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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパンの合算基準への違和感を踏まえ、チャートポリシーのグローバル化を再提案する

ビルボードジャパンソングチャート、4月10日公開分の段階で気になっていたことがあります。

(上記は2024年4月17日公開分ビルボードジャパンソングチャートにおける、宇多田ヒカル「Automatic」のCHART insight。)

1998年リリースの宇多田ヒカル「Automatic」は4月10日にリリースされたデビューシングルで、キャリア初のベストアルバム『SCIENCE FICTION』では"2004 Mix"として収録。先行配信されたことでラジオ指標にて火がつき、同指標2週連続トップ10入り、そして総合ソングチャートでも100位以内をキープしています。しかしこの曲名に引っかかりを覚えるのです。

元来「Automatic」は頭文字が大文字で表記されるのが正解ですが、ビルボードジャパンではすべて小文字表記となっています。今回はこの問題をきっかけとして考えたことをまとめます。

 

 

ラジオ指標は、全国の主要ラジオ局のOAチャートを調査するプランテックのデータを基に、放送局毎の聴取可能人口等を加味して算出されます。宇多田ヒカル「Automatic」においては、そのプランテックの曲名表記自体に誤りがありました。

(※後日訂正される可能性を踏まえ、キャプチャした内容を貼付しました。問題があれば削除いたします。)

4月17日公開分ビルボードジャパンソングチャートでのラジオ指標の基となるプランテックのOAチャートでも、宇多田ヒカル「Automatic」がすべて小文字表記の状態。そしてビルボードジャパンは、このプランテックのデータをそのまま用いているのではないかと捉えています。それが証拠に、ビルボードジャパンは同曲の新ミックス版配信を報じる際、きちんと頭文字を大文字にしているのです。

 

 

提供元データの精査問題もさることながら、もうひとつの違和感が再燃しています。

プランテックによる記事では、そもそも「Automatic」オリジナルバージョンと"2024 Mix"が合算されています(下記は4月10日公開分ビルボードジャパンソングチャート、ラジオ指標の基となるプランテックのOAチャート記事)。その合算状態がそのままビルボードジャパンソングチャートに反映されているのです。

(※後日訂正される可能性を踏まえ、キャプチャした内容を貼付しました。問題があれば削除いたします。)

 

ビルボードジャパンは合算の基準について、言語のみが異なるバージョンは合算する一方、アレンジが異なる場合や共演ならびに客演者が追加された場合等は合算しないというチャートポリシー(集計方法)を採用しています。以前問い合わせた際のエントリーは下記に。

しかしながら、ソングチャートの動画再生指標については厳密には異なります。同じISRC(国際標準レコーディングコード)が付番された動画は、アレンジが異なっても合算されます。その最たる例がTHE FIRST TAKEであり、ビルボードジャパンも記事にてその旨を紹介しています。

「残響散歌」は、(中略) 特に、動画再生は前週比182%増の5,979,516再生をマークし、総合ポイント49%増を大きく牽引した。これは前述の『THE FIRST TAKE』の再生回数が合算されたことによる(注)。

(中略)

注:『THE FIRST TAKE』の合算は、実演楽曲が映像ではなく音源としてリリースされた場合、別計算となります。

そして今回、ビルボードジャパンはプランテックのOAチャートでの合算基準をそのまま採用しています。この2曲は尺が違うのみならず、新ミックスではアウトロがカットアウトの形となっています。ただこの場合、合算することにそこまでの違和感は生まれないかもしれません。

もっと分かりやすいのは「traveling」(2001)でしょう。

traveling」はベストアルバムにて再レコーディング版が収録されていますが、1番の歌いだし直前に日本語の台詞が封入。アレンジもさることながら、明らかに異なるバージョンと解る曲が今回合算されていることが判ります。ビルボードジャパン側はプランテックのチャートポリシーを踏襲しただけなのかもしれませんが、合算に関するチャートポリシーと矛盾が生じていると言えるのではないでしょうか。

