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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパン年間チャート発表、2022年度のチャートトピックス10項目を挙げる

2022年度のビルボードジャパン年間チャートが発表されました。集計期間は2021年11月29日~2022年11月27日(2021年12月8日公開分(12月13日付)~2022年11月30日公開分(12月5日付)となります。

 

各チャートの詳細はこちらから確認できます。いつでもチェックできるよう、リンクを貼った形です。

(なお、ビルボードジャパンのホームページをこのブログに直接貼付することができない(エラーが発生する)ため、ビルボードジャパンによるツイートを掲載しています。)

・年間ソングチャートおよび各指標

 

 

・年間アニメーションソングチャート

 

・年間アルバムチャートおよび各指標

 

 

・年間作詞家および作曲家チャート

 

 

・年間トップアーティストチャート

 

・年間Heatseekers Songsチャート

 

・年間Top User Generated Songsチャート

 

・年間TikTok Songsチャート

 

・首位獲得歌手のインタビュー

 

 

ではここから、ソングチャートを中心に年間チャートから見えてくる今年度のチャートトピックスを10項目挙げていきます。昨年については下記に。なおストリーミングが社会的ヒット曲に欠かせない要素になり、ロングヒットする作品が増えたことにより2021年度以前のリリース曲が2022年度年間ソングチャートでも上位をキープしていることが多い状況です。それら作品については昨年度の総括エントリーをご参照ください。

 

年間ソングチャート100位まで、およびフィジカルセールス、ダウンロードおよびストリーミング指標の順位は下記表をご参照ください。フィジカルセールス、ダウンロードおよびストリーミングについて、総合100位以内ランクイン曲は各指標100位まで、総合100位未満については各指標50位まで掲載しています。

週毎の1~3位曲リストはこちら。

またトップアーティストチャート20位までの歌手における指標別順位はこちら。このブログエントリーで最初に紹介したツイートから辿ることができます。

 

紹介する曲やアルバムについては、2022年度最終週までの最長60週分におけるチャートアクションを示したCHART insightを貼付しています。総合順位は黒で表示、また各指標はフィジカルセールスが黄色、ダウンロードが紫、ストリーミングが青、ラジオが黄緑、ルックアップがオレンジ、Twitterが水色、動画再生が赤、カラオケが緑となります。ソングチャートは8指標、アルバムチャートはフィジカルセールス、ダウンロードおよびルックアップの3指標で構成されています。なお、円グラフは2022年度最終週におけるポイント構成比となります。

 

 

それでは、今年度の10項目を取り上げていきます。

 

ビルボードジャパン年間チャート発表、2022年度のチャートトピックス10項目

 

 

① アニメソングが強さを発揮

年間ソングチャートを制したAimer「残響散歌」はテレビアニメ『鬼滅の刃 遊郭編』(フジテレビ)のオープニング曲として、通算9週ソングチャートを制覇。またKing Gnuは『劇場版 呪術廻戦0』のオープニング曲「一途」(年間10位)およびエンディング曲「逆夢」(同13位)が共にヒット。フィジカルでもリリースており関連ポイントは「一途」に加算されていますが、未加算の「逆夢」が「一途」に肉薄しています。

その他、『SPY×FAMILY』第1シーズンのオープニング曲、Official髭男dism「ミックスナッツ」は年間4位、エンディング曲の星野源「喜劇」は同50位に登場する等、アニメ関連曲が強さを発揮した1年となりました。これらアニメソングはダウンロード指標が強く、年間ソングチャート100位以内に入らなかったもののこの指標で上位にランクインした曲も目立っています。

また「一途」のようにフィジカルリリースされている曲も一部ありますが、それぞれの初週セールスはAimer「残響散歌」が45,222枚、King Gnu「一途」が47,292枚、Official髭男dism「ミックスナッツ」が31,794枚といずれも5万枚に届いていません。社会的ヒット曲がフィジカルセールスと乖離している傾向が、ここから見て取れます。

 

 

