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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードジャパン最新動向】ジャニーズWEST「黎明」首位ならず…5つの要因を考え、対策を希望する

最新のビルボードジャパンソングスチャートから注目点を紹介します。

1月17~23日を集計期間とする1月26日公開(1月31日付)ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)。Aimer「残響散歌」が2週連続、通算4週目の首位を獲得しました。

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そして今回、ジャニーズWEST「黎明」が2位に初登場。ポイントは「残響散歌」が9717、「黎明」が9407となり、310ポイントの差が生じました。

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上記は最新ソングスチャートトップ10ランクイン曲の、構成8指標の順位を示したCHART insight。ソングスチャートで新たにトップ10入りしたのは「黎明」およびKep1er「WA DA DA」の2曲ですが、「WA DA DA」は徐々に勢力を拡大したゆえのトップ10入りであり、チャート構成比は他の作品に近い形。一方の「黎明」はフィジカル関連2指標が極度に高い状況で、チャート構成も大きく異なります。

 

 

今回、ジャニーズWEST「黎明」が総合首位の座を逃したことについては、5つの理由が考えられます。

まずは【フィジカルセールス指標のウエイト減少】。厳密には一定枚数以上の売上に対し係数処理を行う、その基準値を引き下げたことがウエイト減少の要因です。ビルボードジャパンは現在、3ヶ月に1回(各四半期の初週)のペースでチャートポリシー(集計方法)の変更を行っており、直近では2022年度初週にフィジカルセールス指標の係数処理適用枚数を引き下げています。

「黎明」とほぼ同じ初週売上枚数を誇る前作「でっかい愛」は16689ポイントを獲得しており、今回のポイント減少はチャートポリシー変更に因るところが大きいのです。個人的にはこのチャートポリシー変更を支持すると上記ブログエントリーで述べましたが、今週のソングスチャートにおけるフィジカルセールス指標からは、自分が支持を表明した理由がはっきり見えてきます。

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最新1月26日公開分(1月31日付)ビルボードジャパンソングスチャートのうち、フィジカルセールス指標10位までを示したのが上記CHART insight。10位のザ・クロマニヨンズ「ごくつぶし」の売上枚数は7572枚となり、この指標の10位の水準が4週ぶりに7千枚を超えました。しかし総合ソングスチャートで10位以内に入った曲はわずか2作品にとどまり、Twitter、ラジオ指標に次ぐ低さとなりました。

これはフィジカルセールスと他指標との乖離が著しいことを示しているのみならず、ルックアップ(パソコン等にCDを取り込んだ際、インターネットデータベースのGracenoteにアクセスされる数を指し、売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)やレンタル数の推測を可能とする)指標の順位がフィジカルセールスのそれから大きく落ちることにおいても、フィジカルセールスのみの強さが際立っていると言えます。

これらを踏まえ、ビルボードジャパンは2017年度における係数処理の適用開始以降、フィジカルセールスのウエイトを徐々に下げたと言えます。その度に同チャートが社会的ヒット曲の鑑と感じるようになったのは、フィジカルセールスばかりが強い曲の世間一般への浸透度が残念ながら高くはないということを反映したゆえであり、最新ソングスチャートにおいてもその傾向が見て取れるのです。

 

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先程のCHART insightを再掲しますが、今ヒットする曲はすべてデジタルに明るく、特に接触指標となるストリーミング(上記表では青で表示。サブスク再生回数等に基づく)が強いことがなにより大きな要因であることが解ります。その点においてジャニーズWEST「黎明」は、【ダウンロードやサブスク等デジタルの未解禁】が響いていると言えます。

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最新ソングスチャートにおいてデジタル解禁の影響を分かりやすく示したのがSaucy Dog「シンデレラボーイ」。集計期間中に『ミュージックステーション』(テレビ朝日)に初出演し同曲を披露したことが大きく、ストリーミングが23→12位、動画再生(赤で表示)が39→29位と上昇。またダウンロード(紫)が100位未満ながら300位圏内となり初加点され、ポイント前週比119.9%を記録。同曲初のトップ20入りを果たしています。

テレビ出演の影響は、所有/接触それぞれの指標に影響を及ぼします。「シンデレラボーイ」は分かりやすく可視化された一方、同日同番組に出演したジャニーズWEST「黎明」はデジタル未解禁のため、影響があったとしても可視化されにくい状況です。

 

ミュージックビデオは短尺版として公開されています。尤も短尺版化は大半のジャニーズ事務所所属歌手に言える傾向ではあるのですが、2010年代後半以降のデビュー組とそれ以前とで動画再生指標の動向は大きく異なります。昨年度の状況は下記リンク先より確認可能です。

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こちらは先程紹介した「黎明」のCHART insightより、動画再生指標のみを抜き出したもの。ミュージックビデオ公開週に唯一100位以内に入ったこの指標はその後100位未満で推移し、フィジカルリリース前は300位を割り込み加点対象となりませんでした。

