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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本版グラミー賞があったなら? 2022年度版主要4部門の結果発表 (コラボスペース終了の報告)

1月8日付のブログエントリーで記載した、このブログではおなじみとなった日本版グラミー賞予想企画。今回は昨年に引き続き、ブログ【ただの音楽ファンが見る音楽業界】(→こちら)の管理人であるRYO@音楽ブログさんと共に、同賞の存在を仮定した上で双方がノミネーションを用意し、昨日19時からのコラボスペースにて受賞作品ならびに受賞歌手を決定しました。お聴きくださった皆さんに、心より感謝申し上げます。

昨日のコラボスペース、アーカイブはこちら。

お互いのノミネート内容はこちら。

 

今回の受賞結果を紹介します。

 

 

それではコラボスペースで発表した順に、解説していきます。

 

<日本版グラミー賞 主要4部門の結果および解説>

 

 

最優秀新人賞

自分とRYOさんとでは候補者が5組被りましたが、自分は2022年に大ヒットしたSaucy Dogを候補に入れ、一方でK-POPアクトについては入れていませんでした。米グラミー賞は国籍に関係なく選出しており、後者については自分の発表後にRYOさんが公開したノミネーションを読んだ段階で、この未選出は来年の課題にしなければと省みた次第です。

新人部門については今年の米グラミー賞においても、たとえばイタリアで2018年にデビューしたマネスキンや、2013年にファーストアルバムをリリースしたラテン歌手のアニッタがノミネートされているように、新人の判断基準が曖昧になっています。ゆえに自分はSaucy Dogを候補に入れた一方でRYOさんは未選出となっています。

 

選出基準としては、ビルボードジャパンソングチャートや同チャートに大きな影響を与えるストリーミング再生回数、CDショップ大賞(赤と青のうち後者)、そしてビルボードジャパンによるTikTok Weekly Top 20の年間チャートを主に用いています。各種チャートについては下記ブログエントリーから確認が可能です。またCDショップ大賞候補作品一覧が記載されたプレスリリースのリンクも貼付します。

TikTokビルボードジャパンソングチャートのカウント対象ではないため、総合ソングチャートにて存在感を放つ曲は多くはないかもしれませんが、特に若年層への浸透度を踏まえれば十分な判断基準に成るものと考えます。

 

結果として、「シンデレラボーイ」の特大ヒット(ストリーミング再生回数3億回超え)を踏まえて自分はSaucy Dogを受賞者に選び、なとりさんを次点に。一方でRYOさんはなとりさんを受賞者に、次点としてTHE SUPER FRUITを選出しています。

なとりさんは活動歴が短いながらもTikTokを活用し、「Overdose」をブレイクに導きました。ストリーミングでは既に1億回再生を突破しており、今後メディアの紹介次第ではさらなるブレイクを果たす可能性があると捉えています(逆に言えばこれまで地上波テレビ局でほぼ紹介されていないことが気になってもいます)。またTikTok先行でティザー(ティーザー)を発信し正式リリース時には既に多くの方が知っているという環境の創出は海外の流行をいち早く捉えたものでもあり、その感度の高さにも感服します。

THE SUPER FRUITについては「チグハグ」がTikTokで特大ヒットを起こしたことが選出要因。中毒性の高さもさることながら、サビのみならずイントロを活用した動画投稿も多く、その汎用性の高さも多くの方に曲が浸透した理由と考えます。ボーイズグループはテレビ出演に苦戦する傾向がありますが、THE SUPER FRUITは「チグハグ」を披露できる場が少なくなかったこともバズの大きさを示していると言えるでしょう。

 

なお、RYOさんの指摘で考えされられたのが、水曜日のカンパネラをこの部門に入れるかどうかでした。水曜日のカンパネラは一昨年詩羽さんが新たにボーカルとして加入し、彼女の世界観も活きた「エジソン」が昨年TikTok、そしてビルボードジャパンソングチャートでもヒットしています。"水曜日のカンパネラ"の名前自体は変わらないため選出から外したものの、今後も同種の事態が出てくるかもしれません。

