今年の夏はストリーミング再生回数が比較的大きく動いたといえます。
上記グラフはビルボードジャパンソングチャート、ストリーミング指標の基となるStreaming Songsチャートの再生回数、1位および10位の推移を示したもの。上が2019年度以降、下が2024年度を表示しています(共に2024年9月4日公開分まで)。10位の再生回数は今年8月に山と谷が生まれ、最新9月4日公開分では500万回を割り込む寸前までダウンしています。
そしてこちらは、ビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標においておよそ2割を占めるSpotifyの、デイリーチャート200位における再生回数推移のグラフ。いずれもビルボードジャパンと集計期間を統一しており、上が2022年度以降、下が2024年度となります。右肩上がりとなっているようにみえて、実は2024年に入り再生回数が全体的にダウン、そして先月は大きく増減していることが解ります。
では、ストリーミングにおける増減は何を指すのか、今夏の動向をSpotifyのデータを踏まえて確認します。Spotifyはデイリー200位までの順位および再生回数が確認可能なため分析しやすいのですが、このSpotifyの動向から日本のストリーミング全体の動向もみえてくるものと考えます。
日本のSpotifyデイリーチャートには、デイリー50位までをまとめたトップ50プレイリストを用いるユーザーが多いために50位と51位とで壁が存在する、また再生回数は"平日<土曜<日曜"となり、平日では金曜が最も少なくなるという傾向があります。これらについては(追記あり) 新曲が初登場しやすい曜日は、”50位の壁”とは...日本におけるSpotifyデイリーチャートの特性をまとめる(3月13日付)にて紹介しています。
まずは、3つの順位における再生回数推移を掲載。期間は7月8日~9月1日(ビルボードジャパンにおける7月17日~9月4日公開分)となります。
そしてこの期間に上位ランクインを果たした10曲についても紹介します。
前週の同じ曜日に比べて再生回数が上回った日を黄色で表示していますが、多くの順位や曲で似た傾向を辿っていることがみえてきます。特に7月下旬から8月頭にかけては再生回数が前週同曜日を割っていることが多く、そして8月最後の平日(主に金曜)の再生回数が最も少ないという状況です。
この期間においては、7月26日から8月11日までパリオリンピックが開催。また8月はじめには全国各地で大規模な夏祭りが行われています。オリンピック終盤以降はお盆休みとなり、その中で8月16~17日には台風7号が、また8月末には同10号が日本に被害を及ぼしています。これらが、主にライト層の音楽聴取時間(可処分時間)を削ったことで、Spotify全体の再生回数にも反映されたと考えます。
<Spotifyの再生回数が全体的に下がる要因>
① 大規模イベントの開催 (オリンピック、夏祭り等)
② お盆休みや年末年始等の長期休暇
③ 台風や地震など自然災害の発生
④ 大ヒット曲が存在しないこと
このエントリーの冒頭、Spotifyデイリー200位の推移について『実は2024年に入り再生回数が全体的に下がっています』と記しましたが、これには元日に発生した能登半島地震が影響していると捉えています。また大ヒット曲はその歌手の代表曲をフックアップするのみならずサブスク自体の注目度も高めるのですが、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」の勢いが収まったことも影響しているでしょう。
先にマイナス面を紹介しましたが、一方でSpotifyには"50位の壁"突破や曜日特性以外にも上昇の要因がみられます。特に新曲ではない既存の作品(以下、過去曲と表示)については以下の理由が挙げられます。
<Spotifyにて過去曲がフックアップされる要因>
① TikTok等にて単体で注目が集まる
② 大ヒット曲を輩出した歌手の過去曲にも注目が集まる
③ ニューアルバムをリリースした歌手の、アルバム収録の過去曲にも注目が集まる
④ 開催イベントが注目を集めた歌手の、披露した過去曲にも注目が集まる
⑤ 歌手やコアファンのStationhead開催に伴い、新曲共々過去曲にも注目が集まる
③~⑤において象徴的なのは、パリオリンピック開始以降に下がっていたデイリー200位の再生回数が8月21日付以降に4万8千回台を回復していたこと。8月21日には米津玄師さんのニューアルバム『LOST CORNER』がリリースされ、その2日後には収録曲「がらくた」が主題歌となった映画『ラストマイル』が公開。また8月24~25日に藤井風さんのスタジアムライブが開催され、初日はYouTubeで生配信されています。
さらには8月19日にNumber_iが「INZM」をリリースし、その日から2週間に渡ってStationhead企画を開催。メンバーが参加した8月23日にはNumber_iの各曲が大きく上昇しています。
日本における8月23日付Spotifyデイリーチャートでは #Number_i の各曲が上昇しています。
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年8月24日
「#INZM」 10→3位
「#GOAT」 29→25位
「#BON」 28→26位
「#NoYes」 185→119位
「#SQUARE_ONE」 186→134位
日本における8月23日付Spotifyデイリーチャートでは #Number_i の下記作品が200位以内に再登場。
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年8月24日
「#OKComplex」 127位
「#BlowYourCover」 145位
「#i」 159位
「#Banana (Take It Lazy)」 193位
StationheadにてNumber_i本人が登場したことが影響したと考えられます。https://t.co/svOEqkf5h2
その結果、前週のビルボードジャパンにおいてNumber_i「INZM」はソングチャートで、米津玄師『LOST CORNER』はアルバムチャートで首位初登場。また米津さんおよび藤井風さんは最新のトップアーティストチャートでトップ10入りしています(なおNumber_iはこのチャートで3→15位と推移しています)。
3組の近年の代表曲におけるSpotifyデイリーチャートの推移をみると、8月下旬の伸びが大きくなっていることが解ります。ただニューアルバムやイベント、Stationheadの効果は1週間程度となり、ゆえに8月末の全体的な再生回数も下がっているといえます。
期間内のSpotifyデイリーチャートにおいて、最終日に再生回数18万回以上を記録した曲の再生回数推移を上記グラフにまとめていますが、最上位曲の再生回数が40万を下回っている、つまり特大ヒット曲が存在しているとは言い難いためにサブスク利用者が少なからず減っただろうことも、8月末の全体の再生回数低下につながっていると考えます。大ヒット曲が登場しなければ、この状況は今後も続くかもしれません。
ならば、サブスクユーザーが普段から音楽を聴く習慣を身につける、そしてそもそもの話としてサブスクユーザーを新たに獲得することが必要ではないかというのが私見です。米ビルボードによるグローバルチャートのうちGlobal 200において日本の楽曲が200位以内にランクインしなくなったこともあり、改善は急務だと考えます。