1月15日にはダンスに特化した動画もアップしているのですが、仮にこの公開を1月17日以降(つまりは最新ソングスチャートの集計期間初日以降)に公開していたならば、もう少し状況は変わっていたのかもしれません。そしてリリックビデオ等、ミュージックビデオ以外でフルバージョンがあればなお良かったでしょう(他の歌手は実践しています)。この【動画再生指標の強くなさ】も、首位獲得を逃した一因と考えられます。

 

動画再生も接触指標のひとつですが、先程紹介したルックアップについては購入者の取込という所有の側面以外にレンタルに伴う取込という接触的意味合いも持ち合わせています。

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上記はTSUTAYAにおけるジャニーズWEST最新シングルのレンタル説明ページ(リンク先はこちら)。レンタル解禁日は2月5日となり、アルバム同様フィジカルリリースの17日後に設定されています。仮に解禁が3日後の1月22日だった場合、ジャニーズWESTはその前日に『ミュージックステーション』で「黎明」を披露していたことを考えれば同曲のレンタルが少なくなかったはずです。

ジャニーズWESTはこの【レンタル解禁日17日後設定】が少なくないと記憶していますが、これがルックアップのさらなる加算に至らなかった要因と考えられます。もっと言えば、この後日解禁という設定がフィジカル購入を促進させるための施策であるならば、果たして効果があったのかを検証する必要があるでしょう。

 

「黎明」のフィジカルシングルは、「進むしかねぇ」とダブルAサイドとなっていますが、「進むしかねぇ」は最新ソングスチャートで100位以内に入っていません。ダブルAサイド等の場合、フィジカルセールスやルックアップといった指標は1曲のみに加算されますが、一方でフィジカル関連指標未加算のKing Gnu「逆夢」(4位)やAimer「朝が来る」(25位)もヒット。これはデジタルをきちんと解禁した効果にほかなりません。

デジタル解禁すれば、ダブルAサイドとしてリリースしてもダウンロードやストリーミングがバッティングすることはほぼありません。一方、ラジオについては全体のOA数が限られることもあり、票割れを起こします。ゆえにジャニーズWESTは「黎明」と「進むしかねぇ」をダブルAサイドにしたことで【ラジオの票割れ】が生じた可能性があるのです。「黎明」のみが表題曲ならば、ラジオ指標は19位を上回ったかもしれません。

 

 

【フィジカルセールス指標のウエイト減少】【ダウンロードやサブスク等デジタルの未解禁】【動画再生指標の強くなさ】【レンタル解禁日17日後設定】そして【ラジオの票割れ】…ジャニーズWEST「黎明」がビルボードジャパンソングスチャートで総合首位を逃した要因にはこの5点が挙げられます。さらにはデジタル指標群が未解禁もしくは不十分であるため、翌週以降のチャートアクションにも響くものと考えられるのです。

 

とはいえ、ジャニーズWESTをはじめとするジャニーズ事務所所属歌手がデジタル解禁を速やかに実行するとは考えにくいでしょう。ならばまず、リリース週のルックアップ増強のためにも、ジャニーズの中でレンタル解禁日17日後設定を行うジャニーズWEST運営側はその設定を検証し、3日後解禁にすることを勧めます。

そして動画再生指標においては、2021年度のジャニーズ曲において特筆すべき作品として採り上げたなにわ男子「初心LOVE」を参考に、様々な動画をタイミングよく投入することも必要と考えます。なにわ男子等のように個別のYouTubeチャンネルを持つことも有効でしょう。

 

 

ジャニーズWESTについては昨年秋、ファンの方々から『NHK紅白歌合戦』出場を祈願する声が少なくありませんでした。その紅白において、ジャニーズ事務所側からは今やベテランと言える関ジャニ∞、そして初週フィジカルセールス40万以上をコンスタントに記録するKing & Prince以降のデビュー組が昨年出場し、中堅と言える歌手は1枠を争うのが現状と言えます。

その状況を踏まえれば、中堅グループは特筆すべきヒット曲を輩出することが紅白出場の条件と言えるでしょう。紅白は間違いなくビルボードジャパンソングスチャートを選考基準として用いているゆえ、尚の事です。デジタルに明るくなる等の対策は、事務所内で抜きん出る上でも必須ではないでしょうか。

(なお昨年の『NHK紅白歌合戦』においては優里さんやAdoさん、BTSが不出場であり、その点を踏まえ(追記あり) 今年の『NHK紅白歌合戦』出場歌手にみる、ビルボードジャパンソングスチャートとのやや大きな乖離(2021年11月20日付)を記載しました。ただジャニーズにおいて、KAT-TUNの初出場はチャート成績を踏まえれば納得できるものであり、その理由についてもブログエントリーに記しています。)

 

 

最後に。今回「黎明」が首位を逃したことについて、"必ずしも首位を獲る必要はない"という意見を目にしました。しかし先述したように、紅白出演の可能性を高める意味でもビルボードジャパンソングスチャートは重要です。そしてビルボードジャパンソングスチャートは所有以上に接触指標が重視され、より多くの方に届く曲が上位にきます。所有が多い曲がより聴かれる曲でもあったならば、最強ではないでしょうか。