ、韓国の最上位進出も目立っています。

そんな現在は、海外の音楽作品のみならず海外の音楽ユーザーも増えていると推測されます。日本もサブスクユーザーが増えているもののそれ以上の成長率となっている可能性があり、それが日本の楽曲が埋もれやすくなった要因と捉えています。

 

(3) (2)に伴い日本の楽曲が埋もれ、特大ヒットのみランクインする形に

Global 200にランクインする日本の楽曲は徐々に減り、今年度はCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」のみランクインする状況が11週続いています。米津玄師「KICK BACK」も同様の事態が7週続き、ストリーミングの特大ヒット曲のみがランクイン可能という状態です。日本のストリーミングは成長を続けていますが、特大ヒットのみ、そして海外でも支持を集める曲のみランクインという状況は今後加速することでしょう。

 

(4) Global 200の認知度の高くなさ

Global 200は主要デジタルプラットフォーム(iTunes StoreApple Music、SpotifyYouTube等)が加算対象であり、当然ながら日本での所有や接触も加算対象となります。一方でグローバルチャートの毎週の動向や、そもそもグローバルチャートの存在について日本で紹介されることはほぼありません。

(厳密にはグローバルチャートにおける毎週のトピックスについて、ビルボードジャパンによるメーリングリストで行われるようになりました(登録はこちらから可能です)。しかし広く一般に公開されておらず、またメーリングリストも今年になって開始されたものです。)

グローバルチャートでヒットしても、そのグローバルチャート自体の認知が低ければ音楽ファンそしてメディアがそれを重視することはほぼないでしょう。そしてともすれば、歌手においても同様かもしれません。

noteプロデューサーでブロガーでもある徳力基彦さんが今週、ミーガン・ザ・スタリオン feat. 千葉雄喜「Mamushi」のグローバルヒットをYahoo! JAPANのコラムで採り上げました。同曲はGlobal 200で最高29位を記録していますが、日本のメディアがこのヒットを採り上げることは今もほぼないといえる状況です。このことも、日本でのグローバルチャート認知度の低さを示す一例と考えるに十分でしょう。

 

ビルボードジャパンによるGlobal Japan Songs Excl. Japanについて

ビルボードジャパンは昨年9月、Global Japan Songs Excl. Japanというチャートを新設しました。これはGlobal 200を基に日本市場分を除外し、その中から日本の楽曲のみを抽出したもので、ビルボードジャパンはそれと同時に各国や地域における日本の楽曲のヒットを示すチャートも始めています。

このGlobal Japan Songs Excl. Japanは、今夏経済産業省が公開した報告書にも用いられていることから、ビルボードジャパンが大きく訴求する(今後訴求していく)データであることは間違いありません。勿論それ自体は有意義なものであり、歌手側が海外活動を行う指針にも成り得るでしょう。

しかしながら、世界においてGlobal 200の認知度が仮に高くないとして、Global Japan Songs Excl. Japanの認知度はそれ以下ではないかと推測します。米ビルボードではビルボードジャパンソングチャートの英訳記事はあってもGlobal Japan Songs Excl. Japanのそれをみかけません。Global Japan Songs Excl. Japanは業界内では影響力があるとして、より広く音楽ファンに浸透しリーチしているのはGlobal 200だと考えます。

Global 200は日本市場分だけでもランクインが可能と捉えています。無論その場合は獲得ポイントの内訳において日本史上分が圧倒的となり、ランクイン直後に急落する可能性もあるのですが、ランクインすることで爪痕を残し、世界進出の契機となることでしょう。ならばGlobal Japan Songs Excl. Japanのみならず、Global 200もきちんと紹介することがビルボードジャパン、そして日本のメディアに求められます。

 

③ 対策

(1) 新曲をリリース週から聴取する習慣を付ける

ロングヒット曲が強いグローバルチャートですが、たとえば最新8月31日付Global 200(→こちら)ではポスト・マローンのニューアルバム『F-1 Trillion』収録曲が大挙初登場しています。Spotifyデイリーチャートの動向からも解るのは、海外では新曲やニューアルバムが解禁日(その大半が金曜)にきちんと聴かれるという傾向が強いということ。ストリーミングに強い歌手のアルバム収録曲が大挙初登場するのはそれが理由です。

徒然研究室さんによるデータからは、主に日本の最新曲をコンパイルしたNew Music Wednesdayプレイリストの人気が高くない(フォロワー数が多くない)ことが解ります。推す歌手の曲は解禁日から聴く傾向があるとして、広く音楽ファンが新曲をきちんと聴く習慣を身に付けることで、ビルボードジャパンはもとよりグローバルチャートでも初動から高位置に立つことができ、また楽曲のライト層も育っていくはずです。

 

(2) LINE MUSICがグローバルチャートの加算対象になる(よう変化する)

グローバルチャートは世界の主要デジタルプラットフォームが加算対象となっていますが、明言はされていませんでした。ローカルサービスは加算対象外だろうことは予想できていましたが、ビルボードジャパンのチャートディレクターを務める礒﨑誠二さんが今年刊行した著書『ビルボードジャパンの挑戦 ヒットチャート解体新書』の中で、LINE MUSICがグローバルチャートの加算対象外であることが初めて判明しています。

