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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボードが"TikTok Billboard Top 50"を新設…チャートの中身、そして初回の結果からその動向を確認する

昨日のエントリーではビルボードジャパンが9月14日に新設した2種類のチャートについて紹介しました。

このエントリーでも触れたのですが、実は米ビルボードでもこの日、新たなチャートをローンチしています。今回はその【TikTok Billboard Top 50】について紹介します。

 

 

ビルボードによる新チャート、【TikTok Billboard Top 50】は以下の記事でアナウンスされています。ビルボードジャパンでも翻訳記事が登場しており、重要と思しきポイントを抜粋します。

TikTok Billboard Top 50は、この動画共有プラットフォームでの音楽人気をモニターする初のチャートだ。このチャートは、米国のTikTokコミュニティによる創作、動画再生、ユーザー・エンゲージメントの組み合わせに基づいており、毎週木曜日に発表される。

楽曲を用いた動画の純粋な再生回数ではなく、総合的な影響力に基づくチャートといえるでしょう。

ビルボードTikTokとの組み合わせでは、ビルボードジャパンが2022年度より"TikTok Weekly Top 20"というチャートを開始しています。ビルボードジャパンによるTikTokチャートでもこのメソッドで計算されているだろうと考えるに(下記参照)、米ビルボードはこのチャートを参考に新チャートを設計したと捉えていいかもしれません。

今回新たにスタートする「TikTok Weekly Top 20」では、動画において楽曲がどのように使われ、視聴されているのかを数値化したものをTikTokから受領し、それにビルボードジャパンが独自開発した係数を乗じて上位20曲までのランキングを生成します。これにより、実際のトレンドをより敏感に反映したランキングの提供が可能となります。

 

ビルボードによる【TikTok Billboard Top 50】の新設は、十分な意味を持つと感じます。TikTok発のヒット曲は米でも多く、直近9月16日付米ビルボードソングチャートを制したドージャ・キャット「Paint The Town Red」においてもTikTokでのバズが契機となっていると報じられているためです。

同時にこのチャート新設により、TikTokを米から除外すべきという議論が収束に向かうだろうとも考えます。尤もこの点は今後も噴出するかもしれませんが、TikTokが米の音楽業界に欠かせないヒットの源泉であることが、チャートの新設により証明されたといえるでしょう。

 

 

それでは、現地時間の木曜に発表されることがアナウンスされた【TikTok Billboard Top 50】、その第一回となる9月16日付チャートの結果を紹介します(50位まで公開されており、こちらから確認できます)。また最新チャートの記事も用意されています。なお集計期間は9月4日から10日であり、月曜集計開始であることが記事から判明しています。

6月にリリースされた「SkeeYee」ではアドリブで髪をかき上げる仕草が当初トレンドとなっていましたが、その後動画のジャンルに関係なく用いられることに。

このバズの継続が、最新9月16日付米ビルボード総合ソングチャート(→こちら)における「SkeeYee」の67位初登場につながりました。ストリーミングは前週比29%アップの620万、ダウンロードは同28%アップの1,000そしてラジオは同55%アップの650万を獲得しています。デジタル2指標に比べて上昇が遅れる傾向のラジオでも火が付き始めたことで、TikTok人気が落ち着いてもピークが続いていく可能性は十分といえるでしょう。

TikTokの人気はストリーミング(米ビルボードソングチャートでは動画再生も含まれます)に派生しやすく、またダウンロードやラジオといった他の指標も押し上げていくことが解ります。

ラジオの強さは、TikTok Billboard Top 50で2位デビューとなったドージャ・キャット「Paint The Town Red」も同様。この曲は最新の米ビルボードソングチャートを制し、登場5週目でラジオ指標15位に上昇しています(詳しくは最新ソングチャートの紹介エントリーをご参照ください→こちら)。サビに合わせてのダンスがバズを起こし、その結果ドージャ・キャットは2曲目の総合首位を獲得しました。

またTikTok Billboard Top 50で5位に入ったのはザック・ブライアン feat. ケイシー・マスグレイヴス「I Remember Everything」。総合ソングチャートでは前週初登場にて首位、今週2位に入り、ストリーミング指標は2週連続で首位を記録しています。

TikTokのバズはストリーミングを中心にラジオ等他指標も押し上げ、総合ソングチャートとリンクしやすくなっていると捉えることが可能でしょう。TikTok Billboard Top 50では他にもテイラー・スウィフト「Cruel Summer」が11位、ガンナ「Fukumean」が22位に入り、最新ソングチャートでは順に4位、8位となっています。新設チャートには、現在総合チャートにランクインしている曲が複数登場しているのです。