② 映像関連作品における下半期リリース曲の追い上げ

アニメソングの中でさらに特筆すべき作品といえば、Ado「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」の年間ソングチャートトップ10入りでしょう。リリースは今年6月、すなわち下半期にあたります。

2022年度最終週までのCHART insightをみると、年間ソングチャート上位曲の大半は青で示されるストリーミング指標の順位が高いことが解ります。週間チャートでの上位進出、そしてロングヒットにおいてこの指標が如何に重要な役割を果たしているかがよく解るはずです。上半期、もしくは昨年度以前からヒットしている曲が有利になるのが年間ソングチャートの特徴となります。

その中にあってAdo「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」(年間ソングチャート7位)の勢いは凄まじく、大ヒットした映画『ONE PIECE FILM RED』の公開翌週に発売されたアルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』の収録曲は8月17日公開分(8月22付)で16位までに7曲が登場、そしてトップ3独占の快挙も達成しています。

『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』はB'z『Highway X』と同日リリースながら、ダウンロードの強さで逆転し週間アルバムチャートも制しています。『ONE PIECE FILM RED』は興行収入が170億円を突破し、今年の映画の中で覇権を握ったと言えるでしょう。この映画の勢いが「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」等関連曲に波及した形です。

今年は”覇権”という言葉を幾度となく耳にした印象があります。10月クールのテレビ関連作品では2つが覇権を握っており、アニメでは『チェンソーマン』(テレビ東京)、ドラマでは『silent』(フジテレビ)と言われています。しかも前者のオープニング曲である米津玄師「KICK BACK」(年間ソングチャート30位)、そして後者の主題歌となったOfficial髭男dism「Subtitle」(同27位)は同じ10月12日にデジタルリリースされているのです。

2曲とも2022年度最終週まで週間1万ポイント超えを達成。週間29万枚を超えるフィジカルセールスが毎週のように登場しながら、総合ソングチャートにおいてKing & Prince「ツキヨミ」に1週その座を譲る以外以外は「KICK BACK」が2週、「Subtitle」が4週首位に就いています。

加えてOfficial髭男dism「Subtitle」はストリーミングが4週連続で週間2000万回再生を突破。歴代首位のBTS「Butter」(2021年6月2日公開分(6月7日付)で再生回数2993万回を記録)がLINE MUSIC再生キャンペーン効果も相俟って最高記録を樹立していますが、「Subtitle」はキャンペーン未実施の状況下で強大な再生回数を続けています。ドラマ『silent』は見逃し配信で記録的な再生回数を続けており、ドラマ視聴からストリーミングへの流れが生まれています。

 

 

TikTok発のヒット曲は今年も…そのバズを強固にする歌手の積極的な参加姿勢

TikTokからヒット曲が多数登場する状況は今年も。12月6日にTikTok流行語大賞が発表されましたが、そのノミネーションからは音楽関連の多さがよく解ります。

一方で、TikTokのヒット曲がすべて総合ソングチャートでもヒットするとは限りません。その中で大ヒットに至った曲には、歌手自らが積極的に参加する姿勢が見えてきます。

たとえばTani Yuuki「W / X / Y」(年間ソングチャート2位)は、インフルエンサーのローカルカンピオーネが独自に振り付けを施した動画がヒットしていますが、Tani Yuukiさんはそれを採り入れ、動画で披露したのみならずライブ会場で観客と共有しチャートを駆け上がることに成功。ヒット後もフォーエイトと共演を果たす等様々な施策を実施したことで、最終的には年間ストリーミングソングチャートを制しています。

(上記はリリックビデオ。)

昨年度にヒットの兆しがみえていたSaucy Dog「シンデレラガール」(年間ソングチャート6位)においては、メンバーの石原慎也さんがYouTubeにてコムドットと共演。SNSでは出演等に否定的な声も聴かれましたが、YouTuberのファンや動画をよくチェックする方への訴求に成功しています。さらにSEKAI NO OWARIは「Habit」(同11位)において、印象的なミュージックビデオをHIKAKINさんと再現する企画を行っています。

