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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートなどを紹介します。

【ビルボードコラム】ソングスチャート構成指標のひとつ、ラジオとは何か

月曜は不定期で、日米グローバルのビルボードチャートに関するコラムを書いていこうと考えています。第一回目となる今回は、ラジオ指標を取り上げます。

 

 

ビルボードジャパンソングスチャートは現在、8つの指標で構成されています。最も新しく導入されたのはカラオケですが、チャートがはじまった2008年はわずか2つの指標のみで構成。CDに代表されるフィジカルセールス、そしてラジオです。

このブログでは毎週登場するチャートについて注目点を取り上げており、様々な反応をいただきます。心より感謝申し上げます。いただいた反応の中で、たとえばデジタルに明るくない歌手のファンの方に、"ロングヒットを目指すべくラジオ活動を頑張る"という声が聞かれるのですが、この反応に対し少なからず違和感を抱いたことが今回のコラム執筆のきっかけです。

先に回答を示すならば、ラジオでの頑張りが総合でのロングヒットにはつながりにくいというのが私見です。そう思う理由について、今年度のラジオ指標における傾向を捉えた上で記載します。

 

 

下記は2021年度(2020年12月2日公開(12月7日付)以降)のラジオ指標トップ20の一覧。CHART insightから黄緑で表示されるラジオ指標をクリック(タップ)すると20位までが確認可能です。前週8月25日公開(8月30日付)ビルボードジャパンソングスチャートが今年度第三四半期最終週に当たることから、39週分を以下に掲載します。CHART insightはこちらに。

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ラジオ指標はプランテックによる全国31のAM/FM局のOA回数データに基づき、聴取可能人口等を加味したビルボードジャパン独自の内容となっています。またプランテックのOA回数データは毎週水曜夕方、ミュージックマンネットにて公開されています。下記リンク先は今年度上半期のOA回数に基づくチャートとなります。

今年度上半期のOA回数チャートにおけるトップ3(Official髭男dism「Universe」、シルク・ソニック「Leave The Door Open」およびBTS「Dynamite」)については、上記表にて色付けしています。

 

 

このラジオ指標のデータをみると、ラジオ独特の特徴が見えてきます。

 

ラジオ指標のチャートとビルボードジャパン総合ソングスチャートとでは、順位に乖離が目立ちます。最新8月25日公開(8月30日付)においては、総合ソングスチャート上位20曲の中にラジオ指標トップ10入りの曲は5作品のみ。他指標ではダウンロードが8曲、動画再生が9曲、そしてストリーミングは10曲すべてが総合トップ20内に入っており、ラジオはデジタル指標群を下回ります。他の週でも傾向はあまり変わりません。

 

これはラジオに強い曲の特性が大きく影響していると言えます。特性のひとつが、放送局や番組独自で設けるヘビーローテション(ヘビロテ)やパワープレイと称したプッシュ曲の存在。局によっては採り入れないところもありますが、月間でその曲を大きく推すことが多く見受けられます。 

そのヘビーローテションに選ばれる曲にも傾向があります。邦楽では、デビューから数作以内の曲、芸能事務所やレコード会社がイチオシとする曲がラインナップに登場しやすく、洋楽においては前作が世界的に大ヒットした歌手の次作からのリード曲が選ばれやすい印象です。

ヘビーローテション以外にも、流れやすい曲には傾向があります。まずはベテラン歌手の強さ。今年に入り桑田佳祐さんはサザンオールスターズも含めて3曲を首位に送り込んでいますが、これは桑田さん自身が全国ネットのラジオ番組を持っていることが大きいと言えます。これは松任谷由実さん等にも共通する特徴ですが、ラジオ番組を持つ歌手は若手でも上位進出が目立ちます。

また、時流を大きく反映するのも特徴です。クリスマスや桜のシーズン、ピンポイントでは毎年上昇するレミオロメン「3月9日」も、ラジオが大きく反応することで総合チャートにも登場しています。また訃報や結婚等のニュースが飛び込んだタイミングでも大きく動きます。年末にはその年のヒット曲総ざらいを実施し、海外の音楽賞が決定すると関連曲を流すのも、ラジオならではと言えます。

海外の流行に比較的敏感なのも特徴です。洋楽の比率は以前よりも減ったように思われますが、たとえばオリヴィア・ロドリゴ「Drivers License」にいち早く注目したのもラジオと言えるでしょう。

海外の動向は追いかける一方、日本の流行とは乖離していると言えなくもありません。特にTikTokYouTubeを起点とした動画発のヒット曲においては、他の指標より盛り上がりに欠ける、もしくは遅い傾向があります。優里「ドライフラワー」やAdo「うっせぇわ」が代表的ですが、そのAdoさんについては「踊」や「夜のピエロ」、「会いたくて」がトップ20入りしており、遅ればせながらも注目していることが見て取れます。

 

流れやすい曲には傾向がある一方、どんなに強くともロングヒットしにくいのがラジオの特徴です。上半期OA回数の上位2曲でもラジオ指標20位以内に10週間もランクインできていません(Official髭男dism「Universe」は9週、シルク・ソニック「Leave The Door Open」は8週)。BTS「Dynamite」の15週が如何に凄いかがよく解りますが、なかなか上位にとどまることができないのです。

そもそも、1週間のOA回数には限度があります。ストリーミング指標でBTS「Butter」が今夏、これまでの週間再生回数記録を1100万回以上も上回り最高記録を大幅に更新しましたが、ラジオにおいてはこのような記録がまず誕生しないと言えます。歌手の方がDJを務める番組ではない限りは一回の番組で同じ曲を複数回かけることはほぼなく、歌手の方がDJを担当する番組でも同じ曲を一回の中で複数回かけることは稀です。

