イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) アリアナ・グランデ「Yes, And?」、米ビルボード首位発進の可能性を高めた背景とは

(※追記(3月21日5時22分):タイトルに誤字があり、"首位発信"→"首位発進"に訂正しました。心よりお詫び申し上げます。)

 

 

 

1月12~18日を集計期間とする1月27日付米ビルボードソングチャートは日本時間の来週火曜早朝に速報、同日19時以降に100位までが発表されます。そのチャートについて予想を行うXアカウントのひとつ、Talk of the Chartsはアリアナ・グランデ「Yes, And?」の首位初登場を記しています。

このアカウントでは後日最終予想が登場しますが、実は初期段階においてアリアナ・グランデ「Yes, And?」は2位発進と予想されていました。

今回、この予想段階における上昇の背景を探ります。

(※なおこのブログではすべて大文字の作品、またすべて小文字の作品について、米ビルボードの表記に倣い頭文字のみ大文字という表記で統一します。)

 

 

アリアナ・グランデ「Yes, And?」はニューアルバム『Eternal Sunshine』(3月8日リリース)からの先行曲として1月12日に配信。アレンジはマドンナ「Vogue」(1990)を想起、またミュージックビデオはポーラ・アブドゥル「Cold Hearted」(1988)を踏襲。1990年前後の作品を意識した作りは、「Vogue」ともマッシュアップしたビヨンセ「Break My Soul」(2022)も思わせます。

アリアナ・グランデ「Yes, And?」はアルバム『Positions』(2020年10月30日リリース)以来となる新曲。ザ・ウィークエンド「Save Your Tears」や「Die For You」のリミックス参加および双方の米ビルボードソングチャート制覇もあり、音楽業界での不在感はそこまで抱かれなかったかもしれませんが、しかし待望のカムバックといえるでしょう。

 

新曲「yes, and?」は、Spotifyのグローバル・チャートで首位を獲得し、アリアナにとってキャリア最大のストリーミング・デビューとなった他、Apple Musicの“Top 100 Global”や公式ミュージックビデオはYouTubeのトップトレンド音楽動画でも1位を獲得している。

「Yes, And?」はストリーミングでも人気ですが、米ビルボードソングチャートでは当初2位発進が予想されていました。このチャートはストリーミング、ダウンロードおよびラジオの3指標で構成され、ラジオはどんなに人気の歌手でも初週のトップ10入りは厳しく、それが予想の根拠と思われます。そのラジオ指標はジャック・ハーロウ「Lovin On Me」が強い状況です(最新チャートは下記参照)。

ではその初期予想から、最新の予想に至るまでに何があったでしょう。それはアリアナ・グランデ側による怒涛のリリース/公開ラッシュが背景にあると捉えています。

 

上記はアリアナ・グランデの日本版公式Xアカウントによる発信。ここでダウンロードのみと紹介された4つのバージョンは、その後ストリーミングにて解禁されています。

アリアナ・グランデの公式YouTubeチャンネルでもリリースされたバージョンの一部が公開(上記は1月19日5時11分の段階におけるキャプチャとなります)。また「Yes, And?」についてはオリジナルバージョンのリリックビデオも公開されています。

ビルボードソングチャートはリミックス等様々なバージョンが合算対象となり、リミックスの投入は施策の一環でもあります。ゆえにアリアナ・グランデ側が音楽チャートでの首位発進を意識し、複数のバージョンを投入したと考えるのは自然なこと。日本以上に歌手側が音楽チャート上位進出をSNSで喜ぶ姿も散見され、音楽チャートで良い成績を収めることがステイタスであると解ります。

(これはすなわち、米ビルボードソングチャートに権威があり、社会的ヒットの鑑として君臨していることの証明です。翻って日本では、ビルボードジャパンのソングチャートが社会的ヒットの鑑と考えるものの社会への認知浸透が巧いとは言い難く、またスタッフ側はインタビューにて権威に対し否定的な見解を示していますが、それに対しては以前このブログにて異を唱えています(→こちら)。)

 

また別ジャケット版がダウンロードで(その後ストリーミングも)リリース、CDおよびレコードも発売されています。これらはダウンロード指標に合算されます。

所有指標はコアファンの熱量が大きく反映されますが、ジャケット違いでもすべて手に入れたい、またニューアルバムの世界観をいち早く紐解きたいという思いが所有指標の増加につながることでしょう。さらには別バージョン共々、通常1.29ドルで販売されるものが0.69ドルにて安価販売されており(下記ポスト参照)、これらが「Yes, And?」の首位発進予想に反映されたものと考えます。

 

 

アリアナ・グランデ「Yes, And?」は次回1月27日付米ビルボードソングチャートを制するかもしれません。一方で施策の反動で登場2週目にはダウンロード指標が急落する可能性も考えられますが、新たなリミックスの投入(それこそビヨンセ「Break My Soul」におけるマドンナ「Vogue」とのマッシュアップ的なリミックス)、またラジオ指標の上昇も予想されます。

1月13日付エントリー(上記参照)でも紹介したように、2020年代以降は年明け、すなわちランクイン曲全体の勢いが弱まるタイミングでリリースした曲が長期間首位を獲っています。またアリアナ・グランデ「Yes, And?」の過去曲へのオマージュ、およびオマージュされた側の反応はマイリー・サイラス「Flowers」を彷彿とさせ、その点でも「Flowers」と似た動きをなぞる可能性が考えられます。

 

 

ひとつだけ気になる動きを述べるとすれば、リミックス等別バージョンにおいてダウンロードとストリーミングの解禁に時間差が生じているということです。各サブスクサービスに別バージョンが反映されるまでに時間がかかるのかもしれませんが、これを敢えて意識して行っていたならば違和感を抱くというのが私見。この動きはテイラー・スウィフトAnti-Hero」を想起させるものです。

(この施策が契機となってか、米ビルボードは2023年4月にチャートポリシー(集計方法)を変更しています(→こちら)。ただしその説明はなく、またJIMIN「Like Crazy」が首位発進を果たした翌週の変更(それに伴い「Like Crazy」は急落)ゆえ、BTSのファンを中心に非難が相次ぎました。この変更自体は支持しますが、米ビルボードの説明は必須であり、それこそが真の権威者における態度でしょう。)

 

 

1月27日付米ビルボードソングチャートにて、アリアナ・グランデ「Yes, And?」はどの位置に登場するでしょうか。また米ビルボードは記事にて施策をきちんと記す傾向があり、どのような紹介が行われるかについても興味を抱いています。

実際、日本時間の本日未明に米ビルボードが公開した記事では施策を簡潔に紹介した上で、「Yes, And?」がジャック・ハーロウ「Lovin On Me」と"写真判定 (photo finish)"となる可能性を示唆しています。チャート結果に注目です。