ビルボードジャパン12月6日に発表した2024年度年間チャートについて、ソングチャートを主体に分析等を実施したエントリーを同日午前に公開しました。ビルボードジャパンによる記事等をまとめたエントリーのリンクも掲載していますので、是非ご活用ください。
年間チャートはソング、アルバム、そしてふたつを合算したトップアーティストチャートのいずれも100位まで公開されています。そこで3日間に渡り、それぞれのチャートを深堀りしていきます。2回目はアルバムチャート編です。
【ビルボード 2024年 年間Hot Albums】Snow Man『RAYS』がミリオンを突破して総合アルバム首位(コメントあり) <12/6訂正> https://t.co/u7qn0DqwkD
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2024年12月6日
ビルボードジャパンは年間アルバムチャート100位まで、そして構成2指標については20位までを数値付にて公開。それらを踏まえ、下記表を作成しています。
年間チャート分析時にも記しましたが、アルバムチャートは所有指標のみで構成されます。またフィジカル1枚のウエイトが1ダウンロードよりも小さいながら、売上数ではフィジカルが圧倒的に大きいこともあり、フィジカルセールス20位までの作品が総合21位以内に入っています。
まずは、年間アルバムチャートにおける上位20作品のCHART insight(総合および構成指標の週間単位での推移)を貼付します。
<2024年度ビルボードジャパン年間アルバムチャート 上位20作品のCHART insight>
※ 1位から順に掲載
※ 年間最終週(11月27日公開分)までの最大60週分を表示
※ 順位、チャートイン回数は11月27日公開分を指します
(順位は11月27日公開分において20位未満ならばCHART insight未記載、チャートイン回数は同日公開分において100位未満ならば同じく未記載となります)
※CHART insightの説明
[色について]
黄:フィジカルセールス
紫:ダウンロード
[表示範囲について]
総合順位、および構成指標等において20位まで表示
[チャート構成比について]
累計における指標毎のポイント構成
総合および各指標20位までの表、および総合上位20作品のCHART insightからは以下の内容が読み取れます。
<2024年度ビルボードジャパン年間アルバムチャートの傾向>
① 男性アイドルやダンスボーカルグループが上位を寡占している
② 男性アイドルやダンスボーカルグループの大半作品でダウンロードの割合が低い
(一部にデジタル未解禁の作品も存在する)
③ 一部作品でフィジカルセールスが何度も再浮上している
④ トップアーティストチャート首位のMrs. GREEN APPLEが上位に登場していない
⑤ Spotifyチャートとは傾向が大きく異なる
⑥ ダウンロードが強い作品を輩出した歌手のジャンルはほぼ共通している
男性アイドルやダンスボーカルグループがアルバムチャートで強い一方、そのほとんどにおいてダウンロード率が高くないことについては表やCHART insightから明白といえます。また、SEVENTEEN『17 IS RIGHT HERE』『SEVENTEENTH HEAVEN』、TREASURE『Reboot』はフィジカルセールスが幾度となく再浮上していることがCHART insightから解ります。
冒頭で紹介した表に、いわゆる初動(初週売上)の数値および累計に占める初週セールスの割合を追記した表も用意しましたが、これをみると男性アイドルやダンスボーカルグループの大半で初週売上の割合が高いことが解ります(ただし年度末リリースの作品はその点を考慮する必要があります)。コアファンが初週にきちんと購入し、そしてファン全体の数も多いためにこの傾向が生まれているといえます。
その中で先述したSEVENTEENやTREASUREについては、2024年度累計フィジカルセールスに対する(同年度)初週売上の割合が低くなっていますが、この要因については以前ブログで紹介。フィジカルリリース後のフィジカル向け施策が大きく影響したと言っていいでしょう。
一方でフィジカルリリース後のフィジカル向け施策はダウンロードの上昇につながっておらず、その点からこの施策がコアファン向けだと理解できます。実際、フィジカルリリース後のフィジカル向け施策は徐々に拡がっているという印象です。
さて、ソングチャートとアルバムチャートを合算したトップアーティストチャートではMrs. GREEN APPLEが年間首位に立っています。ソングチャートにて100位以内に17曲を送り込んでいるのが強さの要因ですが、他方アルバムチャートでは『ANTENNA』が総合38位に入ったのみとなっています。
しかしながら『ANTENNA』ではダウンロード指標が安定しています。上記CHART insightは20位までの表示となっているため変動が大きく見えがちですが、しかしながら週間単位では2024年度における最低順位が29位であり、安定していることが見て取れます。実はフィジカルセールスにおいても最低順位が43位であり、ふたつの指標共に一度として50位を下回ったことはありません。
『ANTENNA』は2024年度上半期アルバムチャートで8,649DLを記録し6位に、またフィジカルセールスは20位以内に入っていませんでしたが55,720枚を売り上げたことが判明しています。特にフィジカルセールスについてはテレビ露出の影響に伴い2023年度末から翌年はじめにかけて伸びていますが、下半期も安定していたことが伺えます。
