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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードジャパン最新動向】Ado『ONE PIECE FILM RED』関連曲の凄さは様々な側面に表れている

毎週木曜以降は、最新のビルボードジャパン各種チャートについてお伝えします。

最新8月17日公開分(8月22日付)ビルボードジャパンソングスチャートはAdo「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」が初制覇。Adoさんは史上初となるソングスチャートトップ3独占を達成し、アルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』から7曲が16位までにチャートインを果たしています。今回のソングスチャートに関してはまず、ビルボードジャパンの各種記事をご覧ください。アルバムに関しては明日紹介予定です。

 

ソングスチャートトップ3を占めたAdo「新時代」(以下、"(ウタ from ONE PIECE FILM RED)"は省略)、「逆光」および「私は最強」は前週も50位以内に入っており、ポイント前週比が算出可能。「新時代」(3→1位)はポイント前週比193.3%、「逆光」(25→2位)は同273.3%、「私は最強」(30→3位)は同277.6%となり、その急伸がよく解ります。

大きな力となったのは主にストリーミングで、「新時代」が1716万回を突破し今年度週間最高となる再生回数を更新したほか、「逆光」が1027万回、「私は最強」は993万回を突破。映画興行収入の凄まじさやその評判の浸透、およびアルバムリリースが相俟って高水準に至っています。

これら数値についてはビルボードジャパンの記事やポッドキャスト、またチャート分析者のツイートも是非ご覧ください。ここでは別の側面から注目すべき点を取り上げます。

 

Ado『ONE PIECE FILM RED』関連曲の凄さの理由

 

Ado『ONE PIECE FILM RED』関連曲の社会的浸透を物語る指標とは

Adoさんのライブ開催やYouTubeでの生配信等、最新8月17日公開分(8月22日付)ビルボードジャパンソングスチャートの集計期間中には様々なイベントが行われました。映画『ONE PIECE FILM RED』の様々なプロモーションやタイアップも含め、それらを音楽チャートの施策をして捉えることも可能であり、中には施策に因る上位占拠という見方も生まれるかもしれません。

施策に伴うものであれば、施策終了後にチャートで急落することでしょう。作品が真に社会的にヒットしているかを見極めるには、上位進出を果たした週とその翌週とのポイント推移をチェックすることがまずは必要です。また、たとえ最新週のみの分析であっても、曲がきちんと浸透していることを示す指標が存在するものと考えます。それがラジオ、そしてカラオケです。

(上記は公式オーディオ。)

上記は最新8月17日公開分(8月22日付)におけるビルボードジャパンソングスチャート、7曲のCHART insight。注目のひとつ、黄緑で示されるラジオ指標は「Tot Musica」以外すべて300位以内に入っています。「新時代」は23→4位、「逆光」は100位未満(300位圏内)→95位、「私は最強」は100位未満(300位圏内)→63位となり、「ウタカタララバイ」「風のゆくえ」「世界のつづき」は初加算されています。

31の放送局を集計対象とするラジオにおいては1週間のOA数に限りがあり、またたとえばダブルAサイドシングルはリリース週に票割れを起こします。最近ではHey! Say! JUMPのトリプルAサイドシングルのうち、フィジカル関連指標が加算された「a r e a」よりも「恋をするんだ」がラジオ指標を獲得したことをブログで取り上げました。

ラジオが特殊な指標であることは昨日のブログエントリーでも触れていますが(→こちら)、その中にあってAdoさんの『ONE PIECE FILM RED』関連では6曲がビルボードジャパンソングスチャートのラジオ指標で300位以内に入りポイントを獲得、うち3曲が同指標100位以内に入っています。「新時代」にOAが集中傾向にある中、しかし票割れを起こしたとは考えにくいというのが私見です。

また『ONE PIECE FILM RED』関連曲が前週のソングスチャート、つまりは映画公開日を含む週にラジオ指標でピークを迎えたわけではないことも重要なポイント。映画やAdoさん側がラジオで施策を実施したならば、アルバムリリース週と同じくらい映画公開日前後にも先行リリース曲がラジオ指標でチャートを上昇したはずです。映画の評判を踏まえたリクエストや、大ヒットを踏まえたOAが背景にあるものと思われます。

 

ソングスチャートにおけるカラオケ指標も同様です。CHART insightでは緑で示されるこの指標について「新時代」では52→11位と躍進したほか、「逆光」および「私は最強」では最新8月17日公開分(8月22日付)で初めて300位以内に入り加算対象となりました。

カラオケはソングスチャートを構成する8指標の中で伸び始めるのが最も遅いのですが、映画公開2週目に先行曲が結果を残し始めています。カラオケ指標は歌手のゲスト出演等施策があったとしても影響力は大きくないと思われ、ここにも映画の反響が大きく表れていると言えるでしょう。カラオケ、そしてラジオにおいても映画や歌手側の施策の反映しにくいところできちんと結果を残したと捉えています。

