イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本レコード大賞においてこれまでの問題点が解決されていないこと、そしてその根本にあるものを考える

昨日開催された日本レコード大賞SEKAI NO OWARI「Habit」が大賞を、田中あいみさんが最優秀新人賞をそれぞれ受賞しました。

最優秀新人賞では「W / X / Y」が大ヒットしたTani Yuukiさんも候補に挙がっていましたが演歌歌手の田中あいみさんが受賞したことを踏まえれば、日本レコード大賞氷川きよしさんが獲るのではと思ったのですが、大賞においては順当な結果になったと言えるでしょう。また別の側面からも、「Habit」の受賞をいい意味で意外に感じています。

 

今回は大賞の妥当性と、その一方で日本レコード大賞が未だ改善していないことに対する問題提起および改善提案をあらためて記します。

 

 

日本レコード大賞はこの5年において乃木坂46シンクロニシティ」、Foorin「パプリカ」、LiSA「炎」、Da-iCECITRUS」そしてSEKAI NO OWARI「Habit」が受賞しており、特に「パプリカ」以降はサブスク時代のヒット曲が結果を残しています。ビルボードジャパンの年間ソングチャートおよびStreaming Songsチャートの順位は順に、「シンクロニシティ」が6位/38位(2018年度)、「パプリカ」が7位/8位(2019年度)、「炎」が9位/18位(2020年度)、「CITRUS」が36位/36位(2021年度)、「Habit」が11位/15位(2022年度)となります。なお「CITRUS」は2022年度において18位/21位を記録しています。

(上記はSEKAI NO OWARI「Habit」の、最新12月28日公開分までのCHART insight。総合順位は黒で示され、また各指標はフィジカルセールスが黄色、ダウンロードが紫、ストリーミングが青、ラジオが黄緑、動画再生が赤そしてカラオケが緑で表示されます。なおオレンジで示されるルックアップ、水色のTwitterは2023年度に廃止されています。)

2022年度のビルボードジャパン年間ソングチャートにおいてSEKAI NO OWARI「Habit」(11位)よりも順位の高い候補曲が2作品ありましたが(Ado「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」(年間7位)およびマカロニえんぴつ「なんでもないよ、」(同8位))、おそらく「Habit」の受賞につながったのはTikTokYouTube等動画の強さにもあったと考えます。現段階で同曲ミュージックビデオの再生回数は1億2千万回を突破しています。

ビルボードジャパン年間チャートの分析エントリーにて主要トピックのひとつに動画の強さを挙げていますが、フィジカルセールス以上にデジタルの強さが受賞につながった2019年以降は、いずれの大賞受賞曲も動画の強さが目立つ印象です。Foorin「パプリカ」のダンスミュージックビデオやLiSA「炎」ミュージックビデオは現段階で2億回再生を突破、また「炎」やDa-iCECITRUS」はTHE FIRST TAKE に登場しています。

(NHKYouTubeアカウント発となる動画はきちんと貼付することができず、上記のような表示となります。)

そしてSEKAI NO OWARI「Habit」ではHIKAKINさんとのコラボレーション動画も話題となりました。デジタルの中でもストリーミングのみならず動画もまた日本レコード大賞受賞において重要な要素ではないかと考えるに、同賞はより多角的なヒット、多くの方々の記憶に残る作品が選ばれていると捉えています。この傾向は素直に評価できるものと考えます。

 

 

さて、SEKAI NO OWARI「Habit」の日本レコード大賞受賞の妥当性を述べた一方で、他の賞について、またそもそも日本レコード大賞自体における問題点は今年も解決されていないということを明記しておきます。

昨年大晦日のブログエントリーでは前日開催の日本レコード大賞における私見を記した上で、【対象期間の曖昧さ】【賞そのものの形】そして【TBS色の強さ】が問題であり改善が必要と結論付けましたが、それらは今年においても変わっていませんでした。そしてそもそも、番組(『輝く!日本レコード大賞』)冒頭で紹介された日本レコード大賞の説明に各種問題の根本が在るのではと考えるに至っています。

 

