イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

2022年の『NHK紅白歌合戦』への私見…紅白はビルボードジャパンや大ヒット曲輩出歌手を尊重してほしい

今年もブログ【イマオト - 今の音楽を追うブログ -】をよろしくお願いいたします。今年大晦日の毎日更新10年目突入を目指し、楽しみながら頑張っていきます。このブログが読んでくださる皆さんにとって何かしらの気付きになれたならば幸いです。そして日本のエンタテインメント業界が好転するための一助になれたならばと考えます。

 

 

さて本日は『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)について。この番組を観て様々な思いを抱き、今回列挙します。なお『NHK紅白歌合戦』については、以下"紅白"と記載します。

 

 

紅白についてはこのブログにて出場歌手予想および結果を踏まえた考察を行いました。この内容はとりわけ多くの方からアクセスいただいています。

また出場歌手の妥当性について、日刊大衆の電話インタビューに応えた記事が掲載されています。

紅白では出場歌手発表後に追加歌手や特別企画のアナウンスが続々発表。それを踏まえ、たとえば藤井風さんに関してはこのような内容を記載しています。

 

(上記は10月のスタジアムライブにて用いられた映像であり、紅白使用の映像とは異なります。)

その藤井風さんのライブが個人的なベストアクトのひとつでした。おそらく新たに制作したモノクロームの映像と赤を貴重としたステージとのコントラスト、クラシカルな始まり方から最後倒れ込むところまで、「死ぬのがいいわ」の世界観が見事に示されていました。

そして「死ぬのがいいわ」における紹介テロップの配慮に感服。この曲がバズを起こしてから間もなく著名な方が亡くなったこともあり、このタイミングから変な勘違いが生まれかねないと危惧していました。個人的には曲披露時の説明テロップは不要と感じているのですが、「死ぬのがいいわ」についてはこのテロップが勘違いを生ませない役割を果たしたという意味で必要な措置だったと考えます。

 

そしてVaundyさんもまた、2022年紅白におけるベストアクトだったと感じています。

(上記は紅白出場決定後、昨年12月22日にアップされたライブ映像。)

ライブ的煽り(ライブを知らない方にはその煽られ方がどう映ったのかは気になりますが)も含め、会場を自らの世界に引き込んでいたことは間違いありません。アッパーな「怪獣の花唄」とミディアムの「おもかげ」という異なる2曲の用意は、彼の類まれなるソングライト力を示すに十分でした。

一方でSEKAI NO OWARI「Habit」が出演者も加えたいかにも紅白らしい演出を施しながらその紅白らしさがプラスに作用していたこと、ゆずおよびゆずが提供した関ジャニ∞がメドレー形式でコラボしたことも好ましく感じています。2022年はVaundyさん共々に作者参加型コラボレーションが見られましたが、紅白の新たな形として今後定番化してほしいと感じています。

 

紅白の新たな形といえば、白組優勝の発表がこれまでになくあっさりしていたことも重要なポイントです。通常は集計発表→優勝決定→「蛍の光」だった流れでしたが、今回の優勝発表は「蛍の光」の合間でとなり、また優勝旗贈呈はありませんでした。そもそもジェンダーで分けるやり方が時代錯誤的という見方が強まっており、紅白の伝統を守りながらしかし今の時代に即してきていることを印象付けたシーンでもありました。

 

 

個人的には勝った白組のパフォーマンスに特に惹かれた一方で、紅白に対して引っ掛かる点が多くありました。

 

まずはAimer「残響散歌」紹介時における違和感。この曲は年間総合チャート1位と紹介されたのですが、そこにビルボードジャパンの表記はありませんでした。

放送法 第83条第1項

(広告放送の禁止)

 

協会は、他人の営業に関する広告の放送をしてはならない。

"ビルボードジャパン"を語れないその背景にはこの法律の存在があるとを教えていただいたのですが、そのビルボードジャパンに加えてOfficial髭男dism『Subtitle』紹介時には主題歌となったドラマ『silent』の名が出てこなかった一方で、『ONE PIECE FILM RED』や『SPY × FAMILY』についてはきちんと紹介されています。

ビルボードジャパンが今の社会的ヒットの鑑となったならば、紅白は参照の有無に関わらず(いや、紅白はビルボードジャパンを参考に選出しているのは間違いないはずですが)、きちんとビルボードジャパンの名を出すべきでしょう。そして、音楽チャートは文化的側面を持つものだと考えます。個人的にNHKにてチャート番組をやるべきだとも思っているゆえ(毎週編成しやすいという意味でも)、今回強く引っ掛かった次第です。

 

ビルボードジャパンの各種チャートに基づき2022年の出場歌手が選ばれた一方で、大ヒット曲を輩出した歌手に与えられる尺が短いことも気になります。他方で特別企画には長尺が与えられており、このアンバランスも非常に気になりました。

23時台は一組に対して割り当てられた時間が明らかに長いのですが、特に長尺を与えられている歌手については違和感が拭えませんでした。スケジュールの都合とはいえ、生で参加できないならば尚の事です。VTRの間、NHKホールの観客は集中力が途切れたのではないかと危惧しています。そして、桑田佳祐さんのVTRは10分06秒もありました。