昨年度の年間チャート振り返りの際には解説動画の重要性について紹介しましたが、たとえばしらスタさんの動画には著名な歌手が多数登場しています。YouTubeチャンネルやYouTuberの方の認知度や印象が上昇するのみならず、歌手側もフレンドリーな対応として評価されているのではないでしょうか。このように積極的な参加姿勢による親しみやすさの創出がさらなるバズにつながっているものと考えられます。

歌手が楽しむ姿勢によるバズ発生は、たとえば一昨年秋にフリートウッド・マック「Dreams」が43年ぶりにリバイバルヒットを果たしたことからも感じることができましたが、そのアメリカではTikTokをティザー(ティーザー)として利用しヒットを創出する流れが生まれています。この流れは日本でも、たとえばなとり「Overdose」(年間ソングチャート75位)でみられており、今後のプロモーションにおける主流となるかもしれません。

 

 

④ トップアーティストチャートで若手~中堅バンドが台頭

年間ソングチャートで上位にランクインした曲の大半はストリーミング1億回再生を突破していますが、その中に若手から中堅バンドが多く登場しているのが面白いところです。

先述したSaucy Dogは年間トップアーティストチャート10位(2021年度は78位)、Official髭男dismは同3位、King Gnuは同6位に登場。また「なんでもないよ、」が年間ソングチャート8位に入ったマカロニえんぴつは年間トップアーティストチャート16位に入っています。メジャーデビューはSaucy DogおよびKing Gnuが2019年、Official髭男dismが2018年、マカロニえんぴつが2020年であり、ここ数年ヒットを連発しているOfficial髭男dismやKing Gnuも若手と言えるのです。

また、「Habit」が年間ソングチャート11位を獲得したSEKAI NO OWARIは年間トップアーティストチャート26位、来年リリースのアルバム『ユーモア』収録予定曲が次々ヒットしたback numberは同8位、「ダンスホール」が年間ソングチャート32位、提供曲であるAdo「私は最強 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」が同24位に入ったMrs. GREEN APPLEは年間トップアーティストチャート11位に。それぞれのメジャーデビュー時期はSEKAI NO OWARIおよびback numberが2011年、Mrs. GREEN APPLEが2015年であり、中堅と呼べるバンドも存在感を示しています。

(SEKAI NO OWARIのCHART insightにおけるチャート構成比は、2023年度初週(2022年12月7日公開分(12月12日付)のものとなります。)

特に高い指標がストリーミング、そしてカラオケ。複数のヒット曲を輩出することで高値安定し、またSEKAI NO OWARIのように大ヒット曲が生まれることでアーティストランキングも急上昇するのが興味深いところです。

ビルボードジャパンソングチャートのカラオケ指標にデータを提供するDAMおよびJOYSOUNDは共に今月、2022年度の年間ランキングを発表しています。歌手別トップ10においては双方のサービスでback number、Official髭男dism、Saucy Dog、マカロニえんぴつがランクインし、またDAMではMr.ChildrenJOYSOUNDではMrs. GREEN APPLEがトップ10入りを果たしています。特にSaucy Dogやマカロニえんぴつの勢いが凄まじく、ここからも若手から中堅バンドの人気を実感できるでしょう。

 

 

K-POPBTSおよび女性ダンスボーカルグループがヒット

BTSの強さは2020年リリースの「Dynamite」、2021年リリースの「Butter」および「Permission To Dance」が今年度も年間ソングチャートで順に14位、12位および23位にランクイン。ストリーミング等接触指標のロングヒットが牽引したことは間違いありません。

加えて今年度は、TWICEやIVE、Kep1er等の女性ダンスボーカルグループのヒットが目立っていることが特徴で、TWICE「The Feels」は年間ソングチャート38位、IVEは「ELEVEN」が同44位、「LOVE DIVE」が同69位に、またKep1er「WA DA DA」は同46位にランクインを果たしています。

