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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ILLIT「Magnetic」、日本および世界のチャート施策における絶妙なタイミングについて

最新4月17日公開分ビルボードジャパンソングチャートではCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が12連覇を達成した一方でポイントがダウンしていることについては、一昨日のエントリーで紹介しました。

そして次週、4月24日公開分においては「Bling-Bang-Bang-Born」にILLIT「Magnetic」が迫るものと予想されます。

 

最新4月17日公開分ビルボードジャパンソングチャート、ストリーミング指標の基となる再生回数はCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が前週比87.4%(21,203,606→18,533,103回再生)に対し、ILLIT「Magnetic」は97.3%(10,866,450→10,570,857回再生)。そして次週4月24日公開分における集計期間前半3日間の速報値では「Bling-Bang-Bang-Born」が85.9%(7,545,296→6,481,751回再生)に対し「Magnetic」が115.5%(449.6万→519.2万回再生)となっています。

 

最新4月17日公開分ビルボードジャパンソングチャートにおいて、ILLIT「Magnetic」は総合3→6位に後退。これは米津玄師さんや乃木坂46の新曲初登場、Number_i「Blow Your Cover」の再登場に伴うダウンといえますが、ストリーミングは3位をキープ。一方で動画再生は16→20位に下がっており、曲の認知に対し歌手としての知名度が追いついていないのでは、今後ストリーミングもダウンしていくのではと感じていました。

それが4月15日(すなわち次週4月24日公開分ビルボードジャパンソングチャートの集計期間初日)において、日本のSpotifyにおける再生回数前日比は特筆すべき状況に。通常は日曜から月曜にかけて大きくダウンする傾向ながら、「Magnetic」はその減少幅を最小限に抑えたのです。そしてこの曲は、翌日4月16日付にて最高再生回数を更新しています。

 

これは間違いなく、4月14日に放送された『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)にて日本のテレビ初出演を果たしたこと、ガンバレルーヤ出演の企画で7名にて「Magnetic」を披露したことが影響しているでしょう。そしてその放送日(おそらくは番組終了直後)にILLITの公式YouTubeチャンネルにて共演動画が公開され、高い再生回数を記録しています。

動画はILLITの公式TikTokチャンネルでも用意され(→こちら)、高い人気を誇っています。ILLITが所属するHYBEは先月のユニバーサルミュージックグループ(以下UMG)との契約の際、ユニバーサル側が音源引き上げを行ったTikTokに対し音源を下ろすとの取り交わしを行っています。これがTikTok→動画再生やストリーミングの流れを生み、また番組やお笑い芸人を介してILLITの認知度上昇につながったと捉えています。

TikTokにおいては、UMG属のテイラー・スウィフトも音源を下ろすようになりました。ニューアルバム『The Tortured Poets Department』でもプロモーションツールとして活用しており、施策に長けたテイラー側がTikTokの重要性を熟知しているゆえの判断と思われます。

(UMG側はTikTok側と早急に協議し、双方が納得できる形での再契約および音源の再流通を行う必要があるかもしれません。TikTokを介して音楽が拡がることはILLIT「Magnetic」のサブスク上昇からも判ることであり、UMG所属歌手はTikTokを介して"見つけてもらえない"という現状に不満を抱いているかもしれません。)

 

 

ILLIT「Magnetic」については次週4月24日公開分のビルボードジャパンソングチャートのみならず、世界の主要デジタルプラットフォームにおけるストリーミング(YouTubeを含む、ただしショートは除く)やダウンロードから成る米ビルボードのグローバルチャートにも注目です。『世界の果てまでイッテQ!』効果は4月12日が集計期間初日となる4月27日付以降に反映されますが、ILLITはさらなる施策を用意しています。

新たな施策とは、3種のリミックス公開。ビルボードジャパンソングチャートではオリジナル版と言語以外が異なるバージョンは合算されませんが、米ビルボードソングチャートや米ビルボードによるグローバルチャートでは合算対象に。リミックス効果はダウンロードに反映されやすい一方でストリーミングにはそれなりという側面もありますが、「Magnetic」がこのタイミングでリリースしたことは2つの面で興味深いのです。

 

ひとつは、リリースが日本時間の4月19日金曜13時であるということ。これは米東部標準時(EST)の同日午前0時にあたり、米ビルボードや米ビルボードによるグローバルチャートの集計期間初日0時に該当します。すなわちリミックス効果は5月4日付各種チャートにおいて7日間フルで加算されることになるのです。

またILLIT「Magnetic」のオリジナルバージョンは3月25日月曜のリリースであり、リミックスのタイミングで金曜リリースに転換したといえます。ILLIT、もっといえばHYBE側が韓国以上に世界を意識するようになったことの表れといえるでしょう。

 

そしてもうひとつは、今回のリミックス版リリースがテイラー・スウィフトのニューアルバム『The Tortured Poets Department』に完全に重なっているということ。

ストリーミングに強いアルバムの初登場により、ソングチャートにもストリーミングの初動が活きる形で収録曲が大挙初登場に至るということです。

上記エントリーではストリーミングに強いアルバムが毎週のように登場する中にあってILLIT「Magnetic」が最新4月20日付米ビルボードソングチャート91位に初登場したことを紹介しましたが、テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』は初週200万ユニット超えの声もあり、セールスのみならずストリーミングも強いことから、5月4日付チャートではサブスク聴取可能な31曲がすべて上位に進出するとみられます。

4月19日はデジタルプラットフォームもラジオ局もテイラー・スウィフト祭り状態となっており、テイラー一強の状況が加速しかねない中でILLITは「Magnetic」のリミックスを用意したのです。『The Tortured Poets Department』収録曲の大挙エントリーに伴い米ソングチャートやグローバルチャートでもダウンする可能性は高いながら果敢に挑み、そしてテイラー人気が落ち着くタイミングでの再浮上も狙っているといえます。

 

 

ILLIT「Magnetic」はこの1週間で日本、そして世界にて興味深い施策を実施。いずれも興味深い、且つ絶妙なタイミングとなっています。

日本の音楽業界が世界市場を狙うならば、ILLIT「Magnetic」がどのタイミングで施策を用意したのか、その意味をきちんと理解する必要があるでしょう。そして何よりもまず、日本や世界の音楽チャートを熟知することが重要です。