昨日のブログエントリーでは前週および当週のビルボードジャパンソングチャートで上位に初進出を果たした曲について、真の社会的ヒット曲に成るかを分析しています。
最新8月16日公開分のソングチャートにて4位に初登場を果たした関ジャニ∞「オオカミと彗星」は、ポイント獲得源がフィジカルセールス指標のみとなっていました。デジタル未解禁の同曲ですが、言い換えればラジオおよび(ミュージックビデオ再生に伴う)動画再生指標も300位未満となり加点されていないということに。ここ最近のジャニーズ事務所所属歌手の曲でも珍しい動きといえます。
今回はこの関ジャニ∞の動向も踏まえ、最近のJ-POP男性アイドルやダンスボーカルグループにおけるトップアーティストチャート(Artist 100)の動向を、CHART insightを使ってチェックします。ベテラン歌手のトップアーティストチャートにおいて以前比較したところ興味深い差が生じていることが判明したことも、今回の記載のきっかけとなっています。
トップアーティストチャートはソングチャートおよびアルバムチャートを合算したもの。前者はフィジカルセールス(CD、レコードおよびカセットテープ)、ダウンロード、ストリーミング、ラジオ、動画再生およびカラオケから成り、後者はフィジカルセールスおよびダウンロードで構成されます。また昨年度までで廃止となったルックアップおよびTwitter指標は、前者が双方に、後者がソングチャートに加算されていました。
今回は、2023年度のビルボードジャパンソングチャートでフィジカルセールスが週間10万枚以上を記録した男性アイドル/ダンスボーカルグループを中心に、トップアーティストチャートのCHART insightを掲載。2021年度初週(2020年12月2日公開分)以降、最新2023年8月16日公開分までのCHART insightを表示しています。
【ビルボードジャパンのCHART insightについて】
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年7月14日
リンク先:https://t.co/NVZ8bHjac1
<色について>
黒:総合順位
黄:フィジカルセールス
紫:ダウンロード
青:ストリーミング
黄緑:ラジオ
オレンジ:ルックアップ(2022年度で終了)
水色:Twitter(2022年度で終了)
赤:動画再生
緑:カラオケ
【ビルボードジャパンのCHART insightについて】(続き)
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年7月14日
<色について>
ピンク:ハイブリッド指標
(BUZZ、CONTACTおよびSALESから選択可能)
<チャート構成比>
最新週、もしくは300位以内最終在籍時における指標毎のポイント構成
<J-POP男性アイドル/ダンスボーカルグループの
トップアーティストチャートにおける動向>
・NEWS
・KAT-TUN (2020年12月9日付公開分以降)
・King & Prince
・なにわ男子 (2020年12月30日付公開分以降)
・三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE (2023年8月9日公開分まで)
・THE RAMPAGE from EXILE TRIBE
・FANTASTICS from EXILE TRIBE
・JO1
・INI (2021年9月29日付公開分以降)
・BE:FIRST (2021年8月18日付公開分以降)
・Knight A - 騎士 A - (2021年8月18日付公開分以降)
また、今年度のソングチャートにおけるフィジカルセールスが週間10万枚に達していない歌手についても、興味深い動向を示す数組について掲載します。
<J-POP男性アイドル/ダンスボーカルグループの
トップアーティストチャートにおける動向>
・嵐
・Travis Japan (2021年9月22日付公開分以降、2023年8月9日公開分まで)
・超特急
ソングチャートでフィジカルセールス週間10万枚以上を記録した歌手に絞ったのは、そのフィジカルセールス初加算時に総合チャートでも上昇することがはっきり可視化されるため。その一方、翌週にはフィジカルセールスのダウンに沿う形で総合順位も下がっています。ダウン幅を抑えるにはサブスク再生回数等を基とするストリーミングやYouTubeの動画再生といった接触指標群が大きな役割を果たします。
ビルボードジャパン側におけるソングチャートでのフィジカルセールスの位置付けは、デジタルの一時的な補完や後押しの意味合いが強いものと考えます。同社は2017年度以降、フィジカルセールス指標はそのまま加算されるのではなく一定以上の週間セールスを記録した作品についてはその超えた分に対し係数処理を施しており、その対象枚数は徐々に下がっています。