ストリーミングや動画再生といった接触指標群が牽引していますが、そもそもこれらの曲は(オリジナル版が)韓国やグローバル向けの作品となります。日本語詞ではない曲のヒットは作品が浸透していることの証明であり、下記の若年層向け流行ランキング等からも解るでしょう。

IVEをはじめ、TWICEやLE SSERAFIMは今年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)に出演が決定していますが、トップアーティストチャートにおけるCHART insightをみれば、いずれもストリーミングの強さにより人気が安定していることが解るのです。下記ブログエントリーでは今年の紅白出場を果たしたTWICE、IVEおよびLE SSERAFIMについて、11月中旬までのアーティストランキングにおけるCHART insightを掲載しています。

 

 

⑥ 男性ダンスボーカルグループの新時代、そして気掛かりな点

K-POPではBTSを除く男性ダンスボーカルグループ、たとえばStray KidsやENHYPEN等もヒットしていますが、主にアルバムチャートでの人気が際立ちます。アルバムチャートにはストリーミング指標がなく、所有指標(フィジカルセールスおよびダウンロード)の強さが大きく反映されます。今年度のアルバムチャート、週間首位獲得作品の一覧表をみると如何にK-POP男性ダンスボーカルグループが所有指標、特にフィジカルセールスで強いかがよく解ります。

一方で年間ソングチャート100位までに入っている男性ダンスボーカルグループの曲は、⑤で紹介したBTSの曲を除けば多くありません。これはJ-POPのダンスボーカルグループやアイドル(男女問わず)も同様であり、フィジカルセールスに強いながらデジタルに強くない、もしくはそもそもデジタルを解禁していないがゆえにロングヒットの可能性が極度に減っていることの表れです。

その中にあって、Da-iCECITRUS」は年間ソングチャート18位、BE:FIRST「Bye-Good-Bye」は同29位にランクイン。ストリーミング再生回数は前者が3億回、後者が1億回を突破しており、ストリーミングの支持が功を奏した形と言えます。「CITRUS」は昨年の日本レコード大賞受賞がさらなる追い風となりました。

ちなみに「CITRUS」「Bye-Good-Bye」共にLINE MUSIC再生キャンペーンを実施しており、特にリリース当初からヒットした「Bye-Good-Bye」はキャンペーン効果もストリーミング1億回再生に寄与しているものの、同曲の総合ソングチャートにおけるダウン幅や角度は⑤で紹介したK-POP作品よりも急だと言えます。年間ソングチャート上位曲と比べてデジタルの安定感が十分とは言えないことが、ここからみえてきます。

LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲の再生回数は、2022年度後半の同サブスクサービスによる仕様変更に伴い再生回数がそのまま加算されることがなくなり、週間単位での爆発的なヒットは難しくなりました。ゆえにライト層を如何に獲得して曲を浸透させるかがこれまで以上に重要となりますが、その大きな一助と成り得るテレビパフォーマンスにおいて男性ダンスボーカルグループが地上波音楽番組に未だ満足に出られない状況が続いていることは気掛かりです。

 

 

ソニーミュージックの強さと、牽引した2組の今後の課題

今年度もソニーミュージックの強さが際立ちます。Aimer「残響散歌」が年間ソングチャートを制したことで、米津玄師「Lemon」(2018および2019年度)、YOASOBI「夜に駆ける」(2020年度)そして優里「ドライフラワー」(2021年度)に続き5年連続で総合ソングチャートを制したことになります。

これには、同グループがTHE FIRST TAKEを運営しているであろうこと(スタッフインタビューでは所属を明かしていませんが、出演者の傾向やソニー製テレビへプロモーションとして映像を提供している等から解ります)、アニメタイアップ枠を多数持っていることが大きいと考えられます。また好成績等をプレスリリースで発信することでメディアを介し広く一般に浸透させていることもヒット(の持続)につながっていると言えます。