(上記は最新4月17日公開分ビルボードジャパンソングチャートにおける宇多田ヒカルtraveling」のCHART insight。冒頭に掲載した「Automatic」も同様、CHART insightはかなり前まで遡ることができます(CHART insight開始以降では「Automatic」は540週目、「traveling」は534週目まで掲載)。このことからも、オリジナルバージョンと新ミックスや再レコーディング版が合算されていることが解るのです。)

 

 

曲名表記の訂正も必要ですが(自分は4月10日夕方の段階にて違和感をXで指摘しました→こちら)、それ以上に合算に関するチャートポリシーについても早急に見直す必要があるのではと考えます。尤もこの件は、同様の問題が登場する度に述べていることですが(一例として下記リンクをご参照ください)、しかし合算基準の改定は急務だと感じています。というのも、日本と世界の距離が明らかに近くなっているからです。

 

日本の音楽が海外に浸透しつつあることは、コーチェラ・フェスティバルにおける新しい学校のリーダーズ等のステージが設けられていることから明らかであり、また音楽関係者の中には海外での飛躍を明言する方もいらっしゃいます。しかし、世界のヒット曲を示す鑑であり且つ代替がほぼ存在しないといえる米ビルボードによるグローバルチャート、そしてビルボードジャパンソングチャートとでは合算等の考え方が異なります。

昨日のエントリーでは、世界的に活躍する(ことを目指している)歌手が、そのグローバルチャートに意欲的に対応していることについて紹介したばかりです。ILLIT「Magnetic」のリミックス3種は米東部標準時の4月19日金曜0時にリリースされ、5月4日付グローバルチャートにて1週間フル加算されます。昨日のエントリーではこのような文章で締めくくり、少なからず反応をいただきました。

(尤も韓国の音楽チャートも月曜始まりとのことですが、世界をより強く意識している歌手は米東部標準時の金曜0時にリリースする傾向が高まっており、ともすればそのようなK-POP歌手ほどグローバルチャートを優先としているのではと捉えています。)

 

Xのポストにて採り上げた一文の続きを記すならば、このようになります。

日本や世界の音楽チャートは仕組みが異なりますが、デジタル時代は世界ヒットの日本への流入も、日本のヒットが海外に拡がることも迅速且つ容易となったといえます。ならば音楽チャート側が仕組を海外仕様へ沿わせ、地続きの状態にすることが必要です。

合算のチャートポリシーの違い、また集計期間初日の差(日本は月曜始まりに対し、グローバルチャートは金曜開始)もあり、日本と海外双方の音楽チャートで結果を出したい歌手の施策はどっちつかずなものになりかねません。そもそも日本の音楽チャートの月曜集計開始という設定が水曜のCDリリース(火曜のフラゲ)を前提としたものではないかと考えるに、音楽チャートが変わることでフィジカル重視の姿勢も変わると考えます。

 

 

日本の音楽が世界に轟くために、音楽チャート側にもできることはあります。ビルボードジャパンは日本以外の世界における日本の楽曲のヒットを可視化するGlobal Japan Songs Excl. Japanチャートを立ち上げましたが、その背景に日本の楽曲が世界に羽ばたくための後押しがあると考えるゆえ尚の事、チャートポリシーをグローバルチャートに合わせることは必要ではないかと思うのです。

(Global Japan Songs Excl. Japan発足直後にこのチャートを紹介したエントリーでも、合算等に関するチャートポリシー変更を提案しています。)

 

ビルボードジャパンには、チャートポリシー変更に関する議論、そしてその上でそれが必要ないと考えるならばその旨を発信してほしいと願います。そしてグローバルの活躍を志す歌手や音楽関係者がビルボードジャパン側に打診することも必要でしょう。

ビルボードジャパンソングチャートのチャートポリシーがグローバルチャートに沿えば、冒頭で紹介した宇多田ヒカル「Automatic」や「traveling」からみえたチャート上の違和感も解消されるはずです。