それに伴い、デジタルに強い作品のヒットが週間チャート単位でも可視化されるようになったことは年間チャートの変化からも明白です。また大ヒット中のYOASOBI「アイドル」における、フィジカルセールスに係数処理を施すビルボードジャパンでの18連覇と係数処理を施さないオリコン合算シングルランキングでの1週首位という差にも表れています。どちらが真の社会的ヒット曲を示すチャートかは歴然だと捉えています。
<YOASOBI「アイドル」初登場以降における
フィジカルセールスはコアファンとの結び付きを高める意味で重要であり、ライト層のコアファンへの昇華も示すものです。他方現在ではフィジカルセールスに至るシングル曲が減っていること、複数種リリースが多くなり売上枚数と実際の購入者数(ユニークユーザー数)との乖離が目立つこと等から、フィジカルセールスだけもしくは複合指標ランキングでもそこに重きを置かれたものにてヒットを図ることは難しいといえます。
とはいえ、先述したようにフィジカルセールスの位置付けがデジタルの一時的な補完や後押しの意味合いが強いと考えるならば、たとえばデジタルが盛り上がったタイミングでフィジカルをリリースし、チャートでの最上位進出につなげることができるはずです。そのような施策立案の意味でも、このブログではフィジカルの存在を否定するつもりはありません。一指標に偏らない施策の立案やポイント獲得こそ重要と考えます。
その点において、最新アルバム/EPのアルバムチャート初登場後にトップアーティストチャートを初めて制したMrs.GREEN APPLEや、最高位を更新したNewJeansの動向は注目です。フィジカルセールスが歌手の勢いを後押しし、フィジカルセールス2週目以降にトップアーティストチャートで上昇するというのはまさに理想の流れといえるのではないでしょうか。この点は今週のブログエントリーでも紹介しています。
そしてMrs.GREEN APPLE、NewJeansのチャート構成比(円グラフは最新ランクイン週分を表示)をみると、最も大きなポイント獲得源がストリーミングだと解ります。この接触指標はコアファン以上にライト層の支持が大きく、ヒットも持続する傾向にあるため、年間チャートにおいても重要な役割を果たします。ゆえにサブスク未解禁という姿勢が如何にチャート上、そして広く世間への認知の上で勿体無いかがよく解るはずです。
さて、男性アイドル/ダンスボーカルグループにおいては、2022年度をもってルックアップおよびTwitter指標が廃止されたこともトップアーティストチャートに大きな影響を及ぼしています。
ルックアップはCDをパソコン等にインポートした際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を示し、レンタル枚数の把握や売上枚数に対するユニークユーザー数を推測するのに役立っていました。指標の廃止前まではジャニーズ事務所所属歌手作品が極めて強くなっていたのが特徴です。他方Twitter指標はジャニーズ事務所所属歌手以外の男性ダンスボーカルグループが常時強かったという状況でした。
この2指標の廃止に伴い、2023年度以降はトップアーティストチャートの総合順位で100位未満が目立つ歌手も出ています。その克服のためにも、特にストリーミング指標を常時安定させることが必要と考えます。
今回トップアーティストチャートのCHART insightを紹介した歌手のうち、このチャートで最も安定しているのはDa-iCEと言っていいでしょう。「CITRUS」のヒットに「スターマイン」のスマッシュヒットも加わり、この2年以上は常時100位以内をキープしています。他方、2023年度はトップ20入りがなく、アルバム『SCENE』の初登場時である21位が最高位(5月31日公開分)ゆえ、さらなる上位進出には課題が残っているともいえます。
このトップアーティストチャートでの上位安定が、たとえば『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)の選考基準のひとつになるであろうことについて、昨年のブログエントリーで記したところ多くの反響をいただきました。
おそらく今年はMrs.GREEN APPLEやNewJeansの選考を番組側が既に考えているのではと感じます。また男性アイドルやダンスボーカルグループに関しては、Da-iCEが悲願の初出場に至るかもしれません。
無論『NHK紅白歌合戦』の出場が、またトップアーティストチャートでの上位安定がすべてではないと言われればそれまでです。しかしながらトップアーティストチャートは歌手の勢いを、また新作リリースが歌手の認知度上昇等につながっているか等を十分に示しているものと考えます。加えて紅白の出演は、歌手の中長期的な活動に大きなプラスをもたらすはずです。その意味でも、チャート上位を狙わない手はないでしょう。
そしてビルボードジャパンの認知度や信頼度が高まってきているゆえ尚の事、ストリーミングの解禁をしない理由はなくなってきているといえます。先述したようにフィジカルセールスはコアファンとの結び付きが大きく反映されるため、サブスク解禁してもフィジカルセールスが極端に減ることはないと考えます。未解禁の姿勢が歌手や芸能事務所の信頼度とリンクする可能性も踏まえれば、為すべきことはひとつのはずです。