(上記ブログエントリーではプレスリリースの速くなさに対して疑問を呈していますが、そのプレスリリースがなければそもそもメディアが取り上げない可能性について言及し、結果的にプレスリリースの重要性を記しています。)

ソニーミュージックはサブスクの活用が、さらに所属歌手におけるSNS等を用いたエンゲージメントの確立が上手いと感じています。その代表格がYOASOBI、そして優里さんであり、前者はTwitterでの柔らかな言葉遣い等により自発的に応援したくなる空気づくりが、後者はYouTuberとしての親しみやすさが、コアファンとの結びつきを強くすると共にライト層のコアファンへの昇華にもつながっていると考えます。

一方で、この2組のアーティストチャートにおける動向は気になります。年間トップアーティストチャートではYOASOBIが2位、優里さんが4位となり、共に前年度から順位は変わらないものの、週間単位では上位に留まれない状況が目立ち始めています。

EPやアルバムはサブスクで多く聴かれていますが、それ以降の新曲がチャート上で好成績に至れない状態が続いています。コアファンとの結びつきに長けている以上、ライト層を取り込むべく新曲がヒットすることが今後のアーティストチャート浮上のきっかけとなるはずです。その点において、YOASOBIが「祝福」で年度内で8週連続トップ10入りを果たし年間ソングチャートでも74位に入ったことは大きいと言えます。

なお2組とも、今年の『NHK紅白歌合戦』に出場しません(ただし現段階では、であり今後追加発表される可能性はあります)。この番組が音楽チャートに与える影響の大きさを考えれば、出場打診があったならば来年の活動を見据えて前向きに検討する必要があったのではないでしょうか。

 

 

⑧ アルバムチャートで存在感を示したジャニーズ作品のこれから

年間アルバムチャートでは、ジャニーズ事務所所属歌手やK-POPの男性ダンスボーカルグループがトップ10内に7作品を送り込む結果となりました。アルバムチャートはフィジカルセールス、ダウンロードならびにルックアップで構成され、ルックアップはCDをパソコン等に取り込んだ際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を指します。この指標は実際の売上枚数に対する購入者数(ユニークユーザー数)、またレンタル枚数の推測を可能とするもので、レンタルに伴うルックアップは接触指標と呼べるものです。

2022年度の年間アルバムチャートを制したSnow Man『Snow Labo. S2』や2位のなにわ男子『1st Love』はこのルックアップ指標が強く、デジタル未解禁分をフィジカルの所有/接触の双方で補ったことが解ります。

ジャニーズ事務所所属歌手でフィジカルセールスに強い歌手はその大半が未だサブスク未解禁の状況を続けています。その中でSnow Manはアルバムからの先行曲「ブラザービート」のミュージックビデオやダンスプラクティスを、なにわ男子はデビュー曲「初心LOVE」等でダンスバージョンと銘打った動画を、それぞれフルバージョンでアップしています。これが動画再生指標を中心に人気となり、またTikTokでも一定の成果を上げたことで、動画効果がアルバムの所有や接触につながったと捉えていいでしょう。「ブラザービート」は年間ソングチャート84位、「初心LOVE」は同79位に入っていますが、デジタルを解禁していればさらに上昇したことは間違いないでしょう。

(上記はフルバージョンでアップされているダンスバージョン。)

さて、このルックアップ指標が2023年度から廃止されることで、デジタル未配信作品はチャート上で不利になると考えられます。

アルバムチャートは所有指標のみとなるためフィジカルセールスに強いジャニーズ事務所所属歌手作品への影響度は高くないかもしれませんが、ソングチャートでは既に影響が表れていると言えます。それがなにわ男子「ハッピーサプライズ」であり、昨日付のブログエントリーにて紹介しています。

ジャニーズ事務所所属歌手によるサブスク解禁は増えていますが、シングルのフィジカルセールス(初動)が20万枚程度を超える歌手に関しては今も未解禁が続いています。その状況下でビルボードジャパンがルックアップ指標等を廃止したことにより、ジャニーズ事務所側がどう動くかが気になります。