LINE MUSICの対象外の理由はローカルサービスという側面もありながら、当該サービスが再生キャンペーンを主体とするコアファン向け企画を多用し、ライト層の人気曲が可視化されにくいことも、米ビルボード側が採用を見送った要因と捉えています。

とはいえローカルサービスのすべてが加算対象外ではないことは、今夏の韓国MelOn導入からも明らかです。LINE MUSICは推す歌手への熱量が高いコアファンを多く抱えているものとみられるため再生キャンペーン等を止めることは難しいでしょうが、歌手の世界進出を手助けするにはその企画からの脱却も必要でしょう。

 

(3) ビルボードジャパンソングチャートのチャートポリシーをグローバルチャートに沿わせる

これについては他の項と同様に上記グローバルチャートのまとめページでも述べていますが、やはりグローバルチャートに合わせることが必要と考えます。集計期間の金曜開始、リミックスの合算といったチャートポリシー(集計方法)がビルボードジャパンとグローバルチャートとで異なることで、海外でも活躍したいと考える歌手の施策は日本(月曜集計開始)と海外とでどっちつかずになってしまいます。

Travis JapanJUST DANCE!」が2年前にGlobal Excl. U.S.でトップ10入りを果たしましたが、リリースが金曜であり初週1週間フル加算となったこと、2種のリミックスがリリースされ合算されたこと、ダウンロードが高かったことが影響しています。翌週の急落はストリーミングの強くなさとダウンロードの失速が表れた形ですが、特にアイドルやダンスボーカルグループはこれと似た形でグローバルチャートを狙えるはずです。

そもそも日本の音楽チャートは月曜集計開始としていますが、フィジカル(主にCD)のリリースに合わせて決まったものと伺っています。しかしながら現在ではフィジカルの影響力は昔ほど高くありません。下記提案も再掲し、ビルボードジャパンが議論することを願います。

 

(4) サブスクのマイナスイメージを払拭する

世界の音楽ファンに"アジアの音楽といえば"と問えば、大半の方はK-POPと答えるのではないでしょうか。"ヒットしているアジアの音楽は"と問えばその確率はさらに高くなるでしょう。

日本の音楽はバラエティに富んでいることや様々なジャンルが存在することで全体的には聴かれているかもしれませんが、しかし中枢を担ってきたアイドル(を多数輩出した芸能事務所)や、シティポップの中心人物の作品等は未だデジタル未解禁であり、絶対に解禁しないと断言する歌手もいらっしゃいます。またサブスクは悪と発言した歌手もいて、日本の音楽ファンの一部にもマイナスイメージが根強くあると感じています。

世界の音楽ファンの中には、日本の音楽カタログが不十分なために好んで聴かなかったり、それを理由に日本の音楽(業界)への不信感も抱く方もいらっしゃるのではと考えるに、マイナスイメージの払拭は歌手側、音楽ファン双方において必須であり、緊急の課題でしょう。サブスクのマイナスイメージばかりを喧伝したり、(記事のわかりやすさを最優先すべく)オリコンを未だ重視するメディアにおいても、改善が必要です。

 

(5) Global Japan Songs Excl. JapanのみならずGlobal 200も紹介する

仮に日本の音楽がグローバルチャートでもランクインする可能性があると知れば、日本の歌手やそのコアファンはそれに向けて励むのではないでしょうか。そしてランクインすることで、日本の音楽を取り巻く人々(歌手側、メディアそして音楽ファン)が総じて、グローバルへの意識を少しでも高めるものと考えます。

その意味でも、このブログにて毎週グローバルチャートの速報を翻訳して紹介していますが、本来はビルボードジャパンを主体とするメディアが行うべきと考えます。

 

 

最後に:グローバルチャートはなぜ重要か

音楽チャートは絶対ではありませんが、しかし今の社会的ヒットをよりはっきりと示す鑑となっていることは間違いありません。そして音楽チャートに掲載されることで、その結果は残り続け、またメディアはそれを基に採り上げる性質が強いため、上位の作品は尚の事広く音楽ファンに知られることとなります。

ビルボードによるグローバルチャートの認知度は高くないという声があるとして、複合指標から成る世界規模のソングチャートは唯一無二であり、このチャートの動向はたとえば世界的な音楽フェスにおいて歌手を招聘する指針になるでしょう。フェス開催国のチャートも重視されるでしょうが、YouTube等で世界に向けての生配信が増えた今は広くグローバルチャートの動向が選定の重要な要素を担うはずです。

Global Japan Songs Excl. Japanも無論大事ながら、基となるGlobal 200の認知が高まることは、海外の音楽トレンド(徒然研究室さんが伝える"洋楽離れ"もそのひとつ)を理解する意味でも重要です。デジタル解禁は海外進出とほぼ同義であり、ビルボードジャパンのみならずグローバルチャートにも当然影響しています。日本と世界のチャートが地続きであると示すことで、音楽に関わるすべての方の世界意識を高められるはずです。