ビルボードジャパンは本日、Number_i「INZM」のストリーミング1億回再生突破を発表しています。これは本日公開されるソングチャートに基づくもので、8月31日までの再生回数を示しています。
Number_i「INZM」自身3曲目のストリーミング累計1億回再生突破 https://t.co/OBXTf8PmJv
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年9月2日
午前4時過ぎのアナウンスにもかかわらず、午前6時前にはリポストが(引用含め)500を上回り、その反応からはファンダム(音楽チャートをより重視するコアファンの集まり)による喜びの声が散見されます。
一方で、今回の記録達成から様々なことがみえてきます。
8月31日までにおいて、#Number_i「INZM」のSpotifyにおける再生回数は58,352,288回となります。
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2025年9月2日
ストリーミング人気曲の全体に占めるSpotifyの割合は25%前後が通常とみられる中、Number_iは1億回突破曲におけるSpotify比率が徐々に高まっています(ブログ #イマオト 参照→https://t.co/vRrCye263S) https://t.co/KyoavtLqxC
Number_i「INZM」はリリースの前日付で日本のSpotifyデイリーチャート200位以内に初登場し(日本のSpotifyにおける一日の区切りが午前9時とみられるためフライング的な形でランクイン)、最新9月1日付まで常時200位以内ランクインを続けています。これにより日本のSpotifyにおける再生回数が判明可能となるのですが、1億回記録達成時のSpotify比率は「GOAT」、「BON」そして「INZM」の順に高まっています。
① ビルボードジャパンでのストリーミング1億回再生突破時、Spotifyの割合は著しく高くないか
この点はあささんによる表からみえてきます。
上記表はあささんのXにおけるポスト(→こちら)に掲載されたものですが、ビルボードジャパンにおいてストリーミング再生回数1億回突破がアナウンスされた曲の中で、JIMIN「Who」のSpotify割合が突出していることが解ります。言い換えればSpotify以外で人気とは言い難いといえるでしょう。
またビルボードジャパンは、ソングチャートにおけるストリーミング指標の基となるStreaming Songsチャートで10位までの再生回数を発表しています(上記表は筆者作成)。ここ数年は首位曲におけるSpotifyの再生回数割合が25%を越えることはあっても、3割には達していません。その点からも、ストリーミング1億回再生を達成しながらもSpotifyが3割を大きく超える曲には違和感を覚えます。
日本のストリーミングヒット曲においてSpotify比率が大きい曲は、平日より土日の再生回数が大きくなるという通常の推移を逸脱することが少なくありません(上記リンク先の③参照)。このことは最新9月2日付におけるNumber_iの各曲や引用部分で採り上げたJIMIN「Who」の動きからもみえてきます(同日付の動向はこちらから始まるスレッドにて確認可能)。
また、Number_i「未確認領域」のSpotify動向を紹介した昨日付エントリーにて貼付した、8月27日公開分ビルボードジャパンソングチャートに対応したストリーミング表をみると、Number_i「未確認領域」やJIMIN「Who」、そしてSpotifyにて現時点で19日連続首位且つ曜日特性と異なる動きが目立つJIN「Don't Say You Love Me」は、Spotifyと他のサブスクサービスとで順位の乖離が目立ちます。
(冒頭で紹介したビルボードジャパンの記事では、Number_i「INZM」が『ストリーミング・ソング・チャートでは、2024年8月28日公開チャートで16位にデビュー以降、トップ200圏内をキープ』とあります。Spotifyでは毎週50位以内に入っていることから(Number_i - INZM - Spotify Chart History - Kworb.net参照)、「INZM」もSpotifyと他のサブスクサービスとで乖離していることが解るでしょう。)
これらを踏まえるに、上記で採り上げた歌手のファンダムは他の歌手以上にSpotifyでの再生回数を強く意識し、それが同サービスの再生回数に大きく反映されるというのが自分の見方です。Spotifyは日々200位までの再生回数が可視化されるために順位や再生回数の推移(特に後退)が発奮材料となり、またStationheadや最近ではSpotify自体もリスニングパーティーを実施することで熱量がより反映されるようになったと捉えています。
Number_i「INZM」における記録達成自体は素晴らしいながら、JIMIN「Who」等の動向も踏まえ、考えなければならないことが3つあるのではないでしょうか。
ひとつは”ストリーミング1億回再生突破がヒットの基準に成りにくくなる”ということ。音楽チャートでの好成績を願いチャートを分析、且つ熱量の高いファンダムが他の歌手でもみられるようになれば、ストリーミング1億回再生突破曲はアイドルやダンスボーカルグループ主体に増えることでしょう。そうなればフィジカルセールス並とまではいわないまでも1億回再生突破の重みは薄れ、ヒットとは呼びにくくなると懸念します。
次に、”ビルボードジャパンがSpotifyのウエイトを下げる可能性がある”ということです。
ビルボードジャパンは3年前、LINE MUSIC再生キャンペーンに伴いStreaming Songsチャートを制した曲が他のサブスクサービスと著しく乖離する場合、そしてAWAに関しては再生回数全体に対し、指標化の際にウエイト減少を施す措置(チャートポリシー変更)を行っています(AWAへの問い合わせに対する回答、そしてビルボードジャパンの二度のチャートポリシー変更についての再考(2022年5月16日付)参照。
Spotifyは米ビルボードによるグローバルチャートでもカウント対象となっているため、AWAのように再生回数全体に対しウエイト減少を施す可能性は高くないでしょう。しかしながら、ウエイト減少の議論は必要と考えます。
最後に、”Number_iのコアファンと、ライト層やグレーゾーンとで人気の乖離が大きくなっている”という可能性も考慮すべきでしょう。このことは1億回再生突破時におけるSpotify比率が「GOAT」「BON」そして「INZM」の順に高まっていることからもみえてくるといえます。昨日も記しましたが、『歌手側がファンダム外へ訴求し、コアファンに昇華し得るライト層の発掘に力を入れる』ことに注力する必要があるでしょう。
このタイミングでの掲載は記録達成に水を差すと非難されかねませんが、ファンダムそしてビルボードジャパンがこの記録から何を考え、どのような未来を目指すか想起することが重要だとして、今回のエントリーを記した次第です。