ともすればフィジカルにこだわるあまりビルボードジャパンによる複合指標のチャートを悪い意味で意識しなくなるのではと危惧していますが、Snow Manやなにわ男子がTikTokYouTubeを積極的に活用し、その成果がアルバムチャート等にも表れているものと考えれば、サブスクを解禁することでライト層が付き、一方でフィジカルセールスが極度に落ち込むことはないものと考えます。

 

 

⑨ 週間ポイントワンツー達成、米津玄師が示したチャートアクションの理想形

2022年度の週間ソングチャートで最高ポイントを記録したのが米津玄師「M八七」(年間ソングチャート42位)。5月25日公開分(5月30日付)で20,881ポイントを獲得しています。それに次ぐのがこちらも米津玄師さんによる「KICK BACK」(同30位)であり、年度最終週の11月30日公開分(12月5日付)で20783ポイントに達しました。いずれもフィジカルセールス加算初週時であり、「M八七」はフィジカル初動241,867枚、「KICK BACK」は同289,147枚を記録しています。

(「KICK BACK」のミュージックビデオおよびCHART insightは②で紹介しています。)

米津玄師さん側はフィジカルシングルにおいて、以前からスケジュールに工夫をこらしています。デジタル→ミュージックビデオ→フィジカル→レンタルと段階的に解禁することで、四度ものピークを作ることに成功してきました。さらに「KICK BACK」において、レンタル解禁をこれまで通りフィジカルリリースの17日後にすればルックアップ指標を獲得できない(解禁日が2023年度に該当し、ルックアップ指標が廃止される)ことを踏まえ、ソニーミュージック移籍後はじめてフィジカルリリース週にレンタルを解禁しています。間違いなく、ビルボードジャパンソングチャートを意識した動きでしょう。

今やシングルをフィジカルリリースする(言い換えればそれが”できる”)歌手は少なくなったと言えます。YOASOBIさんや優里さんのフィジカルシングルは共にアニメタイアップのみであるように、タイアップ先が所有行動に至りやすいアニメ等の作品でなければフィジカルを出せないとも言えるかもしれません。一方で複数種リリースや封入特典等の充実から、フィジカルがグッズ的な意味合いも持つようになって久しいと言えます。

その状況下にあって、所有指標の急落しやすい性質も踏まえれば尚の事、ストリーミングや動画再生等デジタルの接触指標群で好調を維持した状態でフィジカルを投入しポイントの最大化を狙うことが、現段階におけるチャートアクションの理想形と言えるでしょう。フィジカルリリースには他指標を上昇に導く効果もみられます。

フィジカルセールス指標の性質を踏まえればポイント前週比がデジタルのみの曲より低くはなるものの、フィジカルセールスに強いアイドルやダンスボーカルグループが狙うべきチャートアクションはここにあると言っても過言ではありません。

 

 

⑩ ロングヒットは今後難しくなる? 考えられる4つの要因

昨年度の年間ソングチャートと今年度では、トップ10ランクイン曲の上位在籍週数に差が生じています。

昨年度年間ソングチャートトップ10のうち、週間チャートで総合50位以内に52週すべて入っていたのは4位までの作品、およびYOASOBI「群青」のみ。同じくYOASOBI「怪物」は46週、Ado「うっせぇわ」および菅田将暉「虹」は49週、Eve「廻廻奇譚」は47週ランクインしています。一方でBTS「Butter」は28週にとどまりますが、これは2021年半ばのリリースゆえであり、これらからもロングヒット傾向がよく解ります。

一方で2022年度の年間ソングチャートトップ10ランクイン曲においては52週連続50位以内登場曲が5曲、Aimer「残響散歌」が51週の一方、Tani Yuuki「W / X / Y」が43週、Official髭男dism「ミックスナッツ」が33週、King Gnu「一途」が28週、Ado「新時代」は25週となっています。「ミックスナッツ」「新時代」は2022年半ばのリリース曲ゆえ50位以内在籍週数が多くないのは自然ですが、「一途」の28週、さらに「残響散歌」も年度最終盤に6週続けて40~50位に入っていたことから、ロングヒットが難しくなったのではないかと感じています。