 

 

「新時代」は多様なヒットの形の複合体である

Ado「新時代」はTikTokでも人気に。最新8月17日公開分(8月22日付)ビルボードジャパンによるTikTok Weekly Top 20では9位に初登場を果たしました。

また歌ってみたや踊ってみたに代表されるユーザー生成コンテンツ(UGC)を集計したチャート、Top User Generated Songsチャートでも最新週で35→2位に急伸しています。

ショートやUGCの人気は公式動画再生やサブスク等に人気が波及し、動画再生やストリーミング指標の上昇に寄与します。「新時代」が先述したストリーミング再生回数のみならず動画再生指標でも1,554,590→3,674,981再生(2週分のソングスチャート記事より)と飛躍的に増加したのは、上記ツイートにおける公式インストゥルメンタル音源提供も影響しながら、能動的主体的に動画を作成する方の存在が大きいものと考えます。

Ado「新時代」は、Tani Yuuki「W/X/Y」やSEKAI NO OWARI「Habit」に代表されるTikTok発のヒットの流れもきちんと汲んでいるのです。

 

 

ソングスチャート占拠は必ずしも米ビルボード的とは限らない

ビルボードジャパンのポッドキャストは各種サブスクサービスやYouTubeでも聴くことができます。そこで今回のAdoさんによるONE PIECE FILM RED関連曲がアルバム初登場週にソングスチャートで上位を占拠したことについて、米ビルボード的だと述べられています。

たしかに「新時代」「逆光」「私は最強」は総合ソングスチャート同様にストリーミング指標も同順位でトップ3を占めたほか、「ウタカタララバイ」(総合5位)はストリーミング4位、「風のゆくえ」(総合12位)は同17位、「Tot Musica」(総合13位)は同14位、「世界のつづき」(総合16位)は同21位となり、アルバムの先行リリースではない作品もストリーミングで上位につけていることが解ります。

ビルボードでは今年5月から6月にかけて4週連続で、フューチャー、バッド・バニー、ケンドリック・ラマーおよびハリー・スタイルズがアルバム初登場週にソングスチャートトップ10内に4曲を送り込みましたが、何より昨年9月のドレイクにおける9曲同時初登場トップ10入りが話題となりました。この主な要因はストリーミング指標(米では動画再生も含む)であり、その点は今回のAdoさんも同様です。

ただし異なる点が。米ではストリーミングの普及や新曲リリース日(基本的にチャート集計期間初日となる金曜)の認知が徹底されているためか、リリース日のストリーミング再生回数が非常に大きい一方で土曜以降は減少する傾向にあります。総合ソングスチャートトップ10寡占の翌週にリード曲以外が急落するのはそのためです。

日本の場合、数値が可視化されたSpotifyの動向をみると基本的な再生回数は平日(金曜は他曜日より低い)<土曜<日曜と推移します。また新曲リリース日に最高再生回数を記録することはほぼありません。上記ツイート内グラフは一昨日までの再生回数推移を示していますが、Adoさんの7曲はすべて一昨日に最高再生回数を更新。今週月曜以降の数値は次週のビルボードジャパンソングスチャートに反映されます。

前週がお盆(休み)の影響もあり再生回数が幾分減少傾向だった点は否めませんが、おそらくは他のサブスクサービスでも前週および今週は似た動きとなることでしょう。アルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』リリースが収録曲の再生回数を押し上げたことも間違いないはずです。所有指標のダウンロードが次週下がったとしてもストリーミングの高水準キープに伴い、次週Adoさんの3曲トップ10キープも十分考えられます。

 

ビルボードビルボードジャパン、もっといえばアメリカと日本での聴かれ方の違いはチャートにきちんと表れるものと考えます。昨日の「Tot Musica」ミュージックビデオ公開で「風のゆくえ」以外はすべてミュージックビデオが用意されたことになるため、アルバム収録曲とはいえども7曲はほぼすべてシングル曲という位置付けと捉えていいかもしれません。

 

 

 

ストリーミング再生回数等の数値を踏まえながら、様々な側面からAdo『ONE PIECE FILM RED』関連曲の凄まじさを紹介しました。次週以降のチャート動向を踏まえ、真の社会的ヒットを確立するかに注目しましょう。

なお、米ビルボードが一昨年秋に新設したグローバルチャートにおいてもAdo「新時代」は上位に進出しています。Global 200やGlobal Excl. U.S.ではトップ10ヒットに至れていませんが、日本でヒットが安定している間に海外で映画への反響が生まれれば、いずれトップ10入りする可能性はゼロではないでしょう。