『NHK紅白歌合戦』を起爆剤としてサブスクで勢いが加速しているYOASOBIについては先週このブログで幾度となく触れましたが、1月6日にリリースされたEP『THE BOOK』収録曲の多くが先週の日本におけるSpotifyデイリーチャートで最高位や最高再生回数を記録しています。この点については今週木曜の最新ビルボードジャパンソングスチャート発表の際に紹介します。
YOASOBIに限らず、『NHK紅白歌合戦』の影響が1月11日付ビルボードジャパンソングスチャート(集計期間:2020年12月28日~2021年1月3日)に表れていることも以前お伝えしました。
一方でストリーミング指標は年末年始にダウンしていますが、構成要素のひとつであるSpotifyの動向からは興味深い点が見えてくるのです。
この表は1月6日に紹介したSpotifyの動向から割り出したもの(同日付ブログエントリーはこちら)。1月4日月曜とその前週以前の月曜とでデイリー再生回数を比較するというもので、1月4日には多くの曲が前週以前の水準に戻っているか、YOASOBI「夜に駆ける」のように数値を伸ばしている曲もあります。そんな中で上記表において、昨年12月28日と比較して9割を下回っている唯一の曲が瑛人「香水」でした。
「香水」はYOASOBI「夜に駆ける」共々、TikTokやYouTubeで親しまれ大きくヒットした曲ですが、「夜に駆ける」が『NHK紅白歌合戦』ではじめて披露されたのとは対照的に瑛人さんはメディアに積極的に出演していたことで、ともすれば既に十分浸透してしまった感があるのかもしれません。しかしながら、1月1日には「香水」を収録した初のフルアルバム『すっからかん』をリリースしており、『NHK紅白歌合戦』からのアルバムリリースというタイミングでフィジカル共々サブスクがもっと伸びてもおかしくなかったはずです。
瑛人さんのアルバム『すっからかん』は1月11日付ビルボードジャパンアルバムチャートで9位に初登場していますが、ここで不思議な現象が起こります。それは1月1日リリースの作品が1月4日付(集計期間:2020年12月21~27日)で既に登場していたということ。ダウンロード指標が前週には既にカウントされていたというわけです。
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「すっからかん」
遂に明日12/24
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『すっからかん』はアルバムリリース日の8日前に店頭に並び、且つ同日からデジタルも解禁されているのですが、CDセールスはフラゲ日分が1月11日付アルバムチャートで初加算される一方でデジタルに関してはフラゲ日分を前週にきちんと加算することになっているのです。そのため、仮にデジタル解禁が1月1日であったならば、フラゲ日と実際の発売日に大きな乖離がなかったならば、もう少し高い順位を獲得していたかもしれません。『NHK紅白歌合戦』の影響で瑛人さんに興味を持った方がきちんと1月1日以降に店頭で購入したりデジタルをチェックする流れが生まれていたことでしょう。
このCD元日発売について、他にも気になる動きが。
こちらも1月1日にリリースされたEXILEのシングル、「RED PHOENIX」。1月11日付ビルボードジャパンソングスチャートではシングルCDセールス指標を制しているものの、総合では16位にとどまっています。
ルックアップが9位となりセールスとの乖離がみられるほか、CD関連指標以外はどれも100位を下回っており、ストリーミングおよび動画再生といった接触指標群は先行公開直後の2週分で登場したものの最新週では300位以内にも入っていません。フィジカルリリースのタイミングでデジタル接触指標群が上昇しないのはアイドルのチャートアクションと似ていますし、シングルCDセールスだけでは勝てないという今のビルボードジャパンソングスチャートの傾向を如実に示してしまった曲とも言えるでしょう。
初週のシングルCDセールス自体は2作連続で上昇しているEXILEですが、それでも直近の作品群がCDセールス特化型になっていること、接触指標群が弱すぎることが気掛かりなのです。そして2作前のシングルで、接触指標群がCD初加算週に300位以内をキープしていた「愛のために ~for love, for a child~」もまた、昨年の元日リリースでした。
( 「愛のために ~for love, for a child~」についてはCD関連指標初加算週を含む11週分のチャート推移を表示。)
瑛人『すっからかん』もEXILEのシングルもリリース元は同じくエイベックスであり、ともすれば年始のみならず年末の需要も見越してCDの元日リリースが効果的と踏んだのではないでしょうか。しかしながらCDは1週間以上前にフラゲできる状況であり、『NHK紅白歌合戦』やEXILE等による年越し配信ライブを観た視聴者の熱が所有行動に強く反映されるとは言い難いと考えます。また、デジタルを先行配信していたとしてもCDとのタイムラグが大きく、且つその間の施策が十分ではないならば、CD関連指標の初加算時に大きなうねりが生まれにくいとも言えるのです。
エイベックス、本社ビル売却を発表 希望退職は103人応募https://t.co/AHIL7zTul9
— ITmedia ビジネスオンライン (@itm_business) 2020年12月24日
エイベックスは昨年末にこのような動きがありましたが、今回のチャートアクションを踏まえればCDセールスを未だに主軸にしているのではないかと感じてしまいます。それでは良質な作品をより広く流布できないのではないかというのが私見であり、昨年にそれまでの弱点を克服し大ヒットを連発したソニーミュージックような改革を行わないといけないと強く思うのです。
ソニーミュージックに所属するYOASOBIのリリースタイミングの戦略は実に巧く、『NHK紅白歌合戦』の視聴熱を見越して1月6日にリリース日を設けたことが如何に効果的かを実感させられます。