また、ラジオ指標は現在のチャートにおいてとりわけ強化が求められる接触指標のひとつではありますが、しかしながらユーザー(リスナーやファン)が求める曲を気軽に聴くことは難しいのです。リクエストしても採用されるとは限らず、選曲権は放送局や番組にあります。サブスクや動画再生指標が能動的接触指標であるのに対し、ラジオは受動的と言えるのです。 

 

 

デジタルに明るくない歌手のファンの方に"ロングヒットを目指してラジオ活動を頑張る"というリアクションが散見されることに違和感を覚えたのがこのブログエントリー執筆のきっかけでした。ここまでラジオ指標の特徴を書きましたが、OA曲に独特の傾向があること、同じ曲を短いスパンでかけることが稀であること、聴き手に選曲権がないことを踏まえるに、ラジオ指標でのロングヒットは非常に難しいというのが私見です。

デジタルに明るくなくとも明るくとも、ラジオ指標が上位に来ることは無論好いことであり、またリクエストも十分意味のあることです。とはいえ、仮にデジタルに明るくない歌手のファンの方ならば、歌手の運営側にデジタル解禁を陳情することこそ必要と言えます。無理に決まっていると言われればそれまでですが、要望が多いほど運営側は考える気概を持つはずです。ブログの反応からはデジタル希望者の多さを感じています。

そしてラジオにて恒常的にOAを獲得するならば、日頃からリクエストを行うことはやはり大事でしょう。その声が多いほど、放送局や番組サイドはファンの多さを汲み、局や番組の高聴取率や人気獲得の可能性を踏まえ、曲の採用のみならずその歌手をDJとして起用したいと思うようになるかもしれません。声を上げることはやはり大事です。

 

 

これまではラジオにおけるOA曲の傾向等を記しましたが、ラジオ指標のビルボードジャパンソングスチャートにおける獲得ポイントについても考えてみます。結論から言えば、獲得ポイントは決して多いとは言えないと捉えています。

最新8月25日公開(8月30日付)ビルボードジャパンソングスチャートのラジオ指標で首位を獲得した桑田佳祐「炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]」は同指標だけでおよそ2000ポイント獲得していますが、おそらく毎週のラジオ指標首位獲得曲の同指標におけるポイントは、一週間の総放送時間の限度を踏まえるに同程度と考えられます。他指標の首位曲におけるポイントと比べると、少ないというのが私見です。

これにはラジオ指標の影響力低下も響いていることでしょう。元来ラジオ指標は、ビルボードジャパンソングスチャートが始まった2008年ではフィジカルセールス共々構成指標となっており、最も古くから加算対象となっていました。それが現在では8つに増え、そして途中からラジオ指標単体でのチャートがビルボードジャパンのホームページに掲載されなくなっていることが、影響力低下の何よりの証明と考えます。

 

ラジオは聴取率もダウン傾向にありますが、しかしradikoの普及やコロナ禍にて自宅滞在時間が増えたことで見直しの機運が高まっていると言えます。他メディアでもラジオが取り上げられる機会が増えました。ただ、取り上げられる番組はお笑い芸人がDJを務めるものが最も多く、音楽番組は脇役という印象が強くあります。それもあって、ラジオの音楽業界への影響度を疑問視する方は少なからずいらっしゃることでしょう。

TwitterYouTubeは分かりますがラジオを合算する意図は何ですか。

ラジオは音楽と親和性が高く、かつパーソナリティとリスナーとで1対1の関係を築くユニークなメディアです。ソーシャルメディアと同様に、楽曲をリスナーと「シェア」することが出来るメディアとしてラジオは重要な指標と私たちは考えています。

それでもビルボードジャパンは、ラジオの意義を強く感じています。ラジオの裏方にいた自分も、ラジオで音楽を聴く意味の大きさを実感し、ツイートやブログエントリーに記しました。

ユーザーが能動的に選曲できなくとも、好きな放送局や番組から偶然流れてきた曲を好きになった経験は、多くの方が持ち合わせているのではないでしょうか。ラジオ指標はロングヒットしにくくまたポイントも多くなく、総合ソングスチャートと乖離しやすいものですが、ラジオ好きの方が曲に触れることでその歌手が気になるきっかけをもたらしてくれます。その意味でも、リクエストは重要だと感じています。

 

 

ラジオは他指標に比べると獲得ポイントは決して多くはなく、ロングヒットにも至りにくいのが特徴です。受動的接触指標ゆえユーザーの思いは反映されにくいかもしれません。それでも、リクエストを絶やさないことで今後リリースされる曲が放送局や番組側に重用される環境を築くこと、受動的に触れてファンに至る方を増やすことといった中長期的な視点が必要と捉えています。ラジオはいい意味で特殊な指標と言えるのです。

 

 

 

最後に、ラジオ業界への願いを記すならば、まずは流行の音楽へのアンテナを磨いてほしいということ。動画発のヒット曲であるYOASOBI「夜に駆ける」や瑛人「香水」はラジオの上昇が総合でのヒットに大きくつながっています。逆に言えば他指標より盛り上がりが遅れており、その流行をより敏感に捉えることが求められるでしょう。

また、プランテックの計測対象が31局である理由は解りかねますが、ともすれば地方局側がOA曲の情報を迅速に上げられないためその数にとどまっているとも考えられます。その情報提出を迅速にすれば民放局すべてを網羅でき、また地方に根付くコミュニティFMや全国ネットのインターネット放送局も加算できるようになるのではないでしょうか。ラジオ全体の盛り上げには、地方やネット局との結束が欠かせないと考えます。