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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ピノキオピー「神っぽいな」がビルボードジャパン100位以内に初登場…チャートの不思議、そして関連動画に願うこと

最新8月3日公開分(8月8日付)ビルボードジャパンソングスチャート、動画再生指標でHey! Say! JUMP「ファンファーレ!」がトップ5入りを果たしたことは昨日お伝えしました。ジャニーズ事務所所属歌手の動画強化は実に興味深いものがあります。

この最新ソングスチャートにおける動画再生指標で、「ファンファーレ!」のひとつ上にランクインしたのがピノキオピー「神っぽいな」でした。

昨年9月にリリースされた「神っぽいな」はボーカロイド初音ミクを用いた曲で、カラオケやストリーミング指標を中心に人気を博していましたが、CHART insightをみると赤で示される動画再生指標は前週まで一度も100位以内に到達していませんでした。

(ピノキオピー「神っぽいな」におけるふたつのCHART insightのうち、後者は動画再生指標のみを抽出したもの。最下部は100位未満ながら300位圏内にランクインしていることを示しています。)

ピノキオピー「神っぽいな」の動画は8月6日5時の段階で4141万再生を記録しており、毎週のように動画再生指標300位以内に入るほどの勢いがあったかもしれません。にもかかわらずこれまでこの指標がほぼ加点されなかったのは、再生回数に占める日本の割合が多くなかった可能性もありますが、動画再生指標の加点対象となるISRC(国際標準レコーディングコード)付番が十分ではなかったのではと考えられます。

その「神っぽいな」がこのタイミングで動画再生指標4位に到達、且つ総合100位以内初登場を果たしたは、Adoさんによる歌ってみた動画の影響が極めて大きいでしょう。最新8月3日公開分(8月8日付)ビルボードジャパンソングスチャートの集計期間前日となる7月24日にAdoさんがアップした「神っぽいな」歌唱動画は、8月6日5時の段階で547万回以上の再生回数を記録しているのです。

 

日本でのYouTubeミュージックチャートの動向をみてみます。このチャートは海外の音楽チャートに倣ってでしょう、木曜を集計期間最終日としています。またこのチャートにはミュージックビデオ(単位の)ランキングおよび複数のミュージックビデオをまとめた楽曲(単位の)ランキングが存在します。

<日本のYouTubeミュージックチャートにおける「神っぽいな」2バージョンの動向>

(順位は7月1~7日→8~14日→15~21日→22→28日の4週分を記載。)

ピノキオピー「神っぽいな」

 楽曲ランキング 42位→26位→31位→9位

 ミュージックビデオランキング ー → ー → ー →50位

・Ado「神っぽいな」歌ってみた動画

 楽曲ランキング ー → ー → ー → ー

 ミュージックビデオランキング ー → ー → ー →6位

※ 日本のYouTubeミュージックチャートはこちらで確認可能。

Adoさんによる「神っぽいな」歌ってみた動画はミュージックビデオランキングでオリジナル版より上位となりながら、楽曲ランキングには入っていません。これは楽曲ランキングがピノキオピー「神っぽいな」に集約されているため。オリジナル版もミュージックビデオランキングで下位ながら楽曲ランキングで常時100位以内に入っていますが、これは楽曲ランキングがUGC(ユーザー生成コンテンツ)を含むためであることがミュージック チャートとインサイト - YouTube ヘルプから判ります。

一方でビルボードジャパンは、2021年度よりソングスチャートの動画再生指標において、カウント対象からUGCを除去しました。このUGCを代表する動画が、いわゆる歌ってみたや踊ってみたなのです。

ところが冒頭でお伝えしたように、最新8月3日公開分(8月8日付)ビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標ではピノキオピー「神っぽいな」が4位に登場しています。となると、Adoさんの歌ってみた動画というUGC的作品が実はピノキオピーさんの公式動画扱いとなっていたと捉えることができ、ビルボードジャパンのチャートポリシーに矛盾が発生したと言えるのです。

 

 

自分の認識が誤っている可能性もありますが、ビルボードジャパン側にはピノキオピー「神っぽいな」にAdoさんのUGCが含まれていないかを今一度確認していただきたいと思います。尤もAdoさんの歌ってみた動画にオリジナル版のISRCが付番され、ビルボードジャパンの集計時に合算された可能性もあります。

それとは別に、今回の「神っぽいな」のチャート急伸から見えてくるものがあります。

2021年度以降ビルボードジャパンはソングスチャートの動画再生指標からUGCを外していますが、UGCの影響力を踏まえて別途Top User Generated Songsチャートを作成しています。2022年度における各週のトップ20は上記となりますが、ピノキオピー「神っぽいな」をはじめとするボカロPの作品が上位を占めているのです。しかしUGCのチャート独立以降、総合ソングスチャートでの進出は一気に減ってしまいました。

今回ピノキオピー「神っぽいな」が初めてビルボードジャパンソングスチャートで100位以内に進出できたのは、Adoさんという広く認知された方によるカバーの存在や、仮にAdoさんの動画がUGCだった場合はビルボードジャパンの集計不備も影響しているかもしれません。しかし以前から「神っぽいな」のUGCが多いならば、Adoさんによるカバー発表以前から総合チャート100位以内に登場しておかしくなかったはずです。

ボカロPの音楽がビルボードジャパンの総合ソングスチャートで存在感を示すにはビルボードジャパンのみならず、ともすればボカロPの音楽を共有する方々の意識強化にもかかっているのではと感じています。

(中略)

気になったのは、歌ってみた動画の概要欄に本家の動画のリンク先はあるものの、ダウンロードやストリーミングのリンク先が記載されていないということ。これは上記キャプチャに登場する「神っぽいな」歌ってみた動画すべてに共通しているのです。本家ピノキオピーさんの動画には"Listen digitally on Apple Music, Spotify, and more"に続いて各種デジタルプラットフォームへの遷移先がまとめられたリンクが貼付されています。

(中略)

このリンク、ともすれば本家のみが貼付を許されているのかもしれません。しかしそうでないのならば、歌ってみたや踊ってみた動画を発信する方は本家の動画を紹介するのみならず、本家作品の各種デジタルプラットフォームへの遷移先リンクを一緒に概要欄に貼付するのはいかがでしょう。そうなることで動画再生指標以外も刺激し、ビルボードジャパン総合ソングスチャートでボカロPがさらなる存在感を示せるはずです。

Adoさんによる「神っぽいな」動画の概要欄でも本家作品の各種デジタルプラットフォーム遷移先リンクが未掲載となっていました。この未掲載は歌ってみた動画における流儀なのかもしれませんが、しかしオリジナル版がデジタル解禁しているならばそのリンクを貼付することはオリジナル版歌手への敬意になるのではと考えますし、もっと言えばボカロP作品の浮上やライト層浸透のきっかけにもなるのではないでしょうか。

 

 

ボカロPによる作品が日本の音楽文化の大きな潮流のひとつになっていることは間違いありません。しかしながらその作品群がビルボードジャパンソングスチャートで上昇せずヒットが可視化されない状況は勿体無く感じてしまいます。Adoさんによるカバー動画によりボカロP作品の新たなヒットの形がみえたことから、歌ってみた動画のさらなる興隆を願うとともにUGC投稿者の意識付けの徹底もまた必要だと考えています。