イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本のSpotify動向から真の社会的ヒット曲を見極める方法、そしてSpotifyの今後について考える

先月末にビルボードジャパンがJIMIN「Who」のストリーミング1億回再生をアナウンスしましたが、その際に感じたこと下記エントリーで綴っています。

この点については、音楽チャートデータの分析に長けたブログ、Billion Hits!のあささんが細かなデータをXで発信されています。今回のそちらのデータを紹介しつつ、日本のSpotifyデータについて自分なりの読み取り方を発信します。

 

 

各サブスクサービスにはそれぞれ独自の特性が存在します。癖とも呼べるそれは、Spotifyにおいて近頃大きくなっていると感じています。

Spotify独自の特性については1年前のエントリーにて紹介していますが、50位以内を推移し続ける曲はこの頃からさらに増えてきた印象があります。そしてビルボードジャパンがJIMIN「Who」のストリーミング1億回再生をアナウンスしたことに伴い、Spotify独特の癖は看過できないところにきているのではと考えたのがエントリー執筆の理由です。

 

それでは、日本のSpotifyデータについての自分なりの読み取り方を紹介します。

 

<日本のSpotify動向から真の社会的ヒット曲を見極める方法>

 

 

ビルボードジャパンでのストリーミング1億回再生突破時、Spotifyの割合は著しく高くないか

この点はあささんによる表からみえてきます。

上記表はあささんのXにおけるポスト(→こちら)に掲載されたものですが、ビルボードジャパンにおいてストリーミング再生回数1億回突破がアナウンスされた曲の中で、JIMIN「Who」のSpotify割合が突出していることが解ります。言い換えればSpotify以外で人気とは言い難いといえるでしょう。

またビルボードジャパンは、ソングチャートにおけるストリーミング指標の基となるStreaming Songsチャートで10位までの再生回数を発表しています(上記表は筆者作成)。ここ数年は首位曲におけるSpotifyの再生回数割合が25%を越えることはあっても、3割には達していません。その点からも、ストリーミング1億回再生を達成しながらもSpotifyが3割を大きく超える曲には違和感を覚えます。

 

Spotifyと他のサブスクサービスとで週間チャートの順位は大きく乖離していないか

こちらはこのブログで、現在は毎週土曜に発信するCHART insightからヒットを読む カテゴリーのエントリーにて掲載しているストリーミング表から判断が可能です。

上記は最新4月30日公開分のビルボードジャパンソングチャートをベースとしたストリーミング表(前週のトップ10初登場曲が真のヒット曲に成るか、CHART insightから読む (2025年4月30日公開分)(5月3日付)掲載)ですが、JIMIN「Who」がSpotifyと他のサブスクサービスとで順位が大きく乖離していることが解ります。実際、この状況は「Who」のリリース直後から続いていたことです。

(上ふたつの表は前週のトップ10初登場曲、当週のCHART insightから真のヒット曲に成るかを読む (2024年7月31日公開分)(2024年8月2日付)、下ふたつの表は(追記あり) 前週のトップ10初登場曲、当週のCHART insightから真のヒット曲に成るかを読む (2024年8月7日公開分)(2024年8月9日付)より。なお当時作成した表と最新のそれとで一部表記等が異なります。)

先程はサブスクサービス毎に癖があることをお伝えしましたが、たとえばLINE MUSICにおいては現在も再生キャンペーンによる影響が多く見られます。ゆえに癖が最も小さいとみられるApple Music共々、各サブスクサービスの順位を見比べることが重要です。

 

Spotifyデイリーチャートにおいて他の曲よりも再生回数の増減が大きくないか

JIMIN「Who」が日本でストリーミング1億回再生突破、一方でストリーミング表等から考えることについて(4月30日付)でも紹介しましたが、日本のSpotifyや他のサブスクサービスでも同様と思しき曜日特性(平日より土日祝日が再生回数増)をたどっているとは言い難い曲が登場するのみならず、その動向を幾度となく示す曲も存在します。これは自分がXアカウントにて日々発信する内容からみえてきます。

4月29日(昭和の日)は祝日ゆえ再生回数が伸びる傾向にあって、しかしながらその伸びが鈍かったりさらには平日である前日よりも下がっている曲が存在します(上記ポスト群参照)。またその翌日付では、主に50位未満の曲で前日に大きく順位を落とした曲が再生回数を大きく上げていることも少なくありません(下記ポストを含むスレッド参照)。この中にはユニバーサルミュージック発の作品が目立つのも気になるところです。