考えられるのは4点。まずはカラオケ指標が好位置をキープできていないことであり、King Gnu「一途」や「逆夢」は比較的速い段階でダウンに転じています。また2020年度の年間ソングチャートを制したYOASOBI「夜に駆ける」や2021年度における優里「ドライフラワー」が彼らの歌手的な意味でのブレイク曲でもあるためヒットが持続したと考えられます。さらに今年は例年以上に映像関連やネット関連のヒットが多く登場し瞬発力も高い一方、映像作品の終了やネットでのバズの落ち着きと共にランクダウンする傾向が目立ったと言えるかもしれません。

そしてもうひとつがサブスクユーザー数の上昇です。たとえばSpotifyはデイリーチャート200位までの再生回数を開示していますが、その200位の再生回数を定点観測すると秋以降の伸びが大きいことが解ります。

このことは、Spotifyを含むビルボードジャパンソングチャートのStreaming Songsチャートにおける10位の再生回数推移からもみえてきます。分析者の間では、ユーザー数が増加し裾野が広がったというのが共通認識となっています。

これは同日デジタルリリースされた米津玄師「KICK BACK」およびOfficial髭男dism「Subtitle」の影響に因るところも大きいでしょう。さらに「KICK BACK」がオープニング曲となったテレビアニメ『チェンソーマン』のエンディング曲が週替わりであることやテレビOA後の配信、「Subtitle」を主題歌とするテレビドラマ『silent』も見逃し配信で大ヒットしていることで、映像配信からサブスクサービスへの流入が生まれていることも想像できます。

サブスクユーザー数の増加はチャートの活性化につながるものと考えます。ビルボードジャパンソングチャートには米ビルボードのようなリカレントルール(一定週数ランクインした曲が一定順位を下回ればチャートから外れるというチャートポリシー)がないため新陳代謝ができにくい状況ではあるのですが、2023年度以降はチャートの循環が速まるのではないかと捉えています。

これら4点については以前一度記載しましたが、エントリー掲載以降「KICK BACK」や「Subtitle」がリリースされサブスク環境がさらに変わったため再掲した形です。

 

 

以上10項目採り上げました。

 

2022年度のビルボードジャパン年間ソングチャートで記事を担当したチャートディレクターの礒崎誠二さんは、ヒットが多様化しているとした上で以下の4点を取り上げています。

今年の国内シーンを振り返ると、主なトピックは「アニメやドラマタイアップ曲のメガヒット」「オーディション系グループの躍進」「動画プロモーションに本腰を入れたジャニーズ」「動画がノンタイアップ曲のヒットを加速」の4点だ。

主にTikTok等ネットの活用によりヒットに至ったノンタイアップ曲の、そのヒットを拡散させた指標としてカラオケを取り上げているのが興味深いと言えます。名曲と呼ばれる作品が上位を維持しやすいこの指標において、『「W/X/Y」(32位)、「ドライフラワー」(1位)、「シンデレラボーイ」(2位)、「なんでもないよ、」(14位)、「水平線」(3位)』等が好成績を残しており、カラオケ指標がヒットの地盤を固めるのに重要な役割を果たしていることが解ります(『』内は上記ツイート内リンク先の記事より)。またストリーミング指標の動きが加速していくことが予想される中にあっても、このカラオケが大きな礎になっていくことでしょう。

 

 

最後に。今回貼付した自分発信のツイートはスレッド化しており、そこでは様々なデータを紹介しています。ビルボードジャパンの年間チャートや記事、ツイートに掲載した各種データ、また音楽チャート分析者による見方等も踏まえ、ご覧いただいたみなさんが音楽チャートを分析したり楽しんでいただければ、また気づきを得ることができたならば嬉しいと思っています。