イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本の音楽に関する、今後注目すべきチャート動向3点を記す

今回は日本の音楽の現在を分析し、今後について考えます。今月にはMUSIC AWARDS JAPANが初めて開催されますが、今回の内容は年末以降の(MUSIC AWARDS JAPANを含む)音楽賞の行方を占うためのデータ分析ともいえるでしょう。

 

<日本の音楽に関する、今後注目すべきチャート動向>

 

 

① 「アイドル」「Bling-Bang-Bang-Born」に続く特大ヒットは誕生するか

ビルボードジャパン年間ソングチャートでは2023年度をYOASOBI「アイドル」が、2024年度をCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が制しています。注目は2曲共に、フィジカルセールス指標未加算の段階で複数週に渡り2万ポイントを突破していたという点です。

(なお「アイドル」は2023年6月28日公開分以降フィジカルセールス指標が加算、「Bling-Bang-Bang-Born」はフィジカルリリースされるもダブルAサイドの別曲にフィジカルセールス指標が加算されています。)

YOASOBI「アイドル」は2023年度第2四半期から、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」は2024年度第1四半期から強さを発揮していましたが、今年度は第2四半期後半に入りながらもそのような特大ヒット曲が出てきていないというのが、厳しいながらも私見です。

今年度はMrs. GREEN APPLEによる首位獲得が22週中8週と多く、アーティストパワーとしての強さが際立っています。「ライラック」は複数週で1万ポイントを超え大ヒットといえますが、一方で特大ヒットとなると(次の項目も含め)出ているとは言い難いと捉えています。今年度、特大ヒット曲は登場するでしょうか。

 

② 海外ヒットは登場するか

ビルボードには世界200位以上の国や地域による主要デジタルサービスのストリーミング(動画再生含む)やダウンロードから成るグローバルチャート(Global 200、およびGlobal 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.)が存在。YOASOBI「アイドル」は2023年度Global 200で年間42位、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」は2024年度Global 200で同67位を記録していますが、今年度は年間100位以内到達が難しいかもしれません。

ビルボードジャパンには、Global 200をベースに日本市場分を除いた上で日本の楽曲を抽出するGlobal Japan Songs Excl. Japanが存在します。上記表はGlobal 200で200位以内に入った日本の楽曲、Global Japan Songs Excl. Japan首位曲およびそのストリーミング数をまとめたものです。

(表において、日付はGlobal 200におけるそれであり、Global Japan Songs Excl. Japanの公開日はその2日前となります。またGlobal Japan Songs Excl. Japan首位曲において色付けしている作品は、同週のGlobal 200にて200位以内にランクインしていることを意味します。)

この表はGlobal Japan Songs Excl. Japan首位曲動向を踏まえたJ-POPの海外発信に関する提案と、NHKの重要性について(4月28日付)で掲載した内容に最新チャート分を追記したものですが、Global Japan Songs Excl. Japan首位曲のストリーミング数は記事未掲載分を除き、5月1日公開分では最も少なくなっています。加えて、Global Japan Songs Excl. JapanではMrs. GREEN APPLEが未だ20位以内にランクインしていない状況です。

総体的には海外に浸透していると思しき日本の楽曲ですが、Global Japan Songs Excl. Japanにおける最上位曲の推移をみるとその勢いはシュリンクし、名刺代わりになる曲が登場しているとは言い難いといえます。この状況を打破する作品が登場するか、またMUSIC AWARDS JAPANが世界配信されることで日本の楽曲が海外で盛り上がるかを注視することが必要です。

 

③ 日本のチャートでアイドル/ダンスボーカルグループの曲はロングヒットするか

Global Japan Songs Excl. JapanではMrs. GREEN APPLEもさることながら、アイドルやダンスボーカルグループの作品が(XGを除き)強くないのが特徴です。加えてこのジャンルは日本のソングチャートでも、フィジカルセールス初加算時に週間単位で上位に進出しても翌週に急落することが少なくありません。このことは今年度のビルボードジャパンソングチャート週間1~5位リスト表から読み取れます。

フィジカルセールス指標の急落は、言い換えれば初動が大きいことを意味します。実際、週間10万枚以上のセールスを誇るフィジカルシングルがほぼ毎週登場している状況です。

そんな中、アイドルやダンスボーカルグループの曲においてロングヒットの可能性が高まり、且つフィジカルセールスの重要性が感じられるのがHANA「ROSE」です。4週連続で総合トップ3入りを果たし、初登場時および最新週でトップに立った同曲ですが、その首位返り咲きの要因はフィジカルセールス指標が初加算されたことにあります。

他方HANA「ROSE」の初週フィジカルセールスは5万枚に達していないため、仮にHANAがこの指標で強くなれば今後のフィジカルシングル表題曲にて週間1万ポイント以上を獲得することが予想可能です。これは言い換えれば、デジタルに強い曲がフィジカルでも強ければロングヒット且つ週間単位での1万ポイント超えが見込めるということでもあります。

 

ただ、フィジカルセールスをデジタルの後押し的な形で捉えている、デジタルをより重視している歌手(運営)側は多くないのではと感じています。

HANA「ROSE」の最新チャート動向は上記エントリーで紹介していますが、ここでは僅差で2位となった&TEAM「Go in Blind (月狼)」について詳しく分析しています。その&TEAMにおいて、気になるポストがみられます。

上記は&TEAMによるX公式アカウントから発信されたビルボードジャパン関連の最新ポストですが、こちらで言及されているのはあくまでフィジカルセールス指標の基となるTop Singles Salesチャートであり、総合ソングチャートについては記載されていません。ただビルボードジャパンと同様に複合指標で構成され、フィジカルセールス指標のウエイトが大きいオリコン合算シングルランキングについては紹介されています。

&TEAMはフィジカルシングル前作にあたる「青嵐 (Aoarashi)」がビルボードジャパンの総合ソングチャートを制していますが、そちらにおいては複数回言及しています。

これらの発信から、&TEAMにおいては週間チャートを制さなかった場合は触れないという姿勢がみえてくるといえるかもしれません。加えて最新曲においてはオリコンデイリーシングルランキングの動向を日々発信しており、&TEAMがビルボードジャパンよりもオリコンをより重視しているのではと感じています。

しかし、複合指標に基づくソングチャートではオリコンよりもビルボードジャパンのほうが信頼できると断言します(2024年度年間ソングチャートを比較…ビルボードジャパンのみ信頼可能と考える理由(2024年12月21日付)等参照)。&TEAMにおいては最新曲「Go in Blind (月狼)」が僅差で首位の座を逃していることから、運営側はフィジカルセールス以外の強化、さらにビルボードジャパン自体に対する意識の向上が必要でしょう。

 

ビルボードジャパンよりもオリコンをより重視するという姿勢は、多くのアイドルやダンスボーカルグループが今も持ち合わせているものと感じています。しかし今年度、このジャンルにおいて複数週ビルボードジャパンにてトップ10入りしたHANA「ROSE」やCUTIE STREET「かわいいだけじゃだめですか?」、またtimelesz「Rock this Party」等はフィジカルセールス指標が強くない、もしくはそもそも未リリースの作品となります。これらの曲は年間チャートでのランクインも見込まれます。

オリコン知名度、またフィジカルセールスの重要度は以前ほど高くはありません。加えて、先述したグローバルチャートにおいてフィジカルセールスはダウンロード指標の対象外となります。週間単位での上位進出以上にロングヒットし年間チャートにランクインすることがより重要ですが、現在はその週間単位での首位獲得もフィジカルセールスだけでは難しいため、運営側のデジタル意識向上が求められます。