無論すべての曲が曜日特性等に沿う動きをたどるわけではないものの、他の曲と動きが大きく異なるならば注視する必要があるでしょう。

(私見と前置きして記しますが、このブログ等で”50位の壁”(50位までをリストインした公式プレイリストの効果が大きいゆえ50位以内ランクインが重要であること)について紹介したことが、チャートへの熱量が高いファンダムの再生回数維持という意識を高めた一因になったのではと感じています。)

 

 

日本のSpotify動向から真の社会的ヒット曲を見極める方法を3点記しましたが、いわばこの3点に属するほど真の社会的ヒットとは言い難いと捉えています。

とはいえ、該当する曲を真の社会的ヒット”ではない”と断言することはしませんし、してはならないと考えます。どの歌手のどの作品においてもコアファンによる再生回数がひとつもないものは存在しないというのがその理由ですが、コアファンによる再生に著しく偏ったと思しき曲が広く世間に認知されているとはやはり言い難いというのが、厳しくも私見です。

 

一方で、再生回数がSpotifyに偏る曲は今後増えていくのではないかと推測します。

 

JIMIN「Who」の流れをJIN「Running Wild」が辿っているというのが理由のひとつ。またNumber_iにおいてはSpotifyと他のサブスクサービスとで順位の差が目立ち、最新チャートにもその傾向が表れています。Number_iは「GOAT」および「BON」がビルボードジャパンでストリーミング1億回再生を突破していますが、そのうちSpotifyが占める割合は5割前後と高くなっています。

Number_iにおいては公式もしくはファンダムによるStationheadの徹底した活用(リスニングパーティーの開催等)がその背景にあると考えます。StationheadはSpotifyのほかApple Musicとも紐付くのですが、Spotifyは上位曲の再生回数を日々可視化しているため音楽チャートに貢献したいと考えるファンダムの頑張りにつながりやすく、ゆえにSpotifyでの再生回数が高いのではないでしょうか。

(Number_iにおいてはデビュー当時、業界の慣例等に伴いメディア露出が難しいのではという見方があったと聞きます。ゆえにファンダムはその状況を打破すべく、大ヒットさせてメディアが無視できない状況を作るためにも音楽チャートの知識を深めたのではないかと捉えています。)

 

さらには、Spotify自身の動きにも注目しています。

SpotifyではSnow Manのデジタル解禁に合わせて(Stationheadの活用ではなく)Spotify自らがリスニングパーティーを開催。また明日デジタルを解禁するKinKi Kidsについては様々な企画を用意しています。サブスクサービス側は歌手のコアファンが(有料)会員になっていただけるものと考え、タッグを組んでいるものと推測します。

サブスクサービス独自の企画は他のサービスでも行われていますが(LINE MUSICにおけるライブ配信や、Apple Musicが日本にスタジオを設立しSnow Man等のラジオ番組を発信すること等)、Spotifyにおいては今月初開催されるMUSIC AWARDS JAPANの一般投票フォームを担い、その投票においてSpotify有料会員の投票数を無料会員より優遇していることを踏まえれば、同サービスが有料会員化を図っていることは明白です。

(MUSIC AWARDS JAPANの投票についてはSpotifyを活用した『MUSIC AWARDS JAPAN』一般投票がスタート!お気に入りの楽曲に投票しよう - Spotify Japan — For the Record(3月17日付)をご参照ください。)

 

Spotifyは歌手のコアファン、そして音楽チャートや音楽賞をより強く意識したファンダムの高い熱量を取り込む姿勢を強めていると考えます。MUSIC AWARDS JAPANの投票フォームとなったことで会員数がどれだけ増えたかは解りかねますが、今後全体の再生回数は増えることでしょう。加えて新規有料会員に占めるファンダムの割合が高いほど、全体の再生回数に占めるSpotifyの割合が著しく高い曲はやはり増えるものと考えます。

 

 

それゆえ、真の社会的ヒット曲を見極めることが今後ますます重要となります。

熱量の高いファンダムをより重視する形で有料会員の増加を図る(ことを第一義とする)各サブスクサービス側が再生回数カウント方法の見直し等に動くことは考えにくいため、データを音楽チャートに取り込むビルボードジャパン側が、そのデータに減算処理を施すか議論を重ねることが必要と考えます。加えて音楽チャートをチェックする方の視点を多角的にするためにも、見方に関する簡易なレクチャーは重要かもしれません。

このブログやXにて、そのレクチャーという役割を担えればと考えています。