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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

最新米チャートで「Lovin On Me」が首位獲得…ジャック・ハーロウの施策とその効果を考える

日本時間の昨日発表された12月2日付米ビルボードソングチャートでは、ジャック・ハーロウ「Lovin On Me」が初の首位を獲得しています。

この曲、いわゆる"チラ見せ"公開がヒットにつながっています。

 

チラ見せとは、TikTokにて正式リリースの前に曲の一部をティザー(ティーザー)的な形で公開するという手法です。

チラ見せした曲の評判が良ければ正式リリースにつなげるという形であり、TikTokでのバズはリリース段階で既に多くの方がその曲を渇望しているためロケットスタートにつなげやすいという効果があります。この施策は日本でも浸透しており、なとり「Overdose」が最近の代表例といえるでしょう。

 

ジャック・ハーロウ「Lovin On Me」については11月10日のリリースに先立って、2週間以上前の10月24日にジャックの公式TikTokチャンネルにてティザーが公開されています。

@missionaryjack

Uh oh

♬ Lovin On Me - Jack Harlow

ここで登場する犬はミュージックビデオにも出ていますが、ミュージックビデオが音源のリリース日に公開されたことを踏まえれば、TikTokのバズが発生する/しないにかかわらずミュージックビデオを既に用意していただろうと推測できます。ゆえにTikTokのバズは偶然ともいえそうですが、たとえば下記動画の影響も大きいとみられます。

@quinickle

snow miser-type fit

♬ Lovin On Me - Jack Harlow

この動画については、下記記事(ポスト内画像をタップ(クリック)して確認可能)にて米ビルボードが"おそらく最もバイラルヒットした動画(the most viral upload)"として紹介しています。

TikTok Billboard Top 50は今年9月に米ビルボードが新設したチャートであり、このブログでは開設のタイミングにて紹介しています(→こちら)。月曜を起点とするこのチャートにおいて、最新11月25日付(集計期間:11月13~19日)でジャック・ハーロウ「Lovin On Me」は23→4位に上昇。前週既にこのチャートでトップ30入りした勢いもあって、「Lovin On Me」は米ビルボードで前週2位に初登場を果たしています。

 

ジャック・ハーロウは2021年以降毎年首位曲を輩出し、ドレイクおよびテイラー・スウィフトに並んでいます。そのジャックが昨年首位の座に送り込んだ「First Class」もまた、TikTokでのバズが大きく影響しています。

集計期間初日となる4月8日にリリースされたジャック・ハーロウ「First Class」は、3月31日にInstagramで予告されると、リリース前までにTikTokでバイラルヒットとなっていた作品。5月6日にリリースされるニューアルバム『Come Home The Kids Miss You』からのリード曲という位置付けになっています。

「Lovin On Me」同様にTikTokのティザー公開が用いられた「First Class」は、2022年4月23日付で米ビルボードソングチャートを初登場で制覇。その際ストリーミング指標を制していますが、これは「Lovin On Me」が前週ソングチャートで2位に初登場した際も同様です。

「First Class」はその後3週間首位の座から離れながらも、5月21日付アルバムチャートで『Come Home The Kids Miss You』が3位に初登場したタイミングで「First Class」はソングチャートでの首位返り咲きを果たします。これはアルバム発売日にミュージックビデオを公開したことも功を奏したといえます。

 

TikTokをティザー的意味合いで用いたチラ見せ公開、ミュージックビデオ公開のタイミングは施策の賜物いえるでしょう。しかし最も重要なのは、「First Class」が実際に社会に浸透しているということです。2022年度の米ビルボード年間ソングチャートで6位に入ったのみならず、指標構成はストリーミング8位、ダウンロード17位そしてラジオ11位。特にヒップホップ曲において、ラジオ指標の高さとバランスの良さが際立ちます。

ジャック・ハーロウは「First Class」において、登場4週目(2022年5月14日付)でラジオ指標が10位に到達し、同年6月18日付以降4週連続で同指標を制覇。そして今回の「Lovin On Me」は最新ソングチャートにてラジオが1220万→2080万に急伸し、同指標32位に至っています。下記表は2023年度週間チャート首位曲の3指標動向ですが、初登場総合首位獲得曲と比べて「Lovin On Me」の前週におけるラジオ指標の高さが解るはずです。

 

ジャック・ハーロウはTikTokにおいて今の時代ならではの活用を行いつつ、それはともすればラジオ指標にも波及しているのかもしれません。3指標の中で最も上昇が遅く、また保守的ともいわれるこの指標ですが、この指標が味方となることでロングヒット、そして年間チャート上位進出も果たしやすくなります。「Lovin On Me」はクリスマスソングの上位進出が過ぎてもヒットを続けるか、注目したいところです。

 

 

なお今回のエントリーを執筆し、公開する直前になって米ビルボードによるヒット分析記事(座談会方式)が登場しました(下記ポスト参照)。このエントリーでは後ほど確認し、新たに気付いた点等があれば紹介します。