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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードジャパン最新動向】「Subtitle」歴代最長タイの11週首位獲得、真の社会的ヒット曲とは何かを読む

毎週木曜以降は最新のビルボードジャパン各種チャートについてお伝えします。

1月9~15日を集計期間とする最新1月18日公開分のビルボードジャパンソングチャートでは、Official髭男dism「Subtitle」が7週連続、通算11週目の首位を獲得。ビルボードジャパンが2008年にソングチャートを新設して以降最長首位獲得記録を保持する、星野源「恋」に並びました。

今回はこの記録を様々な角度から取り上げます。

 

Official髭男dism「Subtitle」はソングチャート100位以内登場14週目にて通算11回の首位に。これは星野源「恋」が2016年から翌年にかけて、100位以内登場21週目で通算11回の首位を獲得したのに比べ、1.5倍の速さで達成したことになります。その「Subtitle」のチャート推移をみてみましょう。

(上記はビルボードジャパンのCHART insightにおけるOfficial髭男dism「Subtitle」。順位やチャートイン回数、チャート構成比は最新1月18日公開分のものを指します。またグラフでは総合順位が黒で示され、各指標はフィジカルセールスが黄色、ダウンロードが紫、ストリーミングが青、ラジオが黄緑、ルックアップがオレンジ、Twitterが水色、動画再生が赤、カラオケが緑で表示。なおルックアップおよびTwitter指標は2023年度に廃止されています。)

ここ3週はポイントが比較的大きくダウンしているとはいえ、100位以内登場14週はすべて1万ポイント超えを達成しています。驚異的なのはストリーミングで、初登場時を除く13週すべてで首位を獲得。『当チャート13連覇は、2019年8月21日にOfficial髭男dism「Pretender」が達成して以来の記録』とのことで、如何に驚異的かがよく解ります(『』内は下記ツイート内リンク先より)。

一方で、Official髭男dism「Subtitle」は昨年10月19日公開分のソングチャートにおいて初登場3位に。これは共に10月12日デジタルリリースとなった米津玄師「KICK BACK」が上回ったゆえであり、同日付ではストリーミング指標も制しています。

Official髭男dism「Subtitle」そして米津玄師「KICK BACK」は、昨年10月19日公開分以降ソングチャートで3位以内に留まり続けています。この2曲の存在により、週間チャートで首位を狙える曲がことごとくその座を逃したことになりますが、しかしそれら作品群のチャート推移をみると、ほとんどの曲がロングヒットに至れていないことが判明します。昨年10月19日公開分以降のソングチャート、トップ3のリストはこちら。

では、昨年10月19日公開分以降にビルボードジャパンソングチャート3位以内に入った曲の、その後の動向をみてみます。

 

・JO1「SuperCali」(2022年10月19日公開分 2位)

 

・THE RAMPAGE from EXILE TRIBE「ツナゲキズナ」(2022年10月26日公開分 3位)

(上記CHART insightにおいて最終ランクインは1月11日公開分となります。)

 

・日向坂46「月と星が踊るMidnight」(2022年11月2日公開分 3位)

 

SixTONES「Good Luck!」(2022年11月9日公開分 3位)

(上記はショートバージョン。)

 

・King & Prince「ツキヨミ」(2022年11月16日公開分 1位、11月30日公開および12月7日公開分 3位)

(上記はショートバージョン。)

 

・なにわ男子「ハッピーサプライズ」(2022年11月23日公開分 2位)

(上記はショートバージョン。なおダンスバージョンはフルで公開されています→こちら。)

 

乃木坂46「ここにはないもの」(2022年12月14日公開分 2位)

 

Kis-My-Ft2「想花」(2022年12月21日公開分 3位)

 

モーニング娘。'22「Swing Swing Paradise」(2022年12月28日公開分 3位)

 

・Ado「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」(2013年1月4日公開分 3位)

 

・Vaundy「怪獣の花唄」(2013年1月11日公開分 3位)

(上記CHART insightは最新1月18日公開分までの60週分。)

 

・LIL LEAGUE from EXILE TRIBE「Hunter」(2023年1月18日公開分 2位)

 

14週のうち3週でトップ3入りしていたのがKing & Prince「ツキヨミ」。チャート推移については一昨日のブログエントリーにて紹介しましたが、動画再生が好調の一方でフィジカルセールスがミリオンを達成したと(別のランキングにて)アナウンスされて以降は総合チャートでもランクダウンしていること、そしてサブスク再生回数等に基づくストリーミング指標がサブスク未解禁に伴い未加算について、勿体ない点だと記しました。

King & Prince以降のジャニーズ事務所デビュー組は動画再生に強いことが、SixTONES「Good Luck!」やなにわ男子「ハッピーサプライズ」からも見て取れます。昨日はKinKi KidsTikTokでシングル曲を解禁していますが、TikTokのバズは動画再生のみならずストリーミングにも波及するゆえ、またロングヒット曲のポイント源はその半数以上がストリーミング指標からであると踏まえれば、サブスク解禁は必須と言えるでしょう。

 

一方で彼らの先輩にあたるKis-My-Ft2「想花」ではストリーミング指標が100位以内に入っていたものの、LINE MUSIC限定配信のため高位置には至れていません。また再生キャンペーンを実施した反動でキャンペーン期間終了後に失速し、この指標の加点が2週にとどまっているのも特徴です。ストリーミング指標はロングヒット曲において、急落する性質は持ち合わせていません。