日本レコード大賞は音楽文化の発展に寄与するため日本作曲家協会によって制定・実施されたもので、新聞記者やJNN系列放送局の代表、音楽評論家総勢23名による日本レコード大賞審査委員会による厳正な審査の上、2021年10月以降に発表された全ての音楽ソフト、またそれ以前の発表であっても年度内に顕著な実績を上げた作品を対象にしている…これらが番組冒頭のVTRにて紹介されています。

しかしこの紹介内容は、TBSのホームページや日本作曲家協会の実施要項には未記載であり、まずこの段階で曖昧さを残していることが問題です。たとえば候補作品がいつまでのリリースを対象とするかが不明瞭であるため("年度内"とあるものの、2022年9月までとは謳われていません)、放送年の10月以降リリース作品でもノミネートされてしまうことも有り得るのです。2020年10月リリースのLiSA「炎」はまさにその例です。

 

そして個人的に大きな問題と考えるのが審査の内容です。審査委員の構成について、放送中につぶやいたものを引用します。

引用ツイート群の最後に記した疑念の噴出とは、日本レコード大賞に対する週刊誌の追及記事を指します。しかしこれが大きな話題にならなかったのは大手新聞社や夕刊紙が審査委員に名を連ねており問題点が報じられなかったことにあると言われています。スキャンダルの信ぴょう性は不明だとして、日本レコード大賞側が疑念を抱かれたことを省みて審査委員を刷新すべきだったと考えますが、その形跡はみられないと言えます。

さらに、審査委員23名の顔ぶれからは評論家の割合があまりに低いことに加えて、女性がほぼ(いや全く)皆無であることも問題と考えます。多種多様な価値観が重要となっている現在にあっては、時代にあまりにも逆行しています。

日本レコード大賞の姿勢は、グラミー賞が批判を受けて投票権を持つ会員を増やしたこととは大きく異なります。そのグラミー賞ではザ・ウィークエンド「Blinding Lights」がノミネートされなかったことへの批判を踏まえ、匿名の委員会が廃止されてもいます。

「Metro」によると、レコーディング・アカデミーは秘密委員会がグラミー賞の候補者を決めるのではなく、1万人以上の投票メンバーによって選出される透明性が高い形に変更すると発表。この変更は、2022年1月に開催されるグラミー賞より実施される予定だ。

グラミー賞候補の選考に大きな改革。「秘密委員会」が廃止されて、1万人を超えるメンバーが投票へ (2021/05/09) 洋楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)より

日本レコード大賞においては審査委員が実名で公開されているとはいえ、賞の形の歪さは変わっていません。新人部門と大賞の候補作品が重複されない、大賞候補に入っておかしくない作品が特別賞としてのみ表彰される、アルバム部門が重視されない等の各種問題は、そもそも賞の在り方について議論されない等の透明性の低さゆえに放置されている可能性もあり、まずはその見直しを公開の場で検討することを求めます。

その上で、今の時代に即したジェンダーや若年層への配慮を踏まえた審査委員の構成変更も必要です。同時にTBSを含むJNN系列放送局の審査委員の存在にも異を唱えます。彼らの存在が、放送局のカラーが前面に出すぎてしまい賞の独立性を担保できないひとつの理由になっているのではないでしょうか。安住紳一郎アナウンサーの司会への評価と分けて、TBSカラーの脱色について検討することも必須です。

 

 

ビルボードジャパン年間ソングチャートでトップ10目前まで迫ったSEKAI NO OWARI「Habit」が日本レコード大賞を受賞したことは適切だとして、ともすれば大賞の妥当性が賞全体に宿る問題への批判をそらすためのスケープゴートになってやいないかとすら思うのです。「W / X / Y」がビルボードジャパン年間ソングチャートで2位を獲得したTani Yuukiさんが最優秀新人賞を逃すことにも強い違和感を覚えます。

【対象期間の曖昧さ】【賞そのものの形】そして【TBS色の強さ】という問題が今年も改善されなかった日本レコード大賞において、【審査委員の偏った構成】や【透明性の低さ】が問題の根本にあるのではないかと思い至っています。この偏りや不透明さをなくすことではじめて、日本レコード大賞は改革ができるのではないでしょうか。厳しい物言いを連ねましたが、日本最大級の音楽賞が来年変わることを強く願います。