イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

"日本人の洋楽離れ"をどう改善させるか…ラジオ業界に対する提案を記す

昨日付のエントリーでは、arne代表の松島功さんによるポストを踏まえてこのようなエントリーを掲載しました。

日本では昨年度において洋楽(K-POPを除く)が強くなく、最高位を記録したのが2017年リリースのエド・シーラン「Shape Of You」だったことを踏まえて現状分析を行ったのですが、実際にビルボードジャパン年間ソングチャートにおいても、洋楽の状況はこの数年で大きく変化しています。

上記ポストでは「Shape Of You」、およびザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」(2021)のビルボードジャパン年間ソングチャートにおける動向を紹介していますが、この4年の間に洋楽の占有率は大きく下がりました。これはビルボードジャパンのチャートポリシー(集計方法)変更に伴う部分も大きいといえます。

ビルボードジャパンは音楽環境(所有や接触)の変化に応じてチャートポリシーを変更。2017年度からフィジカルセールス指標において一定枚数以上の売上に係数処理を施したことも大きいのですが、ストリーミング指標の対象となるサブスクサービスの拡大もまた大きいといえます。加えて日本の歌手のサブスク解禁がこの数年で急激に拡大したことやサブスクで強い歌手の台頭もあり、洋楽が埋もれてしまったともいえるでしょう。

 

この環境下で洋楽が強くなり、”日本人の洋楽離れ”から脱却するにはどうすればよいか、自分なりの見解を記します。本日はラジオが変わることについて、です。

 

 

昨日付のエントリーでは昨年日本で人気だった曲、そして世界で人気ながら日本との乖離が大きかった曲のCHART insightを紹介しましたが、いずれの曲でも上位に登場した指標はラジオでした。ラジオは今でも洋楽に欠かせない媒体ではあるのですが、しかしそのラジオでは洋楽離れが加速しています。これは指標の基となるプランテックのOAランキングから明らかです。

プランテックによる2023年度年間ラジオエアプレイチャート、洋楽部門トップとして記載されたのはXG「NEW DANCE」(総合では8位)ですが、メンバー全員が日本人のため本来は邦楽として括られるはずです。実際、ビルボードジャパンがこの秋新設したGlobal Japan Songs Excl. JapanにXGが掲載されているゆえ、尚の事です。

それを踏まえれば、総合トップ10における洋楽はデュア・リパ「Dance The Night」(総合9位)の1曲のみとなり、総合トップ10に占める洋楽(K-POP含む)は2018年度以降過去最少となります(3曲→2曲→5曲→4曲→2曲→1曲と推移)。

2023年度OAランキングの洋楽部門においては2022年前半リリース曲が複数トップ10入りしている状況ですが、この点については上記エントリーにてこのように指摘しています。

実際、洋楽部門トップ10の全体的なオンエア回数も前年度より減っています。これは以前も述べたような音楽番組自体の減少、ワイド番組でのラジオ(専門)DJ以外の方の起用も影響していると考えます。

2020年代に入り、テレビや雑誌等のメディアがラジオの人気を時折紹介していましたが、そこで取り上げられるのはお笑い芸人がDJを務める番組もしくは人気の歌手によるバラエティ感強めの番組でした。実際、下記ランキングでもそれらジャンルが強いことが証明されています(1~3位はリンク先に掲載)。

radikoのフォロー機能とは『好きな番組やお気に入りの番組をフォローして、放送が始まるタイミングで通知を受け取れるradikoアプリの機能』(上記ポスト内リンク先より)ゆえ、ともすれば新曲OA率が高いであろう生ワイド番組は人気の度合いが大きくはないのかもしれません。とはいえこれら人気の番組で、新曲や洋楽がどれだけ積極的にOAされるのかは気になるところです。

 

またこれは主観強めと前置きしますが、今のラジオはDJによる曲紹介時の技術や愛情が以前より重視されていないと感じます。イントロ乗せ技術、曲や歌手への知識の豊富さ、曲を大切に扱うことへの重要度が下がったと思うのです。それらがきちんとできていれば、たとえば昨日記したアリアナ・グランデ「Yes, And?」からマドンナ「Vogue」への紹介の流れが生まれ、主に中高年の音楽ファンが関心を抱いたことでしょう。