他方「想花」では今年に入りダウンロード指標が加点されていますが、これは一部デジタルプラットフォーム限定で解禁しているため(レコチョクこちら。ただしiTunes Soreでは未解禁)。実際、Kis-My-Ft2は過去にもダウンロードを後日解禁する措置を採っていますが(下記ブログエントリー参照)、本来は全プラットフォームでのデジタル解禁を希望しているのではと感じる自分がいます。

 

LDH所属歌手ではTHE RAMPAGE from EXILE TRIBE「ツナゲキズナ」およびLIL LEAGUE from EXILE TRIBE「Hunter」が3位以内に登場。いずれもラジオが強いことが特徴ですが、ビルボードジャパンソングチャートでラジオ指標の基となるプランテックのOAチャートからは、所属事務所側のプロモーションの強さが見て取れます。

2位はLIL LEAGUE from EXILE TRIBE「Hunter」が初登場した。LDHのオーディション【iCON Z 2022 ~Dreams For Children~】でグランプリを獲得した、新生6人組男性グループによる同デビューシングル。リリースに先行して開始されたラジオオンエアは日に日に伸張し、帯番組・コーナーでのプロモーション枠が中心ながらも全国区での大量オンエアを獲得するに至った。新人アーティストながら早くもリクエストが複数確認されるなど、今後の動向に注目だ。

一方で「ツナゲキズナ」は今回紹介した曲の中では唯一、最新1月18日公開分において総合300位圏外となっています。注目は同曲において、ストリーミング指標がパタリと消えてしまったこと。ランクインした2週においてはその集計期間中にLINE MUSIC再生キャンペーンが実施され、最高で9,999回というハードルが敷かれています。これがコアファンの疲弊も招いた可能性は否定できないでしょう。

それでも「ツナゲキズナ」は一時的にでもデジタル加点が強かったために、昨年10月26日公開分においてAKB48「久しぶりのリップグロス」に勝っています。「久しぶりのリップグロス」は「ツナゲキズナ」の3倍を超える初週フィジカルセールスを記録していたのですが、デジタルが伴っていないことが大きく影響しています。AKBグループは坂道グループと比べても、この点が強くないことがCHART insightから見て取れます。

なお「久しぶりのリップグロス」におけるフィジカルセールス指標の乱高下と呼べる動きは、特典封入に伴うものと考えられます。この動きについては以前も解説を行い、ビルボードジャパンに対しフィジカルセールス指標ウエイト見直しの議論の必要性を求めています。

 

 

Official髭男dism「Subtitle」および米津玄師「KICK BACK」がソングチャート100位以内に登場して以降の14週においてトップ3入りを果たした作品を、AKB48「久しぶりのリップグロス」を含め紹介しましたが、ロングヒットを続けるAdo「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」や『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)で注目されたVaundy「怪獣の花唄」、King & Prince「ツキヨミ」を除けばロングヒットに至れていないのが現状です。そしてそこにはデジタル、特にストリーミングの強くなさが見て取れます。

ともすればアイドルやダンスボーカルグループにおいては、その運営側やコアファンも含め、フィジカルセールス重視、オリコンランキング制覇を優先するスタンスが未だ強く存在しているのかもしれません。実際今回紹介した「Subtitle」および「KICK BACK」を除く各曲は、週間8万枚以上のフィジカルセールスを記録しています。しかし楽曲人気がコアファンの域を出ないならば、それは非常に勿体ないことではないでしょうか。

 

無論デジタルヒットが簡単に出るわけではなく、そのこともフィジカルセールスに注力したい意識の背景にあるかもしれません。また「Subtitle」や「KICK BACK」の人気は近年の中でも突出しているゆえ勝負しづらいという意識もあるかもしれません。しかしOfficial髭男dismや米津玄師さんをはじめサブスクに強いとされる歌手が、全てのリリース曲を大ヒットに導くことは不可能です。

「Subtitle」や「KICK BACK」は強力なタイアップ作品のヒットも下支えになっていますが、たとえばジャニーズ事務所所属歌手のシングル曲はタイアップ関連作品が多い印象です。ライト層獲得の可能性が高い以上、そのライト層の接触行動を満たせる環境を用意することが必要でしょう。デジタル未解禁ならば解禁が、動画がショートバージョンならばフルでのアップが重要なのは、このブログでも幾度となく申し上げたことです。

そしてコアファンを疲弊させることは、いずれ人気がダウンしてしまいかねない状況に至りやすいものと考えます。これはLINE MUSIC再生キャンペーンにとどまらず、たとえば複数種すべてのフィジカルを購入しなければ全曲揃わないことや、付属の特典に頼ることで物理的(金銭面での)疲弊が生まれる可能性も踏まえています。尤も米津玄師「KICK BACK」でもライブツアーの最速先行シリアルナンバー(抽選)が封入されていますが、「KICK BACK」はその後フィジカルに頼らずも総合トップ3入りを続けています。

 

 

今回のCHART insight比較により、デジタルに強い曲とそうではない曲がはっきり可視化されました。同時にビルボードジャパンが、デジタル(特に接触指標)に強い曲が真の社会的ヒット曲であるというチャートポリシーを敷いていることもみえてきます。仮に今回挙げた曲で社会的ヒット曲なのは何かをアンケートすれば、このチャートの信頼度に納得がいくはずです。

であれば、日本の音楽業界がどこに向かうべきかは一目瞭然でしょう。デジタルを意識することは必須であり、同時にデジタル未解禁歌手や彼らが所属する組織を総出で説得することが、J-POP全体の興隆という意味でも必要であると強く考えます。