 

 

最優秀楽曲賞

選出基準としたのはビルボードジャパン年間ソングチャートに加えて、自分の場合は同チャートのカラオケ指標も強く参考にしています。なお自分は最優秀新人賞を除く3部門で一組の歌手から複数の作品を選んでいますが、RYOさんはより多くの歌手から選ぶということ等を意識し選出。この点についても基準が異なることをお伝えしておきます。

RYOさんが選んだのはOfficial髭男dism「Subtitle」。大ヒットドラマ『silent』(フジテレビ)の主題歌となったこの曲がドラマと如何にマッチしているか、メインの登場人物のみならず取り巻く人物一人ひとりにもハマる、そして各々の聴き手においても自分事のように沁み込むというのがその理由でした。

RYOさんが次点に、一方で自分が受賞作品として選んだのはAdo「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」。自然な韻の踏み方やメロディの展開が素晴らしいのみならず、中田ヤスタカさんとAdoさんの相性の良さも強く認識できた作品。同時期にリリースされ世界的にヒットしたハリー・スタイルズ「As It Was」と共通する1980年代感の採用は、中田さんの嗅覚の高さも感じるに十分です。

自分が次点に選んだのは宇多田ヒカル「BADモード」。歌詞のテーマがこれまでのJ-POPではあまりみかけないだろうこと、Uber EatsやNetflixといったワードチョイスの妙、歌詞とアレンジの進行(場面転換)の巧さ、そしてFワードがきちんと意味を持って用いられていること等がその理由です(一部はRYOさんが指摘された内容)。アルバムのリード曲ながら多くの方に届いた作品だったのではないでしょうか。

 

 

最優秀アルバム賞

選出基準はビルボードジャパン年間アルバムチャートの動向に加えて、CDショップ大賞(赤および青)、音楽評論家等識者によるベストアルバム企画(雑誌やネットでの特集)、そして自身が聴き手として好いと捉えた作品となります。RYOさんは自身のブログにて、2022年の年間ベストアルバムを選出されています。

チャート上ではSnow Man『Snow Labo. S2』に及ばなかったものの、RYOさんはSixTONES『CITY』およびSexy Zone『ザ・ハイライト』を選出。『CITY』における時間の流れを意識した選曲および複数種の用意、『ザ・ハイライト』における前半と後半とでのレコード的な転換に注目し、ジャニーズ関連作品に秀作が多い中でこの2作品を候補に選んでいます。そして『ザ・ハイライト』が次点となりました。

最優秀アルバム賞においてはその完成度は勿論のこと、コンセプトを意識しトータルで聴かせる作品を意識して双方が選出。そしてRYOさん、自分が共に選んだのが宇多田ヒカル『BADモード』でした。この作品ほど好事家や音楽ファンが、また国内海外問わず、こぞって称賛した作品はなかったのではないでしょうか。

実際、収録曲には既発曲が多く、またスクリレックスとの「Face My Fears」は2019年1月の作品ゆえ他曲との音的な整合性がとれるか等疑問点もありましたが、蓋を開ければそれが杞憂だったことを思い出します。

『BADモード』においてはリミックス等を除く10曲のうち、4分を切る作品はわずか2曲しかありません(「PINK BLOOD」および「Face My Fears (Japanese Version)」)。曲の短さ等がヒットの条件と言われがちな現代にあっては真逆と言えながらも、長さを感じさせない曲やアルバムこそ名作たる所以ではないでしょうか。これはRYOさんが最優秀楽曲賞に選んだOfficial髭男dism「Subtitle」にも言えることです。

自分が次点に選んだAdo『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』は、『狂言』とは異なり様々なタイプのシンガーソングライターが曲提供を実施しながらAdoさんが見事に歌いこなし、まとめ上げた点を評価し選出。ビルボードジャパン年間アルバムチャートでも3位を記録しています。

