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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

BTS「Butter」に勝利…サザンオールスターズ「真夏の果実」がラジオ指標2位に急浮上した理由

最新6月16日公開(6月21日付)ビルボードジャパンソングスチャートにおいて、31年前にリリースされたサザンオールスターズ真夏の果実」が総合61位に浮上しています。

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この躍進を支えるのがラジオであり、同指標では米津玄師「Pale Blue」に次ぐ2位。「真夏の果実」はBTS「Butter」に勝っているのです。この理由は何でしょうか。

 

ビルボードジャパンソングスチャートにデータを提供するプランテックは、ラジオOA回数のチャートを独自に用意しています。集計期間を同一とする週、「真夏の果実」は3位に入りました。

3位はサザンオールスターズ真夏の果実」が急浮上した。1990年にリリースされた同曲は、桑田佳祐が初監督を務めた同年公開の映画『稲村ジェーン』主題歌。サザンオールスターズのデビュー43周年記念日となる6月25日には、同映画が初Blu-ray&DVD化される他、同12日〜27日開催の【茅ヶ崎映画祭】で10周年記念特別招待作品に選出されていることから、茅ヶ崎など全国6都市で同時上映会が開催される。このキャンペーンに際して突如、前週164位に登場し、今週さらにオンエアが急伸してのTOP3入りとなった。

なお、同映画サウンドトラックからは「希望の轍」も今週151位にチャートインしており、「稲村ジェーン」が映画界・音楽界ともに重要作品として位置づけられていることが今週のオンエアから分かる。

映画『稲村ジェーン』の映像盤登場は既に4月の段階でアナウンス済。また桑田佳祐さんがDJを務める『桑田佳祐やさしい夜遊び』(TOKYO FM/JFN)では桑田さんが不在ながらも5月15日から2週に渡って特集が組まれています。ならばもっと前から上昇してもおかしくないのですが、なぜこのタイミングで、それもなぜ急浮上なのかが不思議でした。

 

それを探るヒントとなるのが、ビルボードジャパンソングスチャートにおけるラジオ指標2位と、OA回数3位との差。ラジオ指標はプランテックのOA回数データに基づき、聴取可能人口等を加味して独自に指標化したものであり、OA回数が少なくとも大都市圏で集中的にOAされれば指標的に順位が上昇するのです。

 

その大都市圏といえば、6月7日からの1週間にはこのようなことが。

関西のラジオ局によるこれらキャンペーンは、この1週間が聴取率調査週間だったことの表れと言えます。そんな中、FM COCOLOがこのようなキャンペーンを組んでいます。

『6月を通してさまざまな番組で「稲村ジェーンサウンドトラック収録曲を中心にサザンナンバーをたっぷり多彩にお届けしていく』(上記記事より)とのことで聴取率調査週間に限ったことではありませんが、サザンオールスターズを、それも『稲村ジェーン』関連曲を大きくフィーチャーしており、これも大きく影響したと言えるでしょう。

 

この流れで、今度は首都圏ラジオ局が6月14日から昨日まで聴取率調査週間であったことから、ともすれば「真夏の果実」のラジオヒットが続くものと思われます。実は聴取率調査週間において、ラジオ局や番組にはOAされる曲の傾向があるのです。

ラジオエアプレイは他の指標と異なり一押しの新曲や新人を紹介する傾向が強く、総合チャートとは順位が大きく乖離しているもののその独自性が面白い指標という印象があります。しかしながら、スペシャルウイークでは普段ラジオをあまり聴かない方にも聴いてもらうべく、ここ最近ヒットしている曲をより多くかける傾向があるのだろうということが「Pretender」や「白日」のチャートアクションから見て取れます。

最新6月16日公開(6月21日付)ビルボードジャパンソングスチャートのラジオ指標においては、YOASOBI「夜に駆ける」が100位未満(300位圏内)→91位となったのをはじめ、Eve「廻廻奇譚」やあいみょん「裸の心」「マリーゴールド」が300位未満→100位未満(300位圏内)となっており、聴取率調査週間における独自の傾向が作用していると言えます。「真夏の果実」は31年前の曲ですが、この傾向も加味されていることでしょう。

 

 

ラジオで昔から親しまれた曲が流れ、ヒットするのは好いことです。特に、訃報を受けて伸びる指標のひとつがラジオであり、6月9日公開(6月14日付)ビルボードジャパンソングスチャートではB.J.トーマス「雨にぬれても (原題:Raindrops Keep Fallin' On My Head)」がラジオ指標10位に。これは敬意を払う意味でのOAと考えられます。ラジオOA回数については下記記事をご参照ください。

一方で、聴取率調査週間に基づくスペシャルウイークや大々的なキャンペーンの開催に伴い伸びる曲には一定の傾向がみられます。このラジオ業界独自の力学は、関連作品のリリースがあるためとは解るものの、僅かながら違和感を覚えます。聴取率調査週間前後にリリースした他の作品が紹介される可能性が低くなりかねないと思うのがその理由であり、ラジオ局や番組はそれら作品にもきちんと心を配ってほしいと願います。