それでも社会的ヒット曲を多数収録した『ANTENNA』は年間アルバムチャートで上昇していません。1ダウンロードのウエイトがフィジカルセールス1枚より大きく設定されてもダウンロード数全体が少ないことに加えて、ビルボードジャパンのアルバムチャートが米ビルボードのように接触指標を含まないことも理由といえるでしょう。Spotifyによる週間アルバムチャートでは『ANTENNA』が常時5位以内に入っており、接触指標が含まれたならば上位に進出できたことが想起可能です。
そして、男性アイドルやダンスボーカルグループにおいてNumber_iは少し異なる動きを示しています。フィジカルセールスの累計に占める初週割合は他の歌手の作品より高いのですが、これは一般流通していないためにライト層(のうちデジタルよりもフィジカルで購入したい方)が手に取りにくいことも影響しているといえるでしょう。
【ビルボード 2024年 年間Download Albums】Number_i『No.O -ring-』首位獲得、宇多田ヒカル/米津玄師/King Gnuがトップ5入り(コメントあり) https://t.co/1Q6xD2vkHC
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2024年12月5日
ダウンロードにおいては『No.O -ring-』の初週割合がこのジャンルでは低いといえますが、その『No.O -ring-』は2024年度の最終盤6週にわたりダウンロード指標が22位以内となり、うち4週でトップ10入りを果たしました。これに伴い宇多田ヒカル『SCIENCE FICTION』を逆転した形ですが、翌週(2025年度初週)の100位未満への急落を踏まえるに、コアファンの結束が逆転につながったのではないかと捉えています。
この点は推測の域を超えず、仮に当たっているとしてその行動を批判する方もいらっしゃるかもしれませんが、海外の歌手にはチャート分析に長けたファンが存在し、SNSでは各歌手にチャート成績専用アカウントが設けられています。このようなアカウントはコアファンが自発的にかかわっているものと思われますが、歌手側が参考にしているとも考えていいでしょう。Number_i側の動きは海外歌手のそれを思わせるに十分です。
総合アルバムチャート20位以内でNumber_iの2作品と同じくダウンロードの割合が高いのは米津玄師『LOST CORNER』、宇多田ヒカル『SCIENCE FICTION』、King Gnu『THE GREATEST UNKNOWN』およびTravis Japan『Road to A』。先程紹介したMrs. GREEN APPLE『ANTENNA』でも同様です。男性アイドルやダンスボーカルグループの中でTravis Japanがこの並びに入っていることを興味深く感じています。
最後に、ビルボードジャパンおよび音楽業界に対し、3つ提案します。
このブログではビルボードジャパンに対し、米ビルボードに倣いアルバムチャートにストリーミング指標を導入することを提案し続けているのですが、2025年度がスタートしても叶わないままです。ただ、総合アルバムチャートにおけるフィジカルセールスに強い歌手の多さ、一方でSpotifyアルバムチャートとの乖離を踏まえれば、やはり接触指標の導入は考える必要があるという思いは変わりません。
ビルボードジャパンに対してはまず、総合アルバムチャートに組み入れないとしてもストリーミングアルバムチャート(Streaming Albumsチャート)を用意することを希望します。ひとつのサブスクサービスだけでは偏りもみられるため、Apple Music等も含めた上で、再生回数を有料会員と無料会員とで分け、それぞれにウエイトをつけた上で収録曲数で割り、最終的に足した数(ユニット数)でチャートを用意してほしいと願います。
ふたつ目はビルボードジャパンに対し、施策に伴う上位進出については再浮上も含め、記事にてその旨を紹介するよう願います。
『With K-pop acts ATEEZ, Jin and ENHYPEN at Nos. 1, 4 and 7, respectively, on the Billboard 200, there are three K-pop albums in the top 10 for the first time.』
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年11月24日
その一方で、この3作品には共通の特徴があります。その特徴は、次週の順位に大きく反映されるものと考えます。 https://t.co/DkWqKR7Zgq pic.twitter.com/FrlHLM4XYO
米ビルボードの11月30日付アルバムチャートでは史上初めてK-POP歌手による3作品がトップ10入りを果たしていますが、そのいずれもがフィジカルセールスにおける施策を実施していることを米ビルボードが記事の中で触れています。K-POP以外においてもほぼ必ずこのような記載がみられており、その点から翌週の動向を推測することができます。
ビルボードジャパンにおいても記事にて順位のみならず、その進出に至る背景を解説しすることを希望します。ただしそれを踏まえて上位進出した歌手を非難する人や、また歌手側も余計なことを書くなと述べてくるかもしれませんが、その際はチャート運営者として堂々たる態度を示すことを願います(なお前者については”ハック”という言葉を用いるかもしれませんが、その言葉への違和感は昨日noteに記しています(→こちら))。
そしてもうひとつ。現状のアルバムチャートの構造では、アルバムの内容が高く支持されたとしてもソングチャートのように上位に進出できにくいといえます。その点を踏まえ、日本の音楽業界が内容(質の高さ)を評価する制度を設けることを希望します。日本レコード大賞ではアルバム部門が残念ながら形骸化していると言わざるを得ないため、来年初開催されるMUSIC AWARDS JAPANに期待したいところです。