 

TikTokではユーザーにとって"新鮮"な曲が使われるとして、その"新鮮"の定義にリリース年はそこまで関係がないと考えます。TikTok Billboard Top 50のトップ10にはソウル/R&B作品も少なくないのですが、9位にはキャリア半世紀のベテラン、チャーリー・ウィルソンによるT.I.を迎えた「I'm Blessed」(2017)が、そして10位にはダズ・バンドによる41年前の作品「Let It Whip」が入っています。

そのR&Bにおいては、クリセット・ミッシェル「Epiphany (I'm Leaving)」(2009)がTikTok Billboard Top 50で33位に、ケリー・プライス「Tired」(2010)が同39位に、またフロエトリー「Say Yes」(2003)が41位に入っているのも興味深いところ。前者はクリセット唯一のソングチャート100位以内エントリー曲(89位)であり、そのような曲がTikTokで当時以上の脚光を浴びているだろうことが、新設チャートにより可視化されるのです。

(あくまで私見ですが、"Tired"や"Say Yes"という日常会話で用いやすいワードを冠した曲が使われやすいという傾向もあるのではと感じています。)

 

ちなみに昨日のエントリーでも紹介したように、2020年秋にはフリートウッド・マック「Dreams」がTikTokでのバズを機に再浮上。1977年にソングチャートを制したこの曲が、2020年には12位まで上昇しています。人気の動画をフリートウッド・マックのメンバーが再現したことでより大きなバズに至ったのですが、この時にTikTok Billboard Top 50が存在していたならば「Dreams」が首位に至れたと思われます。

TikTokでは新しい曲か懐かしの曲か、過去にヒットした曲かそうでない曲か、ベテランか若手かに関係なく、どんな曲でもヒットの可能性を秘めているということが、TikTok Billboard Top 50であらためて可視化されたと考えていいでしょう。

 

 

SNSによるチャートはいくつか存在し、X(旧Twitter)によるHot Trending Songsは米ビルボードで現在も運営されています(日本時間の毎週木曜早朝に発表)。またSpotifyにはデイリーバイラルチャートも存在しますが、SNS関連チャートで総合ソングチャートのヒットに最も結びつきやすいが、今回新設されたTikTok Billboard Top 50かもしれません。

興味深いのは、コアファンが多くエンゲージメントの確立にも長けたテイラー・スウィフトの作品がTikTok Billboard Top 50で6曲ランクインしていること。テイラーのコアファンが彼女の作品を積極的に使用していることの証明ともいえそうですが、これが動画視聴者でテイラーのコアファンではない方に彼女の作品を刻ませ、接触や所有につなげることに成功しているといえるかもしれません。

そう考えれば、動画をアップするユーザーが好きな歌手の曲をTikTokでどんどん用いるという状況が増えるかもしれません。そうなれば米において進出が難しいアジアの作品(無論J-POPを含む)も、総合ソングチャートで結果を残せる可能性が僅かでも確実に高まっていくといえるでしょう。

 

 

最後に、気になることをいくつか記します。

 

たとえば8月以降の総合ソングチャートを制したジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」およびオリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」の2曲がTikTok Billboard Top 50には入っていません。

強固な保守派の支持を集め首位に躍り出たこれら2曲はソングチャートでも比較的速くダウンしており、TikTokでも新チャート登場前に人気が収束したと捉えていいかもしれません。一方で強固な保守派はTikTokを好まないか、もしくはSNSにおいても前大統領による新たなサービスを用いる傾向があると考えられるため、より広く使われているTikTok等のサービスにてバズが生まれにくいとも考えられます。

 

また、現在は日本で性加害問題が大きな話題となっていますが、米ではR&B界のヒットメーカーであるR.ケリーが性加害事件の加害者として現在収監されています。二度と表舞台に立てないと言われている中、その彼による「It Seems Like You're Ready」(1993)がTikTok Billboard Top 50で45位に入っているのです。

たとえばSpotifyでは配信が停止されていないものの(この対応は日本と異なる傾向にあると感じます)、サービス側が選曲した歌手の入門編プレイリスト"This Is"シリーズは用意されていません。R.ケリー作品への受動的な接触(おすすめに登場しない等)を避ける動きが見られる中にあって、TikTokが独自の文化を形成しているともいえるかもしれません。

この点から、日本以上に人権に対する考え方が浸透しているだろうと考えていた米においても、実はその浸透具合にバラツキがあるのではと感じた次第です。尤も"作品に罪はない"等の声が出てくるのかもしれませんが、動画制作者や視聴者がR.ケリーについてどう感じ、人権についてどのような意識を抱いているかが気になっています。