 

 

最優秀レコード賞

RYOさんと自分とで最もノミネートが合致したのはこの部門でした。RYOさんは一歌手一曲を基軸に4部門の候補を選んだため、Official髭男dism「Subtitle」はこの部門から外れ、最優秀楽曲賞候補に選ばなかった彼らの「ミックスナッツ」をこちらで選出しています。

この賞についてはビルボードジャパン年間ソングチャートが判断基準になっていますが、互いにノミネートするか迷った作品として自分がSnow Manブラザービート」を、RYOさんがKing & Prince「ichiban」を紹介。ネットでのバズが主に動画再生の多さにつながった作品ですが、仮にサブスクを解禁していれば、特に前者は年間20位以内には入れたのではないかと捉えています。

 

受賞作品はRYOさんがAdo「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」、次点としてAimer「残響散歌」を、自分は受賞作品としてOfficial髭男dism「Subtitle」を選出し次点はAdo「新時代」としました。

Ado「新時代」は『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)をはじめとして年末音楽特番にも多数出演、またその度にフジテレビ側が協力姿勢を示したことも注目ポイントでした。映画の大ヒットもさることながら公開から間もなくネタバレを解禁したことでリピーターが増え、また動画SNSを積極的に活用したことも作用し、映画は現在までに興行収入190億円を突破しています。その社会現象化もまた選出の大きな理由となっています。

Aimer「残響散歌」は2022年度上半期のビルボードジャパンソングチャートを制し、同年の年間チャートも制覇しています。一方でAdo「新時代」は下半期のリリースながら年間7位に入り、上半期以前にリリースしロングヒットした曲が優位となる年間ソングチャートにあって如何に大ヒットしたかがよく解る結果となりました。

そのビルボードジャパン年間ソングチャートではOfficial髭男dism「Subtitle」は27位だったものの、週間単位で100位以内に登場したのは2022年度ではわずか7週。それでいてこの位置に登場すること自体が凄まじいと感じ、自分は選出しました。一方でRYOさんは2023年度の最優秀レコード賞に選ぶ可能性があると示唆しており、その点にも強く納得。実際この曲は2023年度年間チャートを制しそうな勢いを示しています。

 

 

今回のコラボスペースをお聴きくださった皆さん、また"#日本版グラミー賞"をつけてツイートしてくださった皆さん、ありがとうございました。本来ならば候補に選んだ作品や歌手毎に選出理由を紹介したいのですが、時間等の面で難しいと痛感。次年度以降、進行をブラッシュアップしたいと思います。

また来年度以降、米グラミー賞にはない最優秀アーティスト賞(Artist Of The Year)も用意しようと考えています。この部門はアメリカン・ミュージック・アワードで用意されているもので、対象期間に最も活躍した歌手に贈られる賞となります。米グラミー賞に加えてアメリカン・ミュージック・アワードからも好いところを抽出し、日本版グラミー賞についてもブラッシュアップしていきます。

 

日本版グラミー賞に興味を持った方には是非、RYOさんや自分が選んだようにノミネート作品(歌手)、そして受賞作品(歌手)を選出してみることを勧めます。推す歌手や作品が受賞する可能性は高いかもしれませんが、音楽チャート、ならびに他の作品のヒットの理由を知ることができ、客観的な視野がさらに強く身につくかもしれません。そしてそこから得た気付き等を、好きな歌手や作品がさらなる高みに到達できるべく還元(運営側に進言等)できるかもしれません。

そして今回の企画やコラボスペースに興味を持ってくださった音楽関係者の方々には、日本を代表し、世界にも轟くような音楽賞の創設を願います。それが世界からJ-POPの注目度を高めることにもつながるはずです。

 

 

今回コラボスペースに参加してくださったRYOさん、本当にありがとうございました。そしてお聴きくださった皆さんに、心より感謝申し上げます。"#日本版グラミー賞"をつけて感想等をつぶやいていただけたならば嬉しいです。