紅白の選考基準としてオールタイムベストアルバムリリースが挙げられます。紅白側はこの点を明示していませんが桑田佳祐さんや安全地帯、松任谷由実さん等は2022年にオールタイムベストアルバムをリリースし、また安全地帯のパフォーマンスにて玉置浩二さんのソロ曲「メロディー」が披露されましたがそのその玉置さんもオールタイムベストを出しています。ゆえに彼らが起用されること自体は自然なことです。しかし、厳しい物言いですが2022年に楽曲単位で大ヒットに至れたというわけではありません。

桑田さんの寸劇的時間を割くだけで、他の歌手の尺を長くすることができたはずです。演歌歌謡曲歌手が減ったこと(これはヒット率を考えれば自然と言えます)に対する中高年層は観ないだろう非難に対して紅白側がベテラン重用の形で対応したと捉えていますが、さすがに今のヒット曲を軽視しているというのが厳しくも私見。これは『日本レコード大賞』(TBS)や『発表!今年イチバン聴いた歌』(日本テレビ)も同様です。

楽曲面で大ヒットを飛ばした方については、中堅や若手、初出場歌手であろうとフル尺を割かせることを、紅白には強く求めます。

(なおVaundyさんや藤井風さんのステージを踏まえれば、ストリーミング1億回再生達成曲を複数所有する、また世界でヒットした曲を輩出した歌手は若手であっても重用されるのかもしれません。フル尺が与えられることに加えて、後述する悪い意味での紅白らしい演出を排する意味でも重要でしょう。ただ、そう考えれば考えるほどにOfficial髭男dism「Subtitle」の短尺版化には疑問を覚えるのです。)

 

 

演出手法もまた問題です。紅白の伝統という声もあるでしょうが、たとえばロバート秋山竜次さんの登場は2016年のタモリさんとマツコ・デラックスさんのような違和感を覚えました。タモリさん等についてはもっときちんとした出演の仕方があると考えますが、ロバート秋山さんについてはクリエイターズ・ファイルがどこまで認知されているか不明ながらそのキャラを通したことで、違和感がより大きくなったと捉えています。

また水森かおりさん登場時における松丸亮吾さんの謎解き演出ははっきり不要だと感じています。次に登場したLE SSERAFIMが別会場から登場することに合わせた演出だとして、ここで尺を取る必要はなかったと考えます。このような演出については、中高年層への調査が必要と考えます。

尤も、演歌歌謡曲についてはこのようなこれまでの紅白らしさを伴った演出が続いています。言い換えれば、その年に大ヒット曲を輩出することができたならば過度な演出なしでも披露できるのではないかと考えますし、それこそが歌手側にとっても本望ではないでしょうか。

氷川きよしさんは活動休止になることで特別企画枠へ移行しましたが、そこで氷川さんが披露したのは演歌ではありませんでした。そして氷川さんが抜けた白組の一枠を演歌歌謡曲歌手が埋めることはできませんでした。ビルボードジャパンの複合チャート(特にストリーミング)がヒットの基準となる中で演歌歌謡曲界は未だフィジカルセールス一辺倒であることも問題点として大きく、演歌歌謡曲界全体の改善は必須と考えます。

(なお氷川きよしさんの演歌歌謡曲作品は、昨年11月30日にサブスク解禁されています。)

 

そして大泉洋さんの司会起用も違和感を覚えます。昨年流行した言葉とはいえ"ブラボー!"を多用することは、ボキャブラリーが多くないのではという疑問を抱かせるに十分でした(仮に台本通りならば、その台本の問題です)。以前存在した彼へのイジりがなくなったことは個人的に歓迎しますが、白組司会を櫻井翔さんにして橋本環奈さんと2名体制にすればスムーズな司会ができたのではと、厳しくもそう考えます。

無論大泉さんが『SONGS』の司会や『鎌倉殿の13人』にて重要な役どころを演じたゆえの起用であることは解ります。それは解るとして、紅白の場で大河ドラマのバトンタッチセレモニーまで行う必要はあったでしょうか。音楽賞ではないため放送局のカラーが入るのは問題ないとして、前半最後の5分をバトンタッチセレモニーに充てることも出場歌手の尺を削ることになります。前半登場歌手は特に尺が短いこともあり尚更です。

 

 

素晴らしいパフォーマンスが少なくなかった一方で、旧態依然の演出手法がやはり引っ掛かったのは拭えないというのが2022年の紅白に対する自分の見方です。そしてその年の真の社会的ヒット曲よりもベテランを重用する流れはその年のヒット曲を輩出した歌手に失礼であり、その演出の差が"#紅白見ない"と堂々と言える人たちにそれを言う事へのお墨付きを与えているのではとすら考えます。

旧態依然の演出手法やベテランの過度な重用の見直し、司会の人選、そしてそもそも紅白どちらが勝つかというシステムの是非…紅白が抱える課題は沢山あります。それでも多くの方から注目されるならば、紅白はブラッシュアップを続けていく必要があると考えます。実際紅白披露曲は音楽チャートに大きく反映する等影響力が大きいゆえ、改善を強く願うばかりです。

 

 

最後に。紅白側は今回のパフォーマンス映像をYouTubeにて配信していますが、その配信があくまで短尺版であること、NHKプラスという自社(自局)への誘導を優先している姿勢、また期間限定配信であることは、音楽業界のみならず日本のエンタテインメント業界が残念ながら内向きであることを示すに十分でしょう。それでも民放局よりは進んでいるとも言えるかもしれませんが、この姿勢が次回までに改善することも願います。