(この問題についてはブログの初期段階にて、主に県内のラジオ局に対し指摘していました。当時は以前より表現が強かったこともあってかこちらへの風当たりは強く(ブログでの表現自体については省みる必要はあります)、またその風圧に伴い自分のラジオ(業界)に対する前向きな関心が薄れたことにより指摘や提案をやめたのですが、定期的に問題提起したならば状況は違っていたのではないかと、今となっては強く感じています。)

 

ラジオはビルボードジャパンソングチャートにおいては接触指標の一種ですが、ユーザー(リスナー)には放送局や番組の選択権はあれど選曲権はありません。それゆえ、思いもよらないところで流れてきた曲が好きになる可能性を持ち合わせています。

その際、ふと流れた曲の関心度をさらに高め、より好きになってもらうべく、曲紹介時の技術力や曲に対する愛情を注ぐことは重要です。新曲が多く流れる生ワイド番組でもお笑い芸人のDJが多く起用されていますが、彼らが少なくとも技術力を身につけることは可能のはずです。

 

 

そしてもうひとつ。今の音楽チャートがストリーミング主体になったならば、ラジオOA曲リストを各サブスクサービスにてプレイリスト化することも提案します。

現状ではJ-WAVEのOA一覧ページ(→こちら)からはApple MusicおよびAmazon Musicのみへの遷移、TOKYO FM(→こちら)においてはAmazonのCD購入ページのみにつながる形です。また前者ではAmazon Musicにおいて専用のタップ/クリックが用意されている一方、”サブスクで聴く”をタップ/クリックしてもApple Musicにのみつながり、各社のリンクをまとめたページに移動するわけではありません。

 

ラジオで聴いて興味を抱いた曲を次につなげる方法は強化される必要があると考えます。ラジオ業界側が県域放送局(もっといえばコミュニティFM局も)含め全国総出でシステムを開発し、人手不足といわれる放送局でも簡易にプレイリスト化(もっといえばOAリストの迅速な掲載も)できるようにすることで、ラジオからサブスクや購入への導線を太くすることが必要と考えます。

TikTokは昨年末、ショート動画から各サブスクサービスへの導線を太くするサービスを新設しています(上記リンク先参照)。ラジオ業界側にはこのようなサービスを用意してほしいと願います。

 

ラジオとプレイリストの関係性については、4年前に星野源さんが自身の番組で紹介したプレイリストの収録曲が後にSpotifyバイラルチャートにランクインしたことをこのブログで記しています。

こちらはあくまでSpotifyのみでの公開でしたが、ラジオからSpotifyへの導線がきちんと生まれていたことがバイラルヒットの形で証明されたといえます。好きな歌手によるお勧め作品に触れるという行為は、星野さんに限らず他の歌手やDJの方においても生まれるはずです。そしてラジオ番組側から積極的に仕掛けることもできると考えます。

 

 

今回のラジオ業界に対する提案については、かなり厳しい物言いも少なくありません。しかしながら今回の提案は以前から述べているものの再掲が多く、現状が変わっていないことを踏まえての批判でもあります。

最新のビルボードジャパンソングチャートで初の首位を獲得したtuki.「晩餐歌」がラジオ指標で強くなく、ラジオ業界の流行に対する感度を疑問視したばかりでした(上記エントリー参照)。洋楽が他指標より強い状況ながらロングヒットしにくいこと、またレコード会社や所属芸能事務所等のアプローチが大きく影響を及ぼすこと等も考えるに、局や番組による自発的な選曲への自負についても疑問に思うというのが正直なところです。

ラジオはチャートへの影響度が小さくなったとして、ユーザー(リスナー)一人ひとりへのアプローチについては他の指標やサービスにない強みがあります。心にリーチしやすいと形容可能なその強みを用いて、OAした曲を如何に好きになってもらうか、そして素敵な曲を教えてくれる業界としてより強く認知させるか、そのためにDJやシステム、そして意識を変えていくことが重要と考えます。

 

 

プレイリスト等も含めたサブスクサービスの改善提案等については、明日以降のエントリーにて掲載します。