イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本でもっと様々な音楽が聴かれるためには…”日本のサブスクは新陳代謝がない”問題を整理する

先月以降、サブスクで新曲が聴かれにくいこと、いわば”新陳代謝がない”と形容されることについて、考えを巡らせることが多かったように思います。そのことに区切りをつける意味でも、考えたことをまとめておきます。

まずは、徒然研究室さんによるnoteを紹介します。今回の考えるきっかけとは直接は異なりますが、非常に参考になります。

自分もデータを調べ、実際に日本は新陳代謝がないのかという分析に加え、どうすればいいのかという提案を実施してきました。

 

 

日本のサブスクで新陳代謝がないという言説は、日本と海外とを比較した上で成り立つものです。その海外では新曲もさることながら、過去曲も上昇する傾向があります。それらについて先月以降ブログに記してきましたので、まずはそちらを紹介します。

 

2月18日付のブログエントリーではスーパーボウルハーフタイムショーやバレンタインデーといった、イベントや記念日に関連する曲が上昇する海外の現象を踏まえ、プレイリストの重要性を提案しました。

2月27日付エントリーでは、新曲のみならず海外ではアルバムも初日に聴かれる傾向についてお伝えしました。これは3月3日にリリースされたカントリー歌手、モーガン・ウォレンによる『One Thing At A Time』でも同様の事象が生まれています。

他方、日本では洋楽(K-POPを除く)が強くなく、グラミー賞後においても賞レースに登場し日本でも馴染みのある歌手の作品はデジタルに強くないことが解ります。こちらは2月20日付エントリーで紹介しています。

そして先月同じ週にリリースされたBE:FIRST、優里さんそしてYOASOBIの新曲動向から、日本で新曲が普及するために重要な役割は何かを分析し、2月19日付ブログエントリーで記しました。また新曲の初動にはLINE MUSIC再生キャンペーンが大きく影響していることについて、2月9日付をはじめとするエントリーで紹介を続けています。

 

海外では新曲もさることながら過去曲も上昇する傾向が強いならば、日本の新陳代謝については新曲も過去曲においても伸ばせる機会にきちんと訴求することが大事だと考えます。

しかしながら、日本では特に新曲がリリース週にチェックされている環境ができていないと感じています。

<日本で新曲がリリース週にチェックされにくい理由>

① 新曲が特定の曜日に一律で公開されていない

② 音楽チャートがグローバルチャートのチャートポリシー(集計方法)と合っていない

③ 複合指標からなる音楽チャートが、広く浸透しているとは言い難い

④ プレイリストの活用率が高くない

⑤ 新曲を紹介するメディア(特に地上波テレビ番組)が少ない

⑥ ”33歳までに音楽的思考が固まる”という説に準拠している

①~③は自分がここ最近伝え続けていることです。たとえば音楽チャート(特にビルボードジャパン)が前向きな変化を行うことで日本でのヒットの延長線上にグローバルチャートでのヒットを狙えるという意識が歌手側やファンダムに備われば、リリース初週の聴取習慣はより大きくなるのではないでしょうか。グローバルチャートについては今年初めに、下記エントリーにてまとめています。

④においては先述したこちらをあらためてご覧ください。そして⑤については、音楽番組自体が減ったこと(放送頻度も含む)が大きいと考えます。たとえばこちらのアンケート結果では若年層が情報をテレビから知る確率は高くはないものの、SNS等の情報よりも様々な、より広い範囲で新曲やヒット曲をチェックできるのではないでしょうか。音楽番組放送時のSNSの盛り上がりを踏まえても、音楽番組にはニーズはあるはずです。

そして⑥については、以前ブログにて採り上げています。

時間的余裕のなさもさることながら、考えや意思が狭まることで世代の異なる作品に率先して触れない(分からないと言い張る)傾向もこの説から考えられます。加えてサブスク利用率が海外に比べて高くないのは中高年層へのアプローチがまだ完全と言えないためと考えますが、ともすれば彼らのサブスクに対するマイナスイメージが普及を阻害しているかもしれません。

アメリカでは保守と呼ばれるカントリーにおいて、モーガン・ウォレンのサブスクでの活躍が目立ち、その事例を踏まえた改善提案を上記エントリーにて記載しています。音楽業界は歌手側のマイナス発言を注意し、デジタルプラットフォームと議論を重ねて歌手側が解禁しやすい環境を作ることを望みます。加えてデジタルに親しみを持たせることも重要で、下記エントリーで紹介した氷川きよしさんの対応はその好例です。

 

これらを踏まえ、日本の音楽業界、もっと広くエンタテインメント業界に対し、以下の6点を提案します。

<日本で新曲がリリース週にチェックされ、サブスクが新陳代謝されるために必要なこと>

① 新曲を特定の曜日に一律で公開する

② 音楽チャートをグローバルチャートのチャートポリシー(集計方法)と合わせる

③ 複合指標からなる音楽チャートを広く浸透させる

④ プレイリストの活用率を高める

⑤ 新曲を紹介するメディア(特に地上波テレビ番組)を増やす

⑥ ”33歳までに音楽的思考が固まる”という説を覆す

特に難しいのは⑤ですが、今のテレビ業界はいい意味で以前ほどリアルタイム視聴率にこだわらなくなったと感じています(昨年のドラマ『silent』がその好例であり、紅白は音楽の“いま”を反映? ビルボードジャパンチャートとヒットの仕組み - Impress Watch(2月3日付)でも述べました)。K-POPグローバル化した韓国はほぼ毎日音楽番組があり、日本も真似ていいかもしれません。せめて音楽チャート番組の用意は必要です。

提案内容には理想論で片付けられかねないものもあることは承知ですが、歌手側、音楽チャート側そしてコアファン側にとってできることは少なくないでしょう。もっと多くの曲が聴かれていくことを願い、そのために環境が変わることを期待します。

 

 

最後に。

今回の日本におけるサブスク新陳代謝の件については諸事情によりまとめるのをやめようかと考えていました。ただ、冒頭に紹介した徒然研究室さんがnoteに書いていた言葉に刺激を受け、そして今回着手した段階で再度拝読し、書くことそしてブログ自体の意義を今一度実感した次第です。

でも、「おもてたんとちがーう!」という結果が現れたき、それが自分の仮説と異なるものだったとしても、ポジティブな意味で大変高揚してしまいます。

自分は言葉が堅く、人一倍不条理を認めず、またブログも長文という性質上、敬遠されているという印象を抱いています(実際そのような話を聞いたことがあります)。ある程度やむなしと受け止め、その印象を一方的に持たれることに違和感を覚えますが、自分は問題には改善提案を添え、そして好い内容は素直に評価します。ただし感情を乗せると伝えたいことがブレるゆえこのような表現になったというのが実際のところです。

ゆえに、言葉は堅くともチャート分析等にはポジティブな考えを持ち合わせていること、改善提案はポジティブな未来を願うゆえであることを今一度表明しておきます。